破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
「おいらは、正式にはコヒョータってんだ」
コヒィは干し肉をかじりながら言った。
それから。
少女のほうを振り向く、
「こっちの姉ちゃんは」
「ナバティバウよ」
「みんなは、バティって呼ぶよ」
「言っとくけど、親しいヒトだけだから」
あんたは呼ばないでよね!
と。
バティは冷たい声で釘をさす。
「そう。わかった」
テラはそれだけ言って、そっぽを向く。
いや。
違う方向に視線をやった。
「は? なに、その態度……」
バティはㇺッとするが――
いきなり、テラは刃を抜いていた。
黒い刀身が、月明かりでギラつく。
「あ、あんちゃ、ひょっとして」
コヒィはハッとした顔でテラを見上げた。
「逃げたほうがいいな」
言うなり――
テラはふわりと跳躍して、屋根に飛び乗る。
GHAAAAAAAAAAAA!
闇夜の空。
ゾッとする叫びをあげ、翼が広がった。
そこからあっという間。
村の上空に、数騎のワイバーンライダーが飛び交う。
「き、来たのか!?」
「早い、早いよ……!」
あわてて、村人は武器を手に飛び出してくるが、
「ひゃああ!?」
コヒィが叫んで飛びのく。
その前に、ドシンと――
バラバラになったワイバーンと、
GHHH!?
「がっ……」
GHA……!!
「ぎゃっ……」
「……!?」
声とも言えない声。
いや、悲鳴か。
同時に……。
ベチャリ、と飛び散る血と肉片。
夜空に、黒い風――のようなモノ。
それが跳ぶたびに、死体が落下してきた。
「す、すげえ……!」
コヒィは息を飲む。
「な、何なのよ、これ……」
それは少女も、村人たちも同じだった。
それは、活劇でも英雄譚でもない。
一方的な殺戮だった。
死体。
死体。
死体。
無慈悲に、ただそれを増産するだけ。
数分後。
ワイバーンライダーは、全て殺されていた。
まさに、全滅。
「う、嘘だろ?」
「こんなに、あっさり……?」
転がる死体を前に、村人たちは呆然としていた。
「な、なあ?」
「え?」
「ひょっとして、ワイバーンって意外に弱いのか?」
「バカ言え」
「だ、だってあんまり……」
「そりゃ、確かに……」
あっけない幕切れ。
それに、ある意味当然の声が出始めた。
が――
「バカ者!!」
そんな村人へ、凄まじい一喝が飛んだ。
目を怒らせているのは、フルト村長である。
「おい、お前ら。そう思うのなら、その槍や弓で、ワイバーンをやってみろ。怖がるな、もう死体だ」
村人たちは……。
村長に促され、手にした武器でワイバーをついてみる。
途端に、
「うわ……!?」
「な、何だコレ!?」
「指が、手が……」
ワイバーンの鱗。
それは鉄製の武器を苦も無く跳ね返す。
「腰が引けてるぞ! もっと思い切りやれ、叩き潰すつもりでだ!」
何度も村長の声が飛んだ。
言われるままにする村人だったが……。
「ダメだ……」
「槍がダメになった」
「何だ、この鱗。斧が……」
まともに傷を負わせることはできなかった。
「どいておれぃ!」
そこへ――
村長はライフル銃を手にして、
「みんなどけ、離れていろ! 跳弾するかもしれんぞ!?」
叫んで周りを追い散らした後。
ワイバーンの死体を、撃った。
2発、3発……と。
弾丸を全て撃ちつくした後で、
「どうなったか、みんなよく見てみろ」
ワイバーンの鱗。
多少へこんだり、傷ついている個所。
あるいは、鱗の取れた部分もあった。
しかし、
「ほ、ほとんど傷がねえ……」
「ホントだ、村長さんのアレ、熊撃ち用の銃だぞ?」
驚いてかたまる村人たちを村長は睨み、
「わかったか? 魔力のない攻撃は小型ワイバーンにもほとんど効かないんだ! この村に強い攻撃魔法を使えるヤツがいるか? いないだろう!?」
