破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その118、マヒトツノオニ-2 少しの間だけ

 

 

「姐さん、ケガでもしたのかよ?」

 

 カーシャの顔を見るなり――

 マコネは首をかしげた。

 

 カーシャの左目。

 そこには。

 奇妙な意匠の眼帯がつけられている。

 

「まさか、潰れたんじゃ」

 

 言いかけて、マコネはバッキーのほうを見た。

 バッキーは待ち合わせ相手らしい少年とこちらを見ている。

 

「ケガじゃない。まあ、ちょっとしたオシャレみたいなものかしら」

 

 カーシャの物言い。

 それはどこか曖昧で、『奥歯に物が挟まったような』話し方だった。

 

「オシャレ?」

 

「とはいえ、つけておいたほうがこっちのためにも、周りのためにもなるの」

 

「はあ……」

 

「それは良いとして――」

 

 カーシャは、マコネとバッキーを交互に見る。

 

「時間は報せてなかったから、お出迎えというのじゃあなさそうね」

 

「あー、えと」

 

 マコネがちょっと言いよどんでいると、

 

「おかえりなさい、リーダー」

 

 バッキーは小走りに駆けてきた。

 開口一番、

 

「あの、それ」

 

「気にしないでいいわ」

 

 隻眼の乙女。

 バッキーはその姿を見ながら、ある言葉を連想した。

 

 目ひとつの鬼。

 

 大学時代。

 ゼミで読んだ古文の内容である。

 

 古老伝へて云はく、昔、此の処に人ありて、山田を作りき。

 時に目一鬼来たりて、作る人の子を食ひき。

 其の時、子の父母、竹原の中に隠れて居りき。

 時に竹の葉動げり。

 爾の時、食はえし子、「動々(あよあよ)」と云ひき。

 故、阿欲と曰ふ

 

 どうして、そんな連想したのか。

 よくはわからない。

 何となく、思い出しただけかもしれなかった。

 

 「それより」

 

 カーシャは、バッキーの後ろ――

 呆然としている少年を見た。

 

「どなた?」

 

「ええと、その留守中に決めてしまって、申し訳ないんですけど……。その、ちょっとの間預かることになりまして」

 

「――どこの、何家のかたから?」

 

「え?」

 

「察するに、平民でも冒険者でもない。貴族からでしょう?」

 

「あの、何で……」

 

「わかるのよ、それくらいはね。で、いずこのかたかしら?」

 

「ええと、その。トーザ侯爵家、そこの奥方様からちょっと強引に……」

 

「ああ」

 

 カーシャは理解して、うなずく。

 

「まあ、いいでしょう。正当な報酬があるのなら、文句はない」

 

 まあ、そういうことになった。

 

 

 ・  ・  ・

 

 

 <快くお引き受けくださって、ありがたく思います>

 

「まあ、部屋はたくさん空いていますから――」

 

 カーシャは、ジャコーの声を聴きながら髪をいじっていた。

 

 冒険者ギルド本部の特別通信室である。

 機密性の高い内容や、特殊な事情の伝達。

 こういう場合に使用される部屋だった。

 

 音声型魔導通信機。

 映像はなく、声のみでやり取りする。

 要するに電話だ。

 

「聞けば、ミーガなる家のかたとか」

 

 <ミーガ準子爵家、ですわね>

 

「寡聞にして、存じ上げておりません」

 

 <まあ小さな家ですし、爵位も低いですから。内情も裕福とは言い難い……。先代が亡くなって以降は、親族も扱いに困っていたようで>

 

「厄介だと?」

 

 <そういうわけでもありませんが。ほぼ付き合いがなかったので。遺産と呼べるほどのモノはなく、かといって知ったことかと、無視もできない――>

 

「おやおや。それはまた」

 

 <何しろ、先代……あの子からすると、祖父に当たるわけですけれど、これが少し変わり者……。いえ、頑固なヒトだったというべきでしょうか?>

 

「その感じでは、社交界でもあまり発言力はなさそうですわね」

 

 <と、言いますか。本人はあまりそっちの方面に積極的ではなかったようですね。あの子も、そういった経験はなかったようで。まあ、若いということもあるのですけど>

 

「ふうん。しかし……あの少年は、貴族の所作とかそういうものがなかったけれど? まともな教育を受けてないのかしら」

 

 <ああ。それは、ミーガの先代は半ば貴族の身分を捨てているようなもの、だったのですわ>

 

「なるほど。どうやら偏屈な人柄だったらしい」

 

 <貴族としてみれば、そうですね>

 

「――ちなみに。トーザ家はあの子をどうすると?」

 

 <養子として迎えます。ゆくゆくは、しっかりと教育を施して後を継がせる。主人とそのように決めておりますわ>

 

「まあ、お預かりするのは問題ありません。日数はどのくらいを目安に?」

 

 <あの子を迎えるにあたり、屋敷の一部を改築しておりますので、その間。いえ、少し工期が伸びてしまっていますが、日数はごく短いものに……>

 

 

 ・  ・  ・

 

 

 屋敷の中は、うすら寒い感じがした。

 迎えに来た女性と少女は普通にしているが、何か不気味だ。

 

 ――あの女が棲んでいるせいか。

 

 広い屋敷で、どこもきれいだ。

 掃除がしっかりと行き届いているのだろう。

 

「ここを使ってください。あまり寝心地は良くないかもしれないですけど……。あと、使用人もいないですから、色々不自由をおかけするかもですけど、そこはご容赦ください」

 

 眼鏡の女性に案内された部屋は、やはりきれいだった。

 でも、やはりうすら寒い。

 生活の臭いがないのだ。

 まったく使われていないらしい。

 

 ベッドに腰をかけてみる。

 全て、上等なものだった。

 机も椅子も同様である。

 

 ――急いで準備した感じなのかな?

 

 どうも、そうらしい。

 

 窓を見る。

 ガラスには曇りひとつなかった。

 

「はあ……」

 

 寂しい息が出る。

 住んでいるのは、女性が4人だけらしい。

 

「おんなじだ――」

 

 『前』と状況は似ている。

 でも――

 

 ここには、『あそこ』で感じた暖かさも安心感もない。

 広い屋敷の、がらんどうの空間。

 そこには、得体の知れない薄ぼんやりとした()()が充満している。

 寒気がした。

 鳥肌が立つ。

 

 不意に、ドアが鳴った

 コツコツ、と。

 ノックされたのだ。

 

「!」

 

 入ってきたのは、青い髪のものすごい美女。

 あの、眼帯をつけた女性(ひと)だ。

 

「私は、カーシャ。この屋敷の、まあ持ち主ですわ」

 

 椅子に座って、彼女は名乗った。

 

「あの、僕は……。ウシロ、ウシロ・ミーガと言います。ええと、今日、いえ今回は」

 

 しどろもどろしていると、カーシャさんは片手を向ける。

 

「大体のことは聞いておりますので、けっこう」

 

「あ、はい……」

 

「トーザの養子となる、とお伺いしておりますが……。あなた、正直貴族の子女と思えませんわね?」

 

「それは――。僕もよく知らなくって」

 

「ふうん?」

 

 カーシャさんは髪を掻き上げて、僕を見た。

 何の感慨も、感動もない。

 いや感動なんかあるわけもないのだけど。

 

「差し支えなければ、お話を聞きたいものね」

 

 言葉とは裏腹に――

 お前の意思など関係ない。

 そう言われているのが、よくわかった。

 

 だから。

 

 

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