破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

327 / 357
何とか更新に間に合わせるため
今ひとつ誤字チェックが甘くなっちゃう……

教えてくださるかたがた、いつも感謝しております……


その117、悪魔が来りて嘘をつく-27 鬼と闖入者と魔王

 

 

 

「まあまあ。私はあなたを殺そうという気はない。なくなったわ。今のところはね――」

 

 カーシャは、両手を腰にあててクスクスと笑う。

 

「貴様は、そもそも何者だ」

 

 ムゼカは苦虫を噛み潰したような顔で言った。

 

「さあ……。自分でも時々わからなくなるの。私はいったいなんなのだ、とね」

 

「まだなお、私を愚弄する気か」

 

「んん。そういうつもりはないけれど?」

 

 カーシャは指を頬に添えて、少し上を見た。

 

 その時――

 

「哀れな元・囚人さ。今は自由の身だが」

 

 いやらしい笑み。

 それを含んだ声がした。

 

「……っ」

 

 カーシャはわずかに眉をひそめて、そちらを見た。

 

「……次は、何だ?」

 

 ムゼカは捨て鉢につぶやく。

 いいかげんにうんざりした気持ちだった。

 

 一匹の黒猫が、隅にいた。

 二つに分かれた尾。

 その先には、炎がゆらめいている。

 

「グルマルキン……!?」

 

 黒猫を見て、ムゼカは叫んだ。

 

「む? ああ、そうか」

 

 黒猫は体を揺すって笑い、

 

「こっち……ナーロッパじゃ悪魔の手下、使い魔って言われることが多いんだったかねえ?」

 

 尻尾を揺らしながら、黒猫は言った。

 

「また会ったわね」

 

 カーシャはジロリと、黒猫を見る。

 

「そうだねえ。まあ、あんたと似たヤツがこっちで活躍してるもんでね。気になって」

 

「……似ている、か」

 

 カーシャが思い浮かべたのは、グシオの黒装束姿だった。

 

「――といっても、当然同類じゃない。ちょっとばかり似たような境遇ってことさ」

 

「わけがわからん……!」

 

 ムゼカは悲鳴のような声をあげ、ついには地面に座り込んだ。

 

「まあ、そうあわてなさんな?」

 

 黒猫は前脚でチョンチョンと地面をつつく。

 すると――

 

「ぬわっ!?」

 

 ムゼカの前に、丸いテーブルが浮き上がってきた。

 足が短い。

 いや。

 カーシャたちは知らないが、それはテーブルというよりちゃぶ台。

 日本家屋で使用される家具。

 

 さらに、

 

 「むむっ」

 

 ムゼカの尻にクッション……。

 いや、座布団が出現した。

 

 さらに。

 ちゃぶ台の回りには二つの座布団が出てくる。

 

「まあ、座りなよ」

 

 黒猫はひょいっと座布団に乗る。

 

「……ふううん」

 

 カーシャも、あいた座布団に腰を下ろした。

 

 結果。

 ふたりと一匹がちゃぶ台を囲む形となる。

 

 すると、

 

「まあ、とりあえずお茶でも飲みましょうや」 

 

 黒猫が言った。

 のっかっている座布団がふわり、と浮かび上がる。

 

 同時に――

 ちゃぶ台の真ん中から、湯気の立つカップが三つ出てきた。

 

「毒なんて入っちゃいないぜ?」

 

 するすると……。

 黒猫の尾が蛇のように伸びた。

 そして。

 器用な動作でカップを取り上げる。

 

 

「どれ……」

 

 カーシャはカップを取り、そっと鼻先へ持っていく。

 

「良い茶葉を使っているようね」

 

「おうとも。この辺りじゃ最高級品のヤツだぜ。ま、ヤオアムト王族が飲むほどじゃないがね」

 

 カーシャの言葉に、黒猫はニタリと笑う。

 それから。

 お茶をうまそうに飲む。

 ぺちゃぺちゃと音がした。

 

