破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その118、マヒトツノオニ-6 バッキーは激怒した

 

 

 マコネが帰ってきたのは、明朝だった。

 

「さすが転送魔法陣(ポータル)は速ぇな」 

 

 笑いながら、バッキーに土産を渡す。

 地元の名物らしかった。

 ビーフジャーキーみたいなもの。

 ただし素材は、

 

「グリフォンだってよ。だからかね、こんだけでもけっこうな値段がしたぜ。ま、ギルドの伝手だったから少し安くなったけど。いやー、フツーだったら買わねえけどな、こんなの」

 

「美味しくないですか?」

 

 バッキーが質問すれば、

 

「いや、すげえ美味いよ。けど、量がねえ」

 

「ああ、そういう」

 

 成長期なら、味の良し悪し――

 それよりも限度はあるだろうが量があるほうが嬉しい。

 

 ――美味しいものがちょっとずつってのが良い。そう思ったのはアラサーになってからだもんね、私も……。

 

 バッキーはちょっと笑ってから、

 

「入れ違いになるとこでしたね」

 

「あン? どっか行くのかい? 仕事(クエスト)?」

 

「いえ。まあ、そうとも言えるし、違うとも言えますか」

 

「何だかわかんねえなあ。あ、そういえば」

 

 マコネはキョロキョロしながら、

 

「あの色男ちゃんはどうしたよ?」

 

「……今から迎えにいくところですよ」

 

「何だよ、それ。どっか外泊かぁ」

 

「そうですね」

 

「ふーん。まさか、サキュバス街にでも放り込んだんか?」

 

「……」

 

「おいおい、マジか? すげえことしたなあ」

 

「何か、腹が立って……」

 

「そーだなぁ。けど、弱みにつけこんで(たら)し込むって手もあったぜ?」

 

「いや、そういう手管も知らないし、自信もないです。やる気もないですけど」

 

「まあ、そうだろうなぁ」

 

「……男の子ってバカですね」

 

「今だけじゃねーの? どーせそのうち……」

 

 言いかけて、マコネは変な笑いを浮かべた。

 

 

 ・  ・  ・

 

 

 結局、僕は何もできずひと晩過ごした。

 途中で水やお茶を飲んだ気がする。

 頭がボンヤリしていた。

 でも、外に出て朝の冷たい空気に触れると、妙に落ちついているのに気づく。

 

「帰りますよ」

 

 迎えに来たバッキーさんは、ひどく怖い顔をしていた。

 僕を見るなり、すぐに背中を向ける。

 黒いローブの後ろ姿。

 僕はそれをヨタヨタと追いかける。

 きっと、ひどく情けない姿なんだろう。

 

 帰る道筋、バッキーさんは無言だった。

 僕も、何ひとつ言えなかった。

 

 屋敷に戻ってリビングルームに行く。

 いや、連れていかれたのかもしれない。

 ほとんど無意識に近かったから。

 

「こんなこと知るべきじゃないかもしれないし、知りたくもなかったですけど――」

 

 バッキーさんは僕を見た。

 やはり、怖い顔だった。

 

「そうやっていじけるのはやめてくれませんか。同じ家にいるものとして、不愉快です!」

 

 キッパリと言った。

 

「そんなことは……」

 

「ないっていうんですか? ええ、そうですね。あなたはつらかったでしょう、好きなヒトを取られて。でもね、いくらきれいでも、やさしい女性(ヒト)でも親子みたいに年の離れた子どもに手をつけるなんてマトモじゃない!」

 

 バッキーさんは怒鳴った。

 ものすごく怒っていた。

 

「それは、僕が」

 

「年上の女性にクラクラしてエッチな気分になりましたか、そういう目で見ましたか。私にはよくわからないけど、無理ないかもしれない。だけど、そんなことに、いい大人の女が流されてどうしますか! そんな時こそ、大人がちゃんとしないでどうする!!」

 

「それは、でも――」

 

「知りたくもなかったけど、知ってしまった。だから言います。あなたは、遊ばれて捨てられただけです。まだ、わからないんですか?」

 

「ううう」

 

 僕はもう、何も言えなかった。

 脱力する。

 へたりこんでしまう。

 

 でも、違和感はある。

 このヒトは、一体()()()()()()()んだ?

