破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
前回の番外はあんまり受けが良くなかったですね……
次に生かしたいと思います
男が走っている。
正確には、少年。
年齢は15、6歳あたりか。
黒髪に、頑丈そうな歯を持った愛嬌のある顔立ち。
眉は太く、濃い。
目は精気にあふれていた。
勢いがある。
走り出したままどこかに消えていきそうな雰囲気。
「ぬおおおおおおおお!?」
後ろで、炎が噴き上がった。
ドラゴンのブレスである。
まだ翼の未成熟な成長途中のドラゴン。
そいつが、牙を噛み鳴らして追ってくる。
元々――
複数の冒険者……パーティーが、大勢参加するクエストだった。
内容は、
『火炎竜の卵を持ち帰ること』
である。
また、
『発見した場合は、即座にギルドナイトへ連絡。秘匿しようとした者は懲罰が課せられる』。
というもの。
要するに。
ギルドナイトの補助、お手伝いとも言える仕事内容。
それでも、報酬は良かった。
卵とはいえ、ドラゴンという危険極まるモンスターが相手。
さらに。
他のモンスターとの遭遇時は露払いも義務となる。
事実――
彼もまた、何体かのモンスターを駆除していたわけだが……。
「うぎゃああ!?」
何人がか焼かれ、踏み潰されていく中。
少年はひたすら走る。
まだ子どもとはいえ、並の者がかなう相手ではない。
火炎竜は――
すでに、この段階で多くの魔法や武器が効かない。
物理のみの火薬武器(地球でいう近代火器)は跳ね返す肉体を備えていた。
また。
ギルド歩兵の使った、魔力を収束して獲物を穿つ魔導銃。
これもほぼ効かなかった。
中途半端に傷をつけ、怒らせただけである。
GHAAAAAAAAAAAAAA!!
少年は追い詰められ、ついには、
――これまでかよ……!?
ドラゴンの顎が、大きく開くのを目の当たりにしていた。
ブレスを吐くのか
それとも。
生きたまま、喰い殺すのか。
いずれにしろ、絶体絶命である。
だが。
少年はしぶとかったか。
ドラゴンの、開いた口の中を狙う。
手にした斧を振りかぶり、投げた。
見事。
口内の上顎部分に命中したようである。
しかし。
斧はあっさりと、噛み砕かれた。
そして。
前脚が少年を跳ね飛ばした。
「あ」
死ぬ。
そう思った。
・ ・ ・
空中を浮遊する途中、だった。
少年は見た。
誰かが――
ドラゴンの頭を正面から、つかんでいた。
そして。
グルリ、と。
ドラゴンの首を、180度捻じ曲げる。
――誰だ。
ドラゴンは地面に崩れ落ちた。
同時に。
少年は尻から地面に落下。
「いでええ!?」
悲鳴を上げながら、顔を上げる。
「――あ」
苦痛の中で、少年は見た。
青い髪。
水色の瞳。
ひとりの乙女が、ドラゴンを見ていた。
汚れた革鎧姿。
だが。
乙女の顔は、幽鬼のように美しい。
この世のモノとは、思えなかった。
それから、
「あら」
乙女は、少年のほうを振り返る。
瞬間。
少年は、心臓をつかみ潰されるような感覚を味わった。
「なんだ、生きてたの」
どうでも良さそうに言って、乙女は歩き去っていていく。
「あ、あの!!」
少年はよろけながら立ち上がる。
必死で、乙女を呼び止める。
「なに?」
振り返る乙女に、
「お、お名前をぜひ!!」
「は?」
少年の強く、大きな言葉。
乙女は一瞬キョトンとしたが、
「カーシャ。ただのカーシャ」
そっけなく言って、去っていった。
――カーシャ? もしかして、〝
青い
勇名とも、悪名ともつかないふたつ名で呼ばれる女。
元は、やはり悪名高い貴族令嬢だった女。
それが、冒険者になった途端――
多くのモンスターを、文字通り叩き潰して、一気にランクを駆けあがった。
ついには、ドラゴンをも単独で殺し、英雄となる。
噂は嫌でも耳に入った。
美女だとも聞いていた。
だが。
しかし。
――こ、こんなきれいな
少年は呆然とし続けていた。
「お前なにボーッとしてんだ! さっさと後始末にかかれ!」
と。
小班長クラスのギルド歩兵に怒鳴られるまで。
怒鳴られた後も、少年は心ここに在らず――
頭にあるのは、青い髪の乙女だけだった。
この少年。
名を、イーゴ・ノヒリカという。
思春期全開の16歳。
煩悩も情熱も真っ盛りだった。
・ ・ ・
「はああ……」
湯気を立てるお茶の前――
バッキーは辛気臭いため息を吐いていた。
「おいおい。どうしたい」
お茶菓子を貪っていたマコネは、不思議に思ってたずねる。
「いや、この間の――」
「あー。女のことでグジグジやってたあいつな」
先日の、ウシロ少年の一件だと理解して――
マコネは笑う。
「やること全部が下手を打ってました……」
「そりゃまあな。ありゃまずかったわ」
うなだれるバッキー。
同意するマコネ。
「ですよね……」
「そもそも、お前さんブチ切れる相手間違えてたし。怒鳴るのも殴るのも、やるべきは股のゆるい中年女だろ。顔も素性も知らんけど」
「……」
「まあ、すんだことだし。今さら落ち込まんでもいいじゃね? 時間の無駄、無駄」
「いや。というか……。ゴトクさんとも話したんですけど」
「へえ」
その――
会話の内容のみを抜粋すると、
「まあ、下手すると死んでたかもな。首をくくるか、川に飛び込むか」
「うぇっ!?」
「……と、まあ脅してはみたが。まあ、大丈夫ではあったと思う。いささか、きつかったがな」
「え。その根拠って」
「これで病んで死ぬのようなヤツは、もう淘汰されるか、サキュバスの血で要素は薄まってるさ。サキュバスは、心を病んで死んだりせんからな。100%ありえん」
「……そ、そうなんですか」
「とはいえ。他の国、特に遠国のヤツなら自殺もんだったとは思う。以後気をつけることだな」
「は、はい……」
大体、こういった感じだった。
「あははは。そりゃ当たってるわ。あのガキだって、そのうちお前さんにボコチン押し当ててきたかもよ? 『慰めて欲しい』とか言ってさ」
ゲラゲラ笑うマコネ。
「そ、それはやだなあ」
さて――
こんな会話の真っ最中だった。
「ん?」
マコネは顔を上げる。
リィン……と。
玄関のベルが鳴った。
なんとなく。
ふたりそろって応対してみると、
――誰だ、こいつ。
見知らぬ少年が、後ろに花束を持って立っていた。
顔が、完全に上気している。
挙動不審。
「あの! カーシャさん、ご令嬢はおいででしょおか!?」
上ずった声で叫ぶ少年。
――なんだ、こいつ?
――うん。……うん?
まったくもって、予想外の来客。
マコネとバッキーは、思わず顔を見合わせるのだった。