破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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なんとか間に合った……?


その117、悪魔が来りて嘘をつく-28 嘆きの王

 

 

 日は、もう完全に落ちていた。

 夜の暗闇がどんどん広がっていく。

 その中で、

 

 ――もうふたつも使ったか……!

 

 円筒形のタンク。

 それをドラグーンから切り離し、グシオは息を吐いた。

 

 砕いた魔石を詰めた、魔力補給用のタンクである。

 どのドラグーンにも基本一つは組み込まれているが――

 切り離したのは、即座に交換可能なタイプだ。

 

 リブオを、半ば脅迫するかたちで用意させたものである。

 

 このタンクを複数用意しての出撃。

 グシオは燃費を考えない高速で飛び続けていた。

 

 先走ったカーシャを止めるため……なのだが。

 

 ――これは……!?

 

 飛び続ける中。

 あるものを見つけてグシオは急停止する。

 

 ほぼ半壊したカーシャのドラグーン。

 というよりも――

 その残骸。

 

 ――そんな……!?

 

 あわててその近くでドラグーンを飛ばすのだが、

 

 「な……!?」

 

 その周辺に、モンスターの死体が散らばっている。

 幼体に近いが、ドラゴン種のものまである。

 さらには。

 わずかながら、破壊されたドラグーンまで。

 

 これらが……。

 一本の道みたいに、あちこちに点在していた。

 

 ――ひょっとして、生きてるのか?!

 

 モンスターの死体を追うように、グシオはドラグーンを飛ばす。

 

 

 ・  ・  ・

 

 

 「ダメです……。グシオさんは応答しません……」

 

 オルマは魔導士の杖をおろし、首を振った。

 

 通信用魔法陣の中央。

 彼女は何度も何度も、ドラグーンで飛んでいったグシオに呼びかけたのだが……。

 

「できる限りの準備、装備はさせたけど、単機で行くなんて――」

 

 オッカはうつむき、工具を握りしめていた。

 今さらながらの後悔。

 

「どうして。私だって一緒に行けたのに……!」

 

 アヴィーは自分のドラグーンを振り返り、叫んだ。

 そのまま、愛機に向かおうとするが、

 

「よしなさい!」

 

 オッカが腕をつかむ。

 

「戦力の逐次投入は悪手……。あなたがいつも言っていることでしょう!?」

 

「そうだけど、そうだけど……!」

 

 アヴィーはそれを振りほどき、唇を噛んだ。

 

 そのまま。

 パーティーメンバーは暗い顔のまま沈黙した。

 沈黙がしばらく続いた後――

 

「――宮廷からの連絡だ」

 

 書類を手に、ルーブが小走りでやって来る。

 

「宮廷?」

 

 オルマは一瞬、不審そうに顔をしかめる。

 

「ああ。こんな状況下だろう? いつ、魔王軍が混乱に乗じてくるかわからない。警戒態勢を敷くから、協力要請をしてきた」

 

「……混乱。そうか、魔王軍の欺瞞情報だったよね」

 

 アヴィーはハッとして顔を上げる。

 

「相手の目的がこっちの混乱なら、それは成功している……。他の地域や国でも、パニックになったところがいくつかあったらしいよ」

 

 ルーブはため息を吐いた。

 

「動ける冒険者たちを集めて! 攻勢に備えなきゃ――」

 

「でもそんな急に……!」

 

 アヴィーの叫びに、オッカが不安を口にする。

 

「そういうことなら、シーマ宮廷もできる限り協力すると言ってきた。たとえ敵が少数でも、隙を突かれたら致命的だとね。予算も気にするなと言っているよ」

 

 言いながら、ルーブはアヴィーに書類を渡す。

 

「うん、うん……! 急いで準備しよう! 無駄になってもいいから!」

 

「ああ……」

 

 ルーブはうなずき、

 

「じゃあ、あっちと調整をしてくるから」

 

 また来た方向に戻っていく。

 だが、

 

 ――何だこの、手回しの良さは……?

