破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その117、悪魔が来りて嘘をつく-34 光の弓と矢

 

 

 ほんの一瞬だけ――

 

 ――私は、何をやっているの?

 

 疑問が、カーシャの頭をかすめていった。

 

 巨大な竜。

 圧倒的な存在感と、肌に感じる暴力の風。

 

 ――ああ。

 

 思い出す。

 あの世界では、中間体のような半端なドラゴンなどいなかった。

 こんな、成体となった巨大ドラゴンはいくらでもいたのだ。

 

 その中でもまだ小型や中型のバケモノは津波のような群れとなり――

 大型は、山のような巨体で暴れていた。

 

 そして。

 

 殺された。

 やがて、殺すようになった。

 

 ――殺してやる。

 

 シンプルにそう思った。

 理屈ではない。

 思考というよりも、条件反射か。

 

 余計な思考がシャットアウトする。

 後のことも、先のことももはやなかった。

 

 

 ・  ・  ・

 

 

 ――何なんだ……これは。

 

 どうにか生きているセンサーとモニター。

 グシオは、声にならない声でつぶやく。

 

 ――何とか、動くな。しかし……っ!

 

 飛行は無理だった。

 いや。

 それ自体は可能だが、戦闘や逃走に使えるレベルではない。

 歩かせるほうがまだマシだ。

 

 直撃でないとはいえ――

 黒死竜(ファフニール)のブレスは、あまりにも強力だった。

 

 ――アレが成体竜なのか。

 

 幼体や中間体とは、まるで別物。

 余波だけで、人間の軍隊など全滅させかねない。

 

 ――周辺には、村や町はない。不幸中の幸いか……。

 

 グシオはホッと息を吐いた。

 モニターに浮かぶ地図を確認しながら。

 額の血をぬぐいながら。

 

 ――しかし、一体……?

 

 ファフニールの動きは、妙だった。

 まるで虫でも追い払うかのように、ジタバタとしている。

 ブレスを吐く余裕もないらしい。

 

 ――だが、ブレスを吐かれたら……。

 

 この周辺は全て焼き尽くされる。

 その後で獲物を求め、あちこちに襲撃をかけるだろう。

 

「くそっっ……!」

 

 グシオはうめき、目を閉じた。

 

 ――ちくしょう……。何が英雄だよ……。

 

 今まで、勝ってきた。

 ドラグーンを操り、何度も敵を打ち倒してきた。

 みんなを、仲間を守ることができた。

 

 しかし、

 

 ――たった1匹……。1匹のドラゴン相手でこのザマかよ?

 

 最強の鎧であり、最強の剣。

 そのドラグーンも、まともに動かせない。

 

 と――

 

「……!?」

 

 モニターに映るファフニール。

 その動きに変化があった。

 あちこち傷を負いながら、首をブルンブルンと振り回す。

 その後、

 

 Vuuurrrrrraaaaaaaaaaaaa!!

 

 怒りに満ちた咆哮。

 ドラゴンは、それを天に向かって放った。

 

 かと思えば……。

 牙の間から、バチバチと稲妻、そして炎が噴き出し始める。

 ブレス発射の前段階――

 

「まずい……!」

 

 グシオは急いでドラグーンを起き上がらせる。

 だが。

 動きは鈍い。

 想像以上にダメージが大きいらしい。

 

 ――まさか、ここまでなのか……?

 

 死。

 それが明確なイメージとしてグシオの脳裏を走る。

 

 この時だった。

 

 <おい、あんた。動かせるのか、そのドラグーン>

 

 さっきの声。

 それが通信で話しかけてくる。

 

「……歩くぐらいならな。飛んだり跳ねたりは無理だ」

 

 <じゃあ、機体は捨ててさっさと――。ってもう遅いか……>

 

「なに?」

 

 グシオはハッとしてモニターを確認。

 ドラゴンがブレスを吐く方向――

 どうやら、グシオはその直線上となる場所にいるようだった。

 

 ――全力で逃げれば、間に合うか……!?

