破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
ブシュッ……と。
水が噴き出すような音。
「へ?」
振り返ると、
首を斬られた仲間が、ドサリと倒れる。
離れた場所には、兜ごと両断された首。
「な……」
叫ぶ前に、男は絶命した。
体を四分割にされて――
――グルっと、回ってみたけど……。
メキリ……と。
転がる首のひとつを踏み潰して、テラは村を見た。
騒がしい。
それに、
「本隊か、陽動か」
どっちにしても、
――請け負った仕事はやらないとな……。
そう思い――
すぐに動き出しかけたが、
――いや、その前に。
テラは自分が殺したばかりの死体。
人間やワイバーンを見返して、少し考える。
・ ・ ・
「き、来たぞ!?」
「銃だ、それからクロスボウも!」
「バカ、ワイバーンに効くか!」
「違うよ、アホ! 騎手を狙うんだろうが……!」
喧騒と喧騒と、喧騒。
月の下。
複数のワイバーンが乗り手を運び、飛ぶ。
その中心には、ひときわ大きな……
「ワイバーン、じゃない?」
誰かがつぶやいた。
確かに。
四つの足を持つ、角を持った姿。
それは明らかに――
「ドラゴン……!?」
弓を手にしたバティは叫んだ。
「何てことだ……」
フルト村長は、ライフル銃を手に奥歯を噛む。
小型。
とはいえ、ワイバーンよりも上位にあたるドラゴン。
典型的なドラゴンらしい姿をしたもの。
それを、敵のボスは悠々と乗りこなしている。
「なかなかのご活躍だったらしいな?」
ドラゴンの上から、ボスが嘲るように言った。
「どうやら、ここにはずいぶんと腕利きがいるらしい!」
その言葉に、
「お、おい。あのあんちゃんは?!」
「ど、どこだよ、こんな時に……!!」
確かに――
この場に、用心棒であるテラはいない。
「あ、あいつ、肝心な時に……?! まさか」
逃げた――と、バティは最悪の事態を考える。
「何だ、おい。こっちの仲間を
ボスは拍子抜けした顔で言ったが、
「まあ、いい。逃げたにしろ何にしろ、やることは変わらん」
その途端、率いられたワイバーンライダーたちが、
「まったくだ!」
「いやあ、今まで通りじゃない!」
「こっちは仲間が何人も
「おう、復讐戦といこうぜ!」
これに、村人は青ざめるが、
「勝手なことを言いやがって!」
バティは弓を構えて、小さく叫ぶ。
「ほう、魔力つきの矢か?」
それを見たボスは、ニタリと笑う。
「だが、そんなもんだけでどうにかなると、本気で思ってるわけじゃないよなあ、可愛いお姫様?」
これに――
ワイバーンライダーたちは、ドッと笑う。
「バカにしてぇ……!?」
カッとなり、バティは矢を放ち――
……かけた時だった。
ヒュン、ゴロン……と。
何かが落下して、地面に転がった。
「ひゃ、なに……!?」
思わず飛びのいたバティが見たのは、
「首?!」
切断された、人間の首だった。
それから――
ヒュン、ゴロン……ヒュン、ゴロン……と。
いくつもの生首がどこからか、飛んでくる。
「な、何だ、こいつは!?」
予想外の予想外。
これにボスは驚き、とまどう。
しかし。
事態はさらに動いて、
「あ……」
「ひっ……」
「なにぃ?!」
「な……なんだぁ!?」
ワイバーンライダーたちの声。
それと同時に、降り注ぐ血の雨。
「ひゃあ!?」
「うわ……。何だよ、これ!?」
驚くのは、村人も同じ――
そんな中で、
「あんちゃん!」
コヒィが叫んだ。
ふわり、と。
空中から飛び降りたのは、テラ。
この時には……。
空を覆うようだったワイバーン。
それらは、全て地面に墜落している。
「き、貴様が……!?」
ようやく事態を理解したボスは手綱を引く、
だが――
「ぬわあぁぁぁ!?」
その時には、ドラゴンの首はなかった。
地面に立つテラ。
左手には、ドラゴンの首をつかんでいる。
「く、くそったれぇ……!?」
墜落しながらも、ボスは飛び降りて転がる。
それに、テラは一歩ずつ近づいていった。
「そうか……。やっぱり、貴様は〝転生者〟か!?」
叫んで立ち上がるボスの手。
ガントレットに覆われた手には――
銀色の、奇妙なハンマーが握られている。
ハンマーを見て、テラは少しだけ反応した。
――打ち出の小槌。
そのハンマーは、大黒……。
いわゆる大黒天像が持っている小槌とよく似ているようだ。
「……だったら、こっちにも手はあるぜ」
ボスの言葉に、テラは足を止めた。
無感動な、バティ
「ゾンビのほうがまだ生き生きしてるような眼」
……が、冷たくボスを見ている。
「お前らは反則まがいのスキルを持ってるらしいがな……」
ボスは銀のハンマーを振り上げ、
「それがなきゃ、タダの虫けらだろうが!!」
叫びと共に、ハンマーは勢いよく振り下ろされる。
瞬間。
銀色の粒子が、水しぶきみたいにテラへほとばしるった。
その時、テラはチラリと後ろを見る。
コヒィやバティ。
その他、村長や多くの村人たち。
――請け負った仕事。
自分の行った言葉を、思い返す。
そして――
銀の粒子は、手をかざすテラに命中した。
シュウッ……と。
飛び散る粒子と共に、テラの体は揺らいだ。
「はは。これで、終わりだなあ?」
ハンマーを手に、ボスは嘲笑う。
「もう、お前のスキルは消えてなくなったぜ?」
さあ、どうする?
