破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
冬の風。
肌寒い空の下。
それでも、ネビズの街は活気づいていた。
年明けボケはすっかり消え去っている。
そんな中――
「さあさあ! 父ちゃん母ちゃん、坊ちゃん嬢ちゃん、
大通りでは、
小さな舞台の上。
生きているように動く人形たちが、芝居を演じていた。
横に立つ男が、話を語る。
美女に化けた怪物。
それを迎え撃つ騎士。
こういう筋書きらしい。
その近くを、バッキーとマコネは歩いていた。
「何かすっごい久しぶりな感じですねえ」
「実際、久しぶりっちゃあ久しぶりだなあ」
ふたりは雑談をしながら、立ち止まる。
「骨休め」
そんなことを言って、ふらりと旅に出たカーシャ。
どうしているかと思っている頃、
「今日帰る」
こういう内容の手紙が、ゴトクの使い魔によって屋敷に届けられた。
ゴトク自身も留守中であり、
「ふたりでどっかに行ったのかねえ?」
「ふたりきりで?」
「……だとしても、あまり色っぽい話じゃねえかな」
「多分そうでしょうね」
言い合いながら、ふたりは苦笑。
笑いつつ――
バッキーは胸に軽く手を当てた。
そこには、預かった手紙がしまわれている。
「でも――良かったんでしょうか」
「まあ、ある程度は勝手にしろって姐さん、言ってたけどなあ」
彼女たちは――
主の留守中に、自己判断で決めてしまったことについて話し合う。
「使用人が要るなら雇えばいい」
「何なら、空いた部屋を貸して家賃をとってもいいわよ?」
出発の際、カーシャはそんなことを言っていた。
「ああは言ってたけど……」
バッキーを息を吐いた。
「勝手に男の子を預かった、なんて言ったらさすがに……」
「けどよ、頼み主はトーザの奥方様だろ? すげえ断りにくいよな」
「ですねえ」
ジャコーの依頼、というよりは頼み――
「少しの間、親族の男の子をひとり預かってほしいの。これは前金です。その子を引き取る時に半金を」
と。
かなり高額の金を渡されてしまった。
「リーダーのご帰還と、その子が来る日がおんなじというのは変な感じですけど、運命、みたいな?」
「大げさだよ、そりゃあ」
「ですねえ」
・ ・ ・
鬼が――
鬼が来るぞ――
時々、祖父はそう言って僕をおどかした。
大好きな祖父だったけど、その時だけはひどく嫌で疎ましかった。
いや、そうじゃない。
ただひたすらに怖かったのだ。
イジイジとメソメソしている男には――
陰からゆっくりと、鬼が狙ってくるぞ――
だからしっかりしろ。
男として胸を張って生きろ。
祖父はそう言いたかったのだろう。
それは、わかる。
鬼。
オーガではない。
悪霊でもない。
死人じゃない。
では、悪魔か。
それとも、何か違う。
鬼。
とてもとても恐ろしいものだ。
何だかわからないけれど、得体の知れない恐怖だけを感じる。
鬼に喰われるぞ。
祖父の声。
縮みあがった肝を――
弱虫の心臓を――
鬼が――
獣が生きたまま獲物を襲うように。
生きたまま、内臓を、
貪り食うのだ。
心臓を、骨を、体の内部、心を――
喰われた者はどうなるんだ。
そう考えて、ひどくおかしくなった。
喰われたら、死ぬに決まっているじゃないか。
何故そんなことを思うのか。
死ぬ。
ぼんやりと考える。
今ひとつ、実感がない。
それだけ生ぬるい人生を送って来たということだろう。
自分と同い年。
それくらいの男子は、泥まみれ汗まみれで働いているか、モンスターと戦っている。
冒険者。
もし――
その立場になれば、自分は生き延びられるのか。
死にたくはない。
でも、自信はない。
それとも、軍属として生きるのか。
いっそのこと、そうしていれば良かったのかもしれない。
それは、とてもつらくて苦しいのだろうだろうが――
とりとめのないことを考えながら、雑踏に立つ。
いや、無意味なことだ。
現実逃避かもしれない。
実際そうなんだろう。
「鬼が、来るぞおおおおおおお」
心臓が跳ね上がった。
遠くまで、外門に続く道が見えた。
そうじゃない、みんな道をあけているんだ。
何だ?
道の向こうから、何かが――
鬼だ。
角もない。
牙もない。
だけど、あれは鬼だ。
・ ・ ・
「あれ?」
バッキーは、渡された手紙とその少年を見比べた。
若い。
というか、まだ幼い。
中学生になるか、ならないか――だろうか
ブルネットの髪をした、品のある顔。
ちょっと前髪が長い。
「えーと、ウシロ・ミーガさんですよね?」
へたり込んでいる少年に、バッキーはたずねた。
「あ、はい……」
少年はうなずいた。
ボウッとしている。
心ここにあらずという感じだ。
「私は、お話を承っている者で、バッキーと言います。ジョブはヒーラーをしてますけど」
「あ、バッキー……さん」
「はい」
「す、すいません!」
あわてて立ち上がろうとする少年に、
「大丈夫ですか?」
バッキーは手を貸して立たせる。
――軽い。
あまり体重というか、筋骨がないのだろう。
まだまだ成長途中の体。
しなやかだが、力強さには欠ける。
――男の子、かあ……。
思い浮かぶ年の近い少年たち。
シーフのトクベー。
アーチャーのボッツ。
しかし、
――まあ、
比較はできない、と思う。
特に、ボッツは変化が早かった。
出会った、というか顔を知ったばかりの頃。
その時は、まだ幼さの残る少年だったように思う。
しかし。
今はどこか、怖いものを身に宿している。
乱暴ではない。
粗暴でもない。
しかし、
必要ならば、
――平気でヒトを殺しそうな……。
そういう雰囲気だ。
どことなくだが……。
やたら周囲を威嚇するような《グレた》少年にはない、ゾッとするものがある。
トクベーの場合は、どうか。
彼の場合はもっとビジネスライク。
暗いモノや怖いモノはない。
逆に言うと、それだけ割り切ってしまっている。
多分そういうことなのだろう。
――なんか、新鮮?
こういうスレてない少年と接するのは、久しぶりだった。
――いやまあ、異性との交流自体があんまりなかったのだけどね、前世も含めて。
バッキーが内心苦笑していると、
「姐さん、おかえり!」
マコネが、歩いて来るカーシャのもとへ走っていた。
――ん?
ふと見ると――
少年――ウシロは、カーシャのほうを見て固まっていた。
蛇に睨まれた蛙。
そういう感じだった。
――いやまあ、リーダーのほうは気づいてもいないけどさ……。
美貌に見惚れているのか。
それとも――