そう叫んでみんなを叱る村長。
これを見ながら、
「あんちゃん、やっぱすげぇな!?」
コヒィは、いつの間にか戻ったテラに言った。
「どんな修業したら、そんなに強くなるんだい?」
「知らないほうがいい」
尊敬のまなざし。
テラはそれを避けるように、顔をそらした。
しかし――
すぐ気を取り直して、
「仕事はした。酒と金をくれ」
と。
冷静な顔でコヒィに言った。
これに、
「いや、待った。酒は村で一番のを出すよ! でも、まだなんだ!」
「……ああ。アレで全部じゃないのか」
コヒィの言いたいこと。
テラはそれを察して、とんがり帽子をかぶり直す。
「そ、そうなんだ。オレはチラッと聞いただけなんだけど、すげえのに乗った親玉がいるらしいんだ!」
コヒィはうなずき、興奮してテラを見上げる。
「向こうの本拠地がわかれば、楽なんだがな」
テラはため息を吐く。
そこへ、
「この子の言う通りなんだ。こっちに戦力があるとわかれば、向こうも本腰を入れるだろう」
村長がやってきて、テラの手を両手でつかむ。
「まだ、あなたの力が必要だ。手を貸してもらいたい」
「請け負った以上、仕事はするよ」
テラは少し困ったように応える。
「ありがたい。みんな、準備だ! 次からは本格的な戦いになるぞ!」
フルト村長の号令のもとで――
村全体が、大急ぎで戦闘態勢に入っていく。
その間。
テラはまた屋根に昇り、夜空を見ていた。
下の喧騒など、知らん顔だ。
しかし、
「今度は何の用事?」
振り返りもせず、後ろの相手に言った。
「後ろにも目があるわけ……?」
相手――バティはきまり悪げに応える。
「そんなものはない」
「ふん……」
同じく屋根に昇ったバティは、テラの背中を見る。
「あんた、すごく強いんだね」
「そうだね。あのワイバーンと比べれば、強いよ」
「なに、その言いかた。俺は最強だー、とかやらないわけ?」
「やってほしいの?」
「ンなわけないでしょ!」
「ああ、そう。
……前は――」
「……え?」
「前なら、やったと思う」
バティはテラの言葉に一瞬黙るが、
「前って……」
「今よりも前、かな」
「昔ならって、こと?」
「うまくは言えない」
「ふうん。何か意外……」
バティは、ジッとテラの後ろ姿を見る。
「じゃあ。何で、あんたそんな風になったの? スカしてるっていうか……」
いや、違うかな……?
言葉の後で、バティはすぐに首を振る。
「あんたの眼とか……。ゾンビのほうがまだ生き生きしてるよ?」
「ふうん」
「いや、ふうん……って」
バティは呆れてため息を吐いたが、
「私のこと、バカにしてたでしょ」
「なんで?」
「そりゃ、ちっぽけな村のガキが、ものすごい強いヤツに偉そうに食ってかかって……。さぞかし、滑稽だったでしょ? 自分でも笑えるわ」
バティは苦いものを吐き出すように言った。
「別に」
「いや、だから……」
「どうでもいいし」
「……あ、あっそ」
「……」
バティはそっぽを向くが、テラは無反応。
すこし無言が続いた後、
「ちょっと、こっち向いてくれる」
「なに?」
根負けしたように言うバティ。
少しだけ振り返るテラ。
すると、バティの手の炎が宿った。
火炎魔法の一種らしい。
「私、ちょっとだけど魔法が使えるんだ。これで、大きな熊をやっつけたこともあるよ。ギリギリだったけどね」
「へえ」
「この村だけじゃなくって、周りの村と比べてもけっこう使える、強いほうなんだ。モンスターだってやっつけたことあるよ」
スライムとかそんなんじゃない。
もうちょっと強くてヤバいのをさ。
言ってから、バティは炎を消す。
「だから、自分でも村を守れる。守れてるって、思い上がってたんだ。でも……」
だが、返事はない
「……ちょっと、聞いてるの!?」
バティは叫ぶが、
「……。え?」
そこに、テラの姿はなかった。