 

 敵の情報戦。

 不在の英雄。

 混乱している状況に、

 

 ――すぐさまパーティーに仕事を与えて、動かしている? 何だ、これ。まるで、余計なことをさせないみたいな……。

 

 そこまで考えてから、ルーブは眼を見開いた。

 瞳は、まっすぐにシーマの王城に向けられている。

 

 

 ・  ・  ・

 

 

「どうぞ、安らかに――」

 

 床に崩れ落ちた女。

 カピオはそれを見ながら、静かに言った。

 

 敷かれた絨毯には、グラスからこぼれたワインがしみ込んいく。

 豪奢なドレスも、ワインの赤い色が広がっていた。

 

 それから。

 ゆっくりと――

 カピオは周りの侍女たちに視線を送る。

 いずれも……。

 子飼いの人間ばかりだった。

 

 ただし。

 表立っては、王妃の忠実な侍女ばかりだったが。

 

 ――時間をかけて、取り込んだ甲斐もあるか。

 

 背を向けながら、カピオは微笑した。

 静かに部屋を出た後――

 

「よいか。今ことが公になれば、国民に動揺が広がる。軍の士気にも影響しよう。この件は、しかるべき時まで絶対機密とする。よいな? 機密事項だぞ」

 

 笑みを消し、冷厳な態度で部下や同僚へ言い切った。

 

 一瞬の沈黙。

 その後、全員が迅速に動き出した。

 反論する者はいない。

 

「遠吠えする雌犬は国を滅ぼす――か」

 

 自分にだけ聞こえる、小さなつぶやき。

 カピオはそれを舌先で転がし、自分も早足に動き出した。

 

 ――やらねばならんことは、山ほどあるのだ。

 

 

 ・  ・  ・

 

 

「――王妃陛下は、()()()()()()()()()

 

 低く、静かな声。

 そんな感情を圧殺した声で、ゼン宰相は国王に言った。

 

「……おお」

 

 自室の中。

 シーマの王は頭を押さえ、苦しげにうめいた。

 

「我が友よ……。忠実な宰相よ。ゼン・ガーマシュよ」

 

「はっ……」

 

 宰相は身を低くして、応える。

 

「他に道は、他に取れる(すべ)はなかったのか」

 

「申し訳ありませぬ。非力にして、非才の身には……」

 

「そ、そうか」

 

 王は顔を上げた。

 青く、精気のない顔。

 

「ゼンよ。わしはなあ、わしは……。良き王ではないし、良き夫、良き父ではないかもしれぬ」

 

「何を申されますかっ」

 

 王の弱気な言葉に、宰相は叱咤を飛ばす。

 

 だが。

 王は悲しげに微笑み、

 

「いや、よいのだ、よいのだ。自分でもわかっておる。しかし、しかし……。少なくとも、良き王、良き夫であろうとはしてきたつもりなのだ。努力してきたつもりだ」

 

「はっ……。おっしゃるとおりでございます。よく存じ上げております」

 

「だが、あれにとってはそうではなかったのだなあ」

 

「陛下……」

 

「わしはなあ、わしは座を追われても仕方のない男だろう。だが、腹を痛めた息子……王太子までも廃しようとなど。とてものことに、信じられなんだ」

 

「座興であれば、どれほど良かったかと……。私もつくづくそう思っております」

 

 宰相は苦い顔で首を振った。

 

「いっそ、今すぐにでも王冠も玉座も譲り渡し、隠棲したい」

 

「陛下、なりませぬ」

 

「わかっておる。まだ王太子には早すぎる」

 

「はい……」

 

「ゼンよ」

 

「なんでございましょうか」

 

「世の中というのは、つらいものだな」

 

「さようでございますなあ」

 

 ふたりの男――

 それぞれの顔には、倦み疲れた悲しみが張り付いていた

 

 

 

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