破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
もし見つけたらご報告いただけると助かります……
「貴様は……何者だ」
『魔王』は言った。
その問いに――
「何者って、見ての通り人間の小娘よ」
カーシャは即答した。
優雅な所作で、小岩に腰をかけながら。
周辺には、血と肉片が所狭しと飛び散っている。
原型を失った戦士たちの死体だった。
さっきまで……。
勇猛果敢にカーシャへと挑んできた者たち。
「小娘、だと……?」
予想外の返答。
――コケにされている?
一瞬逆上しかけた『魔王』だが、何とか感情を抑える。
「今度はこちらがおたずねするわ。お前こそ、何者?」
「ぬぅ……」
「いや、
と。
カーシャは肩をすくめた。
「魔王か……。そう呼ばれるのも、受け入れたはずなのだがな」
『魔王』は、力なく椅子の上に座り込んだ。
彼の中で――
――もはや、抵抗は無意味だろう。いや、あるいは会話することで時間が稼げるかもしれん。そもそも、この女は何なのだ。異常な戦闘力。そのくせ、気まぐれのような行動……。
いくつもの思考が同時に飛び交い、流れていく。
「まあこっちもある程度の情報は聞いているけど、正しいかどうか」
「ふん……」
「といって。あなたの言葉が真実とも限らないし?」
カーシャは、爪磨きでその指をケアしながら微笑む。
穏やかで優し気。
しかしゾッとするような、笑みだった。
「……私の名前はムゼカ・ボー。ガーモ派の司教を務めている者だ」
感情を抑え込むように、『魔王』は名乗った
「なるほど。私は、カーシャ。家名は……。ま、いいでしょう」
「……」
「で――。今回の戦争は、あなたがたの復讐から端を発した。いや、巨大な復讐戦か。それでよろしい」
「心外だ」
「へえ?」
即答するムゼカに、カーシャは驚いた顔。
事実。
少しだけ驚いたのだ。
「私たちは、 正当な要求をしたにすぎん」
「その要求とは?」
「我々への弾圧を謝罪し、100年近い屈辱に対する賠償だ」
「それはそれは……」
カーシャは肩を揺らす。
「大きく出たものね?」
「我々は、神への信仰を正しき形に戻そうとしたにすぎぬ。しかし、それは時の王権や腐敗した破戒者たちに押し潰された」
「なるほど。それが言い分だと」
「そうだ。奴らは我々を異端という。だが、こちらから言えば奴らこそ異端。否、もはや邪教徒の類。ならば滅ぶべきは、悔い改めるべきは向こうではないか!」
「……ふううん」
カーシャはしばらくうなずいていたが、
「もう少し面白い話が聞けるのかと思っていたが、ちょっと残念ねえ」
「面白い、だと……。貴様、そんな理由で……」
「私の仕事はまた別だから、あなたたちと敵対する気はあんまりなかった」
「ふざけるな! ならば、何故――」
「あなたたちの仲間を殺したのか? 決まってるでしょ、そっちが襲ってきたからよ。殺そうとしてくる相手を殺す。それの何がいけないと?」
「どう考えても、貴様の行動は攻め込んできたとしか思えぬ!」
「ああ……」
その叫びに、カーシャはあくびのような声をあげた。
「なるほど。確かに。お互いに誤解があったわけか。まあ、すんだことは仕方ない」
「し、仕方ないだと」
「まあまあ」
いきり立つ『魔王』に、カーシャは片手を上げる。
「時に――あなたも、勇者……英雄と呼ばれる男についてはご存じのはず」
「……なに?」
「もうすぐ、そいつがここに乗り込んでくるとしたら?」
「――!」
「すでに露払いはすんでいる。後は、あなたを討ち取るだけねえ?」
「……何故、自分でやらん。お前なら私を殺すなど簡単なことだろう」
「まあ、そうなんだけど」
・ ・ ・
英雄グシオへ――
できることなら、貴公がこれを読んでいる時私はそこにいないことを願う。
いや、私の行動が
私はこれから単独で魔王を討つ。
いや、そうではないな。
できる限り魔王軍の数を減らし、彼奴等の動きを鈍らせる所存。
理由は簡単なものだ。
近々魔王軍は大兵力を率いてシーマを襲うだろう。
激戦となるは必至。
正直なところ、市井の者たちにも大勢犠牲が出るだろう。
ならば、わずかでも敵の足止めをして民が避難する時間を作るべきだ。
貴公ならば、先頭に立ってそれをするに違いない。
だが、それはいかぬ。
貴公は魔王に対する絶対の切り札。
そしてシーマのみならず、ナーロッパ全土における自由の民を守護する者。
囮などで身に危険をさらしてはならぬ。
命には張るべき時がある。
少なくとも、今回は貴公がそれをする時ではないと愚考する。
ゆえに今回は不肖の身ながら私が出張ることにした。
心配するな、とまでは言えぬが最大限の武装は整えている。
腕の良い職人であり信頼できる商人が準備を整えてくれた。
もし何かあっても彼を責めてくれるな。
まともに理由も話さずに、私の
むしろ褒めてやってほしい。
我ながら無謀な行為ではあると思う。
バカなことをしているとも。
しかし。
この程度やらねば、今後貴公のそばに胸を張って立つことはできぬ。
他の女と共に貴公を愛する資格がない。
そう思うのだ。
だから、もしも万事うまく運んだ時には――
それはあえて記すまい。
よければ成功を祈ってくれ。
乱筆乱文で恥ずかしい限り。
緊急の時ゆえ、どうか笑って見逃してほしい。
愚かな女より。
誇るべき稀代の英雄へ愛をこめて――
「……っ」
グシャリ、と。
黒い戦士は手紙を握り潰した。
「あの女、なんて無謀な……」
オッカは静かにため息をついた。
「だけど、本当なの? 魔王軍の大侵攻って……」
「それが……」
半エルフの言葉に、オルマは表情を暗くする。
「さっき裏を探ったところ、欺瞞……偽情報みたいです。私たちを混乱させるための――」
「じゃあ、目的は別の場所?」
アヴィーはハッとして顔を上げた。
「いえ。どうやら、あちこちで、その場所が侵攻されるという情報が流れてるみたいです……」
「なんてセコい……!」
アヴィーはギュッと奥歯を噛んだ。
「おい……!」
「ひぃいいいい!?」
黒い戦士――グシオに睨まれたリブオは後ずさる。
「し、知らなかったんすよ!? そ、そんなことを考えてたなんて……! き、緊急のアレだってすごい剣幕で言われたから……」
「それは、いい! 今すぐ……用意してほしいものがある!!」
と。
グシオは兜越しに恐ろしい形相で叫んだ。