破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その117、悪魔が来りて嘘をつく-37 「恋する乙女は強いけれど」

 

 

 ――ああ、そういえば……。

 と。

 カーシャは思い返す。

 やって来たダンジョンを引きかえしながら。

 

「好きなのは、色々というか。全部? かも。あ、ちょっと大げさかな? そんなことないかな」

 

 そんなことを言っていたのは、アヴァータス・タリワ・ジャービック

 通称はアヴィー。

 紅の戦乙女(ヴァルキリー)という大仰な異称もある。

 

 国で最高の実力者とされる女騎士。

 パーティーの全体の指揮は彼女がやっていた。

 

 ――確かに、采配は見事だったわねえ。確か……。

 

 故郷では、士官学校を首席で卒業したらしい。

 

 ――天才肌というやつかもしれない、か。

 

 剣術も魔導も、主席にふさわしいもの。

 加えて――

 天賦の才と言える指揮能力。

 

 戦術レベルでは天才。

 

 ――まあ、戦略面ではどうか知らないけどね。

 

 ある種の天才によくあることで……。

 突出した才能の分、他が著しく欠けている。

 かなり高位の貴族出身らしいのに、

 

 ――特に、貴族に必要な政治的なセンスがまるでない……。

 

 さらに――

 恋愛面でも、その歪さがよく表れていた。

 

 ――よく言えば一途とも言えるのかしら? さて、あの女は……。

 

 故郷に帰る。

 そういうことになっているらしい。

 

「ま、逃げた英雄……今はただの()()()()()か。そいつを追っていったよ。だが、あんちゃんを故郷に引っ張っていくかもな? そうなりゃ、全部オジャンだが」

 

 善意でそれをやりかねねえ。

 

 ゴトクはそう言って、嘆息した。

 

「ねえ――」

 

「ん……?」

 

「少しだけ、気になっていたことがあるのよ」

 

「何が?」

 

「色々調べてもらったけどね? 英雄グシオの軌跡というか活躍は、どうも不自然だし異常だわ。特にドラグーン関連はね。あんなものを比較的初期から所有して、整備員までいる。どうやって段取りをつけたのかしら?」

 

「……ふむ」

 

 ゴトクは腕組みをした。

 

「そこのところを聞きたいよ、天使さん」

 

 言いながら――

 カーシャは斜め後ろを振り向いた。

 

 いつの間にか……。

 銀髪の美しい少女が道に立っていた。

 

 オルマ・ボログ。

 それとも、オルマ・シーマ姫殿下と称されるべきなのか。

 

「カーシャ、あなたは――」

 

 銀色の美少女は、剣呑な視線をカーシャに向けている。

 

「スパイ、だったんですね」

 

「そうよ。今さらゴチャゴチャ言うとはドンくさい。大した知性を持ってないわねえ」

 

「……!!」

 

 オルマはキッとカーシャを睨んだ。

 鋭い視線がより鋭くなる。

 

「あなたは、グシオさんを、みんなを騙して嘲笑っていたんですか……。バカなヤツだと」

 

「え。そうだけど? まあ、お仕事でもあったわね。まあまあ楽しかったわよ、アホな女騎士の演技も。というか、もっと怪しまれると考えたけど。予想を超えて信用されたから驚いたわ。あんな都合の良い展開を」

 

「……罠だったんですか」

 

「というよりは、監視よ。あなたたちが王妃様と同調して動いた場合即座に……」

 

 ヒュッ、と。

 カーシャは喉を搔き切るジェスチャーをしてみせた。

 

「こうするためにねえ」

 

「――」

 

 オルマの目が、大きく見開かれる。

 そして、

 

「よしな」

 

「!?」

 

 オルマが、杖をつかむ腕。

 ゴトクはそれをつかんでいた。

 

「それをすれば、お前さんは一瞬でミンチになるぜ」

 

「あなたは……」

 

「一応は旅の商人。で、こちらの仲間とも言えるが……」

 

「放してください」

 

「……」

 

「つまらないことはしません。表面上であっても、仲間だったひとですから」

 

「そうかね」

 

 冷たい少女の声。

 ゴトクは気にする様子もなく、言葉に応じた。

 

「グシオさんは――」

 

 オルマは言いかけたが、

 

「知らない。知っても言わない」

 

 質問を聞く前に、カーシャは即答した。

 

「やっぱり、生きているんですね」

 

「死んでたほうが良かった?」

 

「――冗談でも、やめてほしいですね」

 

 オルマは敵意を隠すことなく、カーシャを見る。

 

「そう目を怒らせては、可愛らしいお顔が台無しですよ姫殿下」

 

「違います」

 

 銀の少女は表情を見せずに返答をする。

 

「ちがう?」

 

「グシオさんがいないのなら、そんな身分、何の意味もありませんから」

 

「ああ、そう」

 

 氷のような声。

 だが。

 カーシャは、ただ肩をすくめただけ――

 

「教えてくれないのなら、もういいです」

 

 オルマは背を向けようとするが、

 

「それだけ?」

 

 カーシャの声。

 無視するオルマ。

 

「あなたこそ何者か、おたずねしたいところですわね天使さん」

 

「関係ありません。あなたには」

 

 取り付く島もない。

 オルマの態度はまさにそれだった。

 

「そうね。関係ないわね」

 

 一方で――

 カーシャのほうも、気にしてはいない。

 

「……」

 

 ゴトクは、無言でふたりのやり取りを見ていた。

 

 やがて。

 オルマが姿を消した後、

 

「まあ苦労を全部台無しにされた。その恨みはあるんだろうなあ……」

 

 ゴトクはため息を吐き、頭を掻いた。

 

「やはり」

 

「ああ。大英雄・黒炎のグシオ、その活躍にはあの子の助けがかなり入ってたようだな。それもだいぶ初期、下手すれば最初から」

 

「それほど魅力的だったのかしらね、彼。ああ、そうねえ。笑顔は無邪気で、戦闘の活躍とはギャップが激しかったかしら」

 

「惚れたかね、お前さんも」

 

「そこまでの純情さは残っていない」

 

 カーシャの返事。 

 そこには――

 今までとは違い、どこか虚しさ……虚無があった。

 

 もはや。

 身を焦がすほどに恋をすることもない。

 身を溶かすほどに誰を愛することもない。

 

 そんな確信が、カーシャの中にあった。

 多分、それは正しいのだ。

 

「……こいつは、俺の当て推量なんだが」

 

 ゴトクはまた頭を掻き、空を見上げる。

 カーシャの虚無を見ないふりをして。

 

「あの娘っこは、多分英雄グシオと同じかもしれねえな」

 

「同じとは?」

 

 表情を戻し、カーシャはたずねた。

 いつも通りの、淡々とした声で。

 

「遠い未来の知識と経験を得た。いや、()()()()()()というのかね」

 

「ふうん」

 

 カーシャはどうでも良さそうにつぶやくが、

 

「感覚としては、不幸な未来を変える手助けをする。いや……」

 

 今度こそ、自分の恋を成就させる。

 本人の感覚としては、そんなところだったのかしら。

 

 微妙な表情を浮かべて、そう言った。

 

「言ったように、当て推量だがね」

 

「健気というのか、それともエゴイストというのか」

 

「さてな。どっちもだろ。ただ、どう転んでも不幸な結末になった気がするよ」

 

「そうね。そうでしょうね。恋する乙女は強いけれど、その分」

 

 他人(ひと)の心がわからない。

 いえ。

 どうでもよくなるらしいから。

 

 カーシャは謡うように言って、ゴトクと同じく空を見上げた。

 

 空はどこまでも青く……。

 広かった。

 

 

 




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