破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
あー、もう
推敲で時間かかるし、加筆で文字数増えるし……
カーシャは再び丘の上に立っていた。
マサミカの街、正確にはその城壁が見える。
動き出す前にいた場所。
「ずいぶん、
少し疲れた声で、タロザが言う。
「まあね」
「クエストも終わったことやし、もうちぃとゆっくり帰りません?」
「……」
カーシャは少しだけタロザを振り返る。
「別にいいけど。急ぐ用事もないし」
「おおきに」
2人はマサミカへ続く街道を目指し、静かに歩き出す。
「おねえさん、バタムでも拝見しましたけど、大した腕前でおすなあ」
「それはどうも」
カーシャは歩みを止めず、声だけを返す。
「えらいご活躍で今やドラゴンスレイヤーやないですのン。立派な称号までもろて万々歳ですなぁ」
「……かもしれないわね」
「それだけの腕をお持ちなら、なんぞ大志でもおありに?」
「ない」
カーシャは即答した。
「さよか……。なら、
タロザはふむと頭をひねりながら言う。
「おあし?」
「ああ、こらまた失礼を。お金いうことです」
「興味ないわね」
「ふーん……」
そして。
沈黙が続くうちに、街道へと出た。
「おねえさんは、生きがいとか楽しみはおありに?」
「それも、ないわ」
「せやけど、なんぞありますやろ? オシャレとか色恋とか。死人やないんですから」
「死んでないから生きてるんでしょ」
「あれまぁ……」
タロザは切れ長の目を見開いた。
「贅沢はしたいだけしたわ。宝石もドレスも、最高級の料理やお酒も」
「……もうお飽きになったんどすか?」
「落ちぶれて全部失っただけ。だから冒険者をしてる」
「……達観されてますねえ」
「どうかしら」
カーシャはそう言ってから、
「あなた、私の素性なんて全部わかってるんじゃないのかしら」
「……ええ、失礼ながら」
「調べなくっても、耳に入るでしょうから」
「お怒りになりませんの?」
「別に。隠しているわけでもないから。喧伝する気もないけど」
「さよか……」
タロザは扇子でこめかみのあたりを搔きながら、
「余計なことやと思われるんを承知で申しますけど、おねえさんは悪目立ちされてるンちがいます?」
「なにを今さら。悪名ならとっくに広まっていてよ」
「そちらやのうて、ドラゴン退治にエルフ討伐……ご活躍は中央にも知られてますやろ」
「ふうん……。そういうのは、あまり考えてなかったわね」
カーシャは白い指で形の良い顎を触りながら、つぶやくように言った。
自分が無関心だから、知らないうちに意識からはずしていたのか。
――だけど、向こうもそうだとは限らない……か。
迂闊。
そんなことを繰り返している気もする。
結局、そのへんは成長できていないのか。
しかし、いくら強かろうとドラゴンを殺そうと、
――小娘1人が国を相手にするなんて非現実もいいところだわ。ましてヤオアムトのような大国を……。
抜きんでて、優れた魔法技術を誇る魔導大国。
広大な国土と、軍事力と経済力。
ヤオアムトは大陸の中で、最低でも上位5位に入る国。
――あるいは? 祭り上げて利用する? それもないか……。
カーシャは、色々と可能性を考えてみる。
――けれど……そうね、もし自分が逆の立場なら目ざわりには思うか……。国外へ放り出せば、他国に取り込まれる可能性あり……。一番良いのは、さっさと死んでくれること。
かと言って。
向こうの都合で死んでやる
――死ぬにしても……。
敵を殺せるだけ殺してからだ。
巻き添えで死ぬ者も多く出るだろう。
だがそれは、
――不運だったと諦めてもらうしかないわ。
自分を恨もうが憎もうが、復讐を考えようが。
それは自由だ。
多少、考えがまとまった後――
――ふむ。
カーシャは歩きながら、
「そういえば、あんたが言ってた怖い腕利きは、どんなヤツだったのかしら?」
「正直、評判ええとは言い難い
「会ってみたいものね」
「そら、やめたほうがよろしィですよ。気ぃ
「別にこっちだって似たようなものだけど。まあ、いいか……」
カーシャはその話はやめることにした。
「おい、そっちだ!」
マコネは声を飛ばしながら、ダガーを投げる。
ギィィィッ
