破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
「ヤオアムトはサキュバスの国だ」
そう言う者が一定数いる。
――まあ、ある意味ではそうなんだろうな。
と。
ロケージョはボンヤリ思ったりする。
ヤオアムトに流れてきてから、10近く立つ。
ここで、子どもは産んでいない。
いや――
まだ産んだことはないのだ。
――産もうとすれば、すぐ産めるんだよね。
この世に生を受けて120年たつ。
ロケージョの動向は……。
いささか、どころではない。
かなり遅れていると言えた。
サキュバスの寿命がない。
だが、成長速度は人間とほぼ変わらないのだ。
20年たてば立派な大人である。
とはいえ。
成長しつつも、容姿には個人差があった。
これはかなり大きい。
基本人間で言う18歳くらいの姿だが――
中には30代だったり、ロケージョのように13歳くらい見える者もいた。
このへんも、あまり問題はない。
姿……外見年齢など、サキュバスにはどうとでも変えられる。
その気になれば、赤ん坊に擬態することも容易だった。
もっとも。
できるからといって、実際にする者は少ない。
要は、他の種族に需要があればよいのだ。
そういう点では、わざわざ容姿を大幅に変える必要はなかった。
事実、
――私みたいな姿の女が好きなやつってけっこう、多いんだよねえ。
サキュバスは他種族の精を喰らって生きている。
また。
他種族の男がいなければ、子孫は増やせない。
いくら長命種であろうと永遠不変ではないのだ。
子どもができなければ、絶える。
一方で――
サキュバスは、同族と他種族の子ども。
その産み分けが可能だった。
男女もである。
他種族の子であっても、サキュバスの因子をある程度受け継ぐのは間違いない。
というよりは……。
父親の持つ要素を、より強化させるというべきか。
高い魔力と生命力。
適応能力を始めとした能力の高さ。
無論、個人差は大きい。
だが。
代々底上げされていった血筋は。
それは、途中でまたサキュバスの血を引き入れて、強化される。
ヤオアムト人全体が持つ高い魔力や魔法適性を持つ傾向。
それはサキュバスとの交雑が最大要因だった。
・ ・ ・
「ふわぁ」
特に用事もないので、店を出た。
日は高く、開店時間はまだまだ。
ロケージョはラフな服装で、サキュバス街の外へ。
あまり外を出歩く者はいないため、少し目立つ。
かといって、さほど注目も浴びない。
サキュバスは――
ヤオアムトでは、完全に日常へ溶け込んだ存在だ。
――よそでは、まあわりと面倒だったけど。
ヤオアムトを中心とした文化圏。
それは遠くに行くほど、サキュバスへの態度は悪くなる。
人外の悪しき存在。
そのように解釈する国や文化圏も多い。
だから。
ヤオアムトのように、街中で普通に生活しているパターンは珍しい。
多くは、正体を隠して密かに潜伏している。
正体を見破ることはまず、できない。
魔導大国である、ヤオアムト。
そこの技術でさえ擬態を見分けることは難しいのだ。
遅れ、劣った他国の魔法ではほぼ不可能に近い。
それこそ。
古代の神、あるいはハイエルフと呼ばれる存在が残した遺物。
そんなものでなければ、判別はできないだろう。
あるサキュバスなどは――
侮辱された復讐心から、国の中枢に入り込んで、その国を瓦解させた例もある。
「よほど腹に据えかねたんでしょうねえ」
と。
古老と言える年齢のサキュバスは語っていた。
人間の伝説では……。
最後に正体を見破られたそのサキュバスは、人間の勇者に討ち取られたとある。
しかし。
実際はまんまと逃げられ、国は他国に滅ぼされたそうだ。
確かに。
こういった事例を見れば、『魔族』という蔑称も仕方ないかもしれない。
――とはいえ、迷惑だわね。
ヤオアムトが2千年近く前から、現代まで――
動乱や危機を迎えながら、永らえてきた理由。
それは、人口減少がないことである。
ある程度の金。
もしくはそれがなくても、子どもができる。
この世界では、モンスターやダンジョンの存在で死亡率が高い。
ゆえに、極めて有用だ。
過去。
それこそ、数千年前の古代。
今のヤオアムト以上に、技術や文化、文明の発達した国は存在していた。
ロケージョは伝聞でしか知らないことだが。
・ ・ ・
これは――
ヤオアムトの存在する、南方の大陸ジャンブー。
それとは別の、大陸のおける古代史。
数千年前。
いくつもの文明国が存在した。
その大陸では、サキュバスの勢力は弱く、数も少なかった。
理由は色々あるが、ともかく少なかったのだ。
そもそも。
人間族以外の種族が、極めて少数だったのである。
彼らは、モンスターの一種、あるいは亜人と呼ばれた。
ただ。
サキュバスが弾圧されていたわけでもない。
強大な魔力を操る種族を力でどうにかできる国も種族もいなかった。
また。
擬態して群衆に紛れてしまえば、もう追跡はできない。
先の例にもあるように……。
宮廷に入り込み、権勢を振るう例もあったのだ。
さて。
その文明群は、ダンジョンやモンスターの対処もある程度は出来た。
つまり、それだけ基盤が強固だったわけである。
モンスターも脅威というより、有用な資源だった。
順調に行けば。
あるいは、現代まで存続し、他大陸にも進出していたかもしれない。
だが。
そうはならなかった。
歪つに進んだ文明は、急激な少子化をもたらした。
構造として――
上位層の男が多くの女を独占するという構図。
あるいは。
ほとんどの女が、上位層の男に一極集中した、とも言える。
まるで……。
原始生活を行う蛮族のような有様だった。
結果。
文明群は緩やかに衰退し、瓦解した。
モンスターや自然災害への対処。
インフラの整備。
特に前者。
原始生活をするのであれば?
むしろ、上位層こそ率先して立ち向かうべき事案。
だが。
実際にそれを任された……いや、押しつけられたのは下層の男だった。
これで、社会維持の意欲などわくはずもない。
瓦解は必然だった。
文明が瓦解した後。
サキュバスたちはようやく、動き出した。
いや。
すでに動いていたのだ。
下層から中間層の男たちを巧みに取り込んで、自陣に引き入れた。
文明の砕け散った大陸内。
サキュバスたちは一気に勢力を広げていき――
爆発的に増加した後、また消えた。
多くがいずこかに旅立っていったのである。
残ったのは少数のサキュバスと、サキュバスとの混合で『品種改良』された人間族のみである。
やがて――
改良された人種が、他大陸へ移住していく。
といっても――
多くが途中でモンスターや自然の脅威で死んでいったが……。
そのわずかな一部。
この血統が、今のヤオアムト王族につながる――らしい。
正確なところは、わからないが。