破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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今回から番外になります


その117・5、番外:野ツ児(ノツゴ)-1

 

 

「こりゃ予想以上にハードですよ……」

 

 思わず――

 バッキーはつぶやいていた。

 自分自身に治癒魔法をかけながら。

 

 ――これって、ホント便利だよなあ。

 

 肉体への負荷をかけず、寿命を削らず。

 その分、魔力を消費することで肉体の傷や疲労を回復させる。

 使う魔法によっては……

 使わずに衰えた身体機能さえも。

 

 しかし、

 

 ――気疲れってのはどうもねえ?

 

 現在――

 バッキーはトーザ侯爵夫人・ジャコーのそばにいる。

 

 というか。

 数日間、朝からずっと彼女と共に行動している。

 

 別に、ふたりきりというわけではない。

 大勢控えている侍女たちと一緒――

 そんな感じだ。

 

 ――貴族の奥様って、家で優雅に過ごすのかなー。でも、色々仕事もあるのかなー。

 

 などと。

 のんきに構えていたのだが、

 

 ――甘かった……。

 

 朝起きれば、旦那様であるトーザ侯爵の補助、様々な書類仕事のチェック。

 それが過ぎれば、あちらこちらで視察やら挨拶やら。

 家に戻れば、来客のお相手。

 

 さらに。

 宮廷関係の仕事もしているので、そちらもはずせない。

 

 ゆっくりできるのは午後のお茶ぐらいだが……。

 それも長い時間ではない。

 終われば、夕方からまた書類仕事。

 時には、自室にこもって仕事をすることもあった。

 

 ――貴族はハード。貴族生活、ハード……。

 

「貴族の平均年齢は意外に短い」

 

 以前ゴトクから、そう聞いたことがあるが、

 

 ――そりゃそうだわ。

 

 ぼんやりとイメージすれば、一流企業の管理職・重役。

 そんなところだろうか。

 

 パーティーへの出席も、近隣の貴族夫人たちとのお茶会も。

 全て仕事である。

 

 いくら美味な紅茶やお菓子が出ようと、ゆっくり楽しめるかどうか。

 それでも。

 優雅に楽しんでいるように見せなければ、ならない。

 これまたハード。

 

「若い頃は、魔導を学ぶほか、色々習い事もあったわ。礼儀作法やダンスはもちろん、美術とか歴史とか、まあ色々ね……」

 

 トーザ家夫人ジャコーは移動中にそんなことを言っていた。

 

「年のせいかしら。いえ、そうなのでしょうね」

 

 ジャコーは言った。

 

 年。

 確かに、うっすら聞いた情報では彼女はすでに三十代も半ば。

 いや。

 もう、後半なのか。

 バッキーには、よくわからない。

 

 確かに、若い乙女に見えない。

 当然だ。

 まして、少女ではない。

 

 しかし――

 単に中年という言葉が似つかわしくない、ねっとりとした魅力がジャコーにはある。

 

 いつか聞いた言葉に、

 

「女は年を取るほどに、色気が出る」

 

 と、いったものがあった。

 さて、これが……。

 どういう意図や意味かは、深く考えまい。

 

 じっくりと熟して、甘く、そしてどこかただれた香りを放つ。

 ジャコーとは、そういう女だった。

 

 子供は、いない。

 

「そろそろ養子を取ろうと思ってね。準備をしているのよ」

 

「ははあ」

 

 付き合った数日の忙しさは、そこにあるらしい。

 もっとも。

 普段が暇ということはないようだが。

 

「一緒に働くことは、けっこうハードですよ? その分お給金はいいですけど」

 

 これは、侍女やメイドたちの言葉。

 

 そんな数日を過ごした後。

 契約仕事の終日だった。

 

 屋敷に戻る途中。

 魔導馬車の中で、ジャコーは書類を読んでいた。

 無表情で、冷たい目つき。

 

 ――何だろう?

