破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その118、マヒトツノオニ-4 プライバシーは守りましょう

 

 

 

「元々は、放置するような流れだったのだよ」

 

 巨漢はそう言った。

 

「それはあなたのご意向でしょうか?」

 

 カーシャが問う。

 

「いや多くの連中は、ということだ。ただ、俺としてもずいぶんと後手に回った。去年は色々あったのでな、優先事項がちと多かった」

 

 巨漢――ラージ・トーザ侯爵はそう言った。

 一見肥満体だが、その下にはたくましい筋骨が隠れている。

 太鼓腹の中に、分厚く強靭な腹筋があるのだ。

 

「では放置するつもりはなかったと」

 

 カーシャはまた問いかけた。

 

「少なくとも、よくわからん商家の女に放り投げる所存ではなかったよ」

 

「ふうん。なるほど……」

 

 カーシャはゆっくりと、出されたお茶を飲む。

 地味だが上品な服。

 結い上げられた髪の毛。

 いつもの革鎧姿ではない。

 

 さきほど。

 トーザの屋敷に訪れた際――

 ひどくあっさりと通された。

 事前に知らせてはいたのだが、それにしても早い。

 

「では」

 

「とはいえまだ子どもだからな。そのうち、折を見て話をつけようと思っておった」

 

「はあ。では、()()()()()()()()とも言えるわけでしょうか」

 

「下品な言い方をすればな。おっと、かまわぬかね?」

 

 カフェ・シガーを取り出し、トーザはたずねる。

 

「お気遣いはご無用。こちらは根無し草の冒険者。あなたは世に隠れもない侯爵家当主ではありませんか?」

 

「ふふふ。何をおっしゃるか、こちらは単なるいち貴族だが、貴女こそ天下に隠れもない英雄ではないか。ドラゴンスレイヤー殿」

 

「そうおっしゃられると、面映ゆいですわね」

 

 カーシャはカップを静かに置いて、

 

「しかし――放置されたのは、やはり下策、失策でしたのでは?」

 

「さあて……。それは何とも」

 

 と。

 トーザは巨体を揺らし、カフェ・シガーを(くゆ)らせた。

 

()()()()()()()も、男子の成長には必要かもしれんて」

 

「ひょっとして、あなたがコマを動かしたわけではありませんよねえ?」

 

「無論」

 

 トーザはうなずき、

 

「そういう小細工をする暇があれば、さっさと引き取っておった」

 

 やれやれと嘆息した。

 

 

 ・  ・  ・

 

 

「アレのいたっていう家だけどね」

 

 

 マコネは魔導通信機の前で頭を掻いていた。

 右手に持った受話器を、右手の人差し指でつつく。

 

 某支部のギルド内。

 本部から連絡が言っていたため、通信機を自由に使えた。

 といっても。

 カーシャからの連絡に対応する程度だが――

 

 

「まあ、そこそこの商家だよ。金持ちというほどじゃないが、食うに困るほどでもない。ガキひとり預かるくらいじゃビクともしないレベルだ」

 

 <先代と何かがあったというわけではないの? 恩義でも借りでもいいけれど>

 

「そういう話はなかったねえ。まあ、純粋な好意? ってやつだったかもしれん。知らんけど」

 

 <女ひとりと、年頃の少年がねえ……>

 

「ふたりきりじゃねえよ。娘と、メイドがひとりずつ。女所帯ってのは変わりねえが」

 

 <それはまた、色んな意味で毒かしらね。若い男の子には>

 

「かもね」

 

 <で?>

 

「あー。ちょっと前まで、変な男と関わりがあったらしい。噂レベルだけど。もちろん、あのガキのことじゃねえ」

 

 <面白そうな展開ねえ>

 

 カーシャの()()()()という笑い声が受話器越しに伝わる。

 マコネはちょっとため息をついて、

 

「こっちの支部でさ。前にどっかのバカが何人か捕まってどっかに送られたって話があったんだ。何か外国人(よそもん)だったらしいけど、詳しくはわからなかった」

 

 <それが?>

 

「あー。そいつら、あちこちで女に粉かけてよろしくやってたらしい。物好きだよな。でも、何かどっかの人妻だか愛人(めかけ)にまで手を出して、仕置きをされたって」

 

 <その中に、例の女連中が関わっていたと>

 

「まあ、多分な」

 

 <相当な目にあったでしょうね。相手の男が貴族なら、タダではすまない。平民でも、ギルドに手を回すでしょうね。いえ、実際そうなったわけか>

 

「うん。で……。こっからは冒険者でも目ざといエルフのお姉ちゃんから聞いた情報で、かなり邪推が入ってるけど」

 

 <かまわないから、話してみなさい?>

 

「んー。その家の女連中に対してアレコレ言ってたよ。若い男を弄ぶ淫蕩だとか、あの子がかわいそうだとか。ま、やっかみもあるんだろうよ」

 

 

 ・  ・  ・

 

 

「あれ?」

 

 

 役割としては、リビングルーム……のような部屋。

 そのソファーに、一枚のシャツ。

 ウシロの着ていた服である。

 無造作にベッドに放り出されていたもの。

 持ち主はいない。

 

 本人は庭だったか。

 よくわからないが、そこで魔法の練習をしているらしい。

 

 問題のシャツ。

 あまり洗っていないのか、少し臭う。

 

「う」

 

 成長期にある少年の体臭。

 バッキーとしては、未知の体験だった。

 

 ――うーん。これはちょっと……。

 

 洗浄魔法でもかけてやるか、と

 

「ふあ~~。バッキーさん、おやつにでもしてくれませんですかね?」

 

 マヌケな声と顔。

 それを引っ提げてきたのは、ボロン。

 

「あー、もうちょっとしたら」

 

「お洗濯ですか、ごくろーさん」

 

 バッキーが片手に持っていたシャツ。

 ボロンはそれを目にして、うなずいた。

 

 それから、

 

「あー。では、愚僧がおやつになるまでの間、お洗濯などして進ぜましょうかな?」

 

 などと言いつつ――

 ひょいとシャツを手に取った。

 

 すると、

 

「むむむ」

 

 ブルブルと、ボロンの体は痙攣を開始した。

 それから。

 ピカリと、両目から光を放つ。

 それは、壁に映像を映し出していった。

 

「ちょ、やめなさい!」

 

 バッキーはあわてて止めようとする。

 ボロンは、物品からそれにしみついた記憶を、映像として映し出す能力を持つ。

 

 本人で制御できるのかできないか――

 そこが疑わしいが。

 

「んん――?」

 

 内容は――

 要するに男女が睦み合うその手のものである。

 

 女は美人だった。

 ただ、若くはない。

 顔はともかく、体の各所に相応の年齢が感じられる。

 

 そして、男のほうは――

 

「う、ウシロくん……?」

 

 思わず叫んだ。

 他人の空似か、とも思うが間違いないようだ。

 

 ――あんな子供が?

 

 唖然とするバッキーが、

 

 ――ま、まあそういうこと自体は十分できるのか。

 

 どっちにしろ、そういうプライバシーを覗くのはよろしくない。

 そんなことを思っていると。

 映像が変化した。

 

 男が、変わった。

 軽薄そうな優男である。

 日本風に言えば、チャラ男というヤツかもしれない。

 

 そこで繰り広げられるのは――

 下手なAVそこのけの、ドぎつい内容。

 

「な、なぁにコレ?」

 

 バッキーは困惑しながら、気配を感じて後ろを振り向く。

 そこには――

 真っ青な顔をした少年が震えながら立っていた。

 

 

 

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