破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

336 / 357
その117、悪魔が来りて嘘をつく-36 喧騒のシーマ王都

 

 その日――

 シーマ王国の空を黒い影が移動していた。

 

 複数のドラグーン。

 複数の魔導飛行艇。

 可能な限りの機体をそろえて――

 魔導機械の群れが巨大なドラゴンの屍を運んでいく。

 

 ドラゴンの角、鱗、牙、そして血肉。

 中間体の素材ですら、わずかな量で莫大な資産となる。

 市場に出回るのは、幼体から中間体までの未成熟なものだけ。

 

 国中の人間が、空を見上げた。

 といっても……。

 落下事故の危険性を考えて、運搬は基本低空飛行で行われていたが。

 

「すげえもんだなあ……」

 

「アレが黒炎が倒したドラゴンだってよ」

 

「でかい……」

 

「あれだけの鱗や肉って、どれくらいのお金になるのかしら?」

 

「見ろ、頭が吹っ飛んでるぜ……」

 

「ドラグーン使ってるとはいえ、完全な大人のドラゴンだろ?」

 

「ああ、いわゆる古代竜(エンシェント・ドラゴン)ってやつさ」

 

「死体で良かったな、生きてたらどんなことになってたか……」

 

 ファフニールの死体。

 巨体がまるまるひとつ、シーマのものとなった。

 

 それは――

 国全体が魔王軍との戦争で損なったもの、受けた被害。

 それらを十分に補填できるだろう。

 

「英雄殿は、やってくれましたな」

 

 宮廷の中。

 カピオは、ゼン宰相の後に続きながら、微かに笑っていた。

 

「……ファフニールの死体か。死んだ者は帰らんが、これから生きる者の糧としては、十分すぎる」

 

 宰相は深く息を吐いてから、

 

「それで、英雄の遺体はどうなっている?」

 

「は。損壊がかなり激しいとのことで――着ていた装束や鎧、兜。それと遺髪を……」

 

「間違いないのだな」

 

「もちろん。ヤオアムト産の魔道具で確かめました。英雄の遺髪であることは確かです。兜も半分に割れていました」

 

「そうか」

 

「至急国葬の準備を整えております。2日後には正式に、恙なく執り行えるものと」

 

「うむ。間違いのないように、頼むぞ」

 

「お任せを」

 

「して…」

 

「姫殿下のことでしょうか?」

 

「うむ。どうなさっておられるか」

 

「今現在は、喪に服すとおっしゃられてお部屋に」

 

「早まったことなどなされぬように、十分に気をつけてな」

 

「承知しました」

 

「頼むぞ」

 

「はっ。ではまた後ほど……」

 

 うなずいた後、官僚の青年は急ぎ足で離れていった。

 

 その後。

 宰相は少しうつむき、大きなため息を吐いた。

 

 ――これは、安堵するべきなのか。それとも。

 

 わからぬ。

 

 判然としない自問を振り払い、宰相は次の仕事に想いを馳せた。

 やるべきこと。

 やらねばならないこと。

 それは、まだ山のようにある。

 

 

 ・  ・  ・

 

 

「まあ、なるようになったわけかねえ」

 

 喧騒のシーマ王都。

 それを遠目に見ながら、ゴトクは言った。

 

「割れた兜、拾っておいて正解だったかしら?」

 

 フードを目深にかぶった、旅人のような服装。

 こげ茶の髪に、水色の瞳をした女はどうでも良さそうに言った。

 

「さてね。修復されて、国宝になって飾られる。そんなところじゃねえか?」

 

「あんなものがね。いえ、勇者の持ち物なんてそんなものでしょうね」

 

 カーシャは、()()()()と笑う。

 元に戻りかかっている髪を掻き上げて――

 

「しかし……。案外こんな幕引きで良かったとは思うぜ」

 

「そう?」

 

「ああ――」

 

 ゴトクは背伸びをして、荷物を手に取る。

 

「あのまま、あんたの横やりがなかったとしても。あの英雄さんもパーティーも悲惨なことになってただろうさ」

 

「かもねえ」

 

 カーシャはチラリと、王都を見る。

 

「あの連中は確かに強かった。ええ、有能ぞろいだったわ。でも、だからこそかしら?」

 

「特に、あの天使様……いや、姫殿下は意外に()()()()()というか。魔法のほうでも天才だったからな。

 たいていのことはアレコレできただろう」

 

 ゴトクはカーシャの後を受けるように、

 

「しかし、派手な活躍、目の覚めるような働きができる分、足元は疎かだ」

 

 いわば。

 王様貴族様ばかりに注目して、地味だが必要な部分に気づきもしねえお嬢様さ。

 あの有能な官僚候補の扱いもな。

 フォローするって発想すらない。

 ま、どこまでいっても、一介の冒険者パーティーだね。

 戦力としては最高だが、国の行き先、舵取りをできるタイプじゃあない。

 

 淡々と言って、頭を掻いた。

 

「それを望んでいたとも思えないけど。特にあのグシオって()()()は」

 

 カーシャは王都に背を向け、肩をすくめた。

 

「おちょくる分には、面白くはあったけど」

 

「不幸だったのは……。なまじ権力者と懇意にできる立ち位置にあったことか。それに、あの英雄さんは女好きのするタイプだ」

 

「素顔はわりと平凡。ハンサムではあったけど、そこらにいそうなタイプだったわよ」

 

「あんたにはな。だが、他の連中には女ごころをくすぐってしょうがないタイプだったんだろうよ。王妃様もな……」

 

「王妃。ああ……」

 

 カーシャは、ついと顎を上げて嘲笑を浮かべた。

 

「なるほど……。英雄と美しい王妃様との危ない恋愛か。これも話としてはよくあるわねえ」

 

「一方的だろうし、そこまで強いもんではなかったろうが……。しかし、自分の近くに置いておきたい。そういう欲望を刺激されたんだろうさ。『女』としての情念が関わってるから、亭主も息子も知ったことじゃねえ」

 

「生臭い話だこと。見ている分には楽しいけど」

 

 カーシャは肩を揺すってケラケラ笑う。

 

「あのまま事が進んでいれば、いずれ破綻してただろうな。あんたが変なことを吹き込まなくっても、あの官僚候補は、他の勢力に引き抜かれてただろう。他の部分でもどんどん孤立していっただろうな」

 

「その先は――」

 

「破滅だな」

 

「あはは」

 

 カーシャは口元を押さえ、

 

「死人になった英雄グシオはどこでどうする気なのやら――」

 

「どこか遠くにいくんだろうさ。女運のよい、いや、悪いのかね? どっちにしろ、女には不自由にしないだろうな。いや、自分は不自由になるのか?」

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。