破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その119、無謀の男-4 本格スタート

 

 

「ぬおおおおお……!!」

 

 灰色の空。

 空気が重い、そのくせ薄い。

 まばらに生えている草。

 転がっている石。

 全てが灰色だった。

 

「ぬがああああああ……!!」

 

 その下を、イーゴ・ノヒリカ少年はひたすらに走っていた。

 

 全身傷だらけ。

 体中から汗がどくどくと流れている。

 

 極度の疲労。

 それでも、イーゴは走っていた。

 破れそうな心臓を無理やりに動かして――

 

 必死の形相だった。

 そんなイーゴの後ろを、

 

「おおおおおおおおおおおおお」

 

 巨大なモノが追いかけていた。

 ゾッとするような声を上げながら。

 

 それは、人の顔だった。

 山のような人間の首が、イーゴを追っている。

 

 顔は真っ白。

 逆に――

 その歯は墨で塗ったように黒い。

 唇は下品な赤色だ。

 

 男か女かもわからない。

 不気味な巨人の首は、執拗にイーゴを追う。

 

「ほれほれ。もっと急がんと喰われるぞ?」

 

 ガマ仙人はからかうように言った。

 イーゴの横をフワフワ飛びながら。

 

「な、なんのこれしき……!」

 

「おうとも。その意気じゃ」

 

 しかし。

 いくら気張ろうとも、踏ん張ろうとも……。

 体力は有限。

 ついに、イーゴはすっ転んでしまった。

 

「おしまいかな?」

 

 ガマ仙人は言った。

 あっけらかんとした声だ。

 

「小銭を一枚落としちゃったな。まあいいか」

 

 その程度の反応。

 しかし、

 

「な、なんの、なんの!!」

 

 イーゴは立ち上がり、大首のほうを振り返る。

 

「逃げられんのなら――」

 

 攻撃するまでだ!

 

 窮鼠猫を噛む。

 ウサギもなぶれて喰らいつく。

 

 全身全力で、大首を叩き殺す気概だった。

 

「どりゃああああああああああああ!!」

 

 イーゴは突撃した。

 汗まみれ血まみれで。

 残った全エネルギーを集中・結束させて。

 

 そして。

 

「うが……」

 

 数分後。

 ボロクズのようになって転がるイーゴの姿があった。

 

「意気込みは良かったがなあ」

 

 それを見ながら、ガマ仙人は顎を撫でる。

 

「反撃するにしろ……。頭はともかく、体はもっと効率よく動かさんとな。無駄にあるからと言って、無暗に消耗していいもんではないぞ、体力というのは――」

 

 

 ・  ・  ・

 

 

 ガマ仙人のもと――

 イーゴは、異空間『煉獄』で修業を続けていた。

 

 煉獄の内部。

 すでに数年が経過している。

 

 イーゴの姿は変わらない。

 何しろ、100年で24時間しか年を取らないのだ。

 

 過ごしやすいとは言えない煉獄での毎日。

 イーゴの力はどんどん鍛え上げられ、研ぎ澄まされている。

 

 ただ。

 見る者が見れば、

 

「ギルドナイトの隊長格には勝てまいな」

 

 こう判断するだろう。

 そして、それは正しい。

 

「あまり才能はないな」

 

 ガマ仙人も、最初にそう言っている。

 

「体力には自信あります!」

 

「それはわかった」

 

 胸を張るイーゴに、

 

「しかしな? それイコール戦士の才能があるわけではないのだよ」

 

 ガマ仙人は無情に手を振った。

 

「世の中は非常だ。才能を得るのも活かすのも運不運がつきまとう。個人の努力ではどうにもならんことは山ほどあるぞ」

 

「しかし――」

 

 イーゴは反論しようとする。

 

「おっと。早まるな」

 

 カラカラと――

 ガマ仙人はカエルの顔で笑ってみせた。

 

「幸い、お前には運があるぞ。何しろ、わしの弟子になれたのだからなあ」

 

