破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
「どうか、俺とお付き合いしてください!」
「……は?」
カーシャは、突き出された花束を見る。
そう高価なものではなさそうだ。
ただ。
店員が選んだのか、花のセンスは良い。
――いや、しかし。
混乱した。
意味がわからない。
相手の思考が理解できず、カーシャは困惑した。
不気味にさえ感じる。
「お前はなにを言っているんだ」
つい、素でそう返しそうになる。
「はい!」
目の前の少年。
彼はやたらにでかい声で返事をすると、
「どうか、俺と付き合って……恋人になってください!!」
「……ああ、そう」
カーシャは、おざなりな返答をするのもやっとだった。
男。
それも、年下とおぼしき暑苦しい雰囲気の少年。
こんなモノに告白され、愛を語られるとは……。
夢にも思わなかった珍事。
愉快愉快と、笑う気にもなれない。
「……あなた、私のことが好きなの? 女として?」
「はい! ひと目惚れでした!!」
「……。そう」
うなずく少年。
カーシャは対応に迷っていた。
「アホか」
と。
殴って追い返せばいいのか。
あるいは。
問答無用で蹴り出せばいいのか。
――けれど、別に腹が立つわけでもないし。好意は嬉しいモノ、え、嬉しい? そお?
貴族時代――
色んな欲得がらみのアプローチを受けたことは何度もあった。
実家は太く、財産も権力もたっぷりある。
美貌は誰よりも優れていた。
だから、
――殿方からのお誘いは、まあ慣れているわけだけど……。
ここまで愚直……。
いや?
愚劣なのか?
垢抜けないアプローチは初めてだった。
悪意がなく、真剣なのはわかる。
不快ではないのだが――
とはいえ、やはり見苦しい。
「ふうん」
カーシャは、相手を無遠慮に観察する。
顔も、美男子ではないが悪くもない。
体つきも頑丈で健康そうだ。
だが。
頭の悪そうな印象だった。
暑苦しくもある。
色んなものが空回りしそうにタイプ。
そのように見えた。
「イーゴ・ノヒリカ」
相手が名乗った名前を呼ぶ。
「はい!」
「まず最初にお聞きしたいのだけど」
「はい!」
「あなた、どこのだれ?」
カーシャは、この少年をまったく覚えていなかった。
・ ・ ・
「稽古をつけてください!!」
「は?」
いきなり――
土下座と共に頼まれた。
ギルド本部の建物内である。
一階のカウンター前。
受付嬢と話していた時だ。
いきなり、そんな頼みごとをされたのである。
「おい――」
ライワ・ヘイメルフントはジロリとその相手――
黒い髪の少年を見る。
前髪に少しくせがあって、カーブを作っていた。
どこかで見たような気がする。
おそらく、冒険者のひとりだろう。
ギルドの出した集団クエストで見かけたかもしれない。
「はいっ」
ライワをまっすぐに見上げてくる少年。
「まず、誰だお前は」
「はいっ。俺は、イーゴ・ノヒリカって言います! 一身上の都合ですが、何とか腕を上げたいと切望している次第です! ギルドナイト最強の、ライワ隊長に稽古をつけていただきたく、図々しくも参上しました!!」
「ホントに図々しいな」
紫の美女は呆れ果てた――
そういう顔でイーゴを見ている。
「大体、そんなことをして私の何の益がある。これでも忙しい身だ。お前の相手をしている暇はない」
しっしっ、と。
ライワは手を振って、追い払おうとする。
「無理を承知!! しかし、しかし、何とか……! 絶対に、お礼、ご恩はお返しします!!」
イーゴは叫ぶ。
そして。
床に頭を叩きつけ、懇願してくる。
何度も何度も、何度も何度も。
「あの……」
迷惑なんですけど――
ものすごく――
受付の職員たちはみんなそういう顔をしていた。
「はああ……」
ライワはため息を吐く。
何で、こんなわけのわからんヤツがからんでくるのか。
悪意はないのかもしれないが、
――迷惑極まりない。
なので、
「うるさい」
ボソリとつぶやき、イーゴを外へ放りだした。
というより。
地面に叩きつけたというほうが正しい。
相当強くやったつもりだった。
死なないにしても、悶絶するだろう。
しばらくは動けまい。
実際。
が、
「お願いします!」
また飛び込んでくる。
仕方がないので……。
ライワは、イーゴ少年を動けなくなるまで叩きのめして――
また、地べたに放り出した。
・ ・ ・
「――で?」
金髪をした、つり目気味のエルフ。
通称を『猫のゴトク』。
彼は、うんざりした顔でイーゴを見る。
目の前に、小汚い紙幣の束が置かれていた。
まあ、そこそこの大金ではある。
だが――
あくまで、そこそこはそこそこだ。
大金としたが、『小金』の部類かもしれない。
「先生が、噂に名高い名人、名
イーゴは、ゴトクを見上げた。
這いつくばっ姿勢のままで。
「どうか、俺を強くしてください!!!」
「……お前な」
ゴトクは辟易した気分だった。
頼まれれば――
相応の報酬をもらえば。
仕事であれば。
それは、やる
今のところ全力で取り組まなばならぬ仕事は、ない。
なので、まあ。
受けること自体に問題がないのだが……。
「お前、今なんつった?」
「はい!」
でかい声。
大きく見開いた瞳。
イーゴは身を乗り出して応える。
土下座で懇願姿勢のままだ。
「かのドラゴンスレイヤー、カーシャさんに認められるような、強い男になりたいんです!!」
「……認めるってなんだよ」
ゴトクは頭を掻いた。
「あいつ、何かの鑑定士でも始めたのか? 強者をいちいち鑑定するのか?」
「いえ! まずは、もっと強い、ドラゴンをひとりで倒せるような男になれ、なってから来いと言われました」
「お前そりゃ……」
失せろ。
二度と来るな。
おととい来やがれ。
そういう言葉の、言い換えではあるまいか。
血を吐くような努力。
積み重ねに重ねた修練。
それでドラゴンを倒せるのなら、誰でも英雄だ。
努力や修練の果て――
そこに運不運や才能、知恵や作戦、武器や道具。
こういったものが重なって、初めて勝利を得る。
「……生まれたばかりの幼体を狙ったらどうだ? 可能性は高いぜ」
まあ。
生まれた直後に襲いかかってくるだろうがよ。
と。
ゴトクは言って、頭を振る。
「そもそも――ドラゴンの卵なんざ簡単には見つからんだろうが……」
「いえ。最大目標は中間体だ。あるいはその間、幼体と中間体の途中半分くらいなら、まあ及第点をやると」
「……お前、自分が何言ってるかわかってンのか? 中間といや半端に聞こえるが、下手すりゃ一国を滅ぼすバケモノだぞ」
「しかし、それができたら考えてやると――」
「……何をだよ」
「いえ、恋人候補として、考えてやってもいいと」
「…………。いや、どういう意味だソレは」