 

 急いでハッチを開け、外を見る。

 ファフニールの頭部から強い光が見えた。

 ブレスのエネルギーを集中しているらしい。

 

「くっ……!!」

 

 一瞬だけ愛機を振り返り、それでも――

 グシオは全力で走り出した。

 

 

 ・  ・  ・

 

 

 ――ブレス。しゃらくさい……!

 

 カーシャはドラゴンの背後に回り、鼻を鳴らす。

 背中に突き立てた大剣がボロボロと崩れていく。

 

 砕けた刀身の下――

 真っ黒な刃のない鉄剣が現れる。

 カーシャの愛剣・黒い竜(カーラナーガ)

 

 ――ふん。奇しくも黒いドラゴン同士か。楽しくもないけど。

 

 ブレスを吐くなら吐け。

 吐いた後には、大きな隙ができる。

 力を出し尽くす……と、いかないまでも、連射できるものではないだろう。

 

 ――できてもかまわない。隙が出来ればいいもの。

 

 殺してやる。

 

 明確な殺意を抱きつつ、カーシャは相手の動きを待っていた。

 

 

 ・  ・  ・

 

 

「間に合わんか。まあ、それっぽいな……」

 

 今まさにブレスを吐かんとするファフニール。

 ゴトクはそれを見ながら、ゆっくりと立ち上がり、

 

 ――こいつは、どうかとは思うが……。

 

 静かな動きで、弓を引く。

 そういう動作を始めた。

 

 手には、弓も矢もない。

 完全な無手だ。

 

 だが――

 代わりに、ゴトクの頭上に淡い光の粒子が集まっていった。

 それは、舞うように動きながら何かの形になっていく。

 

 巨大な弓と、矢。

 

 輝く飛び道具は、ゴトクの動きに合わせてゆっくりと動き出す。

 弦が引き絞られて、光の矢が狙いを定める。

 

 十分に引かれた後。

 

 Vruaaaaaaaaaa!!!

 

 ファフニールがブレスを放った。

 

 噴き上がる炎と稲妻。

 暴風と熱波。

 それらが混ざりながら、空を引き裂く。

 

 同時に――

 光の巨弓は、矢を放った。

 

 ちょうど、斜め下。

 その辺りから、矢はブレスを貫く。

 

 と。

 ブレスは軌道を大きく変え、上空高く飛んでいった。

 閃光が周囲を明るく照らす。

 

 やがて。

 ファフニールはブレスを吐き尽くして、動きを止めた。

 必殺の武器は、ほぼ全て空中へと飛んで消えてしまったわけだ。

 見事な空振りである。

 

 Rurururururrrrr……

 

 ファフニールは戸惑ったらしく、キョロキョロと周辺を見まわす。

 

 

 そこに――

 

 ――誤射? まあ、いいか。

 

 カーシャはカーラナーガを手に、ドラゴンの背中、そして首筋を駆け上がっていった。

 ファフニールはすぐに気づくが、

 

 カーシャは空中で全身をコマのように回転させる。

 そして。

 円盤を形作る動きで、ファフニールの頭上に落下していった。

 

 爆裂音。

 ファフニールの頭蓋が砕けて、散った。

 

 血と肉。

 骨の破片と角が、地上へと落下していく。

 

 黒いドラゴンの頭部は、ほぼ粉砕されていた。

 下顎だけを残して――

 

 地響きを上げて崩れ落ちる巨体。

 その上に、

 

「ふ」

 

 カーシャは音もなく着地した。

 それから。

 黒剣を手にしたまま、鱗の上に座り込む。

 

 小さくない疲労が、全身を覆っていた。

 同時に、どこか物足りなさも。

 

 汗と血にまみれながらも――

 五感の全てが周辺を探っていた。

 

 まだいるのか。

 敵はいるのか。

 隠れているのか。

 近づいているのか。

 

 自分を殺す気なら、殺してやる。

 

 だが。

 幸か不幸か。

 もうそこに、彼女と敵対する者はいなかった。

 

 

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