破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
ほんの一瞬だけ――
――私は、何をやっているの?
疑問が、カーシャの頭をかすめていった。
巨大な竜。
圧倒的な存在感と、肌に感じる暴力の風。
――ああ。
思い出す。
あの世界では、中間体のような半端なドラゴンなどいなかった。
こんな、成体となった巨大ドラゴンはいくらでもいたのだ。
その中でもまだ小型や中型のバケモノは津波のような群れとなり――
大型は、山のような巨体で暴れていた。
そして。
殺された。
やがて、殺すようになった。
――殺してやる。
シンプルにそう思った。
理屈ではない。
思考というよりも、条件反射か。
余計な思考がシャットアウトする。
後のことも、先のことももはやなかった。
・ ・ ・
――何なんだ……これは。
どうにか生きているセンサーとモニター。
グシオは、声にならない声でつぶやく。
――何とか、動くな。しかし……っ!
飛行は無理だった。
いや。
それ自体は可能だが、戦闘や逃走に使えるレベルではない。
歩かせるほうがまだマシだ。
直撃でないとはいえ――
――アレが成体竜なのか。
幼体や中間体とは、まるで別物。
余波だけで、人間の軍隊など全滅させかねない。
――周辺には、村や町はない。不幸中の幸いか……。
グシオはホッと息を吐いた。
モニターに浮かぶ地図を確認しながら。
額の血をぬぐいながら。
――しかし、一体……?
ファフニールの動きは、妙だった。
まるで虫でも追い払うかのように、ジタバタとしている。
ブレスを吐く余裕もないらしい。
――だが、ブレスを吐かれたら……。
この周辺は全て焼き尽くされる。
その後で獲物を求め、あちこちに襲撃をかけるだろう。
「くそっっ……!」
グシオはうめき、目を閉じた。
――ちくしょう……。何が英雄だよ……。
今まで、勝ってきた。
ドラグーンを操り、何度も敵を打ち倒してきた。
みんなを、仲間を守ることができた。
しかし、
――たった1匹……。1匹のドラゴン相手でこのザマかよ?
最強の鎧であり、最強の剣。
そのドラグーンも、まともに動かせない。
と――
「……!?」
モニターに映るファフニール。
その動きに変化があった。
あちこち傷を負いながら、首をブルンブルンと振り回す。
その後、
Vuuurrrrrraaaaaaaaaaaaa!!
怒りに満ちた咆哮。
ドラゴンは、それを天に向かって放った。
かと思えば……。
牙の間から、バチバチと稲妻、そして炎が噴き出し始める。
ブレス発射の前段階――
「まずい……!」
グシオは急いでドラグーンを起き上がらせる。
だが。
動きは鈍い。
想像以上にダメージが大きいらしい。
――まさか、ここまでなのか……?
死。
それが明確なイメージとしてグシオの脳裏を走る。
この時だった。
<おい、あんた。動かせるのか、そのドラグーン>
さっきの声。
それが通信で話しかけてくる。
「……歩くぐらいならな。飛んだり跳ねたりは無理だ」
<じゃあ、機体は捨ててさっさと――。ってもう遅いか……>
「なに?」
グシオはハッとしてモニターを確認。
ドラゴンがブレスを吐く方向――
どうやら、グシオはその直線上となる場所にいるようだった。
――全力で逃げれば、間に合うか……!?
急いでハッチを開け、外を見る。
ファフニールの頭部から強い光が見えた。
ブレスのエネルギーを集中しているらしい。
「くっ……!!」
一瞬だけ愛機を振り返り、それでも――
グシオは全力で走り出した。
・ ・ ・
――ブレス。しゃらくさい……!
カーシャはドラゴンの背後に回り、鼻を鳴らす。
背中に突き立てた大剣がボロボロと崩れていく。
砕けた刀身の下――
真っ黒な刃のない鉄剣が現れる。
カーシャの愛剣・
――ふん。奇しくも黒いドラゴン同士か。楽しくもないけど。
ブレスを吐くなら吐け。
吐いた後には、大きな隙ができる。
力を出し尽くす……と、いかないまでも、連射できるものではないだろう。
――できてもかまわない。隙が出来ればいいもの。
殺してやる。
明確な殺意を抱きつつ、カーシャは相手の動きを待っていた。
・ ・ ・
「間に合わんか。まあ、それっぽいな……」
今まさにブレスを吐かんとするファフニール。
ゴトクはそれを見ながら、ゆっくりと立ち上がり、
――こいつは、どうかとは思うが……。
静かな動きで、弓を引く。
そういう動作を始めた。
手には、弓も矢もない。
完全な無手だ。
だが――
代わりに、ゴトクの頭上に淡い光の粒子が集まっていった。
それは、舞うように動きながら何かの形になっていく。
巨大な弓と、矢。
輝く飛び道具は、ゴトクの動きに合わせてゆっくりと動き出す。
弦が引き絞られて、光の矢が狙いを定める。
十分に引かれた後。
Vruaaaaaaaaaa!!!
ファフニールがブレスを放った。
噴き上がる炎と稲妻。
暴風と熱波。
それらが混ざりながら、空を引き裂く。
同時に――
光の巨弓は、矢を放った。
ちょうど、斜め下。
その辺りから、矢はブレスを貫く。
と。
ブレスは軌道を大きく変え、上空高く飛んでいった。
閃光が周囲を明るく照らす。
やがて。
ファフニールはブレスを吐き尽くして、動きを止めた。
必殺の武器は、ほぼ全て空中へと飛んで消えてしまったわけだ。
見事な空振りである。
Rurururururrrrr……
ファフニールは戸惑ったらしく、キョロキョロと周辺を見まわす。
そこに――
――誤射? まあ、いいか。
カーシャはカーラナーガを手に、ドラゴンの背中、そして首筋を駆け上がっていった。
ファフニールはすぐに気づくが、
カーシャは空中で全身をコマのように回転させる。
そして。
円盤を形作る動きで、ファフニールの頭上に落下していった。
爆裂音。
ファフニールの頭蓋が砕けて、散った。
血と肉。
骨の破片と角が、地上へと落下していく。
黒いドラゴンの頭部は、ほぼ粉砕されていた。
下顎だけを残して――
地響きを上げて崩れ落ちる巨体。
その上に、
「ふ」
カーシャは音もなく着地した。
それから。
黒剣を手にしたまま、鱗の上に座り込む。
小さくない疲労が、全身を覆っていた。
同時に、どこか物足りなさも。
汗と血にまみれながらも――
五感の全てが周辺を探っていた。
まだいるのか。
敵はいるのか。
隠れているのか。
近づいているのか。
自分を殺す気なら、殺してやる。
だが。
幸か不幸か。
もうそこに、彼女と敵対する者はいなかった。