破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その117・5、番外:野ツ児(ノツゴ)-3

 

 

 

「なんだ、こりゃあ!?」

 

 ガジカが叫び、跳んだ。

 低い天井に張り付き、睨む。

 

 赤い。

 とにかく、全身が紅い。

 ただ――

 胴体、その背部が白い。

 まるでロウソクみたいな真っ白だ。

 

 ギョロリ、と。

 妙に透き通った赤い瞳が動く。

 キョトキョトと、あわただしく周辺を見まわしていた。

 

「何なのよ、これ……!」

 

 バッキーは魔力の障壁で身を守りつつ、一歩後退した。

 

 赤い、巨大なサソリ。

 それが部屋の中で狭苦しそうに動く。

 実際……。

 サソリの巨体からすれば、部屋は動くのさえ困難だろう。

 

 赤い体。

 それは、人間……より正確には、女の体で構成されている。

 若く美しく、瑞々しい体が無数に寄り集まり、形を成しているのだ。

 

 そして、サソリの背部にあるもの。

 

 巨大な女の顔だった。

 美しい。

 赤い瞳。

 潤んだ唇。

 白い歯。

 なめらかでつややかな肌。

 

 ――予想外、どころじゃないよ!

 

 女の欲求。欲望。

 虚栄。

 驕慢。

 強欲。

 そういったものが凝り固まったようなもの。

 

「ちょいとミズ!? こいつはノツゴじゃねえよ!? 何なわけ!?」

 

「そんなこと聞かれても……!!」

 

 バッキーは、ガジカに焦った声で返す。

 

 しゅう。

 しゅう。

 しゅう。

 

 不気味な呼気音をあげて、ハサミを振るう怪物。

 同じサソリ型だが、性質はまるで異なる。

 

 巨大な顔。

 ぬるり。

 赤い唇から、なお赤い舌が這い出る。

 

 ――うわ……!

 

 ゾッと、耐え難い不快感がバッキーの背中を走った。

 

「気持ち悪いんだよ、この虫けら!!」

 

 ガジカは両手で印を組み、魔法を構築――放った。

 

 無数の髑髏。

 青い燐光に包まれた髑髏たちが、怪物に襲いかかる。

 サソリ型の赤い体にぶつかり、あるいは喰いついていった。

 

 動きが鈍る。

 好機(チャンス)

 

「潰れてしまえ……!」

 

 バッキーは杖の先に、圧縮した魔力を宿した。

 そして――

 魔力で編まれた巨大な四角形を怪物に叩きつける。

 壁と魔力に挟まれ、怪物の赤い体はトマトのように潰れていく。

 

 バッキーが魔力の四角形を消した後――

 ほぼ半壊した大サソリの体が、肉片と体液と一緒に横たわる。

 

「やった……!?」

 

 バッキーが一瞬ホッとすると、

 

「油断するな、ヒーラーさん! まだ動いてるよ、そいつ」

 

「!?」

 

 バッキーが飛びのくと同時に、

 

「燃えてしまえ!」

 

 ガジカは空中から燐火の矢をいくつも放つ。

 それが直撃すると、怪物の肉片はジワジワと燃えだした。

 ただ。

 燃える速度も勢いも、弱い。

 

「ちっ……! しつっこいね!」

 

 バッキーのそばに着地しながら、ガジカは歯噛みをした。

 

「……今気づいたけど、これ使い魔に近いですね?」

 

 バッキーは息をついてから、そんな意見を述べた。

 

「魔力で生み出された。そういう感じ。とすれば、本体の魔導士がいるはずだけど……」

 

「いないんじゃないかね、多分もう死んでるよ」

 

 ガジカは赤い怪物を見ながら言った。

 

「死んでる?」

 

「こいつはわけのわからん呪いの副産物さ。生み出したヤツの妄執が死んだ後も形になって、こんなものになって残ってる。未練がましいったらないよ」

 

「そんなことが……」

 

「わかるんだよ、あたしは死霊魔術師(ネクロマンサー)だから」

 

「ああ、なるほど……」

 

 妄執。

 

 バッキーはほう、と息を吐いた。

 さっき感じたものは、同やら勘違いではなかったらしい。

 

 誰かの欲望。

 誰かの執着。

 それが、こんな醜悪な形となって残っている。

 

 ――ああ、(いや)だ。

 

 いつか自分も――

 そんなネガティブ思考が、バッキーの脳裏をよぎる。

 

 ――ダメだ、ダメだ。

 

 嫌な()()を振り払うように、首を振る。

 

 と。

 眼前の魔性に、変化が起こった。

 

 ギョトギョト、とそんな感じか。

 サソリの胴体から浮かび上がる女の顔。

 その赤い瞳が、濁った視線を周辺に向ける。

 

 ――見られている……!?

