破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その117、悪魔が来りて嘘をつく-33 わきあがるもの

 

 時間は、少しだけ戻る――

 カーシャが『魔王』……。

 いや、ムゼカ・ボーのもとにたどり着く前。

 

「時限装置を、ですか」

 

「そうだ」

 

 ムゼカは部下にそう言い切った。

 

「私の生命反応が消えると同時に、タイマーが作動するようにだ」

 

「猊下、まさか」

 

「いや」

 

 と。

 ムゼカは部下に首を振ってみせながら、

 

「むざむざ死ぬ気はない。ないが、いざという時のためだ。直後に発動しても困る。他の者が逃げられる時間も必要だ」

 

「わ、わかりました」

 

 尋常ならざるムゼカの視線。

 部下たちは、それに押されながらもうなずく。

 

「ですが、これではファフニールが制御もなく暴れ出しますよ」

 

「そうだな……。周辺は破壊し尽くされよう。だが、それは様々な証拠を隠滅できる手段でもある。ファフニールが破壊する隙間をぬって、我々はまた潜伏し、機会を待つのだ」

 

 つまりは――

 そういうことだった。

 

 

 ・  ・  ・

 

 

「あ~あ……」

 

 ゴトクは吹っ飛んでいくドラグーンを見ながら、ため息を吐く。

 

「さすがに死んだか? まあ、どうでもいいが……」

 

 それから。

 ゴトクは頭を掻きつつ、咆哮して暴れるドラゴンを見た。

 黒い巨体が、闇の中に浮かび上がる。

 

 岩を吹き飛ばし、わずかに生えている木々を焼き尽くしていく。

 

 Varururururu……

 

 しばらくすると――

 ファフニールは周辺に転がる大型モンスターの死体に近づいていった。

 そして。

 無造作に噛みつき、食い始める。

 

 大規模破壊は、一時中断したわけだ。

 しかし。

 それはあくまで一時的なもの。

 おまけに、長くは続かなかった。

 長い眠りから覚めたドラゴンの食欲は凄まじく――

 

 Vrrrrrrrrrrrrr……!

 

 まさに、あっという間。

 ファフニールは死体を食い尽くしてしまった。

 そして。

 黒い竜は、周辺をギロリと睨む。

 

 ――おうおう……。最高にイラついて、頭にきてるってツラだ……。

 

 とっとと、退散したほうが利口かね?

 

 ゴトクは肩をすくめ、方向転換をする。

 その時、だった。

 

 爆裂音。

 内臓を吹き飛ばすような衝撃と音が、空を引き裂いていく。

 

 ――おいおいおいおい……っ!?

 

 振り返ったゴトクは、見た。

 

 何かがファフニールの巨体をえぐり、砕いていくのを。

 その規模は小さなものだが、確実にドラゴンの鱗や肉をえぐっていく。

 毒蜂の群れが、狼に襲いかかっているかのような――

 

 ――いや。

 

 一瞬。

 複数いるように錯覚するが、襲っている『毒虫』は一体のみ。

 そいつは高速で動き回り、ファフニールを苦しめ続けていた。

 

「……っっ」

 

 ゴトクは手をかざし、遠見の魔法を使う。

 そこで捉えたのは、ドラゴンの体を走り回る青い髪の女。

 

「……意味があるのか」

 

 女の行動に、ゴトクはうめくように言った。

 

 ――ファフニールがどれだけ暴れて、どれだけ被害を出そうが……。

 

 さっさと逃げて……。

 ヤオアムトに帰っちまえば、それまでだ。

 いくらドラゴンでも、陸上型に3万キロの距離は遠い。 

 いや。

 飛行型でも遠いがよ……?

 

 ゴトクは嘆息して、カーシャの動向を見守る。

 

 無意味な戦闘。

 無意味な殺し合い。

 多少()()ことはあっても、

 

 ――自衛でもない、益にもならない。そんな意味のない殺し合いをするのか?

 

 カーシャという女は――

 どこまでいっても、戦士ではない。

 武人でもない。

 殺し合いは作業に過ぎず、必要だからやる行為。

 それなのに、何故?

 ゴトクは(はなは)だ疑問だった。

 

 

 ・  ・  ・

 

 

 黒いドラゴン。

 巨体。

 不死身の体。

 全てを砕くブレス。

 

 ――ああ、懐かしい。

 

 じわり、と。

 郷愁を感じる。

 そして。

 恐怖を感じる。

 

 思い出すのは、地獄(ナラカ)での毎日。

 毎日。

 時間の概念などあったのか、通用したのか?

 それさえ、曖昧な場所と経験。

 

 何度も、巨大なドラゴンに出会った。

 山のような巨体でありながら、アリのように小さなカーシャを的確に見つけ、追う。

 動くたびに赤黒い大地が揺れた。

 うなるたびに、赤い空が歪んだ。

 

 何度も、何度も、踏み潰され、飲み込まれた。

 数えるのがバカらしいほどに。

 

 しみついた恐怖。

 それは、殺意と――

 

 『どうすれば殺せるのか』

 『どうやれば、効率よく殺せるのか』

 そういったものに、変化していく。

 

 恐怖ですくむことはなくなった。

 代わりに、精神が研ぎ澄まされ、穏やかにさえなっていく。

 

 殺してやる。

 

 もはや感情でも、感覚でもない。

 どこまで冷徹な意思だった。

 

 殺してやる。殺してやる。殺してやる。殺してやる。殺してやる。殺してやる。殺してやる。殺してやる。殺してやる。殺してやる。殺してやる。殺してやる。殺してやる。殺してやる。殺してやる。殺してやる。殺してやる。殺してやる。殺してやる。殺してやる。殺してやる。殺してやる。殺してやる。殺してやる。

 

 走り、跳び、回転しながらドラゴンを打つ。

 

 やがて――

 ファフニールの巨体――そのあちこちから鮮血が噴き出した。

 至宝とさえ言える、成体竜の血液。

 それが、惜しげもなく岩山に、焼けた大地に降り注ぐ。

 

 惨劇だった。

 まるで――

 ナイフで肉をあちこちからえぐり取っていくかのような。

 

「それがお前のトラウマか」

 

 遠見でカーシャの姿を見ながら、ゴトクはため息をつく。

 

 巨大な力。

 巨大な敵意。

 巨大な怪物。

 こういったものに対面した時……。

 

 逃れられない絶望が――

 殺され続ける恐怖が――

 どこにも味方が、帰る家がない孤独が――

 無意識下に刻まれた、苦痛の記憶が――

 殺意と闘志を生む。

 

 ――人間と、バカでかいドラゴンは別らしい……。いや? と、すれば……?

 

 彼女が語った場所・異界(ナラカ)

 

 ――そこには、成体竜か、それと同格のドラゴンやモンスターがウヨウヨいるってか? なるほど、そりゃ地獄だ。()()()でいられるわけがない。

 

 ゴトクは大きく息を吐いて、カーシャの戦いを見る。

 

 死ね――

 死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。

 

 遠目からでも感じる、心臓が潰れそうな殺気。

 

「結局あんたは、まだまだ地獄にとらわれたままか……」

 

 

 

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