破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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夜鴉は暁に飛んだ-4 すみやかに去る

 

 

 ブシュッ……と。

 水が噴き出すような音。

 

「へ?」

 

 振り返ると、

 首を斬られた仲間が、ドサリと倒れる。

 離れた場所には、兜ごと両断された首。

 

「な……」

 

 叫ぶ前に、男は絶命した。

 体を四分割にされて――

 

 ――グルっと、回ってみたけど……。

 

 メキリ……と。

 転がる首のひとつを踏み潰して、テラは村を見た。

 

 騒がしい。

 それに、

 

「本隊か、陽動か」

 

 どっちにしても、

 

 ――請け負った仕事はやらないとな……。

 

 そう思い――

 すぐに動き出しかけたが、

 

 ――いや、その前に。

 

 テラは自分が殺したばかりの死体。

 人間やワイバーンを見返して、少し考える。

 

 

 ・  ・  ・

 

 

「き、来たぞ!?」

 

「銃だ、それからクロスボウも!」

 

「バカ、ワイバーンに効くか!」

 

「違うよ、アホ! 騎手を狙うんだろうが……!」

 

 喧騒と喧騒と、喧騒。

 

 月の下。

 複数のワイバーンが乗り手を運び、飛ぶ。

 

 その中心には、ひときわ大きな……

 

「ワイバーン、じゃない?」

 

 誰かがつぶやいた。

 

 確かに。

 四つの足を持つ、角を持った姿。

 それは明らかに――

 

「ドラゴン……!?」

 

 弓を手にしたバティは叫んだ。

 

「何てことだ……」

 

 フルト村長は、ライフル銃を手に奥歯を噛む。

 

 小型。

 とはいえ、ワイバーンよりも上位にあたるドラゴン。

 典型的なドラゴンらしい姿をしたもの。

 それを、敵のボスは悠々と乗りこなしている。

 

「なかなかのご活躍だったらしいな?」

 

 ドラゴンの上から、ボスが嘲るように言った。

 

「どうやら、ここにはずいぶんと腕利きがいるらしい!」

 

 その言葉に、

 

「お、おい。あのあんちゃんは?!」

 

「ど、どこだよ、こんな時に……!!」

 

 確かに――

 この場に、用心棒であるテラはいない。

 

「あ、あいつ、肝心な時に……?! まさか」

 

 逃げた――と、バティは最悪の事態を考える。

 

「何だ、おい。こっちの仲間を()ったのは、いないのか?」

 

 ボスは拍子抜けした顔で言ったが、

 

「まあ、いい。逃げたにしろ何にしろ、やることは変わらん」

 

 その途端、率いられたワイバーンライダーたちが、

 

「まったくだ!」

 

「いやあ、今まで通りじゃない!」

 

「こっちは仲間が何人も()られたからぁ!?」

 

「おう、復讐戦といこうぜ!」

 

 これに、村人は青ざめるが、

 

「勝手なことを言いやがって!」

 

 バティは弓を構えて、小さく叫ぶ。

 

「ほう、魔力つきの矢か?」

 

 それを見たボスは、ニタリと笑う。

 

「だが、そんなもんだけでどうにかなると、本気で思ってるわけじゃないよなあ、可愛いお姫様?」

 

 これに――

 ワイバーンライダーたちは、ドッと笑う。

 

「バカにしてぇ……!?」

 

 カッとなり、バティは矢を放ち――

 

 ……かけた時だった。

 

 ヒュン、ゴロン……と。

 何かが落下して、地面に転がった。

 

「ひゃ、なに……!?」

 

 思わず飛びのいたバティが見たのは、

 

「首?!」

 

 切断された、人間の首だった。

 

 それから――

 ヒュン、ゴロン……ヒュン、ゴロン……と。

 

 いくつもの生首がどこからか、飛んでくる。

 

「な、何だ、こいつは!?」

 

 予想外の予想外。

 これにボスは驚き、とまどう。

 

 しかし。

 事態はさらに動いて、

 

「あ……」

 

「ひっ……」

 

「なにぃ?!」

 

「な……なんだぁ!?」

 

 ワイバーンライダーたちの声。

 それと同時に、降り注ぐ血の雨。

 

「ひゃあ!?」

 

「うわ……。何だよ、これ!?」

 

 驚くのは、村人も同じ――

 そんな中で、

 

「あんちゃん!」

 

 コヒィが叫んだ。

 

 ふわり、と。

 空中から飛び降りたのは、テラ。

 

 この時には……。

 空を覆うようだったワイバーン。

 それらは、全て地面に墜落している。

 乗り手(ライダー)と共に、完全に絶命。

 

「き、貴様が……!?」

 

 ようやく事態を理解したボスは手綱を引く、

 だが――

 

「ぬわあぁぁぁ!?」

 

 その時には、ドラゴンの首はなかった。

 

 地面に立つテラ。

 左手には、ドラゴンの首をつかんでいる。

 

「く、くそったれぇ……!?」

 

 墜落しながらも、ボスは飛び降りて転がる。

 それに、テラは一歩ずつ近づいていった。

 

「そうか……。やっぱり、貴様は〝転生者〟か!?」

 

 叫んで立ち上がるボスの手。

 ガントレットに覆われた手には――

 銀色の、奇妙なハンマーが握られている。

 

