破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その118、マヒトツノオニ-9 たびだちのうた

 

 

 <いや、まことに世話になった――>

 

 トーザ侯爵は、静かに頭を下げた。

 画面の向こう。

 カーシャは、巨漢の男と映像通信越しで話していた。

 場所は、ギルド本部の一室である。 

 

 宮廷でも実力者で知られる男。

 冒険者ながら、数多のドラゴンを討った英雄と呼ばれる乙女。

 ある意味ですさまじい組み合わせだった。

 

「とんでもない。こちらもずいぶんと無礼を働いてしまい、ご不興を買っていないかとヒヤヒヤしておりますわ」

 

 <そのように言われては、かえって恐縮するな。ま、後々のお礼もしっかりとするので、今後ともによろしくお願いしたい>

 

「いいえ、いいえ。何しろ一度殺しかけてしまいましたから。むしろ、お詫びを申し上げねばなりません」

 

 殺しかけた。

 カーシャはの言葉に、さすがの侯爵も一瞬ギョッとするが、

 

 <いや、うむ。そうか……。ふむ、むしろかえって良かったのかもしれん>

 

 トーザは少し考えてから、

 

 <ミズ・カーシャ。当家がなぜあの子どもを養子としたか、おわりかな?>

 

「さて。今や下賤の身となった私ごときには……」

 

 <俺はな、密かにあれをとっくり見たのだよ。使者と相対している時や、色々とな>

 

「ははあ」

 

 <そこで勘どころが働いた。あいつは今のままではダメだが、磨けば光ると>

 

「失礼ながら、それだけで?」

 

 カーシャは少し驚く。

 

 <これでも色々揉まれておったな。そういう勘は研いでおるのだ。伏魔殿たる宮廷を渡っておるのも、その勘が助けとなっておるのさ>

 

 ――そういうものかしら。

 

 カーシャは首をかしげる。

 相手の強弱や殺気は一瞬でわかる。

 危険が近づくのも感じ取れる。

 

 しかし。

 ヒトの資質とか器というものは、

 

 ――あまり、わからないのよねえ?

 

 そういう意味では、

 

 ――何千年殺し合いをしていようが、私は単なる小娘か。喜ぶべきか、嘆くべきか。

 

 まあ。

 閉ざされた場所で同じことを繰り返すのなら――

 何年たとうが、成長なんかできないわけね。

 

 そんなことを考えて……。

 カーシャは己の有様に内心で失笑した。

 

 

 ・  ・  ・

 

 

「ここだけの話だよゥ?」

 

「そういうセリフは、尾ひれがついて広がると言ってるようなものだぞ」

 

 ミゾイに対して――

 ライワは、いわゆるジト目で返した。

 紫の髪の毛をわずかに揺らしながら。

 

「あっははは。確かに、でもお前さんはつまらないことは吹聴しないだろう? 口の軽いおしゃべりは、ギルド本部の、ギルドナイトの隊長になれるものかい」

 

 ミゾイは愉快そうに笑う。

 

「誰が他でしゃべるものか、そんなくだらん話」

 

「だからしゃべったのさ。私はおしゃべりだからねェ?」

 

「悪趣味だな」

 

 ライワは呆れた顔を向ける。

 フェイスベールの下、裂けた蛇の口を歪ませる同僚に――

 

「しかし、あの女はどうすれば良かったのかねェ?」

 

「知るものか。下手に隠し立てしようとして深みにはまったんだ。バカの自業自得だな」

 

 ライワはそう切り捨てた。

 

「非情だねえ」

 

「お前なら、かけるのか? その自堕落な女に情けを」

 

「いやいや。そんな義理はないよゥ」

 

 ミゾイは笑って、手を振った。

 

「そういうことだ」

 

「そういうことかねェ」

 

 ミゾイは少し背伸びをしながら、

 

「どうすべきだったかな、その女は」

 

「はっ。どうするも何も。相手の子どもを、飽きたから出ていけと追い出せば良かっただろう。引き取り手はあるんだ。遠慮があるものか」

 

 いや――

 実際そうなったのか、結果的には。

 

 ライワはお茶を飲み干し、この場にいない『その女』を見た。

 

「そんなことすりゃ、向こうの貴族様の心象悪くなろうねェ。てめえで引き取ったくせに、と」

 

「ことが露見すれば、遅かれ早かれだ」

 

「まあ、そうか――」

 

 ライワは少しだけフェイスベールを取ってから、

 

「私の意見としては、結局のところつまらない見栄だろうさ」

 

「ほう。見栄か」

 

「相手の子どもに、素敵な女のヒトと見られたい――そういう欲と見栄さ。色に狂ってるのに、清純な乙女みたいな心境だったのかね。いい年の女がさァ」

 

「失望されたくなかったか」

 

「捨てるくせに、嫌われるのは嫌。憎まれるのも厭。まあ、ワガママなことだよゥ」

 

 女ってのは――

 そういうもんだけどさァ。

 

 ミゾイはクスクスと笑う。

 

 

 ・  ・  ・

 

 

 屋敷の前には、古式の馬車が停車していた。

 本当の馬が引く文字通りのもの。

 ただ。

 そのサイズは、大きくて頑丈そうだ。

 特注品である。

 馬も、大きい。

 巨体で足も太く、全身から力強さが漂っていた。

 

 馬車の前には、ウシロ少年と巨漢のトーザ侯爵。

 見送るのは、カーシャたち4人。

 

「まあ、お元気で」

 

 カーシャはおざなりな返事をして手を振る。

 

 挨拶が終わり、まず侯爵が馬車に乗り込む。

 続いて、ウシロ少年。

 だが。

 少年は、少し振り返ってから、

 

「あなたみたいな英雄とお話しできたのは、一生の宝です。何だかスッキリしました。それに」

 

「それに?」

 

「多分、もう何も怖くはありません」

 

「大仰なことを」

 

 カーシャは肩をすくめたが――

 少し、意地の悪い笑みを浮かべ、

 

「次に会う時は、得体の知れない男に抱かれて、よがっているかもしれなくってよ」

 

 雌犬のようにね。

 

 そう言うと……。

 ウシロ少年は少し考えてから、

 

「もし、そういうヒトがいるとしたら――」

 

 ちょっと笑う。

 

「きっと、伝説に残るような英雄でしょうね」

 

 ――まあ。

 

 ――そうだろうなあ。

 

 バッキーとマコネは顔を見合わせ、無言で同意し合う。

 

 ――?

 

 ボロンは、よくわかっていなかった。

 

「ふふん」

 

 カーシャは、鼻で笑う。

 

 ――小賢しい。

 

 と、思った。

 

「それでは、皆さんもお元気で」

 

 礼をしてから、少年は養父と共に馬車に入っていった。

 

「これからは――」

 

 トーザ侯爵は、愛用のカフェ・シガーを(くゆ)らせた。

 コーヒーの香りが車内に漂う。

 

「色々と忙しくなる。きつくもなるぞ」

 

「はい」

 

 少年は、目の前の巨漢を見つめた。

 

「僕も、父上のおそば――貴族として、男として、たくさん学びたいと思います」

 

「ははは。こやつめ」

 

 トーザ侯爵は笑い、うなずいた。

 

 その時――

 

 ――おじいちゃん、さようなら。

 

 少年は、心の中で本当に祖父へ別れを告げた。

 

 ()()()()()のことは、もう思い出さない。

 あるいは。

 風の中に消えていった。

 

 

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