破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
「こりゃ予想以上にハードですよ……」
思わず――
バッキーはつぶやいていた。
自分自身に治癒魔法をかけながら。
――これって、ホント便利だよなあ。
肉体への負荷をかけず、寿命を削らず。
その分、魔力を消費することで肉体の傷や疲労を回復させる。
使う魔法によっては……
使わずに衰えた身体機能さえも。
しかし、
――気疲れってのはどうもねえ?
現在――
バッキーはトーザ侯爵夫人・ジャコーのそばにいる。
というか。
数日間、朝からずっと彼女と共に行動している。
別に、ふたりきりというわけではない。
大勢控えている侍女たちと一緒――
そんな感じだ。
――貴族の奥様って、家で優雅に過ごすのかなー。でも、色々仕事もあるのかなー。
などと。
のんきに構えていたのだが、
――甘かった……。
朝起きれば、旦那様であるトーザ侯爵の補助、様々な書類仕事のチェック。
それが過ぎれば、あちらこちらで視察やら挨拶やら。
家に戻れば、来客のお相手。
さらに。
宮廷関係の仕事もしているので、そちらもはずせない。
ゆっくりできるのは午後のお茶ぐらいだが……。
それも長い時間ではない。
終われば、夕方からまた書類仕事。
時には、自室にこもって仕事をすることもあった。
――貴族はハード。貴族生活、ハード……。
「貴族の平均年齢は意外に短い」
以前ゴトクから、そう聞いたことがあるが、
――そりゃそうだわ。
ぼんやりとイメージすれば、一流企業の管理職・重役。
そんなところだろうか。
パーティーへの出席も、近隣の貴族夫人たちとのお茶会も。
全て仕事である。
いくら美味な紅茶やお菓子が出ようと、ゆっくり楽しめるかどうか。
それでも。
優雅に楽しんでいるように見せなければ、ならない。
これまたハード。
「若い頃は、魔導を学ぶほか、色々習い事もあったわ。礼儀作法やダンスはもちろん、美術とか歴史とか、まあ色々ね……」
トーザ家夫人ジャコーは移動中にそんなことを言っていた。
「年のせいかしら。いえ、そうなのでしょうね」
ジャコーは言った。
年。
確かに、うっすら聞いた情報では彼女はすでに三十代も半ば。
いや。
もう、後半なのか。
バッキーには、よくわからない。
確かに、若い乙女に見えない。
当然だ。
まして、少女ではない。
しかし――
単に中年という言葉が似つかわしくない、ねっとりとした魅力がジャコーにはある。
いつか聞いた言葉に、
「女は年を取るほどに、色気が出る」
と、いったものがあった。
さて、これが……。
どういう意図や意味かは、深く考えまい。
じっくりと熟して、甘く、そしてどこかただれた香りを放つ。
ジャコーとは、そういう女だった。
子供は、いない。
「そろそろ養子を取ろうと思ってね。準備をしているのよ」
「ははあ」
付き合った数日の忙しさは、そこにあるらしい。
もっとも。
普段が暇ということはないようだが。
「一緒に働くことは、けっこうハードですよ? その分お給金はいいですけど」
これは、侍女やメイドたちの言葉。
そんな数日を過ごした後。
契約仕事の終日だった。
屋敷に戻る途中。
魔導馬車の中で、ジャコーは書類を読んでいた。
無表情で、冷たい目つき。
――何だろう?
どこか、普段とは雰囲気が違っていた。
と、
「ミズ・バッキー、あなたのお仕事は今日で終わりだったわねえ」
ジャコーはやや穏やかな顔つきになり、言った。
「ええ、そうですけど……」
「ついでというのはおかしいけれど、新しく依頼したい
「クエストですか。でも……」
この時――
カーシャはナーロッパに遠出していた。
留守である。
「ミズ・カーシャの力は、いえ、あれば百万の味方でしょうけど、あなたなら最適なのよ」
「私が」
「そう。あなたが」
言って、ジャコーはそっとバッキーの手に、自分の手を重ねた。
「あなたの優れた
・ ・ ・
「ノツゴ?」
「ああ」
バッキーの問いにうなずいたのは、銀髪の少女だった。
ツインテールの銀髪。
灰色に近い、白い肌。
赤い瞳。
口元からは、牙がのぞいていた。
「ガジカ・バーバ」
そう少女は名乗っていた。
ただ。
種族の中では若いかもしれないが、年齢そのものはバッキーよりもずっと上らしい。
ふたりの視線。
その先には、朽ちかけた廃村が見えている。
「30年ほど前に、捨てられた場所さ。土地自体におかしな呪いがかかったらしくてな? やたらにダンジョンがわくわ、作物は不作だわで……」
みんな逃げ出した。
おぼえている連中もそんなにいねえだろうなあ。
はかないもんさ。
ガジカは言いながら、赤い瞳を細める。
「呪いって、どうにかならなかったんですか?」
バッキーは当然の質問をする。
これに、
「そりゃ領地の中でも栄えてたり中央寄りなら、そうしただろうけどさ。ここは端っこで周りにはあるのは森と山だけだ。厄介な呪いをどうこうするほどのもんじゃねえ。他にも厄介な問題のある場所はあちこちにあるしよ」
ガジカは首を振った。
「わいてくるダンジョンも低レベルのやつばっかだから、たまにモンスター狩りをやる程度。底辺冒険者にすればよい仕事だし、軍隊の演習にも使えるってわけ」
「ふーん……」
バッキーは腕組みをしてから、
「だけど、そうも言っていられなくなった……」
「らしいねえ」
ガジカは首を振る。
「ダンジョンからわいて出てくるゴブリンなんかが減ったってのが、最初らしいが――」
と、
「隠れろ」
吸血鬼少女は、バッキーを抱きかかえるようにして地面に伏せる。
これと同時に――
廃村の奥で何かが動いた。
土煙を上げている。
遠目には、巨大なサソリのように見えたが……。
胴体。
ハサミ。
毒針。
全身を構成する全てが、人間の胎児みたいだった。
いや。
胎児の集合体が巨大なサソリのようになっている。
「……あれが、ノツゴ」
「……そう。あの気色悪いヤツが近くのモンスターや鳥、獣を食い尽くしてやがる」
「なんだって、あんなのが。いや、呪いですよね?」
「そうらしい。厄介な呪いが年月を経てあんなもんに化けやがったのさ。
レベルの高い
理由は知らんけどね。
肩をすくめるガジカ。
バッキーは応えず、ただ胎児のより集まった怪物を見つめていた。