破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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今回もちょっと誤字チェックが甘くなっております……
もし見つけたらご報告いただけると助かります……


その117、悪魔が来りて嘘をつく-26 対談と手紙

 

 

 

「貴様は……何者だ」

 

 『魔王』は言った。

 その問いに――

 

「何者って、見ての通り人間の小娘よ」

 

 カーシャは即答した。

 優雅な所作で、小岩に腰をかけながら。

 

 周辺には、血と肉片が所狭しと飛び散っている。

 原型を失った戦士たちの死体だった。

 

 さっきまで……。

 勇猛果敢にカーシャへと挑んできた者たち。

 

「小娘、だと……?」

 

 予想外の返答。

 

 ――コケにされている?

 

 一瞬逆上しかけた『魔王』だが、何とか感情を抑える。

 

「今度はこちらがおたずねするわ。お前こそ、何者?」

 

「ぬぅ……」

 

「いや、()()じゃなくって。何者かと聞いているのよ。言葉、わかる? 大魔王陛下」

 

 と。

 カーシャは肩をすくめた。

 

「魔王か……。そう呼ばれるのも、受け入れたはずなのだがな」

 

 『魔王』は、力なく椅子の上に座り込んだ。

 彼の中で――

 

 ――もはや、抵抗は無意味だろう。いや、あるいは会話することで時間が稼げるかもしれん。そもそも、この女は何なのだ。異常な戦闘力。そのくせ、気まぐれのような行動……。

 

 いくつもの思考が同時に飛び交い、流れていく。

 

「まあこっちもある程度の情報は聞いているけど、正しいかどうか」

 

「ふん……」

 

「といって。あなたの言葉が真実とも限らないし?」

 

 カーシャは、爪磨きでその指をケアしながら微笑む。

 穏やかで優し気。

 しかしゾッとするような、笑みだった。

 

「……私の名前はムゼカ・ボー。ガーモ派の司教を務めている者だ」

 

 感情を抑え込むように、『魔王』は名乗った

 

「なるほど。私は、カーシャ。家名は……。ま、いいでしょう」

 

「……」

 

「で――。今回の戦争は、あなたがたの復讐から端を発した。いや、巨大な復讐戦か。それでよろしい」

 

「心外だ」

 

「へえ?」

 

 即答するムゼカに、カーシャは驚いた顔。

 事実。

 少しだけ驚いたのだ。

 

「私たちは、 正当な要求をしたにすぎん」

 

「その要求とは?」

 

「我々への弾圧を謝罪し、100年近い屈辱に対する賠償だ」

 

「それはそれは……」

 

 カーシャは肩を揺らす。

 

「大きく出たものね?」

 

「我々は、神への信仰を正しき形に戻そうとしたにすぎぬ。しかし、それは時の王権や腐敗した破戒者たちに押し潰された」

 

「なるほど。それが言い分だと」

 

「そうだ。奴らは我々を異端という。だが、こちらから言えば奴らこそ異端。否、もはや邪教徒の類。ならば滅ぶべきは、悔い改めるべきは向こうではないか!」

 

「……ふううん」

 

 カーシャはしばらくうなずいていたが、

 

「もう少し面白い話が聞けるのかと思っていたが、ちょっと残念ねえ」

 

「面白い、だと……。貴様、そんな理由で……」

 

「私の仕事はまた別だから、あなたたちと敵対する気はあんまりなかった」

 

「ふざけるな! ならば、何故――」

 

「あなたたちの仲間を殺したのか? 決まってるでしょ、そっちが襲ってきたからよ。殺そうとしてくる相手を殺す。それの何がいけないと?」

 

「どう考えても、貴様の行動は攻め込んできたとしか思えぬ!」

 

「ああ……」

 

 その叫びに、カーシャはあくびのような声をあげた。

 

「なるほど。確かに。お互いに誤解があったわけか。まあ、すんだことは仕方ない」

 

「し、仕方ないだと」

 

