破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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※カクヨム版もよろしくお願いします!


その117、悪魔が来りて嘘をつく-35 英雄は死なず?

 

 

「お見事だな」

 

 ゴトクは、カーシャの背中に声をかけた。

 ふたりの距離は遠い。

 

 カーシャはファフニールの死体に乗ったままだ。

 

「成体竜を退治したとくれば、もはや伝説級の大英雄だぜ。歴史に名を遺すな、これは」

 

「……知ってるヤツがいればね」

 

 カーシャは振り返りもせずに言った。

 

「まだ殺気立ってるか。無理もないがね」

 

 ゴトクはため息をついて、空を見上げた。

 

「さっき、ドラゴンのブレスは軌道を変えた。いえ、()()()()()のね」

 

「そうかい」

 

「偶然でも、ミスでもない。別の誰かがやったことよ」

 

「思い過ごしじゃねえのか?」

 

「……」

 

 カーシャは無言となった。

 背中を向けたままで、ゴトクから表情が見えない。

 

「そうかもしれないわね」

 

 言いながら振り返った乙女の顔。

 そこには――

 何ともいいがたい、皮肉な笑みが浮かんでいた。

 

 やがて。

 

「ああ、そういえば?」

 

 カーシャはゆっくりと立ち上がって、

 

「黒い炎の英雄殿は、無事かしらね?」

 

 一応は助けたのだから……。

 つまらない死に方をされると、こっちがつまらない。

 

 やはり皮肉げな表情で、空を仰いだ。

 

 

 ・  ・  ・

 

 

「俺を笑いにきたのか」

 

 グシオは愛機の上に乗ったまま、カーシャに言った。

 横倒しになったドラグーンは、巨大な鉄屑のようだった。

 

 いや。

 事実――

 使用不能になった魔導装甲は、重い鉄の塊に過ぎない。

 

「また笑ってほしいの?」

 

 カーシャは淡々と、つまらなそうに言った。

 

「私としては、そこそこ親切にしてあげたつもりなのだけど――」

 

「親切だと?」

 

 一瞬顔をしかめたグシオ。

 カーシャのほうは取り合う様子もなく、

 

「で。どんな感じかしら、これは?」

 

 斜め後ろに立つゴトクを振り返った。

 

「どうと言われてもなあ」

 

 ゴトクは困った顔でドラグーンの周囲を歩き回り、

 

「こいつは専門の整備士と、設備……工場に運んだほうがいいだろうよ。専門外だ」

 

「あら。なんでもできると思ったのに」

 

 からかうようなカーシャの言葉。

 これにゴトクは、

 

「そりゃずいぶんと高く評価されたもんだ。ま、ともかく専属の整備士のところに運ぶんだな。多分、燃料の魔力もそんなに残ってないんだろう?」

 

「こうなるとわびしいものねえ」

 

 黒い機体を見上げ、カーシャを肩をすくめる。

 

「通信は使えるんだろう? だったら、すぐにでも仲間を呼ぶこったね」

 

 ゴトクはグシオを見て、静かに言った。

 

「……その声」

 

「うん?」

 

「通信で話しかけてきたのは、あんただな?」

 

「うん、まあ。そうだよ」

 

 グシオの問いに、ゴトクはうなずく。

 

「何なんだ、お前たちは」

 

「こっちのことなんざどうでもいいと思うがな。まあ、いい」

 

 ゴトクは頭を掻きながらグシオを見つめる。

 それから、ファフニールの死体を振り返って――

 

「なあ、黒炎のグシオ。思うんだが……。あんたは、ここで死んだほうがいいじゃないか?」

 

「……っ!」

 

 死。

 その言葉に反応したグシオだが、

 

「ぐっ……!?」

 

 いつの間にか――

 そばに立っていたカーシャに肩をつかまれた。

 ミシミシと音がしそうな、強い圧力。

 

「落ちつけよ。死ぬってのは、ホントに死ぬってことじゃない。死んだことにしたほうが良くないか、と言ってるんだよ」

 

 グシオを見るゴトクの視線。

 そこには、憐れみがこもっていた。

 

「どういう意味だ……」

 

「そのまんまだよ。死んだことにして、静かに暮らしたほうがいいんじゃないかってことさ」

 

「……」

 

 即答しないグシオに、

 

「あんた、この先も英雄として戦い続けるか? 魔王とその勢力が潰れたとなれば、今度は人間の国同士が欲得ずくでやり合うぞ。それくらいはわかるだろ」

 

 さて。

 その時どこの陣営につく?

 故郷の国か?

 それとも、オルマ姫殿下のいるシーマか?

 どこにいっても、頼りにはされるだろうぜ。

 何しろ魔王退治の大英雄だ。

 最強の男だからな。

 民衆は今以上にあんたを崇め奉るだろう。

 

 そこまで言って――

 ゴトクは首を振った。

 

「さて、そうなればだ。あんたを神輿にして、権力をゲットしようって連中も出てくるなあ。死んだ王妃様みたいに」

 

「……王妃は、本当に」

 

「ああ。えらいもんに見込まれたな? あんた、知らんうちに国の簒奪者に祭り上げられるとこだったんだ。嬉しいか?」

 

「国……」

 

「そうとも、一国の王だよ。男なら誰でも一度夢見る立場だぜ? あんた、王冠が欲しくはないか?」

 

「いるもんか! そんなの……!」

 

 グシオは子供のような仕草で首を振った。

 

「ああ、そう。ま、それが利口だろうな」

 

 ゴトクは苦笑する。

 

「黒炎のグシオは、魔王の操る黒死竜(ファフニール)と相討ち。仲間に看取られながら天に召される……」

 

「なかなかの名シーンね」

 

 ゴトクが語る途中、カーシャが笑った。

 

「その後――残された女たちは英雄を悼み、それぞれ巡礼の旅に……こんなところかしら」

 

「……芝居じゃあるまいし」

 

 勝手な言い分。

 黙って聞いていたグシオは、不快そうに吐き捨てた。

 

「だがなあ?」

 

 ゴトクは困った顔で頭を掻きつつ、

 

「生きたままドロドロの政争に巻き込まれるよりは、マシだと思わねえか?」

 

 穏やかな声でグシオに言った。

 子どもに言い聞かせるような口調で――

 

「それは……」

 

「まあ、何をどうするかはあんたが決めるこったがね」

 

 ゴトクはため息を吐いて、ドラグーンの黒い装甲をなでた。

 

「俺は……」

 

 グシオはうめき、頭を抱える。

 その姿、母体の中で丸くなる胎児のようだった。

 

「どっちにしたって、良い見世物にはなるか……」

 

 カーシャはクククと、意地の悪い笑みを浮かべる。

 

「あなたにその力を授けた相手は――」

 

 英雄となった男の子が、ハーレムの女の子たちと共に周辺から孤立して、ゆっくり潰れていくのを楽しみにしていたかもしれないけどねえ?

 

 不気味な予言めいた言葉。

 青い乙女はそれをつぶやきながら、グシオを見た。

 

「神の真意は知る由もないけど――。やっぱり、あなたも私たち同様に見世物、オモチャだったわけかしら?」

 

「だとすれば、物騒なオモチャだな。何人死ぬか、国が亡ぶか、わかったもんじゃねえ」

 

 カーシャの言葉に――

 ゴトクは心底げんなりとした顔で応えるのだった。

 

 

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