破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その119、無謀の男-3 鉄蝦蟇山(てつがまさん)

 

 

 その時――

 

「ただし――」

 

 青い乙女(カーシャ)は人差し指を突き出した。

 

「いつまでかかっても良いというのではない。私も10年20年と待つわけにはいかないので」

 

「は、はい!」

 

 反射的にうなずくイーゴへ、

 

「最低でも3か月以内。それまでにクリアしてみなさい。できなければ、おしまい」

 

 と、淡々とした声で言った。

 

 

 ……。

 

「――と、こういうわけなんです」

 

「ムチャクチャ言いやがるな、あいつも……」

 

 詰め寄って来るイーゴに、ゴトクはうんざりした目つき。

 

「……お前なあ? 10年20年どころか……。それこそ、一生涯かけて修練を重ねても、単独でドラゴンを殺せるヤツなんかほとんどいないんだぞ? 人間もエルフもドワーフも獣人も、トロルも関係なくな」

 

「しかし、やらなかったら間違いなくできんじゃないですか!?」

 

 と。

 イーゴは鼻息荒く主張した。

 目が完全に血走っている。

 

「……まあ、なあ?」

 

 ゴトクは困った顔で頭を掻く。

 

「だがな? それこそ、お前が不老のまま500年修業したって無理かもしれんぜ?」

 

「500年もたったらカーシャさんも死んじゃうじゃないですか」

 

「ものの例えだよ……」

 

 ゴトクはますますうんざりとしながら、

 

 ――あいつは、1000年たっても生きてそうなイメージあるが。ま、そりゃ偏見だわな。

 

 頭の隅でそんなことを思いつつ、

 

「一日で100分の修業ができる場所ってのも、噂に聞いたことがあるけどな……」

 

「ホンマですか!?」

 

「顔を近づけるな」

 

 さらに詰め寄って来るイーゴから、後退しつつ、

 

「どっかの山とかに、煉獄に通じる穴があるそうだ。」

 

「れんごく?」

 

「地獄のひとつ上の世界と聞くな。そこじゃ、地上の一日が100年だそうだ」

 

 まあ、眉唾ものだが……。

 

 と。

 ゴトクはため息をついてから、

 

「で……。一日分の年を取るだけ。お前の要望に合ってるだろ、」

 

「そ、それはどこに!?」

 

「だから顔を近づけるな」

 

 ゴトクは嫌な顔をして、イーゴの頭を押しのけた。

 

 そして……。

 

 

 ・  ・  ・

 

 

「あそこか……」

 

 幾日か過ぎた後――

 恋と青春に燃える少年イーゴは、ある山を見上げていた。

 

 さほど大きい山ではない。

 しかし、頂上近くは常に雲がかかっている。

 どこか奇妙な威厳を感じさせる(たたず)まい。

 

「よっしゃ!」

 

 そして。

 イーゴは山を目指して、早足で歩き出した。

 荷物を背負った体も軽く――

 

 さて。

 この少し前だが……。

 

「是非とも教えてくれ!」

 

 相手に金を握らせ、イーゴは迫っていた。

 少ない額だ。

 

 相手の名前は、トクベー。

 まだ若いが、すでにそれと知られたシーフ職だった。

 戦闘力もさながら?

 潜入調査や斥候などでギルドから評価を受けている。

 

「煉獄?」

 

 話を聞いていたトクベーはひたすら困惑していたが、

 

「ああ、そういう……」

 

 聞くうちに、ある程度納得していった。

 

 まさしく。

 自分が修業していた場所がそういう場所に通じた場所。

 そこで、師匠のもと厳しい修練を積み重ねたものだ。

 

「まあ、いいけど……。」

 

 師匠からも、

 

「ま。特別秘密にしておかんでもよい。やって来るヤツも少ないであろうしの」

 

 と、いうことだったので――

 

「そうだね。ここに、こういう場所にあるよ。名前は鉄蝦蟇山(てつがまさん)

