破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
時間は、少しだけ戻る――
カーシャが『魔王』……。
いや、ムゼカ・ボーのもとにたどり着く前。
「時限装置を、ですか」
「そうだ」
ムゼカは部下にそう言い切った。
「私の生命反応が消えると同時に、タイマーが作動するようにだ」
「猊下、まさか」
「いや」
と。
ムゼカは部下に首を振ってみせながら、
「むざむざ死ぬ気はない。ないが、いざという時のためだ。直後に発動しても困る。他の者が逃げられる時間も必要だ」
「わ、わかりました」
尋常ならざるムゼカの視線。
部下たちは、それに押されながらもうなずく。
「ですが、これではファフニールが制御もなく暴れ出しますよ」
「そうだな……。周辺は破壊し尽くされよう。だが、それは様々な証拠を隠滅できる手段でもある。ファフニールが破壊する隙間をぬって、我々はまた潜伏し、機会を待つのだ」
つまりは――
そういうことだった。
・ ・ ・
「あ~あ……」
ゴトクは吹っ飛んでいくドラグーンを見ながら、ため息を吐く。
「さすがに死んだか? まあ、どうでもいいが……」
それから。
ゴトクは頭を掻きつつ、咆哮して暴れるドラゴンを見た。
黒い巨体が、闇の中に浮かび上がる。
岩を吹き飛ばし、わずかに生えている木々を焼き尽くしていく。
Varururururu……
しばらくすると――
ファフニールは周辺に転がる大型モンスターの死体に近づいていった。
そして。
無造作に噛みつき、食い始める。
大規模破壊は、一時中断したわけだ。
しかし。
それはあくまで一時的なもの。
おまけに、長くは続かなかった。
長い眠りから覚めたドラゴンの食欲は凄まじく――
Vrrrrrrrrrrrrr……!
まさに、あっという間。
ファフニールは死体を食い尽くしてしまった。
そして。
黒い竜は、周辺をギロリと睨む。
――おうおう……。最高にイラついて、頭にきてるってツラだ……。
とっとと、退散したほうが利口かね?
ゴトクは肩をすくめ、方向転換をする。
その時、だった。
爆裂音。
内臓を吹き飛ばすような衝撃と音が、空を引き裂いていく。
――おいおいおいおい……っ!?
振り返ったゴトクは、見た。
何かがファフニールの巨体をえぐり、砕いていくのを。
その規模は小さなものだが、確実にドラゴンの鱗や肉をえぐっていく。
毒蜂の群れが、狼に襲いかかっているかのような――
――いや。
一瞬。
複数いるように錯覚するが、襲っている『毒虫』は一体のみ。
そいつは高速で動き回り、ファフニールを苦しめ続けていた。
「……っっ」
ゴトクは手をかざし、遠見の魔法を使う。
そこで捉えたのは、ドラゴンの体を走り回る青い髪の女。
「……意味があるのか」
女の行動に、ゴトクはうめくように言った。
――ファフニールがどれだけ暴れて、どれだけ被害を出そうが……。
さっさと逃げて……。
ヤオアムトに帰っちまえば、それまでだ。
いくらドラゴンでも、陸上型に3万キロの距離は遠い。
いや。
飛行型でも遠いがよ……?
ゴトクは嘆息して、カーシャの動向を見守る。
無意味な戦闘。
無意味な殺し合い。
多少
――自衛でもない、益にもならない。そんな意味のない殺し合いをするのか?
カーシャという女は――
どこまでいっても、戦士ではない。
武人でもない。
殺し合いは作業に過ぎず、必要だからやる行為。
それなのに、何故?
ゴトクは
・ ・ ・
黒いドラゴン。
巨体。
不死身の体。
全てを砕くブレス。
――ああ、懐かしい。
じわり、と。
郷愁を感じる。
そして。
恐怖を感じる。
思い出すのは、
毎日。
時間の概念などあったのか、通用したのか?
それさえ、曖昧な場所と経験。
何度も、巨大なドラゴンに出会った。
山のような巨体でありながら、アリのように小さなカーシャを的確に見つけ、追う。
動くたびに赤黒い大地が揺れた。
うなるたびに、赤い空が歪んだ。
何度も、何度も、踏み潰され、飲み込まれた。
数えるのがバカらしいほどに。
しみついた恐怖。
それは、殺意と――
『どうすれば殺せるのか』
『どうやれば、効率よく殺せるのか』
そういったものに、変化していく。
恐怖ですくむことはなくなった。
代わりに、精神が研ぎ澄まされ、穏やかにさえなっていく。
殺してやる。
もはや感情でも、感覚でもない。
どこまで冷徹な意思だった。
殺してやる。殺してやる。殺してやる。殺してやる。殺してやる。殺してやる。殺してやる。殺してやる。殺してやる。殺してやる。殺してやる。殺してやる。殺してやる。殺してやる。殺してやる。殺してやる。殺してやる。殺してやる。殺してやる。殺してやる。殺してやる。殺してやる。殺してやる。殺してやる。
走り、跳び、回転しながらドラゴンを打つ。
やがて――
ファフニールの巨体――そのあちこちから鮮血が噴き出した。
至宝とさえ言える、成体竜の血液。
それが、惜しげもなく岩山に、焼けた大地に降り注ぐ。
惨劇だった。
まるで――
ナイフで肉をあちこちからえぐり取っていくかのような。
「それがお前のトラウマか」
遠見でカーシャの姿を見ながら、ゴトクはため息をつく。
巨大な力。
巨大な敵意。
巨大な怪物。
こういったものに対面した時……。
逃れられない絶望が――
殺され続ける恐怖が――
どこにも味方が、帰る家がない孤独が――
無意識下に刻まれた、苦痛の記憶が――
殺意と闘志を生む。
――人間と、バカでかいドラゴンは別らしい……。いや? と、すれば……?
彼女が語った場所・
――そこには、成体竜か、それと同格のドラゴンやモンスターがウヨウヨいるってか? なるほど、そりゃ地獄だ。
ゴトクは大きく息を吐いて、カーシャの戦いを見る。
死ね――
死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。
遠目からでも感じる、心臓が潰れそうな殺気。
「結局あんたは、まだまだ地獄にとらわれたままか……」