破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
日は、沈みかけていた。
バッキーは――
ふわふわ、と。
空中に浮いているガジカを見上げた。
わざとスローモーに飛び、敵の注意を引きつける。
飛び回るガジカを狙って、巨大なハサミや尾が振り回されていた。
――敵。
その単語に、バッキーは違和感を覚え、神経がささくれた。
おぎゃあ。
おぎゃあ。
おぎゃあ。
甲高い、赤ん坊の声。
――聞きたくない。
ブヨブヨとした、柔らかな肉の塊。
爪も牙もない。
立って歩くことさえできない。
できるのは泣き喚くことだけ。
そんなものの集合体が攻撃的な毒虫……。
バッキーは唇を噛んだ。
――見たくない。
できれば――
見なかったこと、聞かなかったことにしてこの場を去りたかった。
しかし。
それは、できない。
――仕事だから?
それもある。
あるにはあるが、理由としては弱かった。
周辺。
そこら中に、からみつくような、粘ついた瘴気が漂っている。
足元に、瘴気がまとわりついた。
――あぶなっ……。
うっかりすると、転倒しそうになる。
バッキーは、足元を踏みしめ――
小声で呪文を詠唱した。
最後に、
「南無大聖地蔵尊」
まるで関係のない言葉が出た。
――何だ、これ。
唐突で、バッキー自身にも意味が分からない。
魔力を込める。
杖を振るう。
本来なら、傷や病を癒す術。
その奔流が、毒虫となった胎児たちを包む。
瞬間。
巨大な毒虫は、砂のように崩れる。
同時に、一筋の煙となって空中に浮かび上がり――
風に吹かれて、消えた。
「すげえもんだなぁ!!」
素直な感嘆。
それを言葉にしながら、ガジカは降りてくる。
「どうも……」
バッキーは頭を掻いて苦笑する。
妙に気恥ずかしい。
照れくさい。
「でも、嫌ですね。ううん、かわいそう、なのかな」
さっきまでノツゴが蠢いていた場所。
バッキーはそこを見つめながら、小さな声で言った。
「しょーがねえさ。赤ん坊の内に死んじまうなんて、自然界じゃ当たり前のことだ。小さなガキなんて捕食者の餌さ」
ガジカはキッパリとした声で言った。
だが。
その表情は明るくない。
どこか、言い訳でもするような口調だった。
「そう、ですね」
言葉の上では同意しつつ、バッキーは空を見た。
「神様からすれば……」
「あン?」
「神様からすれば、虫の幼虫も人間の子どもも、同じかもしれませんね」
「当たり前だろ。神様の考えなんか、あたしらにわかるもんかよ。ご先祖様、祖霊だって万能じゃねえ」
「それい?」
「ああ、知らんよな。あたしら
「なるほど。ちょっとわかります、私の故郷でも似たようなことしてますし」
「ふーん。あたしゃてっきり、地母神の信者かと思った」
「え。なんでです?」
「いや、なにって……。さっき自分で言ってたじゃないか。ええと……」
バッキーの問いに、ガジカは少し考えてから、
「ナモー・マハーアーリヤーヤ・クシティガルバーヤ・ボーディサットヴァーヤ・マハーサットヴァーヤ……。大昔の言葉だな、確か? 要するに、地母神の信者ですって意味だよな。よくわからんけど」
「え、はあ、まあ……」
なむたいせいじぞうそん。
あの言葉が、どうやったらそんな意味になるのか。
――それとも、自動翻訳だとそうなるのかな???
わからない。
バッキーが首をかしげていると、
「……っ!?」
急に、背筋がゾワリとした。
「おい!」
ガジカが叫んで、バッキーに抱きつく。
「へ?」
「危ねえってば!」
そのまま、ガジカはバッキーと一緒に空中へ飛び上がった。
「……あの、ひょっとして」
「その
バッキーに対して、ガジカは荒々しい声で応えた。
地面を爆発させるように……。
何体ものノツゴが這い出して来る。
廃村の建物を引き潰しながら――
おぎゃあ。
ノツゴの群れは声をあげ、わらわらと集まってくる。
「一匹ならともかく、何でこんなに……」
「私にもさっぱりです……。でも、やることは……」
「決まってるってね」
「ええ」
バッキーはガジカにうなずき、再び杖を強く握った。
威力をフルにした治癒魔法。
その閃光が、白い虫たちを風に還していった。
・ ・ ・
「何だいこりゃあ……!?」
ノツゴの這い出してきた穴。
その中には、巨大な空洞――いや、建築物があった。
「地下倉庫?」
覗き込みながら、バッキーはつぶやく。
「さあね。どっちにしろ、大がかりなもんってことしかわからないよ。専門家でも連れてくりゃあ良かったな?」
ガジカは銀のツインテールを揺らしながら、
「さっきので打ち止めってことにしてほしいけどねえ」
「入ってみましょうか?」
「はあ?」
バッキーの提案に、ガジカはちょっと顔をしかめた後、
「意外だな。そういうの」
「え。そうですか?」
「あんた、もっと慎重というか、悪く言えば臆病な気質かと思ってた……」
「まあ、そうですけど……」
「だったらこんなとこに入ろうなんて言わないよ、絶対」
「そういうもんですかね?」
「ええ、そういうもんでございますよ。まあ、いいけど」
そういうわけで――
ふたりは地下の建物に入っていった。
中は、さほど広くはない。
しかし狭いとか小さいというには、大きすぎた。
「何だろう……。ぱっと見、錬金術でもやってたような感じですけど……」
照明魔法で周囲を照らしながら、バッキーは首をかしげる。
「まさか、ホムンクルスでも作ってたんじゃあるまいね?」
ガジカが嫌そうに言った後。
「あ」
バッキーは足を止める。
棚のようなものが、奥のほうまであった。
何か楕円形の透明な容器に、土台をつけたもの。
それがかび臭い中で並んでいる。
「うっわ」
ガジカはうめくように言った。
容器の中には、黒い干物みたいなものが浮かんでいる。
「え……?」
それが――
胎児の死骸。
より正確にはその
「な、何なのこれ……」
嫌悪感と、わけのわからない怒り。
バッキーの中でそのふたつが混じり合って、噴き出してくる。
奥には、まだ何かがある。
「行ってみましょう……」
「毒を食らわば皿までか……」
ふたりは、意を決して足を踏み出した。
最近自作の二次ものがあったらどうなるかと想像したり
他の人がこの設定とかどう書いたりするんだろ?