「まあまあ」

 

 いきり立つ『魔王』に、カーシャは片手を上げる。

 

「時に――あなたも、勇者……英雄と呼ばれる男についてはご存じのはず」

 

「……なに?」

 

「もうすぐ、そいつがここに乗り込んでくるとしたら?」

 

「――!」

 

「すでに露払いはすんでいる。後は、あなたを討ち取るだけねえ?」

 

「……何故、自分でやらん。お前なら私を殺すなど簡単なことだろう」

 

「まあ、そうなんだけど」

 

 

 ・  ・  ・

 

 

 英雄グシオへ――

 

 できることなら、貴公がこれを読んでいる時私はそこにいないことを願う。

 いや、私の行動が(つつが)なく終わっていることを願う。

 

 私はこれから単独で魔王を討つ。

 いや、そうではないな。

 できる限り魔王軍の数を減らし、彼奴等の動きを鈍らせる所存。

 

 理由は簡単なものだ。

 近々魔王軍は大兵力を率いてシーマを襲うだろう。

 激戦となるは必至。

 正直なところ、市井の者たちにも大勢犠牲が出るだろう。

 

 ならば、わずかでも敵の足止めをして民が避難する時間を作るべきだ。

 貴公ならば、先頭に立ってそれをするに違いない。

 だが、それはいかぬ。

 

 貴公は魔王に対する絶対の切り札。

 そしてシーマのみならず、ナーロッパ全土における自由の民を守護する者。

 囮などで身に危険をさらしてはならぬ。

 

 命には張るべき時がある。

 少なくとも、今回は貴公がそれをする時ではないと愚考する。

 ゆえに今回は不肖の身ながら私が出張ることにした。

 

 心配するな、とまでは言えぬが最大限の武装は整えている。

 腕の良い職人であり信頼できる商人が準備を整えてくれた。

 

 もし何かあっても彼を責めてくれるな。

 まともに理由も話さずに、私の我儘(わがまま)を聞いてくれたのだ。

 むしろ褒めてやってほしい。

 

 我ながら無謀な行為ではあると思う。

 バカなことをしているとも。

 

 しかし。

 この程度やらねば、今後貴公のそばに胸を張って立つことはできぬ。

 他の女と共に貴公を愛する資格がない。

 そう思うのだ。

 

 だから、もしも万事うまく運んだ時には――

 それはあえて記すまい。

 よければ成功を祈ってくれ。

 

 乱筆乱文で恥ずかしい限り。

 緊急の時ゆえ、どうか笑って見逃してほしい。

 

 愚かな女より。

 誇るべき稀代の英雄へ愛をこめて――

 

 「……っ」

 

 グシャリ、と。

 黒い戦士は手紙を握り潰した。

 

「あの女、なんて無謀な……」

 

 オッカは静かにため息をついた。

 

「だけど、本当なの? 魔王軍の大侵攻って……」

 

「それが……」

 

 半エルフの言葉に、オルマは表情を暗くする。

 

「さっき裏を探ったところ、欺瞞……偽情報みたいです。私たちを混乱させるための――」

 

「じゃあ、目的は別の場所?」

 

 アヴィーはハッとして顔を上げた。

 

「いえ。どうやら、あちこちで、その場所が侵攻されるという情報が流れてるみたいです……」

 

「なんてセコい……!」

 

 アヴィーはギュッと奥歯を噛んだ。

 

「おい……!」

 

「ひぃいいいい!?」

 

 黒い戦士――グシオに睨まれたリブオは後ずさる。

 

「し、知らなかったんすよ!? そ、そんなことを考えてたなんて……! き、緊急のアレだってすごい剣幕で言われたから……」

 

「それは、いい! 今すぐ……用意してほしいものがある!!」

 

 と。

 グシオは兜越しに恐ろしい形相で叫んだ。

 

 

 




こっちのほうもよろしく!

※カクヨム版
https://kakuyomu.jp/works/16818093082887030996
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