破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
いきなり、だった。
「――」
大笑い――呵々大笑。
その途中、カーシャが動きを止めた。
――なんだ……?
その動きをグシオは不気味に思う。
と――
ボム、だろうか。
それとも。
ドン! だろうか。
爆発音が足元から響き、洞窟が揺れた。
そして、徐々に崩壊を始める。
「な、なんだぁ!?」
グシオはハッとして、
――まさか、残党!? そいつらが、何かを……!?
その一方で――
「来なさい」
カーシャは無表情となり、グシオの首根っこをつかんだ。
「こ、今度は何を……!?」
「お黙りなさい」
弱々しく抗議するグシオにピシャリと言い放ち、
「あっちか」
カーシャはグシオのやって来た方向――
すなわち。
黒いドラグーンが置かれている場所へと向かう。
走る中。
グシオは再び、『お姫様抱っこ』状態となる。
――またこれか……。
ひどく情けない気分になるグシオだが、
「あれか」
カーシャはあっという間に、ドラグーンのもとにやって来る。
そして、
「とっとと、乗りなさい」
カーシャはグシオをドラグーンのコクピットに放り込む。
まるで、荷物のように。
「そろそろ痛みも引いているはず。これを飛ばすくらいはできるでしょう?」
――まだ、かなり効いているんだがな……。
グシオは愚痴をこぼしたい気持ちを抑え、
「どういうつもりだ」
そんな疑問を口にする瞬間にも――
洞窟の崩壊は続いている。
「瓦礫の下敷きになりたくなければ、さっさと逃げることね。後は知らない」
カーシャはそう言い捨てて、外に走り出していった。
「……くそ! 何から何まで勝手な……!」
グシオは奥歯を噛んでつぶやく。
苦いものを吐き出すように。
だが――
洞窟の崩壊はどんどん進んでいく。
このままでは、
「ボヤボヤできない、か……!!」
グシオは急いでハッチを閉め、ドラグーンを起動させる。
落ちてくる瓦礫をはねのけながら、黒い機体は岩山から飛び出していった。
――あいつ、どこに消えた……!?
上空から、グシオはセンサーでカーシャを探す。
しかし。
そんなことをしている余裕は、一瞬で消える。
「――……!?」
センサーがとらえたのは、カーシャではなかった。
「魔力反応……!? でかい!?」
さっきまで岩山。
その地下から、異常な魔力が噴き出している。
――これは、この反応……。ドラゴン!?
あわてて、
グシオは高度を上げて、岩山から距離を取った。
やがて――
崩れていく岩の波をかき分け、
Vuaaaaaaaaaaaa……!!!
低く、しかし、腹の底に響いて止まない咆哮。
それが周辺に響き渡った。
黒い鱗と角。
真っ赤に燃える、両の眼。
岩山から出現したのは、二足歩行の巨大なドラゴンだった。
「……まさか、これが」
魔王の切り札だったのか!?
グシオは咆哮に威圧され、戦慄する。
そのサイズ。
立ち上がった大きさは、40……いや、50メートルを超えているだろう。
巨大すぎる。
それが、グシオの率直な感想だった。
単にサイズが大きいだけではない。
暴力的な魔力の圧が、装甲越しでも感じ取れるのだ。
――生半可な攻撃は通用しない……。そうか、これが。
成体になったドラゴンなのか。
初めて遭遇するバケモノに、グシオの手は震えた。
「クソっ……!」
ドラゴンはひどく興奮している。
遠目でも、すぐにわかるレべルだ。
空腹で狂暴になっているのかもしれない。
このまま放置すれば、被害は甚大だろう。
――しかし……!
まともにぶつかれば、ただではすまない。
むしろ。
半端な攻撃は相手の怒りを買うだけだろう。
――どうする……。どうする、どうやって戦う……?
<急いで退くんだな>
「!?」
グシオは息を飲んだ。
いきなり、見知らぬ相手からの通信。
声に聞き覚えはない。
発信元も不明だ。
「……誰だ」
<誰でもいい。その機体、ここまで来るのに無茶をさせたろう。魔力だって乏しいはずだ。そんな状態で、完全成体の
「ファフニール!?」
黒い死。
凶悪な二足歩行型ドラゴン・ファフニール。
場所によっては黒い死神、世界を破滅させる者と語られる。
極めて目撃例が少なく、
「ただの伝説じゃないか?」
そう疑問視する声さえある。
グシオ自身も……。
まだ、幼体や中間体にすら遭遇したことがない。
今、その神話化しつつある存在が、目の前にいるのだ。
<あいつは、冬眠から目覚めたばかり。つまり寝ぼけている状態だ、逃げるのは簡単だろう。だが、完全に目を覚ませば、そこら中の生き物を食い殺すぞ。お前も喰われたいか?>
「くっ……」
それは、事実だった。
戦闘こそしていないが、機体への負荷はかなりのもの。
ドラグーンには整備が必要だった。
今すぐに飛べなくなる、動けなくなる――ということはないが。
――十分な戦いはできないか……。
操縦する感覚で、それは嫌でもわかった。
「ひとつだけ聞かせろ。お前は誰だ」
グシオは、通信相手に低い声で言った。
<カーシャの仲間、みたいなものだ。これで満足か?>
「ああ……」
本当ならば――
今すぐに捕まえて、知っていることを全て話させたい。
しかし。
それがほぼ不可能なことも、グシオは理解していた。
――今は引くしかない。
ドラグーンを、シーマの方角へと向ける。
その時――
いくつもの爆発が、重なって岩山を砕いた。
ファフニールの巨体が揺らぎ、下へと転がり落ちる。
……Vuuuuaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!
起き上がったドラゴンは、両目に怒りの炎を燃やし、叫んだ。
その直後。
閃光と光熱が、空を焼いた。
炎と稲妻の混ざり合ったブレス。
ファフニールはそれを吐き出したのである。
「うあああっ!?」
グシオは、ドラグーンをシールドで防御させる。
反射的な行動だった。
それでも。
黒い機体は熱風に吹き飛ばされ、コマのように回転する。
あわや、地面に激突――
となりそうな寸前で、
「こなくそおおおお!!」
グシオはドラグーンを上昇させ、墜落を免れた。
「しまったな……。時限爆弾を仕掛けてたのか」
トクベーは渋い顔で頭を掻いていた。
遠目で猛り狂うファフニールを見ながら。
――たぶん、魔王はカーシャさんに殺されたらしい……。でも、その前に爆弾をセットしたな? 自分が死んでも、ドラゴンが出てきて暴れるように……。なるほど、自分たちの被害を考えないなら、ドラゴンを暴れさせるのは
死なばもろともってやつだな。
迷惑な。
とはいえ。
こうなればもはや、自分にできることなど何もない。
トクベーは、全速力でその場から逃げ出した。
――さすがにあんなの相手じゃ、カーシャさんも……。