短い悲鳴をあげながら、大きな虫が動きを鈍らせた。
*死肉転がし。
雑食性の昆虫型モンスター。
名前の通り、死肉をボール状にして転がす習性がある。
研究者が調べたところ、そのボールへ卵を産みつけるようだ。
それだけならいい。
しかし、コレは――
――なんでも喰うんだよなあ……。
マコネは近づいてきた一匹をしとめながら、思う。
雑食性。
死体がなければ、畑を荒らす。小型の家畜まで襲う。
実に始末が悪い。
「このぉ!!」
死肉転がしを、少年が棍棒で叩いた。
大型害虫は群れを成してあちこちを這いまわっている。
「そっち行ったぞ!」
「ぶっ殺せ!」
少年たちはそれを棍棒や小さな石槍でしとめていた。
ギギギ
ギギギギギ
しかし。
いくら小型といっても、モンスターはモンスター。
子供の力では、簡単に一発KOとはいかない。
中には逆襲してくる個体もいた。
「うわぁ!?」
パチン!
その瞬間、半透明の膜が虫を弾き飛ばした。
「おい、
「う、うん……!」
マコネの怒鳴り声を受けながら、少年は虫を突き殺す。
「うう~~ん……」
そんな様子を、バッキーは後衛から見ていた。
正直危なっかしいと思うが、
「できるだけ手ェ出すなよ?」
とマコネから繰り返し言われている。
どうにかこうにか。
死肉転がしをすべて片づけてから、
「あー、やれやれ。ガキンチョの世話は疲れるぜ」
投げたダガーを回収しながら、マコネはつぶやいた。
正直、わざとらしい。
――あんまり年変わらないじゃん……。見た目ほぼ小学生くらいだし。
バッキーは小さく苦笑する。
――あー、でも。あれくらいの時期だと2~3歳ちがったら、うん。私も小学生の頃は中学生が大人に見えたもんなー。
集まっているのは、みんな身寄りのない孤児ばかり。
ネビズにはあちらこちらから、そういう子供が集まってくるらしい。
マコネは、時々そんな子供を集めて簡単なモンスター退治、
――いやこのレベルだと、害虫駆除だよねえ。
というほうが正しい。
バッキーも付き合うのは初めてではない。
経験や訓練を重ねながら、冒険者として必要なことを学んでいく。
そういうことらしい。
「ありゃ?」
と。
マコネが街道のほうを見て、声をあげた。
長い髪の女が歩いてくる。
歩く。
確かに、そう見えるのだが――
そのスピードは驚くほど速い。
「姐さんじゃねーか」
「え? あ、ホントだ」
2人がそう言っているうちに、カーシャは目の前にいた。
「姐さん、もう片づけてきたのかい?」
青髪の美女に駆け寄りながら、マコネは言った。
「ええ。腕の良い探知役がいたので」
「へー。あのキツネ、やっぱ腕利きだったんだなあ」
マコネは感心しながら、
「そんで姐さん、様子でも見に来てくれたのかい?」
「やることもなかったから」
言いながらカーシャが視線を送ると、
「……!」
「………ッ」
「ひっ……」
子供らはいっせいに飛び散って、道を空けた。
「……やっぱり、みんな怖がってますね」
バッキーはなんとなく、しんみりした気持ちで言った。
「しゃーねえけどな。ごつい冒険者どもだって姐さんにゃビビるんだ。ガキなんざ、おびえねーほうがオカシイよ」
マコネは頭をかいてから、
「おーっし! 武器の手入れ、確認はしたかお前ら!」
気を取り直して、子供らに声をかけていった。
あれこれの仕事を片づけた後、ユオン・キナは王宮の廊下を歩いていた。
「――どういうことだ」
強い怒気をこめた男の声が響いた。
美声である。
「?」
聞きおぼえのある声。
ひょいっと物陰より様子をうかがってみれば、
――おやおや。
凛とした水色の瞳。
スラリとした――それでいて……。
服の上からでも、鍛えこみ、引き締まっていることがわかる肉体。
女なら、いや……たとえ
――ジーザ殿下はなにをご立腹なのやら……。
ジーザ・イノイ・ヤオアムト。
ヤオアムトの王太子。
他の国々でも知られた、白面の貴公子。
それが、宰相をつめているのだ。
「いえ、ですから。すでに裁きもくだされ、貴族でもなければ、王都からも放逐された者です……。わざわざ殿下のお耳へ入れることもなかろうかと……」
「それは俺が決めることだ」
「はっ。ご無礼を申し上げました……! お許しを……」
大臣はあわてて顔を伏せ、謝罪する。
しかし?
