破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その117、悪魔が来りて嘘をつく-31 男の惚れる男でなけりゃ……

 

 

「俺たちを、騙してたのか……」

 

 黒衣の青年は――

 暗い目つきで、カーシャを睨む。

 

「まあ、()()()()()()()?」

 

 カーシャは素の態度で、困った顔をする。

 

「あんなコテコテの田舎芝居にあっさり引っかかるとは……。正直、ちょっと気味悪かったわよ? あんただけならまだしても――」

 

 お仲間の女連中もね。

 あなたに惚れるのは、当然という認識だったのかしら?

 それとも。

 よほどに『前科』があったの?

 

 腰に手を当て、カーシャは少し顔を上げる。

 視線は、洞窟の天井を見ていた。

 

「のんきというか、ドンくさいというか……」

 

 カーシャは、憐れむように言う。

 

「正直、こいつら大丈夫かと思ったわ。あなたは最強で、あらゆる女を魅了させる罪な男。そういう認識というか常識で動いている感じ?」

 

「そんなわけが……」

 

「ない、というの。ま、それはいい。どっちだってね。けど、やるほうとしては面倒臭い仕事だったわ。あんたらを皆殺しにしろと言われたほうが遥かに楽だった」

 

「……っ!」

 

「臭い田舎芝居をやらなければ、やってられない程度には……」

 

「簡単にはやられない」

 

 グシオから、ゆっくりと殺気が噴き出した。

 それだけで……。

 耐性のない者なら、心臓が破裂するかもしれない。

 

 だが、

 

「できると思うのか、とは言わないのね。私の実力は、ある程度認めてくれていたわけか……」

 

 カーシャはホウッと息を吐く。

 瞬間。

 

「がっ……!?」

 

 グシオは低くうめいた。

 その顔を、カーシャの左手につかまれていたのだ。

 

 凄まじい力。

 そのまま、砕け散りそうなレベルだった。

 

「あなたは強い。それはそれは大したものね。才能だったら、私の100倍や200倍あるかもしれない。でも、私は()()()ではなくってよ?」

 

「……!! ……!?」

 

 グシオはカーシャの腕を両手でつかみ、抵抗する。

 同時に、その胴体を何度も蹴りつけた。

 

 しかし。

 美貌の女騎士はビクリともしない。

 

 そして、

 

「あなたを殺そうと思えば、いつでも殺せた。でも、やらなかった。なぜ? 意味がないわ。それで報酬が増えるわけでもない。特に恨みもないし」

 

 手を放しながら、カーシャはそう言った。

 

「あなたは、このまま……仲間と一緒でも、ひとりでもいい。どこかで隠棲して、爛れたハーレム生活でも送ることね。魔王は倒れた。もう勇者の仕事はない――」

 

「……説得のつもりか」

 

「説得? 忠告といってほしいわね。()()()()()()()だから、わざわざそうしているの」

 

「似ている、だと……」

 

「ええ、そうよ。なぜ? なぜ、あなたはそんな力を得ているのか。詳細は聞いていない。ただ、そこに人間……いえ、知性種族(マーナヴ)の限界を超えた、誰かの意思が働いていたのは、確かでしょうね」

 

 神か。

 悪魔か。

 それは知らないけれど――

 

 カーシャは言って、ゆっくり両腕を組む。

 

「おそらくは……。あなたも私も、ただの見世物よ――」

 

「見世物。何を、バカな……!」

 

 一瞬で――

 グシオの紅潮した顔は青くなっていった。

 

 だが。

 あの時。

 

 ――俺は、これから『悲劇』を、未来で経験したことを、戦いで得た力を……。

 

「あなたが、どうやってそこまで強くなったか。詳細は聞かないでおきましょう」

 

 でもね。

 思うに、それは真っ当なものではないわ。

 赤ん坊が、怪力無双の力を得てしまったも同じ。

 ろくな結果を産むわけがない。

 私のようにねえ?

 

 クックックッ。

 と。

 カーシャは身を揺すって、痙攣するように苦笑した。

 

「あなたの仲間は言うでしょう。あなたはバケモノじゃない。ちゃんとした感情を持つ、人間だとね。だけどねえ?」

 

 他の連中は――

 社会は――

 国は――

 どう見るかしら?

 無敵の力を振るって、美しい女とあれば魅了して我が物にする。

 そして。

 これが重要なのだけど……。

 

 言いかけて。

 カーシャはコンコンと、自分のこめかみを指で叩いた。

 

「そう。貴族として育ち、アレコレ酷い目にあってきた経験からして。あなたは、英雄の素質はあるけど、王様の素質はないわね。ある程度、基盤のしっかりした国を正式に継承する……のなら、別だけど」

 

「かぁぁぁ!!」

 

 カーシャの言葉を聞かず――

 グシオは、爆発した。

 全身から、闘気が奔流となって噴き出したのだ。

 凄まじい熱気が、カーシャを直撃する。

 

 しかし。

 カーシャは微動だにしなかった。

 

「……!?」

 

 恐怖と動揺で目を見開くグシオへ、

 

「言ったでしょう。私は()()()ではないとねえ?」

 

 瞬間。

 ドスン、と。

 

「ごほっ……!!!」

 

 カーシャの拳が、グシオの腹にめり込む。

 そして。

 静かにつかんでいた手を放した。

 

「う、ぐぉ…………」

 

 ゆっくりと、グシオはその場に崩れ落ちる。

 それにカーシャは、

 

「そう。これは受け売りになるけど……」

 

 王になるには、『男の惚れる男』でなければいけない。

 そうでなければ。

 どんなに強くても、どんなに有能でも――

 一代で王になることはできない。

 

 詩を吟じるように言って、腰を下ろす。

 

「私の故郷にいたクソババァの言ってた台詞。さて、あなたはどうかしらね。あなた女の子の『おにいちゃま』にはなれるけど、男の子の『兄貴』にはなれない。私はそう見たけど?」

 

「……」

 

「そうねえ? たぶん、あなたは女の子を救えなかったとか、そういう心の傷があるんでしょう。だから、女にはひどく甘くなる。特に、『女の子』には……」

 

「知った風なことを……」

 

 グシオはうつむきながら、うめいた。

 しかし。

 カーシャは淡々と続ける。

 

「だから、無意識に女の子へ白馬の騎士みたいな態度を取る。取ってしまう。そのくせ、いざとなれば臆病で引いてしまう。それが余計女の独占欲を刺激するのかしら?」

 

「……」

 

「けど。その反面、男に対しては無神経、いや無関心なのかしら? ねえ? たとえば、ルーブ。彼、戦場ではダメダメで中途半端だけど、優秀よ? 君がもっとサポート役としてプッシュしていれば、もっともっと使えるようになっていた。他にも男の人材は集まったでしょう。現状をよく見た? あなたの回りにいるの、女ばかりじゃない。寄って来る男と言えばビジネス目的の商人や、利権目的の権力者くらいよ」

 

「……!?」

 

 反射的に顔を上げる。

 それを、カーシャは驚いたような顔で見つめ、

 

「あはははははははははははは!!!」

 

 弾かれたように笑いだした。

 

「もしかして、そんな発想すらゼロだったわけ? そりゃ、王の器じゃないわ! 戦争が終わればお荷物になるタイプだわ、確かに」

 

 

 

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