破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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※最後の部分、少し修正しました


その30、残党狩り依頼

 

 

 

 

「ふーん……。なるほどねえ?」

 

 エルフの青年――通称〝猫のゴトク〟は面白そうに言った。

 手には刃のない黒い剣……カーラナーガがある。

 雑貨屋兼住居の裏庭。

 

「だいぶ派手に使ったらしいな?」

 

「メンテナンスはどの程度必要かしら」

 

 カーシャは、壁に寄りかかった体勢でたずねる。

 

「言わんでもあんたならわかってると思うが。念には念を入れるってのは感心だ」

 

 カーラナーガをじっくりと見ながら、ゴトクは楽しげに応える。

 

「必要ない。それ以上に……ドラゴンの血をたっぷり浴びて、その上あんたのオーラを浴び続けてるだろ? 前以上に鍛えられて、引き締まってるぜ?」

 

「聖者やドラゴンの血で、武器が特別なものに変わる……。伝説かおとぎ話と思っていたわ」

 

早々(そうそう)あるコトじゃないからな。聖者なんて滅多にゃいねえ、いや、どこにもいねぇかもな? ドラゴンを倒すのは簡単じゃねえ。血を浴びても、武器が耐えきれねえことだってある。ドラゴンを傷つけるには、武器にだって相当な負荷がかかるんだよ」

 

「へえ……」

 

「ぶっ壊れても、その残骸はかなりの値打ちもんだがな」

 

「***……。*****……」

 

 横で魔法の光と、呪文を唱える声。

 

 カーシャたちが会話している横で、バッキーが魔法の練習をしていた。

 集中しきっているため、会話はまったく聞こえていない。

 

「いくらか上達してるようね」

 

 練習中のバッキーを見て、カーシャは言った。

 

「元から魔力量は尋常じゃない、治癒魔法は反則レベル。何より、教えるヤツがいいんでな」

 

 カーラナーガをカーシャに返しながら、ゴトクはぬけぬけと言った。

 

「そのようね」

 

「しかしまあ、そういう点じゃ教えがいのないヤツだが」

 

「……?」

 

「さっきも言ったように魔力量がハンパじゃないだろ。それに、感覚的だが魔法の基礎は出来上がってる。教え方さえ間違えなけりゃ、誰でも指導できるさ」

 

「良いことでは?」

 

「確かにな。だがよ? なにも知らないヤツ、できないヤツをどうやって教えるか? そこが醍醐味(だいごみ)ってもんさ。俺にとっちゃな」

 

 肩を揺すってゴトクは笑う。

 と、エルフは視線を横へ飛ばした。

 同時に、マコネがヒョイッと顔を出す。

 

「おーい、客が来てるぜ。姐さんに」

 

「客?」

 

 カーシャは一歩進み出た。

 

「うん。ギルドからの使いだってよ」

 

 

 

 

 

「とりあえず一段落と申しますか? 必要な【お仕事】は無事達成してもらったわけで」

 

 上司の前で、ユオンは仕事内容を報告していた。

 

「ふん。祝賀会で機嫌はとっておいた。次の仕事まで休暇ということにしておけ。やらせる仕事はいくつもあるが、それなりの段取りや調整がいるからな」

 

 上司は命じながら、葉巻を(くゆ)らせていた。

 

「良い香りですねえ。カフェ・シガーですか」

 

「最近できた銘柄でな、荒っぽい味だがそこが魅力だ」

 

「この頃は、よその国にも流通しているようですねえ」

 

 カフェ・シガー。

 葉タバコではなく、品種改良されたある果樹の実から造られたもの。

 味、香り、全てが従来のタバコとは異なる。

 

「しかしですね? ちょっと問題もありまして」

 

「何だ」

 

「例の元・ご令嬢との一件です」

 

「あれか……」

 

「そうです、そうです。勇者様もパーティーメンバーもすっかりその気で。つまり、復讐戦をしかけるつもりなんですねえ」

 

 頭をペシペシと叩きつつ、わざとらしいため息のユオン。

 

「役目がすんだ今ならあいつが死のうとどうしようと、どうでもいいが……」

 

 上司は、タバコを灰皿に押しつけながら、冷笑する。

 

「うーん。でもねえ? 召喚するのにそこそこのお金は使ってるわけでしょう? たやすく使い捨てるのは税金払ってる国民への不実じゃありません?」

 

「宮廷のスズメどもに聞かせたい台詞(せりふ)だな。言っても意味はないだろうが」

 

「ご理解くださる、あなた様だから申してあげるんです」

 

「良い台詞だったし、感動もした。だが、お前の本音はオモチャが惜しいだけじゃないのか?」

 

 上司はニヤリと笑えば、

 

「それも確かにありますけど」

 

「肯定するのか!」

 

 今度はガハハハと大笑いする上司。

 

「わかった、わかった。確かに召喚の費用がもったいない、そこも事実だ。おまけに……宮廷内でも色々意見があるしな。ま、しばらく便利に使っておくか」

 

「心得ました。勇者らしい【お仕事】をご用意願います」

 

 ユオンは丁寧(ていねい)に頭を下げた。

 

 

 

 美少女エルフが退室した後で――

 

「俺だ。報告書を持ってこい、現状わかる範囲でかまわん」

 

 上司は通信機で、どこかに連絡を入れた。

 

 しばらくして。

 

 王宮魔導士の一人が、書類を手にやってくる。

 

「で? エルフどもはどこから魔石を手に入れていた?」

 

「――単刀直入に申し上げますと、持ってきたのではなく……猛スピードで増殖させていました」

 

 書類を差し出しながら、魔導士は言った。

 

「増殖? 大気中の魔素を集めて凝縮させる、うちでもまだまだ研究段階だぞ?」

 