位置的に王太子からは見えていない……が。
伏せた宰相の顔には、
「だから黙ってたんだよ……」
そんな内心が見てとれた。
――ありゃまあ。お気の毒に……。
「し、しかしながら殿下? 身分も財産も失った……そのような小娘をわざわざ追い回すというのは、いささか……。話が広まれば、かえって王宮の権威を汚すのではありませぬか?」
「む……。そうだな。すまん、取り乱していた」
宰相の言葉で、王太子は多少の落ちつきを取り戻した。
「だが。何をどうやったか知らないが、ドラゴンスレイヤーの称号を得たのだぞ。それを足がかりに、再びリーンを害することがないと、どうして言える?」
やはり
――ふうん? 恋するオトコノコも大変ですねえ。
「あの女が過去リーンにどれだけの非道を行ったか。お前も知っているだろう」
すべては愛しい〝お姫さま〟を思うあまり――らしい。
――お若いから、仕方ないんでしょうけどねえ。
幼少時から王族教育を受けてきたとはいえ、
「殿下、妃殿下がご心配なのは無理もありません。しかしながら、仮に何事かあったとしても、王宮の、そして国軍の威信にかけ、お
宰相は臣下の礼を取りながら、噛んで含めるように言った。
「……わかった。軽率な発言だったな。すまん」
「もったいなきお言葉……」
こうしたやり取りの後。
「はあ………」
王太子が去り――
1人になった宰相は、大きく肩を落としていた。
「お疲れのご様子で」
ユオンはすっと宰相の後ろに立つ。
「……見ておったか」
「失礼ながら」
「あまりにも、予想外にすぎることだからなあ。まさか、あの娘があんなことになっているとは……」
「そうですねえ……。豹変というレベルじゃありませんから」
「
「う~~ん……。のたれ死にか、物乞いか。良くっても冒険者ギルドの下働き――というのがオチですよね、フツー。魔法が使えてたら、どっかのパーティーに加わって後衛職になってたかも?」
「アレでは……別人のなり代わりだったほうが、億倍もマシだ」
「入念に入念を重ねた検査で、本人だと判明してますから。しかしま、嫌われてましたし? そりゃもー、
「実際、それをしようという連中もおるが……」
「ギルドのほうで牽制してきたんでしょ? まっさきに損害を
「さよう。それがきっかけで他国が付け入ってくる危険性もな」
「しかし? あそこに面してるのはヒーダです。かの国は内乱やら何やらの後始末でゴタついてる最中。しばらく心配はないのでは?」
「白々しい。だからこそ、危ないのではないか」
大臣は飄々(ひょうひょう)としたユオンに鼻白む。
「あー……。新興の勢力、そうじゃなくっても流民が山賊になって押しかけてくるかも?」
「まったく、頭の痛いことだよ……」
ユオンの言葉に背を向けながら、大臣は足早に去っていく。
「大変ですねえ、あっちもこっちも」
美少女エルフは