破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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※少し修正を加えました。


その118、マヒトツノオニ-3 むかしのことごと

 

 

 

「反動だな――」

 

 ゴトクは言って、肩を落とした。

 『高速トンネル』を抜けて、ヤオアムトへの帰還。

 ちょうど――

 トンネルを出て、すぐのこと。

 

「反動?」

 

 カーシャは首をかしげた。

 

「ナーロッパのほうへ行く時、『石ころの呪い』を喰らっただろ?」

 

 『石ころの呪い』

 受けた者の存在感をどんどん薄くしてしまう。 

 そして。

 最終的には誰にも認識されなくなる。

 極めて悪質な呪いだった。

 

「ああ。そうだったかしら」

 

「それまで薄くなっていたものが、今度は逆流してあんたの本質を垂れ流しにしている」

 

 ゴトクは首を振った。

 

「? よくわからないわね」

 

 自分の手を見ながら、カーシャは首をかしげた。

 

「だったらよけいに始末に負えんね。近づくだけで人死にが出そうな邪気というのか、瘴気というのか。そういうもんがドバドバ出てる。虫も獣も、敏感なヤツは周辺から逃げ出してるぜ」

 

「……それで、あなたはそんなに距離を取っていると?」

 

 カーシャは言った。

 確かに――

 ゴトクは、カーシャから10メートル以上離れている。

 

「ともかくだ。そのまま、垂れ流しってのはよろしくない――」

 

 金髪のエルフは嘆息すると、何か紐のついたものを取り出し、

 

「とりあえず、それでもつけといてくれ。どっちの目でもいいから。それで当座は何とかなる。」

 

 カーシャに向かって投げた。

 

「ふーん?」

 

 カーシャはキャッチしたものは、眼帯。

 よく見ると、裏にビッシリと呪文が刻まれている。

 

「たちの悪いドラゴンなんかを封じるためのもんだ。虎の子、最後の最後に使う切り札なんだが、まさかこんなことに使うとはな……」

 

 

 ・  ・  ・

 

 

「まあ、そういうことよ」

 

「はー……。何か機嫌悪そうに見えたけど。違ったのか」

 

 説明されたマコネは、ため息をつく。

 

「別にそれはフツーよ。ゴトクの言うことがホントなら、呪いの反動なんでしょう」

 

 カーシャは青い髪を掻き上げてから、

 

「時に、少し仕事を頼みたいのだけど」

 

「やれることなら、やるぜ」

 

「**の街へ行って、ウシロ・ミーガとその周辺について調べてほしいの」

 

 そう言って――

 カーシャは高額紙幣を束ねたものを投げる。

 

「あいよ。けど、裏の裏まで行ったら、ゴトクのほうが得意かもだぜ?」

 

 受け取りながらマコネが言うと、

 

「彼には、()()の調整をじっくりしてもらう必要があるの。呪いの副作用が消えるまで、つけてないといけないから」

 

「はあ、厄介なもんだなあ?」

 

「正直どうでもいいといえば、いいのだけど……。無意味に騒ぎが起こっても鬱陶しいから」

 

「なるほどねえ。よし、わかった。仕事は、早いほうがいいんだろ?」

 

「そうね」

 

「じゃ、今から行ってくる。転送魔法陣(ポータル)を使えば早い」

 

 うなずくと――

 マコネはひょいっと、窓から外へ飛び出していった。

 場所は二階の部屋なのだが……。

 彼女には関係のないことだった。

 

「……ふむ」

 

 ひとりになった後。

 カーシャはお茶を淹れてから、首をかしげた。

 

 ――まあ、なんとなく察するところはあったけど。一応裏を取っておかないとねえ。

 

 そう考えてから、

 

「ぷっ」

 

 失笑した。

 

 ――別に、どうだっていいこと。なのに、つまらない興味を引かれているなんて。バカみたいね。もっと有効な時間やお金の使い方もあるだろうに、我ながら……。

 

