破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その119、無謀の男-5 ふたつの流れ

 

 

 

「では、こちらが今回の報酬となります。今回はどうされますか?」

 

「……そうね。では、紙のほうにしましょうか。現金で」

 

「了解しました」

 

 カーシャと受付嬢のやり取り。

 マコネとバッキーは後ろのほうで待っている。

 

「それにしても――」

 

 バッキーは誰言うとなくつぶやいた。

 

 今回の報酬はおよそ1億ジュラ。

 つまり、日本円では1億円となる。

 

 カーシャが5千万。

 マコネとバッキーがそれぞれ2千500万ずつ。

 これが取り分となる。

 

「よくまあ、毎度毎度お金が出てくるものですよねえ……。半分以上は国、宮廷依頼でしょ? お金なくならないんですかね?」

 

「まあ、それも結局は()()()()だわな」

 

 マコネは耳掃除をしながら言った。

 

「お金」

 

「ドラゴンほどじゃないにしろ、厄介なモンスターを討伐するには金も準備も要る()ってことさ」

 

「あああ……」

 

「ゴトクに聞いたけど、下手に軍を動かせば何億ジュラもかかるっていうしなあ」

 

「それはすごい……」

 

「魔導戦車だのは一台10億。最高クラスの空飛ぶ魔導アーマー……ドラグーンってのかい? アレなんかひとつで100億、いや、それ以上かかるってよ」

 

「それ、破産しません?」

 

「だからさ。身ひとつでドラゴンを潰せる姐さんは重宝されるんだろうさ」

 

「ですよねえ」

 

「戦車やドラグーンを作って長持ちさせること考えりゃ、1億2億の報酬なんか安いもんだろうぜ。それに、厄介モンスターってのはそれだけ金にもなる。去年潰したドラゴンの数だけでメタクソ潤ったじゃねえか、上のほうはよ」

 

 そうなのだった。

 つまりどこまで行っても、経済の問題となってくる。

 

 その点が大きく作用しているため――

 これは、マコネやバッキーの知らないことだが……。

 

 危険性もさることながら?

 カーシャの存在は益のほうが大きいのである。

 だから、宮廷も彼女と敵対するようなことは絶対にしない。

 できないとも言えるが。

 

 さて。

 そんな『日常』が普通に過ぎている頃――

 

 

 ・  ・  ・

 

 

 Braaaaaaaaaaa!!!

 

 灰色の荒野を巨大な咆哮と地響きが揺らす。

 鋭い角と、象やカバのような足を持つモンスター。

 そいつが一直線に突進してくる。

 サイズは体長6メートル近い。

 

「ぬおりゃああああああ!!」

 

 気合を上げ、イーゴは真正面で対峙していた。

 逃げる気配はない。

 両手を前に出し、一歩も引いていなかった。

 

 そして――

 激突しようとした刹那、モンスターは斜め横に吹っ飛んでいた。

 近くの岩に叩きつけられて、横倒しになる。

 どお、と音がして地面が震えた。

 

 Brrrrrr……!

 

 それでも。

 モンスターは首を振りながら立ち上がる。

 イーゴを睨んで、再び突撃の体勢。

 

「来るか!!」

 

 イーゴはモンスターを睨んで、腰を低くした。

 

 さあ、それから。

 同じような光景が、何度も何度も繰り返される。

 

「さてさて……」

 

 ガマ仙人は取っ手のないカップでお茶を飲む。

 

「まだまだ余分な力が入っておるなあ?」

 

 やがて。

 しばらくの時間が流れた後、だった。

 

「ぬおりゃっ!!」

 

 イーゴの短い叫び。

 それと共に、モンスターの巨体は空中高く放り投げられた。

 タツマキのように回転しながら。

 

 そのまま――

 モンスターはドリルのように地面にめり込んでいった。

 ボキリボキリと、全身がねじれて音が響く。

 肉や骨の砕ける音。

 