 

 どこか、普段とは雰囲気が違っていた。

 

 と、

 

「ミズ・バッキー、あなたのお仕事は今日で終わりだったわねえ」

 

 

 ジャコーはやや穏やかな顔つきになり、言った。

 

「ええ、そうですけど……」

 

「ついでというのはおかしいけれど、新しく依頼したい仕事(クエスト)ができたわ」

 

「クエストですか。でも……」

 

 この時――

 カーシャはナーロッパに遠出していた。

 留守である。

 

「ミズ・カーシャの力は、いえ、あれば百万の味方でしょうけど、あなたなら最適なのよ」

 

「私が」

 

「そう。あなたが」

 

 言って、ジャコーはそっとバッキーの手に、自分の手を重ねた。

 

「あなたの優れた治癒魔法(ヒーリング)がね」

 

 

 

 ・  ・  ・

 

 

「ノツゴ?」

 

「ああ」

 

 バッキーの問いにうなずいたのは、銀髪の少女だった。

 

 ツインテールの銀髪。 

 灰色に近い、白い肌。

 赤い瞳。

 口元からは、牙がのぞいていた。

 

 吸血鬼(ヴァンパイア)

 

 

「ガジカ・バーバ」

 

 そう少女は名乗っていた。

 ただ。

 種族の中では若いかもしれないが、年齢そのものはバッキーよりもずっと上らしい。

 

 ふたりの視線。

 その先には、朽ちかけた廃村が見えている。

 

「30年ほど前に、捨てられた場所さ。土地自体におかしな呪いがかかったらしくてな? やたらにダンジョンがわくわ、作物は不作だわで……」

 

 みんな逃げ出した。

 おぼえている連中もそんなにいねえだろうなあ。

 はかないもんさ。

 

 ガジカは言いながら、赤い瞳を細める。

 

「呪いって、どうにかならなかったんですか?」

 

 バッキーは当然の質問をする。

 これに、

 

「そりゃ領地の中でも栄えてたり中央寄りなら、そうしただろうけどさ。ここは端っこで周りにはあるのは森と山だけだ。厄介な呪いをどうこうするほどのもんじゃねえ。他にも厄介な問題のある場所はあちこちにあるしよ」

 

 ガジカは首を振った。

 

「わいてくるダンジョンも低レベルのやつばっかだから、たまにモンスター狩りをやる程度。底辺冒険者にすればよい仕事だし、軍隊の演習にも使えるってわけ」

 

「ふーん……」

 

 バッキーは腕組みをしてから、

 

「だけど、そうも言っていられなくなった……」

 

「らしいねえ」

 

 ガジカは首を振る。

 

「ダンジョンからわいて出てくるゴブリンなんかが減ったってのが、最初らしいが――」

 

 と、

 

「隠れろ」

 

 吸血鬼少女は、バッキーを抱きかかえるようにして地面に伏せる。

 

 これと同時に――

 廃村の奥で何かが動いた。

 土煙を上げている。

 

 遠目には、巨大なサソリのように見えたが……。

 

 胴体。

 ハサミ。

 毒針。

 全身を構成する全てが、人間の胎児みたいだった。

 

 いや。

 胎児の集合体が巨大なサソリのようになっている。

 

「……あれが、ノツゴ」

 

「……そう。あの気色悪いヤツが近くのモンスターや鳥、獣を食い尽くしてやがる」

 

「なんだって、あんなのが。いや、呪いですよね?」

 

「そうらしい。厄介な呪いが年月を経てあんなもんに化けやがったのさ。性質(たち)が悪いぜ? 地火水風の属性攻撃は効かねえし、解呪の魔法も効果が薄い。一番効くのは」

 

 レベルの高い治癒魔法(ヒール)さ。

 理由は知らんけどね。

 

 肩をすくめるガジカ。

 バッキーは応えず、ただ胎児のより集まった怪物を見つめていた。

 

 

 

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