破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
「俺たちを、騙してたのか……」
黒衣の青年は――
暗い目つきで、カーシャを睨む。
「まあ、
カーシャは素の態度で、困った顔をする。
「あんなコテコテの田舎芝居にあっさり引っかかるとは……。正直、ちょっと気味悪かったわよ? あんただけならまだしても――」
お仲間の女連中もね。
あなたに惚れるのは、当然という認識だったのかしら?
それとも。
よほどに『前科』があったの?
腰に手を当て、カーシャは少し顔を上げる。
視線は、洞窟の天井を見ていた。
「のんきというか、ドンくさいというか……」
カーシャは、憐れむように言う。
「正直、こいつら大丈夫かと思ったわ。あなたは最強で、あらゆる女を魅了させる罪な男。そういう認識というか常識で動いている感じ?」
「そんなわけが……」
「ない、というの。ま、それはいい。どっちだってね。けど、やるほうとしては面倒臭い仕事だったわ。あんたらを皆殺しにしろと言われたほうが遥かに楽だった」
「……っ!」
「臭い田舎芝居をやらなければ、やってられない程度には……」
「簡単にはやられない」
グシオから、ゆっくりと殺気が噴き出した。
それだけで……。
耐性のない者なら、心臓が破裂するかもしれない。
だが、
「できると思うのか、とは言わないのね。私の実力は、ある程度認めてくれていたわけか……」
カーシャはホウッと息を吐く。
瞬間。
「がっ……!?」
グシオは低くうめいた。
その顔を、カーシャの左手につかまれていたのだ。
凄まじい力。
そのまま、砕け散りそうなレベルだった。
「あなたは強い。それはそれは大したものね。才能だったら、私の100倍や200倍あるかもしれない。でも、私は
「……!! ……!?」
グシオはカーシャの腕を両手でつかみ、抵抗する。
同時に、その胴体を何度も蹴りつけた。
しかし。
美貌の女騎士はビクリともしない。
そして、
「あなたを殺そうと思えば、いつでも殺せた。でも、やらなかった。なぜ? 意味がないわ。それで報酬が増えるわけでもない。特に恨みもないし」
手を放しながら、カーシャはそう言った。
「あなたは、このまま……仲間と一緒でも、ひとりでもいい。どこかで隠棲して、爛れたハーレム生活でも送ることね。魔王は倒れた。もう勇者の仕事はない――」
「……説得のつもりか」
「説得? 忠告といってほしいわね。
「似ている、だと……」
「ええ、そうよ。なぜ? なぜ、あなたはそんな力を得ているのか。詳細は聞いていない。ただ、そこに人間……いえ、
神か。
悪魔か。
それは知らないけれど――
カーシャは言って、ゆっくり両腕を組む。
「おそらくは……。あなたも私も、ただの見世物よ――」
「見世物。何を、バカな……!」
一瞬で――
グシオの紅潮した顔は青くなっていった。
だが。
あの時。
――俺は、これから『悲劇』を、未来で経験したことを、戦いで得た力を……。
「あなたが、どうやってそこまで強くなったか。詳細は聞かないでおきましょう」
でもね。
思うに、それは真っ当なものではないわ。
赤ん坊が、怪力無双の力を得てしまったも同じ。
ろくな結果を産むわけがない。
私のようにねえ?
クックックッ。
と。
カーシャは身を揺すって、痙攣するように苦笑した。
「あなたの仲間は言うでしょう。あなたはバケモノじゃない。ちゃんとした感情を持つ、人間だとね。だけどねえ?」
他の連中は――
社会は――
国は――
どう見るかしら?
無敵の力を振るって、美しい女とあれば魅了して我が物にする。
そして。
これが重要なのだけど……。
言いかけて。
カーシャはコンコンと、自分のこめかみを指で叩いた。
「そう。貴族として育ち、アレコレ酷い目にあってきた経験からして。あなたは、英雄の素質はあるけど、王様の素質はないわね。ある程度、基盤のしっかりした国を正式に継承する……のなら、別だけど」
「かぁぁぁ!!」
カーシャの言葉を聞かず――
グシオは、爆発した。
全身から、闘気が奔流となって噴き出したのだ。
凄まじい熱気が、カーシャを直撃する。
しかし。
カーシャは微動だにしなかった。
「……!?」
恐怖と動揺で目を見開くグシオへ、
「言ったでしょう。私は
瞬間。
ドスン、と。
「ごほっ……!!!」
カーシャの拳が、グシオの腹にめり込む。
そして。
静かにつかんでいた手を放した。
「う、ぐぉ…………」
ゆっくりと、グシオはその場に崩れ落ちる。
それにカーシャは、
「そう。これは受け売りになるけど……」
王になるには、『男の惚れる男』でなければいけない。
そうでなければ。
どんなに強くても、どんなに有能でも――
一代で王になることはできない。
詩を吟じるように言って、腰を下ろす。
「私の故郷にいたクソババァの言ってた台詞。さて、あなたはどうかしらね。あなた女の子の『おにいちゃま』にはなれるけど、男の子の『兄貴』にはなれない。私はそう見たけど?」
「……」
「そうねえ? たぶん、あなたは女の子を救えなかったとか、そういう心の傷があるんでしょう。だから、女にはひどく甘くなる。特に、『女の子』には……」
「知った風なことを……」
グシオはうつむきながら、うめいた。
しかし。
カーシャは淡々と続ける。
「だから、無意識に女の子へ白馬の騎士みたいな態度を取る。取ってしまう。そのくせ、いざとなれば臆病で引いてしまう。それが余計女の独占欲を刺激するのかしら?」
「……」
「けど。その反面、男に対しては無神経、いや無関心なのかしら? ねえ? たとえば、ルーブ。彼、戦場ではダメダメで中途半端だけど、優秀よ? 君がもっとサポート役としてプッシュしていれば、もっともっと使えるようになっていた。他にも男の人材は集まったでしょう。現状をよく見た? あなたの回りにいるの、女ばかりじゃない。寄って来る男と言えばビジネス目的の商人や、利権目的の権力者くらいよ」
「……!?」
反射的に顔を上げる。
それを、カーシャは驚いたような顔で見つめ、
「あはははははははははははは!!!」
弾かれたように笑いだした。
「もしかして、そんな発想すらゼロだったわけ? そりゃ、王の器じゃないわ! 戦争が終わればお荷物になるタイプだわ、確かに」