「すると?」

 

「ま、やりようはあるわな。才能がないのなら、造ればよいのさ」

 

「つくる???」

 

「さようさ。ほれ、ヤオアムトの技術では失った手足をゴーレムのそれで補うこともできる。お前の場合、内部から才能を作り変えていくのだ」

 

「なるほど! さっそくやってください!!」

 

 イーゴは感激して叫んだ。

 内容を、あまり理解してはいないのだが。

 

「良かろう。ただし、それには時間がかかるぞ。ま、時間だけはいくらでもあるか」

 

 ガマ仙人は笑って、

 

「少しきついが、基本から行くかな」

 

 そして――

 修業の基礎が始められた。

 

「まずは、破壊と再生だ」

 

 徹底的に肉体を痛めつけ、苛め抜く。

 結果、ズタボロになった肉体を再生する。

 これの繰り返しだった。

 

「傷ついた肉体を治す過程でより強くなる。これはどこでもやっておるが、わしのはもうちっときついぞ?」

 

 結果。

 少なくとも基本スペックは、最初とは比較にならぬほど鍛えられた。

 だが、

 

「ようやく、準備が整ったという感じか?」

 

 たくましくなったイーゴの姿。

 ガマ仙人はそれを見て、ニヤリと笑う。

 

「では、次だ」

 

 

 ・  ・  ・

 

 

「いくら新しく作り変えるといっても、やはり特性というか相性がある」

 

 ガマ仙人は杖を突き出して言った。

 

「これまで見た結果、お前には『(やわら)』の技が合っているようだ」

 

「ヤワラってなんです?」

 

「相手の力を利用して、相手を倒すと言えばよかろう。例えば」

 

 言うなり、ガマ仙人は突き出した杖を回転させた。

 途端に、

 

「うわあっ!?」

 

 イーゴの体は空中高く浮遊していく。

 

「お前を高みから落とした場合――」

 

「うひょお!?」

 

 いきなり。

 支える魔力が失われ、イーゴは落下。

 

「うぎゃああ!?」

 

 何とか受け身を取るものの……。

 

「いっててて……」

 

 当然。

 あちこちをしたたかに打ちつけてしまう。

 

「このようにダメージを受ける」

 

「あ、当り前じゃないですか!」

 

「そう。当たり前だ。しかし?」

 

 今度は枯れ葉を一枚浮遊させる。

 さきほどのイーゴと同じくらいの高さだ。

 枯れ葉も落下するが、当然ふわふわと地面に着地。

 

「このように、葉っぱはほとんど傷つかぬ」

 

「いや、だから」

 

「お前が同じくらい軽ければ、同じようにダメージはなかったであろう」

 

「……」

 

「いわば、お前は自分の重さで傷ついたのだ。ゆえに――」

 

「ゆ、ゆえに?」

 

「相手が強ければ強いだけ跳ね返るダメージは大きい。頑強であればあるだけ肉体は傷つく。基本はそういうものだ」

 

「それはすごい!!」

 

「だが、そう簡単に習得できる技ではない。今まで以上の修業がいるぞ?」

 

「覚悟はできてます!!」

 

 イーゴは眼をギラギラと光らせて大声一発。

 

「やれやれ。相変わらず無駄にデカい声だなあ。ま、いいさ。では、始めるか」

 

 こうして――

 

 いよいよ最強に向けての修業が本格スタートした。

 それは時間にして10年以上続く。

 

 この間、

 

「ぬああああああああああああ!!」

 

「ほれ、甘いからそうなる」

 

「うわあああああああああああ!?」

 

「力任せにやるな。力を受け流し、そらして勢いで投げる」

 

「げはぁぁぁああああ!?」

 

「終わりか? そのまま死ぬか?」

 

「な、何のこれしき……」

 

「でえええええええええ!?」

 

「見ろ、雑な技を使うからかえって巻き込まれる」

 

 それでも――

 通常の時間では、1日にも達しない。

 

 

 

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