破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その117、悪魔が来りて嘘をつく-30 告白する『女騎士』

 

 

 

「無事だったのか……!」

 

「ああ――」

 

 カーシャは息を吐いて、地面に座り込む。

 

「お、おい!?」

 

 あわてて駆け寄ろうとするグシオへ、

 

「そう驚くな、ちょっとばかり疲れただけだ」

 

 カーシャは片手を上げて苦笑した。

 

「本当か?」

 

「ああ。そういうお前こそ、傷を負っているではないか」

 

 カーシャは、その水色に輝く瞳でグシオを見た。

 

「こっちのほうこそ、大したことないさ」

 

「兜を砕かれるほどなのに、か?」

 

 指摘通り。

 グシオがいつもかぶっている黒い兜は、ない。

 砕けた残骸が、地面に転がるのみ。

 

「ああ。兜は壊れたけど、おかげで頭のほうは無事だ」

 

 額から流れる一筋の血。

 グシオはそれをぬぐって、また苦笑する。

 

「……そうか」

 

 カーシャはほう、と息を吐く。

 

「ところで……。いったい何があったんだ? 外に転がってるモンスターの死体は……」

 

「ひと口では言えぬ」

 

 疑問の言葉。

 それにカーシャは、ゆっくりと首を振るだけ。

 

「少しずつでもいい。何があったのか知りたいんだ。もしかすると、他にも敵が」

 

「グシオ」

 

 カーシャはいきなり立ち上がって、グシオに歩み寄った。

 そして。

 銀色の筒を、ゆっくりと突き出す。

 

「え?」

 

「使え。ハイレベルの治癒魔法が封印されている」

 

「いや、ちょっと……」

 

「傷を負っているのだろう?」

 

「ああ。いや、大丈夫だ。俺は……」

 

「何かあれば最前線で戦う身だろう。ならば、可能な限り体力は温存するべきだ。傷も癒すべきだぞ」

 

 カーシャは――

 グシオの返事を聞かずに、魔法の筒を操作する。

 

 向けられた筒の先端。

 そこから、粒子状の光が流れ出す。

 魔力の光はグシオの体を包み、

 

「これは……!」

 

 グシオを目を見開いて、自分の手を見た。

 

 戦いで受けた傷。

 ドラグーンを長時間飛ばしてきた疲労。

 それらがすべて消え去っている。

 

 むしろ。

 気力も体力も、最高のモノとなっている。

 それを実感できた。

 

「知り合いに、腕の良いヒーラーがいてな。もしもの時に備えて、魔法を封じさせてもらった」

 

 腕の良いヒーラー。

 当然、それはバッキーのことである。

 

「もう、天才だろ。そのヒーラー……」

 

 グシオは、半ば呆然として言った。

 

「まあ、そうだな」

 

 カーシャは息を吐く。

 それから、

 

「時に。まさか、お前ひとりで追ってきたのか?」

 

「ん。ああ……。急いでたから」

 

 その返事に、カーシャはまた息を吐く。

 

「では、女騎士や姫君たちは置いてけぼりか。困ったことだな。いや、私が言うべきではないのだが……」

 

「だから――早く、戻らないと」

 

 グシオはそう言って、カーシャに手を差し出す。

 

「……そうか」

 

 カーシャはそっと握り返す。

 

 自然。

 黒い瞳と、水色の瞳が交差した。

 

「え、ええと……。早く出ようか、ここはまだ危険が」

 

「グシオ」

 

「え? え……」

 

 カーシャの額。

 それが、グシオに胸に押し付けられる。

 

「私は、言ったな。お前のもとを決して離れぬと。私は、お前の女だと」

 

「あ、ああ」

 

 グシオは一瞬、喉を鳴らしてしまう。

 確かに覚えていた。

 ただ。

 あまり深く考えないようにもしていたのだが。

 

「あれは嘘だ」

 

「え?」

 