テラに、侮蔑の声と視線が飛んだ。
これに対して――
テラは無言でボスへと近づいていく。
「ハッタリか?」
ボスは冷笑して、
「だがな、こいつはお前みたいなインチキ野郎を何人も片づけてきたんだぞ?」
ハンマーで片手のひらをポンポンと叩く。
「向こうの世界の負け犬が、インチキを手にしてこっちでデカいツラをしてる。知ってるヤツは知ってるんだ!」
ペッ、と。
テラに向かって唾を吐きかけた。
それは――
空を切って、地面に落ちる。
「え?」
いつの間にか。
銀のハンマーはテラの右手に握られていた。
そして、
バキン、ベキリ、グチャ……と。
テラはハンマーでボスの手足、顎を叩き折り、砕いた。
やがて、イモムシのようになったボスを、
「好きにしろよ」
つかみ、村人のほうへと放り投げた。
「あ、ひゃ……?」
自分に何が起こったのか。
理解できないまま、ボスは村人に囲まれ、見おろされていた。
「お、お見事です」
テラに、フルト村長が言った。
「村を囲んでいた伏兵どもに、すぐに気づいて片づけるとは……」
「別に。受けた仕事だから」
「これは、約束の代金です。村中から集めました」
「そう」
差し出された革袋。
テラは中身を確認してから、小さくうなずいた。
「ご心配なく。ワイバーンどもの死体。アレでここばかりか、被害を受けた村もいくらか救われるでしょう」
「良い金になるだろうしね」
「ハハハ……。その通りでして」
村長が笑っていると、
「あんちゃん!」
大きなヒョウタンを手に、コヒィが走って来た。
「これ、村で一番の酒だよ。自慢のもんだ」
「ああ」
テラは、静かにヒョウタンを受け取る。
そのまま、背を向けて歩き出す。
「ちょっと、あんた……」
あわてて走ってきたバティが叫ぶ。
しかし、テラはもう振り返らなかった。
「バティ」
村長は首を振って、バティを制した。
「……哀しいなあ」
何も言えないバティとコヒィ。
その横で、村長はテラを見送りながら言った。
何故村長がそんなことを言ったのか――
少女と少年には、わからない。
でも、どこかでわかるような気もした。
・ ・ ・
「似合わないよな、まったく……」
テラは石の置かれた場所を見て、つぶやく。
自分が置いた石。
サイズはドッジボール程度か。
下には、衣服をはいだ骸骨が埋まっている。
「飲めないか、嫌いかも知らないけど――」
石の上に、テラは酒をかける。
コヒィから受け取ったばかりの、上物。
――弔いなのかな、これって。
違う気もするし、そうである気もする。
やがて、ヒョウタンの酒が尽きた。
「さて……」
テラは、ヒョウタンを腰にくくりつけた。
それから。
音もなく、立ち上がる。
少しずつ、景色が明るくなっていた。
夜明けが近いようだ。
ギャア、ギャア……と。
夜鴉が小さく鳴いて、飛んだ。
夜明け――暁の空。
鴉は、しばらく空を旋回した後で……。
羽音と共に、森の闇に消えていく。
テラは、それを見るともなく見ていたが、
――夜が来て、夜が明ける。それだけでも……。
そんなことを思いながら、歩き出した。
次回より本編
もう少し明るめの話で行く予定であります