「ヤオアムト?」

 

 ムゼカはカーシャを睨んだ。

 

 

「……どこか訛りがあると思ったが、あっちの者だったか」

 

「ご明察」

 

 自分もお茶をひと口飲む。

 

「確かにおかしなものは入っていないか」

 

「あんたに効く毒はそうそうないよ。あっても効くのは一度だけ。次は効かなくなる。ま、そんなことはどうでもいい」

 

「……」

 

 カーシャの視線は冷たい。

 というよりも――

 腹が立つとか何とか、そういった感情らしいものがない。

 人形のような顔だった。

 

「ムゼカ・ボー大司教殿、あんたこいつの正体を知りたいとおっしゃったねえ?」

 

 黒猫は言った。

 カーシャの視線を意にも介さずに。

 

「お前は知っているというのか?」

 

「まあ、正体がああだこうだって、大げさなもんじゃないけどね。元々は……」

 

「政争に負けて身分を失い、物乞い同然に落ちた女よ」

 

 黒猫が言う前に、カーシャは言い切った。

 

「政争だと」

 

「そういう意味では、あなたたちとも似ているわね。負けて追放され、棲家も財産も失った」

 

「……名誉も、誇りもだ」

 

 ムゼカは訂正し、カーシャを見る。

 少しだけ前とは違った視線となっていた。

 

「その通り。似ているんだよ」

 

「なるほど……」

 

 カーシャは笑う。

 さも、おかしそうに。

 

「なぜ興味を持ったのか、それで納得がいったわ。結局は同じ負け犬。似た者同士というわけねえ?」

 

「我らは負けてはおらぬ!」

 

 憤然として、ムゼカは叫んだ。

 

「残念ながら負けているのよ。でなければ、今こうして魔王と呼ばれる身分に堕ちていないもの」

 

「……一時撤退したにすぎん」

 

「それであなたたちの宗派……。ガーモ派といったかしらね。100年も屈辱に耐えて待っていたと。気の長い話ね、まるでエルフみたい」

 

 ムゼカの反論に、カーシャはあきれ顔。

 そして、

 

「――薪の枕、獣の肝」

 

 妙なことを言った。

 

「何のことだ……」

 

 ムゼカは意味が分からず、思わず聞き返した。

 

「硬い薪を枕にして、苦い獣の肝をしゃぶって飢えをしのぐ……。我が国に伝わる言い回しよ」

 

「そうか、言わんとすることはわかった」

 

 ムゼカはうなずき、

 

「ならば我らの決意もわかろう」

 

「そうねえ……」

 

「お前とて――」

 

「ん?」

 

「お前とて、屈辱を晴らし、家名を取り戻すために凄まじい修練を積んだのであろうが」

 

「……あああ。なるほど、うん。そうねえ。まあ、修練と言えるかは疑問だけど」

 

 カーシャはクスクスと笑い、

 

「アレはしんどかったわよ。終わりもないし、希望も見えない。まさに地獄だったもの」

 

「後半はもう適応してたがね、あんたは」

 

 黒猫は横から口をはさんだ。

 

「そうかもね。ふむ……。思うに、あんたの気まぐれがなければ、今も地獄の底で蠢いていたのかしら?」

 

「別に気まぐれじゃない。そろそろ頃合いだ。そう判断しただけさ」

 

 黒猫は火の燃えるふたつの尾を振った。

 

「大司教殿。こっちのお嬢様ね? 生きながらナラカと呼ばれる場所に送り込まれて、そこで散々な目にあってきたのさ。バケモノじみた強さは、その経験から身についたものだよ」

 

「ナラカ……?」

 

 ムゼカは不審そうに眉を寄せた。

 

「世に言う地獄……。暗黒神(タルタロス)の口というヤツか?」

 

 

 

 




https://kakuyomu.jp/works/16818093082887030996

こちらのほうもどうぞよろしく!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。