 ハンマーを見て、テラは少しだけ反応した。

 

 ――打ち出の小槌。

 

 そのハンマーは、大黒……。

 いわゆる大黒天像が持っている小槌とよく似ているようだ。

 

「……だったら、こっちにも手はあるぜ」

 

 ボスの言葉に、テラは足を止めた。

 無感動な、バティ(いわ)く、

 

「ゾンビのほうがまだ生き生きしてるような眼」

 

 ……が、冷たくボスを見ている。

 

「お前らは反則まがいのスキルを持ってるらしいがな……」

 

 ボスは銀のハンマーを振り上げ、

 

「それがなきゃ、タダの虫けらだろうが!!」

 

 叫びと共に、ハンマーは勢いよく振り下ろされる。

 

 瞬間。

 

 銀色の粒子が、水しぶきみたいにテラへほとばしるった。

 その時、テラはチラリと後ろを見る。

 

 コヒィやバティ。

 その他、村長や多くの村人たち。

 

 ――請け負った仕事。

 

 自分の行った言葉を、思い返す。

 

 そして――

 銀の粒子は、手をかざすテラに命中した。

 

 シュウッ……と。

 飛び散る粒子と共に、テラの体は揺らいだ。

 

「はは。これで、終わりだなあ?」

 

 ハンマーを手に、ボスは嘲笑う。

 

「もう、お前のスキルは消えてなくなったぜ?」

 

 さあ、どうする?

 

 テラに、侮蔑の声と視線が飛んだ。

 

 これに対して――

 テラは無言でボスへと近づいていく。

 

「ハッタリか?」

 

 ボスは冷笑して、

 

「だがな、こいつはお前みたいなインチキ野郎を何人も片づけてきたんだぞ?」

 

 ハンマーで片手のひらをポンポンと叩く。

 

「向こうの世界の負け犬が、インチキを手にしてこっちでデカいツラをしてる。知ってるヤツは知ってるんだ!」

 

 ペッ、と。

 テラに向かって唾を吐きかけた。

 

 それは――

 

 空を切って、地面に落ちる。

 

「え?」

 

 いつの間にか。

 銀のハンマーはテラの右手に握られていた。

 

 そして、

 

 バキン、ベキリ、グチャ……と。

 テラはハンマーでボスの手足、顎を叩き折り、砕いた。

 やがて、イモムシのようになったボスを、

 

「好きにしろよ」

 

 つかみ、村人のほうへと放り投げた。

 

「あ、ひゃ……?」

 

 自分に何が起こったのか。

 理解できないまま、ボスは村人に囲まれ、見おろされていた。

 

「お、お見事です」

 

 テラに、フルト村長が言った。

 

「村を囲んでいた伏兵どもに、すぐに気づいて片づけるとは……」

 

「別に。受けた仕事だから」

 

「これは、約束の代金です。村中から集めました」

 

「そう」

 

 差し出された革袋。

 テラは中身を確認してから、小さくうなずいた。

 

「ご心配なく。ワイバーンどもの死体。アレでここばかりか、被害を受けた村もいくらか救われるでしょう」

 

「良い金になるだろうしね」

 

「ハハハ……。その通りでして」

 

 村長が笑っていると、

 

「あんちゃん!」

 

 大きなヒョウタンを手に、コヒィが走って来た。

 

「これ、村で一番の酒だよ。自慢のもんだ」

 

「ああ」

 

 テラは、静かにヒョウタンを受け取る。

 そのまま、背を向けて歩き出す。

 

「ちょっと、あんた……」

 

 あわてて走ってきたバティが叫ぶ。

 しかし、テラはもう振り返らなかった。

 

「バティ」

 

 村長は首を振って、バティを制した。

 

「……哀しいなあ」

 

 何も言えないバティとコヒィ。

 その横で、村長はテラを見送りながら言った。

 

 何故村長がそんなことを言ったのか――

 少女と少年には、わからない。

 

 でも、どこかでわかるような気もした。

 

 

 ・  ・  ・

 

 

「似合わないよな、まったく……」

 

 テラは石の置かれた場所を見て、つぶやく。

 自分が置いた石。

 サイズはドッジボール程度か。

 

 下には、衣服をはいだ骸骨が埋まっている。

 

「飲めないか、嫌いかも知らないけど――」

 

 石の上に、テラは酒をかける。

 コヒィから受け取ったばかりの、上物。

 

 ――弔いなのかな、これって。

 

 違う気もするし、そうである気もする。

 

 やがて、ヒョウタンの酒が尽きた。

 

「さて……」

 

 テラは、ヒョウタンを腰にくくりつけた。

 それから。

 音もなく、立ち上がる。

 

 少しずつ、景色が明るくなっていた。

 夜明けが近いようだ。

 

 ギャア、ギャア……と。

 夜鴉が小さく鳴いて、飛んだ。

 

 夜明け――暁の空。

 鴉は、しばらく空を旋回した後で……。

 羽音と共に、森の闇に消えていく。

 

 テラは、それを見るともなく見ていたが、

 

 ――夜が来て、夜が明ける。それだけでも……。

 

 地上(ここ)は楽園だ。

 

 そんなことを思いながら、歩き出した。

 

 

 




次回より本編
もう少し明るめの話で行く予定であります
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