 

「慰めてほしいですか? セックスでもさせてほしいですか? しませんよ、そんなこと。サキュバス街で好きなだけやればいいことです! あなただって、こんなブスは嫌でしょう!?」

 

「ブスなんて」

 

 バイナさんとはぜんぜん違うけど。

 でも、あなたは――

 

「聞いてるんですか!?」

 

 バッキーさんは、僕の胸ぐらをつかんで立たせる。

 思ったよりも、ずっと強い力だった。

 

「もうよせよ――」

 

 誰かが、バッキーさんを止めた。

 

「今のそいつに、何言ったってダメだよ」

 

 そう言って、誰かが。

 マコネとかマコネッタとかいう女の子だっただろうか。

 

「つーか、バッキー? さっきから言ってることメタクソになってねえか?」

 

 

 ・  ・  ・

 

 

 あの子が、いない。

 ベッドに横たわりながら、バイヤ・ムガン・ギネーカは考えていた。

 

 ギネーカ。

 古い言葉で、女を意味する言葉らしい。

 確かに、この家は女系らしかった。

 父も祖父も養子だったのか。

 

 そんなどうでもいいことを考える。

 いや、考えようとする。

 

 体の芯から、ジクジクと火照りとも湿度ともつかないものが浮き上がる。

 自分で自分の乳房をつかむ。

 だらしないと思う。

 

 あの少年のことを想う。

 小さな頃から知っていた、息子のような少年。

 だが、気づけば愛しい男になっていた。

 

 あの子も、自分を女として見ていた。

 だから――

 抱かれたのか、誘ったのか。

 後者だろう。

 

 愛しい存在のはずだった。

 それなのに、愛してもいない男に抱かれ、溺れた。

 あの子が帰らなかった夜も、男に弄ばれてた。

 

 そうなのか。

 本当にどうにもできなかったのか。

 

 娘も、家族のように過ごしてきたメイドも――

 みんなあの男の玩具になっていた。

 

 自分は、自分たちはそれを受け入れていたのではないか。

 そして。

 だから。

 あの子を。

 

 もうそれ以上考えるのは恐ろしかった。

 

 あの男が仲間と帰って行った後も――

 けだるい体を放り出して――

 満足感に浸っていたのではないか。

 あの子のことを、どれだけ考えていたのか。

 

 翌日になって、家に来たのではあの子ではなく、ギルドナイトの女だった。

 隊長なのか副官かは知らない。

 少なくとも、兵士を指揮する立場にはいるらしかった。

 

「お宅のあの子ね」

 

 夜中にウロウロしてたから保護して、引受先に引き渡しましたよ。

 おたくが保護者か親代わりらしいと聞いてたんですけどね。

 ええ、ある貴族のかたから事前に話は受けていたので。

 だけど困るんですよね、こういうのは。

 うちの管轄は基本冒険者であって、一般国民はポリスナイトの管轄なんです。

 下手に首突っ込むと揉めるので。

 

 ギルドナイトの女は無表情にそう言った。

 あの眼は――

 蔑んでいたのか。

 (わら)っていたのか。

 

 その後――

 あの男とその仲間はギルドに捕まったらしいと聞かされた。

 他でも似たようなことをして、問題になったらしい。

 

 訛りがある気がしたが、ヤオアムト国民でもなかったのか。

 今さらになって、そこにも注意が言っていなかった自分に驚く。

 

 『報告』に来たのは、あの時のギルドナイトだった。

 

「うちの支部長に()()()()()()ヒィヒィ泣いてましたよ。良いご趣味ですね奥様」

 

 その時――

 あの女は、今度こそ本当に嗤っていた。

 

 くだらない。 

 実にくだらない。

 アレは結局そういう骨も芯もない、見たままの軽薄な存在だったのである。

 

 バイナは、自虐とも後悔ともわからないモノを抱えて――

 ひとり夜を過ごしていた。

 

 

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