「はっ。ですが、文献の中で一致する……あるモノが発見されたのです。書類の右下をごらんください」

 

「ふむ」

 

 上司はそこへ視線を送り、

 

「風車? いや、車輪か?」

 

 描かれているマークを見て、上司はカフェ・シガーの煙を吐き出す。

 

「どうやら、一種の警告マークらしいですが。相当の危険物質です」

 

「猛毒だというのか?」

 

「ある意味では、扱いによっては生物の細胞を破壊し、様々な障害を引き起こすそうです」

 

「そいつは厄介だな」

 

「ですが、それとはまた別の作用、別の危険性があります」

 

 魔導士は汗をぬぐって言った。

 

「もっとハッキリ言え」

 

「は……その、その物質が発散するモノが魔石を増殖させるのです。より正確には、発散するモノを餌にして魔石が増殖すると……。発散される量によっては、短時間で鉱脈並の魔石を生み出すと推測できます」

 

「ほお! そいつはすごい……いや、確かに厄介でもあるか。現に、エルフどもはそいつを利用して大量の魔石を手に入れていた」

 

「さようです……」

 

「で? そのヤバいモノはなんという名だ?」

 

「文献によれは、放射性物質、あるいは放射性廃棄物だそうです」

 

 

 

 

 

「残党狩り?」

 

 クエスト内容が詳細に記された依頼書。

 カーシャはそれを読んだ後、淡々と言った。

 

「なんで?」

 

「いや、いつも通りというか。あなたの実力を見込んでの依頼ですな」

 

 カーシャの問いに、ギルドマスターは苦笑した。

 

「あまり、気が進みませんね」

 

「理由をおたずねしても?」

 

「やってみてわかったけど、その手のことはあまり得意じゃないとわかりましたので」

 

「なるほど、なるほど」

 

 納得した顔で、ギルドマスターはうなずいた。

 

「ですが、相手は魔法に長けたエルフですし、手負いの獣みたいなものだからかなり凶暴だと思われるんですよ。なまじっかな者では返り討ちになりかねない……というか、その可能性大なわけで」

 

「それはごもっとも。けれど、逃亡している以上相手も慎重に隠密行動しているのでしょ? 見つけるのは骨ですわ」

 

「もちろん、そのへんも考慮しておりまして。クエストの際は、探索に長けた冒険者と一緒にやっていただきます」

 

「……探索者、ね。この前のシーフかしら?」

 

「いえいえ、別の冒険者ですよ。まあ彼と同じパーティー・メンバーではありますが」

 

「同じパーティー?」

 

 

 

「それで――」

 

 冒険者食堂にて。

 大型のテーブルについていたカーシャは、目の前に並んだ2人組を見る。

 

「あなたのお仲間だそうで?」

 

「ええ、まあ」

 

 トクベーがうなずきながら、横の獣人娘を見た。

 

「あんたら、なんか妙に縁があるなあ?」

 

 テーブルに肘をついた姿勢で、マコネが言った。

 

「バッキーと、故郷が同じっぽいしよ」

 

「そうとも言える、のかな? ややこしいけど」

 

 トクベーは苦笑。

 その横で――

 

「バタムのクエストで、ご一緒しましたなぁ?」

 

 キツネ獣人は、目を細めながらにこやかに言った。

 

 ――いかにも腹に一物ありそうな女だこと。

 

 カーシャは改めて、この狐獣人を観察する。

 

 長い銀髪に狐の耳。

 体形はすらりとした細身で、顔の細面(ほそおもて)

 別大陸の生まれらしいエキゾチックな美女だ。

 

「改めて紹介します、うちのパーティーで後衛をつとめている……」

 

「タロザいいますの。よろしゅうに」

 

 狐獣人の美女は、愛想良く挨拶。

 

「知っているでしょうけど、私はカーシャ。戦士職……ということになっているわ」

 

「あては一応、魔導士職で登録してます。魔法の体系はここらとは少しちがいますけどなあ」

 

「そう」

 

「失せ物、人探しにはそこそこ腕におぼえがおますよって、おまかせのほどを」

 

「心強いこと。しかし……」

 

 カーシャは、トクベーの後方を見やる。

 犬獣人(コボルト)と、変な獣人。

 2人は、トクベーの背後にピタリとくっついていた。

 

 ――いまだに、なんなのかよくわからないわね……。

 

 アライグマかアナグマか。

 獣人ということはわかるが、

 

 ――かなり遠くから来た種族なのか……。

 

「そんなに警戒すンなら、おめーらのボス連れてくんなよ」

 

 マコネはあきれ顔でつっこむ。

 

「いや、その。どれだけ言っても、きかなくって……」

 

 トクベーは頭を下げる。

 

「なるほど。心配性で、忠誠心も高いということね」

 

 カーシャは肩をすくめ、タロザに視線を戻す。

 狐獣人も、さりげなくトクベーを守る態勢になっている。

 

 ――しかし、このキツネ……。

 

 他の獣人とは、若干ちがうようだ。

 

「別にこんな場所で、意味もなく揉めるつもりはないわ」

 

「……あはは」

 

 カーシャの言葉に、トクベーはホッと息を吐く。

 そんな少年シーフへ、

 

「その前に、ひとつ聞きたいのだけど」

 

「え」

 

「そいつ、いったいどういう種族?」

 

 後ろのよくわからない獣人を見た。

 

「うちはァ、タヌキ(・・・)じゃ」

 

 獣人はどこか誇らしげに言った。

 

「なにそれ」

 

 知らない動物だった。

 

「んー……。コボルトに近い種族、ですかねえ」

 

 タロザが補足した。

 

「ああ、そう。……じゃ、とりあえずクエストの段取りでも決めておきましょうか?」

 

 そして。

 

 話はそういう流れになった。

 

 

 

 

 

 

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