破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
「お見事だな」
ゴトクは、カーシャの背中に声をかけた。
ふたりの距離は遠い。
カーシャはファフニールの死体に乗ったままだ。
「成体竜を退治したとくれば、もはや伝説級の大英雄だぜ。歴史に名を遺すな、これは」
「……知ってるヤツがいればね」
カーシャは振り返りもせずに言った。
「まだ殺気立ってるか。無理もないがね」
ゴトクはため息をついて、空を見上げた。
「さっき、ドラゴンのブレスは軌道を変えた。いえ、
「そうかい」
「偶然でも、ミスでもない。別の誰かがやったことよ」
「思い過ごしじゃねえのか?」
「……」
カーシャは無言となった。
背中を向けたままで、ゴトクから表情が見えない。
「そうかもしれないわね」
言いながら振り返った乙女の顔。
そこには――
何ともいいがたい、皮肉な笑みが浮かんでいた。
やがて。
「ああ、そういえば?」
カーシャはゆっくりと立ち上がって、
「黒い炎の英雄殿は、無事かしらね?」
一応は助けたのだから……。
つまらない死に方をされると、こっちがつまらない。
やはり皮肉げな表情で、空を仰いだ。
・ ・ ・
「俺を笑いにきたのか」
グシオは愛機の上に乗ったまま、カーシャに言った。
横倒しになったドラグーンは、巨大な鉄屑のようだった。
いや。
事実――
使用不能になった魔導装甲は、重い鉄の塊に過ぎない。
「また笑ってほしいの?」
カーシャは淡々と、つまらなそうに言った。
「私としては、そこそこ親切にしてあげたつもりなのだけど――」
「親切だと?」
一瞬顔をしかめたグシオ。
カーシャのほうは取り合う様子もなく、
「で。どんな感じかしら、これは?」
斜め後ろに立つゴトクを振り返った。
「どうと言われてもなあ」
ゴトクは困った顔でドラグーンの周囲を歩き回り、
「こいつは専門の整備士と、設備……工場に運んだほうがいいだろうよ。専門外だ」
「あら。なんでもできると思ったのに」
からかうようなカーシャの言葉。
これにゴトクは、
「そりゃずいぶんと高く評価されたもんだ。ま、ともかく専属の整備士のところに運ぶんだな。多分、燃料の魔力もそんなに残ってないんだろう?」
「こうなるとわびしいものねえ」
黒い機体を見上げ、カーシャを肩をすくめる。
「通信は使えるんだろう? だったら、すぐにでも仲間を呼ぶこったね」
ゴトクはグシオを見て、静かに言った。
「……その声」
「うん?」
「通信で話しかけてきたのは、あんただな?」
「うん、まあ。そうだよ」
グシオの問いに、ゴトクはうなずく。
「何なんだ、お前たちは」
「こっちのことなんざどうでもいいと思うがな。まあ、いい」
ゴトクは頭を掻きながらグシオを見つめる。
それから、ファフニールの死体を振り返って――
「なあ、黒炎のグシオ。思うんだが……。あんたは、ここで死んだほうがいいじゃないか?」
「……っ!」
死。
その言葉に反応したグシオだが、
「ぐっ……!?」
いつの間にか――
そばに立っていたカーシャに肩をつかまれた。
ミシミシと音がしそうな、強い圧力。
「落ちつけよ。死ぬってのは、ホントに死ぬってことじゃない。死んだことにしたほうが良くないか、と言ってるんだよ」
グシオを見るゴトクの視線。
そこには、憐れみがこもっていた。
「どういう意味だ……」
「そのまんまだよ。死んだことにして、静かに暮らしたほうがいいんじゃないかってことさ」
「……」
即答しないグシオに、
「あんた、この先も英雄として戦い続けるか? 魔王とその勢力が潰れたとなれば、今度は人間の国同士が欲得ずくでやり合うぞ。それくらいはわかるだろ」
さて。
その時どこの陣営につく?
故郷の国か?
それとも、オルマ姫殿下のいるシーマか?
どこにいっても、頼りにはされるだろうぜ。
何しろ魔王退治の大英雄だ。
最強の男だからな。
民衆は今以上にあんたを崇め奉るだろう。
そこまで言って――
ゴトクは首を振った。
「さて、そうなればだ。あんたを神輿にして、権力をゲットしようって連中も出てくるなあ。死んだ王妃様みたいに」
「……王妃は、本当に」
「ああ。えらいもんに見込まれたな? あんた、知らんうちに国の簒奪者に祭り上げられるとこだったんだ。嬉しいか?」
「国……」
「そうとも、一国の王だよ。男なら誰でも一度夢見る立場だぜ? あんた、王冠が欲しくはないか?」
「いるもんか! そんなの……!」
グシオは子供のような仕草で首を振った。
「ああ、そう。ま、それが利口だろうな」
ゴトクは苦笑する。
「黒炎のグシオは、魔王の操る
「なかなかの名シーンね」
ゴトクが語る途中、カーシャが笑った。
「その後――残された女たちは英雄を悼み、それぞれ巡礼の旅に……こんなところかしら」
「……芝居じゃあるまいし」
勝手な言い分。
黙って聞いていたグシオは、不快そうに吐き捨てた。
「だがなあ?」
ゴトクは困った顔で頭を掻きつつ、
「生きたままドロドロの政争に巻き込まれるよりは、マシだと思わねえか?」
穏やかな声でグシオに言った。
子どもに言い聞かせるような口調で――
「それは……」
「まあ、何をどうするかはあんたが決めるこったがね」
ゴトクはため息を吐いて、ドラグーンの黒い装甲をなでた。
「俺は……」
グシオはうめき、頭を抱える。
その姿、母体の中で丸くなる胎児のようだった。
「どっちにしたって、良い見世物にはなるか……」
カーシャはクククと、意地の悪い笑みを浮かべる。
「あなたにその力を授けた相手は――」
英雄となった男の子が、ハーレムの女の子たちと共に周辺から孤立して、ゆっくり潰れていくのを楽しみにしていたかもしれないけどねえ?
不気味な予言めいた言葉。
青い乙女はそれをつぶやきながら、グシオを見た。
「神の真意は知る由もないけど――。やっぱり、あなたも私たち同様に見世物、オモチャだったわけかしら?」
「だとすれば、物騒なオモチャだな。何人死ぬか、国が亡ぶか、わかったもんじゃねえ」
カーシャの言葉に――
ゴトクは心底げんなりとした顔で応えるのだった。