破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
その時――
「ただし――」
「いつまでかかっても良いというのではない。私も10年20年と待つわけにはいかないので」
「は、はい!」
反射的にうなずくイーゴへ、
「最低でも3か月以内。それまでにクリアしてみなさい。できなければ、おしまい」
と、淡々とした声で言った。
……。
「――と、こういうわけなんです」
「ムチャクチャ言いやがるな、あいつも……」
詰め寄って来るイーゴに、ゴトクはうんざりした目つき。
「……お前なあ? 10年20年どころか……。それこそ、一生涯かけて修練を重ねても、単独でドラゴンを殺せるヤツなんかほとんどいないんだぞ? 人間もエルフもドワーフも獣人も、トロルも関係なくな」
「しかし、やらなかったら間違いなくできんじゃないですか!?」
と。
イーゴは鼻息荒く主張した。
目が完全に血走っている。
「……まあ、なあ?」
ゴトクは困った顔で頭を掻く。
「だがな? それこそ、お前が不老のまま500年修業したって無理かもしれんぜ?」
「500年もたったらカーシャさんも死んじゃうじゃないですか」
「ものの例えだよ……」
ゴトクはますますうんざりとしながら、
――あいつは、1000年たっても生きてそうなイメージあるが。ま、そりゃ偏見だわな。
頭の隅でそんなことを思いつつ、
「一日で100分の修業ができる場所ってのも、噂に聞いたことがあるけどな……」
「ホンマですか!?」
「顔を近づけるな」
さらに詰め寄って来るイーゴから、後退しつつ、
「どっかの山とかに、煉獄に通じる穴があるそうだ。」
「れんごく?」
「地獄のひとつ上の世界と聞くな。そこじゃ、地上の一日が100年だそうだ」
まあ、眉唾ものだが……。
と。
ゴトクはため息をついてから、
「で……。一日分の年を取るだけ。お前の要望に合ってるだろ、」
「そ、それはどこに!?」
「だから顔を近づけるな」
ゴトクは嫌な顔をして、イーゴの頭を押しのけた。
そして……。
・ ・ ・
「あそこか……」
幾日か過ぎた後――
恋と青春に燃える少年イーゴは、ある山を見上げていた。
さほど大きい山ではない。
しかし、頂上近くは常に雲がかかっている。
どこか奇妙な威厳を感じさせる
「よっしゃ!」
そして。
イーゴは山を目指して、早足で歩き出した。
荷物を背負った体も軽く――
さて。
この少し前だが……。
「是非とも教えてくれ!」
相手に金を握らせ、イーゴは迫っていた。
少ない額だ。
相手の名前は、トクベー。
まだ若いが、すでにそれと知られたシーフ職だった。
戦闘力もさながら?
潜入調査や斥候などでギルドから評価を受けている。
「煉獄?」
話を聞いていたトクベーはひたすら困惑していたが、
「ああ、そういう……」
聞くうちに、ある程度納得していった。
まさしく。
自分が修業していた場所がそういう場所に通じた場所。
そこで、師匠のもと厳しい修練を積み重ねたものだ。
「まあ、いいけど……。」
師匠からも、
「ま。特別秘密にしておかんでもよい。やって来るヤツも少ないであろうしの」
と、いうことだったので――
「そうだね。ここに、こういう場所にあるよ。名前は
「てつがま……」
山の名前を聞き、イーゴはぶるっと震えた。
武者震いである。
「あ、でも」
トクベーは簡単な地図などを記したものを書きながら、
「特に紹介状とか書かないから。そういう義理もないし」
「かまわん! 当たって砕ける」
イーゴは大きくうなずいた。
気にもとめずに――
「……まあ、あんたが納得するならそれでいいけどね」
トクベーは、生温かい視線で送るばかりだった。
ともかく。
こういう次第で――
イーゴは鉄蝦蟇山を一心不乱に登っていく。
頂上までの大まかな道筋。
それはトクベーから教わっている。
とはいえ、ほぼ獣道だが……。
逸る気持ちを抑えながら。
いや。
むしろ、それを燃料に進む。
その途中――
RRRRRRRRR……!
小型のキメラが現れた。
ヤギと豹の頭を持つものだ。
尻尾は蛇だが、蛇の頭はない。
「こなくそ、邪魔だ!!!」
モンスターの出現。
イーゴはむしろ闘志を燃え立たせ、武器のハンドアックスを抜いた。
・ ・ ・
「こ、ここかぁ…………!?」
イーゴは膝をついてうめいた。
すでにあちこち傷だらけ。
肉体は疲労困憊。
しかし――
その眼だけは、闘志と野望……欲望に燃え盛っていた。
「ごめんくだされぇい!!」
疲れた体をさらに酷使し、大声を出した。
「俺は、ここにおられるかたに教えを乞いたく、はるばるやってまいりました! 何とぞ、弟子の末席に加えていただきたく……!!」
「やかましいな」
返事は即座に来た。
「おおっ!?」
感激するイーゴ。
しかし。
声の主はどこにも見えない。
「あれ?」
イーゴがキョロキョロしていると……。
「下を見ろ、愚者」
呆れた叱責の声。
「え?」
言われるままに下を見れば――
そこには、一匹のカエルがいた。
色合いはアマガエルに似ているが、とにかくデカい。
猫くらいはありそうだった。
それが、後ろ足で立ち、杖を突いている。
ギョロギョロとしたカエルの眼が、イーゴを見ていた。
「もしかして……」
「わしがここの主だ、アホ」
カエルはふわりと宙に浮きあがり――
コン、と。
杖でイーゴの頭を叩いた。
「じゃ、じゃあ……。トクベーくんの
「ああ、アレに聞いてきたのか。お前も物好きだな」
カエルはふわふわと浮いたまま、
「わしの弟子になりたいというのなら、入門料がいるよ」
「も、もちろんです! こ、ここに!」
と。
イーゴは袋に入れた紙幣の束を見せる。
「どれ」
カエルは杖を突き出した。
同時に――
袋から紙幣が飛び出し、カエルの前に。
「ふむ。贋金でもなし。ま、ええだろう」
カエルが杖をクルクル振れば?
紙幣の束はどこかに消え失せた。
「今からお前はわしの弟子だ。名は?」
「イーゴ・ノヒリカと申します!!」
「ふむ。イーゴか。わしは……ま、名前は色々あるが――。とりあえずガマ仙人とでもおぼえておけ」
「ガマ?」
イーゴは首をかしげた。
この自称・仙人はどう見ても、アマガエルである。
ガマではない。
「カエルよりもガマのほうがかっこええだろ。語感もいいしな」
と。
ガマ仙人はカラカラと笑った。