破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
マコネが帰ってきたのは、明朝だった。
「さすが
笑いながら、バッキーに土産を渡す。
地元の名物らしかった。
ビーフジャーキーみたいなもの。
ただし素材は、
「グリフォンだってよ。だからかね、こんだけでもけっこうな値段がしたぜ。ま、ギルドの伝手だったから少し安くなったけど。いやー、フツーだったら買わねえけどな、こんなの」
「美味しくないですか?」
バッキーが質問すれば、
「いや、すげえ美味いよ。けど、量がねえ」
「ああ、そういう」
成長期なら、味の良し悪し――
それよりも限度はあるだろうが量があるほうが嬉しい。
――美味しいものがちょっとずつってのが良い。そう思ったのはアラサーになってからだもんね、私も……。
バッキーはちょっと笑ってから、
「入れ違いになるとこでしたね」
「あン? どっか行くのかい?
「いえ。まあ、そうとも言えるし、違うとも言えますか」
「何だかわかんねえなあ。あ、そういえば」
マコネはキョロキョロしながら、
「あの色男ちゃんはどうしたよ?」
「……今から迎えにいくところですよ」
「何だよ、それ。どっか外泊かぁ」
「そうですね」
「ふーん。まさか、サキュバス街にでも放り込んだんか?」
「……」
「おいおい、マジか? すげえことしたなあ」
「何か、腹が立って……」
「そーだなぁ。けど、弱みにつけこんで
「いや、そういう手管も知らないし、自信もないです。やる気もないですけど」
「まあ、そうだろうなぁ」
「……男の子ってバカですね」
「今だけじゃねーの? どーせそのうち……」
言いかけて、マコネは変な笑いを浮かべた。
・ ・ ・
結局、僕は何もできずひと晩過ごした。
途中で水やお茶を飲んだ気がする。
頭がボンヤリしていた。
でも、外に出て朝の冷たい空気に触れると、妙に落ちついているのに気づく。
「帰りますよ」
迎えに来たバッキーさんは、ひどく怖い顔をしていた。
僕を見るなり、すぐに背中を向ける。
黒いローブの後ろ姿。
僕はそれをヨタヨタと追いかける。
きっと、ひどく情けない姿なんだろう。
帰る道筋、バッキーさんは無言だった。
僕も、何ひとつ言えなかった。
屋敷に戻ってリビングルームに行く。
いや、連れていかれたのかもしれない。
ほとんど無意識に近かったから。
「こんなこと知るべきじゃないかもしれないし、知りたくもなかったですけど――」
バッキーさんは僕を見た。
やはり、怖い顔だった。
「そうやっていじけるのはやめてくれませんか。同じ家にいるものとして、不愉快です!」
キッパリと言った。
「そんなことは……」
「ないっていうんですか? ええ、そうですね。あなたはつらかったでしょう、好きなヒトを取られて。でもね、いくらきれいでも、やさしい
バッキーさんは怒鳴った。
ものすごく怒っていた。
「それは、僕が」
「年上の女性にクラクラしてエッチな気分になりましたか、そういう目で見ましたか。私にはよくわからないけど、無理ないかもしれない。だけど、そんなことに、いい大人の女が流されてどうしますか! そんな時こそ、大人がちゃんとしないでどうする!!」
「それは、でも――」
「知りたくもなかったけど、知ってしまった。だから言います。あなたは、遊ばれて捨てられただけです。まだ、わからないんですか?」
「ううう」
僕はもう、何も言えなかった。
脱力する。
へたりこんでしまう。
でも、違和感はある。
このヒトは、一体
「慰めてほしいですか? セックスでもさせてほしいですか? しませんよ、そんなこと。サキュバス街で好きなだけやればいいことです! あなただって、こんなブスは嫌でしょう!?」
「ブスなんて」
バイナさんとはぜんぜん違うけど。
でも、あなたは――
「聞いてるんですか!?」
バッキーさんは、僕の胸ぐらをつかんで立たせる。
思ったよりも、ずっと強い力だった。
「もうよせよ――」
誰かが、バッキーさんを止めた。
「今のそいつに、何言ったってダメだよ」
そう言って、誰かが。
マコネとかマコネッタとかいう女の子だっただろうか。
「つーか、バッキー? さっきから言ってることメタクソになってねえか?」
・ ・ ・
あの子が、いない。
ベッドに横たわりながら、バイヤ・ムガン・ギネーカは考えていた。
ギネーカ。
古い言葉で、女を意味する言葉らしい。
確かに、この家は女系らしかった。
父も祖父も養子だったのか。
そんなどうでもいいことを考える。
いや、考えようとする。
体の芯から、ジクジクと火照りとも湿度ともつかないものが浮き上がる。
自分で自分の乳房をつかむ。
だらしないと思う。
あの少年のことを想う。
小さな頃から知っていた、息子のような少年。
だが、気づけば愛しい男になっていた。
あの子も、自分を女として見ていた。
だから――
抱かれたのか、誘ったのか。
後者だろう。
愛しい存在のはずだった。
それなのに、愛してもいない男に抱かれ、溺れた。
あの子が帰らなかった夜も、男に弄ばれてた。
そうなのか。
本当にどうにもできなかったのか。
娘も、家族のように過ごしてきたメイドも――
みんなあの男の玩具になっていた。
自分は、自分たちはそれを受け入れていたのではないか。
そして。
だから。
あの子を。
もうそれ以上考えるのは恐ろしかった。
あの男が仲間と帰って行った後も――
けだるい体を放り出して――
満足感に浸っていたのではないか。
あの子のことを、どれだけ考えていたのか。
翌日になって、家に来たのではあの子ではなく、ギルドナイトの女だった。
隊長なのか副官かは知らない。
少なくとも、兵士を指揮する立場にはいるらしかった。
「お宅のあの子ね」
夜中にウロウロしてたから保護して、引受先に引き渡しましたよ。
おたくが保護者か親代わりらしいと聞いてたんですけどね。
ええ、ある貴族のかたから事前に話は受けていたので。
だけど困るんですよね、こういうのは。
うちの管轄は基本冒険者であって、一般国民はポリスナイトの管轄なんです。
下手に首突っ込むと揉めるので。
ギルドナイトの女は無表情にそう言った。
あの眼は――
蔑んでいたのか。
その後――
あの男とその仲間はギルドに捕まったらしいと聞かされた。
他でも似たようなことをして、問題になったらしい。
訛りがある気がしたが、ヤオアムト国民でもなかったのか。
今さらになって、そこにも注意が言っていなかった自分に驚く。
『報告』に来たのは、あの時のギルドナイトだった。
「うちの支部長に
その時――
あの女は、今度こそ本当に嗤っていた。
くだらない。
実にくだらない。
アレは結局そういう骨も芯もない、見たままの軽薄な存在だったのである。
バイナは、自虐とも後悔ともわからないモノを抱えて――
ひとり夜を過ごしていた。