 カーシャは、お茶をひと口飲んで天井を見上げた。

 

 ウシロ・ミーガ。

 線の細い、どこか陰のある少年。

 顔立ちは整っている。

 少し控えめだが、礼儀も知っている。

 貴族の作法もすぐ飲み込むだろう。

 

 ――しかし、妙なものを預かることになった……。

 

 まあ。

 カーシャが面倒を見ることは、ほぼないだろう。

 

 では、誰が。

 マコネはさっき出かけていった。

 バッキーは、

 

 ――まあ、メイドみたいなことは無理ね。時々、子どもの世話はしているようだけど……。

 

 バッキー。

 彼女はマコネと共に、幼い冒険者たちの指導をしている。

 

 簡単な武器の使い方。

 罠の作り方。

 うまく逃げる方法。

 薬草・毒草の見分け方。

 あくまで、指導。

 食事や金銭を与えているわけではない。

 

 ――あの子には、そうもいかないのか。

 

 カーシャは、ウシロの顔を思い出す。

 そして――

 薄く笑った。

 

 

 ・  ・  ・

 

 

 祖父が亡くなったのは、だいたい一年前だった。

 元気そうだったけど、心臓が悪くなっていたらしい。

 ある日いきなり倒れて、それっきりだ。

 ドタバタと葬儀はすまされた。

 自分では、ほとんど何もできなかった気がする。

 近所のヒトが、色々手伝ってくれたので、何とかなった。

 

 その時だ。

 親族だという貴族が来たのは。

 

 形ばかりのあいさつをした後、

 

「まあ、こうなってしまっては……」

 

 ひどく困った顔をしていた。

 

 話を要約するに――

 祖父は一応貴族の家柄であり、親族とほぼ付き合いをしていなかったらしい。

 そうだろう。

 

 子どもの頃から時々違和感をおぼえたけど、自分が貴族の血筋なんて考えたこともなかった。

 ただ、魔法はけっこう得意だったから、振り返ってみれば思い当たることはある。

 貴族は血統的に魔法や魔力に優れたヒトが多いのだ。

 

 それから、使いだというヒトが時々お金を届けに来た。

 

「何かあればこちらに……」

 

 紹介状みたいなものも。

 

 ラージ・トーザ侯爵。

 トーザといえば、僕でも名前を知ってる大貴族だ。

 親族だという貴族は、僕の扱いに困っているらしい。

 使いのヒトの反応からして、それを直感した。

 

 これからはひとりで生きていくのか。

 そんなことを考えながら、ぼんやりとしていた。

 でも、そうはならなかった。

 いきなり訪ねてきたヒトがいたのだ。

 

「ウシロくん!」

 

 そう言って僕を抱きしめたのは、当然いつもの使いではない。

 

 バイヤ・ムガン・ギネーカ。

 バイヤさん。

 

 よく出入りしていた商家のヒトだ。

 幼い頃からお世話になっていた。

 母のような――

 いや、母よりもずっとずっと。

 そういう大事なヒトだった。

 祖父が死んであわただしかった時も、忘れてはいない。 

 

 その後、僕はバイヤさんに引き取られた。

 使いのヒトとも、バイヤさんは真っ向から交渉をしていた。

 親族だという貴族も、それでもう関わってはこなかった。

 僕のことは持て余していたのだろう。

 

 それから――

 僕はバイヤさんのうちで暮らすことになった。

 とても幸せだった。

 ずっと、こんな日が続くのだと思った。

 

「愚か者」

 

 青い鬼が言った。

 冷たく、蔑んだ水色の隻眼が僕を見ている。

 

「自己陶酔もいいかげんにしろ」

 

「自分を美化するのもいいかげんにしろ」

 

 それは。

 でも。

 

「執着するは愚かなり」

 

 そして、ウシロ・ミーガは悪夢から目覚めた。

 

 

 

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