破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
――何だ?
ドラグーンを飛ばす途中――
グシオは嫌なものを感じた。
何がどうとか……。
ハッキリとしたことは言葉にできない。
しかし、
――こういうのは、不吉な予感っていうのか?
引き返すべきか。
そんな迷いが生じる。
――だけど……。
カーシャをこのままにしておけない。
また、
――ドラゴンまであんな死体になってるとは……。単独で、それも生身でできるわけがない。じゃあ、他に誰かが……?
巨大な兵器か。
それとも、未知の軍勢か。
いずれにしても――
恐ろしい何かが、破壊と死をもたらした。
それは確かだ。
――このまま引き返して……。
グシオは唇を噛んで、覚悟を決めた。
いずれにしろ、中途半端になる。
そういう気がしたのだ。
――今は、カーシャを助ける……!
もう手遅れかもしれない。
だが、最低でも顔を見るまでは、
――無事でいてくれ……!!
グシオは、最後に魔力補給をして、タンクを捨てた。
どこまでも続く、殺戮の
それは、グシオのドラグーンを古城の影へと導いていく。
古城の周辺には、今まで以上の死体が散らばっている。
――いや、何だこれは……?!
まるで。
巨大な爆薬で吹き飛ばしたような……。
そうとしか思えない死体ばかりだ。
ゴブリンやオーガだけではない。
ドラゴン種まで半分ミンチとなった死体がある。
――本当に……何が起こった……!?
否が応でも高まる不安。
それを押し殺しながら、グシオは古城に降りていく。
周辺には、破壊されたドラグーンが骸をさらしている。
城内。
そこもやはり、死体だらけだった。
しばらく城内を歩いていると――
「……」
気配。
それを察知して、グシオは足を止めた。
「残ってるヤツはいませんよ」
少年の声。
ゆっくりと振り向くと――
そう年の変わらない、やや年下だと思われる少年。
目立たない、シーフのような服装をしていた。
「誰だ」
「ただの偵察員ですけどね」
少年は困った顔で、バンダナで覆った頭を掻いている。
「生き残りは、みんな逃げちゃいました。ま、非戦闘員ですね。残った兵力は全滅。文字通りみんな死にました」
「貴様」
「僕がやったんじゃありません。やったヒトは――」
少年は斜め横を指して、
「この城から、東にある小山にいます。首魁……魔王もそこにいますよ」
「……お前は誰だ」
「だから、単なる偵察員です」
「……!」
いきなり――
グシオは物も言わずに斬りかかった。
少年はあっけなく左右に分断される。
即死だ。
しかし――
「……っ」
真っ二つになったのは、小さな
もう、相手の気配はどこにもない。
「……逃げたか」
それとも。
初めから
いずれにしろ、
――他にも、手がかりはないか?
魔王がいるという小山。
そこに、
――カーシャもいるのか……?
・ ・ ・
「来たようね――」
カーシャは立ち上がり、薄く笑った。
「何だと?」
ムゼカはハッとして、カーシャを睨む。
これと同時に――
爆発音と、大きな振動。
それが、洞窟内を揺らして、小石や埃を下へと落としていく。
「じゃあ、後はあなたがたの戦いになるわ」
ムゼカの横を通り過ぎながら、カーシャを肩をすくめる。
「別の刺客が来たわけだな……」
立ち上がり、ムゼカはゆっくりと歩き出す。
「ええ。勝てれば良し、負ければそれまで」
カーシャは首だけでムゼカを振り返り、目を細めた。
「……負ける気はない」
「でも自信満々、というわけでもなさそうねえ」
短い槍のようなものを手にするムゼカ。
両端のうち、ひとつには刃。
もう一つには、目玉のような宝珠がついている。
「安心するんだな。負けて死にかけたとしても、命だけはどうにかしてやるよ」
黒猫が―――
宙に浮いた座布団の上でケラケラ笑う。
「……そいつはありがたいな。涙が出そうだ」
ムゼカは、ギロリと黒猫を睨んだ。
「私を救ったとして、どうする。従順な兵士にでもするのか? それとも、苦しんでのたうつ様を見て酒を飲む道化か?」
「どっちかといえば、後者だが――」
黒猫は身を揺すって笑い、
「正確にいうと、俺が勝手に楽しんでることさ。あんたらを捻じ曲げて、こねくり回して化け物に変える。そいつは、お偉方が始めたこと。俺は単なる使いっ走りだよ」
「お偉方?」
そう言ったのはカーシャだった。
「つまり、俺たちのボスだぁね。個人か、それとも複数いるのかは知らん。俺は何となく複数いると思うが」
「バケモノになった私を解き放って、何の意味があるというのかしら?」
「だから知らんよ。しかし、同じようなことをしている連中は他にもいるだろうよ」
「まあ、あんたと議論しても意味はなさそうね……」
カーシャはそのまま、去っていく。
「では、魔王陛下。健闘を……祈ってもしょうがないかしら? じゃあ、せいぜいがんばって」
「……」
ムゼカは応えない。
ただ、目を閉じて息を吐いただけ。
・ ・ ・
「来たか」
杖か、それとも槍というべきか。
とにかく、得物を手にムゼカは振り返る。
黒衣の男が、そこに立っていた。
「お前が、魔王か」
「貴様らは、そう呼んでいるな『英雄』よ」
「カーシャはどこだ」
「……あの女か」
ムゼカは、思わず顔をしかめた。
ひどく厭そうな顔である。
――……?
妙な反応だと思いつつ、グシオは剣を抜く。
「私の知ったことではない。探したければ、どこでも探すがいい」
言った後――
ムゼカは静かに得物を持ち上げるが、
「む……?」
先端の宝玉が、淡く輝き出す。
「この反応。資質があるらしいと情報にはあったが、ドラゴン使いの血統を濃く受け継いでいるようだな……」
ムゼカは笑う。
ひどく捨て鉢な笑み。
「……だとすれば、なんだ」
「皮肉な気もするが……。よいさ、貴様を討てば、戦力の立て直しもやりやすかろう」
「……できると思うのか」
「さあな。だが、やらんわけにもいかぬ」
「ほざくな……!!」
そして――
……。
……。
…………。
「にゃおう」
「……!?」
唐突に響く、場に不似合いな鳴き声。
それと同時に、
「なんだ!?」
倒したばかりの相手――
『魔王』の体は、暗闇の中に沈んでいく。
グシオは、思わず捕まえようと手を伸ばす。
だが。
一瞬の遅れ。
『魔王』は闇に消え、もうどこにも見えなくなっていた。
呆然としているグシオへ、
「グシオ殿」
「……っ!?」
振り返ると……。
カーシャが岩陰に立っていた。
血で黒く汚れた姿で――