「ぜぇはあ、ぜぇはあ……!」

 

 イーゴは大きく息を吐き出す。

 グラリとよろけるが、両足はしっかり大地を踏みしめている。

 

「まあ、及第点というところか」

 

 ガマ仙人は寝転んだ体勢で言った。

 宙にふわふわと浮きながら。

 

「レッサーとはいえ、ビヒモスを仕留められるのはなかなかできん」

 

「は、はい!」

 

 イーゴは汗まみれながら、笑顔で応えた。

 疲労の重なった体。

 それを支えるように両膝をつかみながら。

 

「しかし、ドラゴンとなればどうかの?」

 

 ガマ仙人はカエルの顔に、意地悪な色を浮かべる。

 

「まさか卵を叩き割ったり、生まれたての幼体を仕留めて、さあどうだ! というのでは、通用せんのだろう? 幼体と中間体のあいだくらいだとか」

 

「は、はい……」

 

 そこを突かれて、イーゴの勢いは弱くなる。

 

「どの程度のランクを仕留めれば認められるか、そこも問題だな。中間体あたりになれば、もはや自殺行為。そうそう出てくるもんではないしなあ。まあ、最近は出やすい『時期』かもしれんが……」

 

 ガマ仙人は顎を撫でつつ、

 

「及第点でも、3~5百年生きたドラゴンだからのう。こいつは厳しいぞ?」

 

 

 ・  ・  ・

 

 

「あー……。ちょっとばかりお尋ねしたいことはあるんですけどねぇ?」

 

 オープンカフェのテラスである。

 蛇相の女――ミゾイ・シーダは茶器を置いて言った。

 

「なに?」

 

 前に座るカーシャは、優美な手つきでお茶を飲んでいる。

 

「こないだ聞いたんだけど、うちの隊長さんに弟子入りしたいとか、わけのわからんこと言ってきたバカな小僧がいましてねぇ」

 

「隊長? ああ……」

 

 正直なところ――

 カーシャはギルドナイトの構成や人物などをあまり知らない。

 

 知っているのは、よくギルドマスターのそばに控えているライワとミゾイ。

 そのふたりくらいである。

 

「あの紫さんがどうしたのかしら?」

 

「だから、あいつに弟子入りしたいってのが来たんですよぅ」

 

 ミゾイは困ったように眉を寄せる。

 

「それと私にどういう関係があると?」

 

「ドラゴン討伐ができるくらいに、強くなりたいとね。あんたに認められるくらいにさ」

 

「認める? 私が? ……なんで?」

 

 カーシャは訝しく思いながら、茶器を碗皿(ソーサー)に置いた。

 

「その勇者志望の若人、名前はイーゴ・ノヒリカ。確か、そういう名前だったと」

 

「だれ、それ」

 

「ご存じない?」

 

「知り合いにいたかしらね、そんなの……」

 

 カーシャは、首をかしげる。

 白い指先でこめかみをつつき、記憶を探った。

 

「イーゴねえ……」

 

「あんたと付き合うとか惚れるとか、そんな戯言をぬかしてたとも聞きましたけどねぇ?」

 

「わたしと?」

 

 カーシャは半ば本気で困惑したが――

 

「あああ……」

 

 指先を顔から離し、小さく息を吐く。

 

「そういえば。わざわざ花束を家まで持ってきた子どもがいたかしら」

 

「ちなみに、いくつくらいの?」

 

「14、5くらいねえ」

 

「……そんなに年変わらないじゃありませんかぁ」

 

「……そうかもね」

 

 カーシャは感慨深く笑った。

 ヒトとして成長できたという実感はない。

 

 しかし。

 体感した時間は冒険者生活の数か月よりも、地獄(ナラカ)でのものが圧倒的に多い。

 時間の感覚は完全に麻痺していた。

 地上では一瞬だったとはいえ、膨大な時間だったのは、確かなのだから。

 

 

 

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