 一瞬、意味がまったくわからなかった。

 

 と。

 グシオの体が宙に浮く。

 カーシャに抱きかかえられたのだ。

 

 いわゆる、『お姫様だっこ』の状態である。

 立場が男女逆だが。

 

「お前が留守の間、仲間はどうしているのかな」

 

「どういう意味だ……?」

 

 グシオは、カーシャの顔を凝視する。

 嫌な感覚が、背中を這い上っていった。

 

 カーシャの顔が間近にある。

 女神のように美しい美貌。

 それが、ひどく残酷でおぞましいものに見えた。

 

「少なくとも、王妃様はもはや今までどおりの立場にいまいよ。放逐か、幽閉か。それとも、ワインでも贈られたかな?」

 

「だから、どういう……!」

 

 叫びかけたグシオ。

 その唇へ、白く美しい指が添えられた。

 

「ああ。わかりにくいか? ワインを贈る。つまりワインに毒を入れて飲んでいただくという意味だ。つまり、遠回しに自害しろと言っているわけだ」

 

「……!?」

 

「いずれにしろ、お前たちはこの国での大きな後ろ盾を失うことになる。いや? 今頃ことは完了しているだろうなあ」

 

 一瞬。

 グシオの思考はフリーズした。

 次に浮かんだのは、血だまりに崩れる王妃――

 オルマの実母だった。

 

「お前……!」

 

 反射的に、グシオは跳ね起きた。

 跳ね起きようとした。

 ……のだが。

 

「がっ!?」

 

 グシオは、地面に抑えつけられていた。

 どこをどうされたのか。

 何をどうされたのか。

 まったくわからないまま――

 

「今さら焦っても遅い。すでに『悪は()された』のだ」

 

 いや?

 悪だと断言できるかは、微妙かもしれぬな?

 

 グシオを抑え込みながら、カーシャは自問するように言った。

 

「何で……?!」

 

「なぜ? そうだな、お前には知る権利があろう。ある意味では、お前も犠牲者だ」

 

 カーシャはグシオの頬を優しく撫でる。

 

「王妃様はなあ……。現在の正当な嫡子である王太子殿下を排して、お前をシーマの玉座にすえようとしていたのだよ」

 

「な……!?」

 

 寝耳に水。

 まさに、それだった。

 

「知らなかったか? いや、遠回しにアプローチされていたかもしれないが、まあ気づかなかったかもしれない。お前は妙なところで鈍いからな。愚鈍とも言える。王族としてやっていけるタイプではない」

 

「くっ……。そんなもの――」

 

「権力に興味など、ないか。それも良かろう。つまらぬ野心を起こすより、どこかで隠棲するほうがお前の好みかもな」

 

 カーシャは言った。

 グシオに息がかかるほど、顔を近づけながら。

 

 容姿に似合わない、血のような口臭。

 それが異様な感覚と興奮を若い肉体にもたらす。

 

「だが、王妃様は本気だった。ゆえに、排斥されたのだよ。自業自得だな、国の簒奪を企てたのだから……」

 

「お前は、何なんだ。目的は何だ!?」

 

 叫び、反射的に殴りかかろうとしたグシオ。

 しかし――

 それは白い手のひらにあっさり受け止められた。

 

「お前のような男が、女の顔を殴るのか? それほどまでに余裕がないのか?」

 

 カーシャは、そっとグシオから離れ、

 

「やれやれ」

 

 芝居がかった仕草で首を振る。

 

「私はな、保険だよ――」

 

「保険……?」

 

 グシオはゆっくり後退しながら、言った。

 カーシャの美しい顔を睨みながら。

 

「ああ。王妃を排除する際に、お前たちがとち狂った行動をした時のな」

 

 つまり。

 お前が暴れた時に、止めるためだよ。

 いや?

 殺すためか。

 

 そう言いながら、カーシャはゆっくりと手を広げてみせた。

 

 

 

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