破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
夜が明けるのを待っていた、
開いた窓から、冷たい冷気を受けている。
外にはサキュバス街が見えた。
僕は、ただ風を受けてボウッとしている。
――変な感じだ。
自分が不思議でしょうがない。
ここ数日、ずっと自堕落に過ごしてきたけれど、妙に目覚めが爽やかだ。
何だか懐かしい気がした。
――ああ、そっか。
まだ小さな、本当に子どもだった頃。
夏の季節が、こんな感じだった気がする。
振り返ると、部屋は荒れていた。
荒れているというか、散らかっている。
立ち上がって、ゴミを拾っていく。
覚えたばかりの掃除用魔法で、小さなゴミや埃を集めていく。
ゴミをゴミ箱に捨てた後、部屋の中へ洗浄魔法をかける。
もっとも、最初から掃除の行き届いていた部屋だから、大してやることもない。
掃除はすぐに終わった。
「何で掃除なんかしてるわけ?」
声に振り返ると、サキュバスが起きていた。
名前はロケージョ。
最初に来た時、僕の部屋に来たサキュバス。
痩せ気味の裸がベッドに座っている。
「何となくかな」
「ふーん。だいぶ回復してる感じじゃん。最初来た時は今にも死にそうだったのに」
「まあね。けど、あの時君はほとんど無視してたよね、僕のこと」
「構ってほしくないって、全身で表現してたじゃない」
「そうか。そうだね」
つい、笑ってしまった。
「だけど、この店高そうだなあ、今さらだけど」
「高いけど、相手したの私ひとりだし。お客のお財布次第で色々コースとかもあるのよ」
「ふーん」
「ま。それも今日の昼までかな。だからそれまで、デートでもしようよ」
ロケージョは、そう言って僕の腕に手をからませた。
・ ・ ・
「ある意味で、なかなかできない体験をしたんでしょうかねェ。そのご婦人は」
ミゾイはベール下の顎を撫でて言った。
冒険者の集まる酒場。
そこのボックス席だった。
昼間なので酒を飲む者はほとんどいない。
カーシャたちも、飲んでいるのはお茶である。
「複数の男と、だらしのない『遊び』をしていることが?」
皮肉げなカーシャの笑みに、
「いやあ。そうじゃなくって、年下の可愛らしい男の子にそこまで求められて、女として見られるってことが、ですよゥ」
「そうなの?」
「だって……。あなたみたいな飛び切りの美女ならともかく、まあ美人ではあろうけど、そこそこ年のいった中年女に、そこまで入れあげてくれる男の子なんざ早々いませんよゥ?」
「ふむ。それはそう」
「そりゃあるにはありますけどねェ? 年頃の男の子なんざ、たいてい周りの連中がそういう遊びに引っ張り込む者ですから。サキュバスだって、そういう
「感じからして、あの子はその女が初めての相手だったらしいけど」
「だから貴重なんですよゥ。他の国はともかく、ここじゃあねェ」
「そういうものなのねえ。あまり興味もないからわからなかったわ。なにしろ、無駄に育ちが良いので、そういった方面は」
「ははは。そうでございましたね。ま、そういうわけで素人の女にいちいちガッつく男も、ごくわずかってことで」
「そうね。特に冒険者なら一般人とは、あまり関わりにならないでしょう。まして、恋愛ごとでは」
「さようで。まあ、ほとんどのヤツは分際をわきまえてますよ。ただ、流民じゃない。それなりの手続きで入って来たのはねえ。ええ、困ったもので。冒険者ならもっと話は早かったわけです」
おそらくは――
どこぞの国から逃げてきたボンボンでしょうよ。
ほとぼりが冷めるまで、こっちに逃げてきたのか。
とはいえ?
こっちは向こうの国にアレコレ言われる立場じゃない。
向こう様だって。
バカが数人消えたくらいで、ヤオアムトと揉めるなんざごめんでしょうよ。
むしろ、消えて清々してるかもしれない。
当然だろう。
多くの国にとって……。
ヤオアムトは得難い取引相手である。
ミズイの笑い声を聴きながら、カーシャは同意する。
「しかし、よくそんなつまらないリスクを」
「サキュバスも
「それで、あの女に手を出したと? バカらしい」
「まったくですねェ。まあ、あるいは――」
ミゾイは言って、肩をすくめた。
・ ・ ・
「今まで、お世話いただき感謝しておりますわ」
ジャコーは笑う。
貴族の貴婦人らしい、優雅で上品な笑み。
だが。
バイヤにはそれがひどく剣呑なものに感じた。
「あの子は――」
バイヤが何か言う前に、
「ええ。
「そう、ですか……」
「まあ。あの子も若いから、色々と悩むことはあったようですけど、それも人生の糧ですわね」
「……」
沈黙するバイヤの前――
ジャコーはそっと、後ろのメイドに目配せをした。
黒い、シックなデザインのトランク。
サイズは小さい。
これが、机の上に置かれた。
「ご確認ください」
言われるまま、バイヤは中身をあらためる。
そこには、高額紙幣がビッシリと並んでいた。
ハッとして顔を上げれば、
「我が家の子を世話していただいた、ほんのお礼です。どうぞ、ご笑納のほどを」
ジャコーは微笑んだ。
気に入らない、とバイヤは思う。
侯爵家夫人がこうも上品で丁寧な態度を取るとは――
ウシロ少年と親しかったとしても、自分は平民の女である。
貴族はこんな風にする意味はない。
この態度は、見下しと余裕だ。
「こんなもの、いりません!」
そう叫びたかった。
だが。
それよりも早くジャコーは、
「お金はあるほどよろしいでしょう? あなたも、娘さんたちもねえ」
また笑った。
「!?」
バイヤは蒼白になった。
確かに――
娘のメアも。
メイドのオショネも。
自分たちは身ごもっている。
誰の子なのか。
「こちらとしても安心しております。万が一、
ジャコーは微笑んだまま、
「でも違うようなので、ホッとしましたわ」
「それは」
「こっちも下手な嘘もデタラメも申しません」
わかるのですよ――
その程度のことは。
遠目から、検査の魔法を使うことでね。
そう言って、ジャコーは顔がバイヤの耳元へ――
「そういうわけだから。間違っても、あなたと息子の子だと厚顔無恥な主張はなさらないことね。おわかり?」
わかったら、お前たち全員――