 

 一瞬ゾッとするバッキーだが、そうではなかった。

 

 ボウ、と静かな音がした。

 棚に並べられた胎児の骸。

 そこから、白い(もや)が流れ出す。

 

「気をつけな! 何かする気だ!」

 

 ガジカはふわっと、バッキーのそばに駆け寄る。

 

 白い靄。

 それはやがて、濁り固まって蠢き出した。

 

 青白い胎児。

 それがいくつも、いくつも床を這っている。

 

 ――ひ。

 

 バッキーは、青ざめた。

 

 白くブヨブヨしたサソリの頭部に、胎児の顔が――

 何も見えないはずの目が開く。

 真っ黒。

 ()()()()()だ。

 

 ――ノツゴ!?

 

 ノツゴ。

 サソリの体を持つ胎児たちは、赤いサソリの元に集まっていく。

 いや。

 引き寄せられていくのだ。

 

 ――何をする気だ。

 

 不快な予感。

 バッキーは反射的に杖を握りしめ、魔力を集中させる。

 

 ぐちゃり。

 めきり。

 ばき、ばき、ばき。

 

「……!?」

 

「こいつ!!」

 

 ふたりの女は、総毛だった。

 

 喰っている。

 赤いサソリは、ノツゴたちを喰い始めたのだ。

 ハサミでつかみ、女の口へと放り投げる。

 

 その度に――

 砕けて、潰れた赤い体が再生していく。

 

 瞬間――

 バッキーは理解した。

 

 ノツゴは餌だ。

 この赤いサソリが永らえるための。

 

「ガジカ、さん」

 

 バッキーは静かに吸血鬼(ヴァンパイア)少女の手を握った。

 

「魔力供給をします。フルでさっきの『火』を使ってください」

 

「ああ……」

 

 ガジカも、静かにうなずいた。

 

 ――燃えろ。

 

 焼けて朽ちていく魔性を見て、バッキーは思う。

 

 ――燃えろ。消えてしまえ。灰になって、二度と戻って来るな。

 

 

 ・  ・  ・

 

 

「不老長生の魔法?」

 

 バッキーは思わず、大きな声を出した。

 

「ええ」

 

 手ずからお茶を用意して、ジャコーはため息をついた。

 

「全体的な美容も兼ねていたらしい」

 

 何十年も前――

 あの村に屋敷を構えていた魔導士。

 女が研究していたものよ。

 

 美しい貴婦人は、わずかに表情を曇らせていた。

 

「その女は、人工子宮についても色々やってたそうでね」

 

「子宮?」

 

「専門家ではないから、何とも言えないけど。要は体外で、子どもを作る技術ね。自分の体に負担も時間もかけることなくね」

 

「それは」

 

「そこで生み出されるのはホムンクルスでもゴーレムでもない。過程は違っても、まぎれもない赤ん坊。自分の子ども」

 

「で、でも、なんであんな」

 

「予備パーツ、らしいわ」

 

「ぱ、パーツ?」

 

「老いて衰えていく自分の体を補い、新しく若く保つパーツね。自分の複製を作るのには限界があるけど、自分の子どもなら――」

 

「そんな……」

 

「記録では、違法な魔法の研究で女は処刑された。でも、その残骸が人知れずに残っていたのね。当時の杜撰な後始末が今になって、というわけ」

 

 厭な話だ。

 

 バッキーは、お茶を飲みながらうつむく。

 

 若くいたい。

 いつまでも生きたい。

 美しくありたい。

 

 切実だが、エゴイズムの塊。

 そんな女の欲望が、今日まで人知れず永らえていたのか。

 哀れな胎児たちを貪って――

 

 ――私の欲も、あんな風に残らないと良いけど……。

 

 自身の欲を思い返し、バッキーは大きくため息をつく。

 お茶の湯気が、ノツゴの姿に重なって見えた。

 

 

 




https://kakuyomu.jp/works/16818093082887030996

※カクヨム版もよろしく!
 サポーター様用短編のネタを探し中なので
 よろしければご意見などいただけると幸いです……

 このキャラの話が読みたい! というご意見だけでもけっこうですので

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