破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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こっちのカクヨム版もよろしくお願いします!


その117・5、番外:野ツ児(ノツゴ)-2

 

 

 

 日は、沈みかけていた。

 

 バッキーは――

 ふわふわ、と。

 空中に浮いているガジカを見上げた。

 

 わざとスローモーに飛び、敵の注意を引きつける。

 飛び回るガジカを狙って、巨大なハサミや尾が振り回されていた。

 

 ――敵。

 

 その単語に、バッキーは違和感を覚え、神経がささくれた。

 

 おぎゃあ。

 おぎゃあ。

 おぎゃあ。

 

 甲高い、赤ん坊の声。

 

 ――聞きたくない。

 

 ブヨブヨとした、柔らかな肉の塊。

 爪も牙もない。

 立って歩くことさえできない。

 できるのは泣き喚くことだけ。

 

 そんなものの集合体が攻撃的な毒虫……。

 (さそり)を象っている。

 

 バッキーは唇を噛んだ。

 

 ――見たくない。

 できれば――

 見なかったこと、聞かなかったことにしてこの場を去りたかった。

 

 しかし。

 それは、できない。

 

 ――仕事だから?

 

 それもある。

 あるにはあるが、理由としては弱かった。

 

 周辺。

 そこら中に、からみつくような、粘ついた瘴気が漂っている。

 足元に、瘴気がまとわりついた。

 

 ――あぶなっ……。

 

 うっかりすると、転倒しそうになる。

 バッキーは、足元を踏みしめ――

 小声で呪文を詠唱した。

 

 最後に、

 

「南無大聖地蔵尊」

 

 まるで関係のない言葉が出た。

 

 ――何だ、これ。

 

 唐突で、バッキー自身にも意味が分からない。

 

 魔力を込める。

 杖を振るう。

 

 本来なら、傷や病を癒す術。

 その奔流が、毒虫となった胎児たちを包む。

 

 瞬間。

 巨大な毒虫は、砂のように崩れる。

 同時に、一筋の煙となって空中に浮かび上がり――

 風に吹かれて、消えた。

 

「すげえもんだなぁ!!」

 

 素直な感嘆。

 それを言葉にしながら、ガジカは降りてくる。

 

「どうも……」

 

 バッキーは頭を掻いて苦笑する。

 妙に気恥ずかしい。

 照れくさい。

 

「でも、嫌ですね。ううん、かわいそう、なのかな」

 

 さっきまでノツゴが蠢いていた場所。

 バッキーはそこを見つめながら、小さな声で言った。

 

「しょーがねえさ。赤ん坊の内に死んじまうなんて、自然界じゃ当たり前のことだ。小さなガキなんて捕食者の餌さ」

 

 ガジカはキッパリとした声で言った。

 だが。

 その表情は明るくない。

 どこか、言い訳でもするような口調だった。

 

「そう、ですね」

 

 言葉の上では同意しつつ、バッキーは空を見た。

 

「神様からすれば……」

 

「あン?」

 

「神様からすれば、虫の幼虫も人間の子どもも、同じかもしれませんね」

 

「当たり前だろ。神様の考えなんか、あたしらにわかるもんかよ。ご先祖様、祖霊だって万能じゃねえ」

 

「それい?」

 

「ああ、知らんよな。あたしら吸血鬼(ヴァンパイア)は昔から先祖の霊を祀って拝んでるのさ。」

 

「なるほど。ちょっとわかります、私の故郷でも似たようなことしてますし」

 

「ふーん。あたしゃてっきり、地母神の信者かと思った」

 

「え。なんでです?」

 

「いや、なにって……。さっき自分で言ってたじゃないか。ええと……」

 

 バッキーの問いに、ガジカは少し考えてから、

 

「ナモー・マハーアーリヤーヤ・クシティガルバーヤ・ボーディサットヴァーヤ・マハーサットヴァーヤ……。大昔の言葉だな、確か? 要するに、地母神の信者ですって意味だよな。よくわからんけど」

 

「え、はあ、まあ……」

 

 なむたいせいじぞうそん。

 

 あの言葉が、どうやったらそんな意味になるのか。

 

 ――それとも、自動翻訳だとそうなるのかな???

 

 わからない。

 

 バッキーが首をかしげていると、

 

「……っ!?」

 

 急に、背筋がゾワリとした。

 

「おい!」

 

 ガジカが叫んで、バッキーに抱きつく。

 

「へ?」

 

「危ねえってば!」

 

 そのまま、ガジカはバッキーと一緒に空中へ飛び上がった。

 

「……あの、ひょっとして」

 

「その()()()()()()だよ。まだいやがったのか!?」

 

 バッキーに対して、ガジカは荒々しい声で応えた。

 

 地面を爆発させるように……。

 何体ものノツゴが這い出して来る。

 廃村の建物を引き潰しながら――

 

 おぎゃあ。

 

 ノツゴの群れは声をあげ、わらわらと集まってくる。

 

「一匹ならともかく、何でこんなに……」

 

「私にもさっぱりです……。でも、やることは……」

 

「決まってるってね」

 

「ええ」

 

 バッキーはガジカにうなずき、再び杖を強く握った。

 

 威力をフルにした治癒魔法。

 その閃光が、白い虫たちを風に還していった。

 

 

 ・  ・  ・

 

 

「何だいこりゃあ……!?」

 

 ノツゴの這い出してきた穴。

 その中には、巨大な空洞――いや、建築物があった。

 

「地下倉庫?」

 

 覗き込みながら、バッキーはつぶやく。

 

「さあね。どっちにしろ、大がかりなもんってことしかわからないよ。専門家でも連れてくりゃあ良かったな?」

 

 ガジカは銀のツインテールを揺らしながら、

 

「さっきので打ち止めってことにしてほしいけどねえ」

 

「入ってみましょうか?」

 

「はあ?」

 

 バッキーの提案に、ガジカはちょっと顔をしかめた後、

 

「意外だな。そういうの」

 

「え。そうですか?」

 

「あんた、もっと慎重というか、悪く言えば臆病な気質かと思ってた……」

 

「まあ、そうですけど……」

 

「だったらこんなとこに入ろうなんて言わないよ、絶対」

 

「そういうもんですかね?」

 

「ええ、そういうもんでございますよ。まあ、いいけど」

 

 そういうわけで――

 ふたりは地下の建物に入っていった。

 

 中は、さほど広くはない。

 しかし狭いとか小さいというには、大きすぎた。

 

「何だろう……。ぱっと見、錬金術でもやってたような感じですけど……」

 

 照明魔法で周囲を照らしながら、バッキーは首をかしげる。

 

「まさか、ホムンクルスでも作ってたんじゃあるまいね?」

 

 ガジカが嫌そうに言った後。

 

「あ」

 

 バッキーは足を止める。

 棚のようなものが、奥のほうまであった。

 何か楕円形の透明な容器に、土台をつけたもの。

 それがかび臭い中で並んでいる。

 

「うっわ」

 

 ガジカはうめくように言った。

 容器の中には、黒い干物みたいなものが浮かんでいる。

 

「え……?」

 

 それが――

 胎児の死骸。

 より正確にはその()()であることに、バッキーが気づいたのは少したってから。

 

「な、何なのこれ……」

 

 嫌悪感と、わけのわからない怒り。

 バッキーの中でそのふたつが混じり合って、噴き出してくる。

 

 奥には、まだ何かがある。

 

「行ってみましょう……」

 

「毒を食らわば皿までか……」

 

 ふたりは、意を決して足を踏み出した。

 

 

 




最近自作の二次ものがあったらどうなるかと想像したり
他の人がこの設定とかどう書いたりするんだろ?
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