 

「てつがま……」

 

 山の名前を聞き、イーゴはぶるっと震えた。

 武者震いである。

 

「あ、でも」

 

 トクベーは簡単な地図などを記したものを書きながら、

 

「特に紹介状とか書かないから。そういう義理もないし」

 

「かまわん! 当たって砕ける」

 

 イーゴは大きくうなずいた。

 気にもとめずに――

 

「……まあ、あんたが納得するならそれでいいけどね」

 

 トクベーは、生温かい視線で送るばかりだった。

 

 ともかく。

 こういう次第で――

 

 イーゴは鉄蝦蟇山を一心不乱に登っていく。

 頂上までの大まかな道筋。

 それはトクベーから教わっている。

 とはいえ、ほぼ獣道だが……。

 

 逸る気持ちを抑えながら。

 いや。

 むしろ、それを燃料に進む。

 

 その途中――

 

 RRRRRRRRR……!

 

 小型のキメラが現れた。

 ヤギと豹の頭を持つものだ。

 尻尾は蛇だが、蛇の頭はない。

 

「こなくそ、邪魔だ!!!」

 

 モンスターの出現。

 イーゴはむしろ闘志を燃え立たせ、武器のハンドアックスを抜いた。

 

 

 ・  ・  ・

 

 

「こ、ここかぁ…………!?」

 

 イーゴは膝をついてうめいた。

 すでにあちこち傷だらけ。

 肉体は疲労困憊。

 

 しかし――

 その眼だけは、闘志と野望……欲望に燃え盛っていた。

 

「ごめんくだされぇい!!」

 

 疲れた体をさらに酷使し、大声を出した。

 

「俺は、ここにおられるかたに教えを乞いたく、はるばるやってまいりました! 何とぞ、弟子の末席に加えていただきたく……!!」

 

「やかましいな」

 

 返事は即座に来た。

 

「おおっ!?」

 

 感激するイーゴ。

 しかし。

 声の主はどこにも見えない。

 

「あれ?」

 

 イーゴがキョロキョロしていると……。

 

「下を見ろ、愚者」

 

 呆れた叱責の声。

 

「え?」

 

 言われるままに下を見れば――

 そこには、一匹のカエルがいた。

 

 色合いはアマガエルに似ているが、とにかくデカい。

 猫くらいはありそうだった。

 

 それが、後ろ足で立ち、杖を突いている。

 ギョロギョロとしたカエルの眼が、イーゴを見ていた。

 

「もしかして……」

 

「わしがここの主だ、アホ」

 

 カエルはふわりと宙に浮きあがり――

 コン、と。

 杖でイーゴの頭を叩いた。

 

「じゃ、じゃあ……。トクベーくんの師匠(センセイ)というのは……」

 

「ああ、アレに聞いてきたのか。お前も物好きだな」

 

 カエルはふわふわと浮いたまま、

 

「わしの弟子になりたいというのなら、入門料がいるよ」

 

「も、もちろんです! こ、ここに!」

 

 と。

 イーゴは袋に入れた紙幣の束を見せる。

 

「どれ」

 

 カエルは杖を突き出した。

 同時に――

 袋から紙幣が飛び出し、カエルの前に。

 

「ふむ。贋金でもなし。ま、ええだろう」

 

 カエルが杖をクルクル振れば?

 紙幣の束はどこかに消え失せた。

 

「今からお前はわしの弟子だ。名は?」

 

「イーゴ・ノヒリカと申します!!」

 

「ふむ。イーゴか。わしは……ま、名前は色々あるが――。とりあえずガマ仙人とでもおぼえておけ」

 

「ガマ?」

 

 イーゴは首をかしげた。

 この自称・仙人はどう見ても、アマガエルである。

 ガマではない。

 

「カエルよりもガマのほうがかっこええだろ。語感もいいしな」

 

 と。

 ガマ仙人はカラカラと笑った。

 

 

 

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