破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
「では、こちらが今回の報酬となります。今回はどうされますか?」
「……そうね。では、紙のほうにしましょうか。現金で」
「了解しました」
カーシャと受付嬢のやり取り。
マコネとバッキーは後ろのほうで待っている。
「それにしても――」
バッキーは誰言うとなくつぶやいた。
今回の報酬はおよそ1億ジュラ。
つまり、日本円では1億円となる。
カーシャが5千万。
マコネとバッキーがそれぞれ2千500万ずつ。
これが取り分となる。
「よくまあ、毎度毎度お金が出てくるものですよねえ……。半分以上は国、宮廷依頼でしょ? お金なくならないんですかね?」
「まあ、それも結局は
マコネは耳掃除をしながら言った。
「お金」
「ドラゴンほどじゃないにしろ、厄介なモンスターを討伐するには金も準備も
「あああ……」
「ゴトクに聞いたけど、下手に軍を動かせば何億ジュラもかかるっていうしなあ」
「それはすごい……」
「魔導戦車だのは一台10億。最高クラスの空飛ぶ魔導アーマー……ドラグーンってのかい? アレなんかひとつで100億、いや、それ以上かかるってよ」
「それ、破産しません?」
「だからさ。身ひとつでドラゴンを潰せる姐さんは重宝されるんだろうさ」
「ですよねえ」
「戦車やドラグーンを作って長持ちさせること考えりゃ、1億2億の報酬なんか安いもんだろうぜ。それに、厄介モンスターってのはそれだけ金にもなる。去年潰したドラゴンの数だけでメタクソ潤ったじゃねえか、上のほうはよ」
そうなのだった。
つまりどこまで行っても、経済の問題となってくる。
その点が大きく作用しているため――
これは、マコネやバッキーの知らないことだが……。
危険性もさることながら?
カーシャの存在は益のほうが大きいのである。
だから、宮廷も彼女と敵対するようなことは絶対にしない。
できないとも言えるが。
さて。
そんな『日常』が普通に過ぎている頃――
・ ・ ・
Braaaaaaaaaaa!!!
灰色の荒野を巨大な咆哮と地響きが揺らす。
鋭い角と、象やカバのような足を持つモンスター。
そいつが一直線に突進してくる。
サイズは体長6メートル近い。
「ぬおりゃああああああ!!」
気合を上げ、イーゴは真正面で対峙していた。
逃げる気配はない。
両手を前に出し、一歩も引いていなかった。
そして――
激突しようとした刹那、モンスターは斜め横に吹っ飛んでいた。
近くの岩に叩きつけられて、横倒しになる。
どお、と音がして地面が震えた。
Brrrrrr……!
それでも。
モンスターは首を振りながら立ち上がる。
イーゴを睨んで、再び突撃の体勢。
「来るか!!」
イーゴはモンスターを睨んで、腰を低くした。
さあ、それから。
同じような光景が、何度も何度も繰り返される。
「さてさて……」
ガマ仙人は取っ手のないカップでお茶を飲む。
「まだまだ余分な力が入っておるなあ?」
やがて。
しばらくの時間が流れた後、だった。
「ぬおりゃっ!!」
イーゴの短い叫び。
それと共に、モンスターの巨体は空中高く放り投げられた。
タツマキのように回転しながら。
そのまま――
モンスターはドリルのように地面にめり込んでいった。
ボキリボキリと、全身がねじれて音が響く。
肉や骨の砕ける音。
「ぜぇはあ、ぜぇはあ……!」
イーゴは大きく息を吐き出す。
グラリとよろけるが、両足はしっかり大地を踏みしめている。
「まあ、及第点というところか」
ガマ仙人は寝転んだ体勢で言った。
宙にふわふわと浮きながら。
「レッサーとはいえ、ビヒモスを仕留められるのはなかなかできん」
「は、はい!」
イーゴは汗まみれながら、笑顔で応えた。
疲労の重なった体。
それを支えるように両膝をつかみながら。
「しかし、ドラゴンとなればどうかの?」
ガマ仙人はカエルの顔に、意地悪な色を浮かべる。
「まさか卵を叩き割ったり、生まれたての幼体を仕留めて、さあどうだ! というのでは、通用せんのだろう? 幼体と中間体のあいだくらいだとか」
「は、はい……」
そこを突かれて、イーゴの勢いは弱くなる。
「どの程度のランクを仕留めれば認められるか、そこも問題だな。中間体あたりになれば、もはや自殺行為。そうそう出てくるもんではないしなあ。まあ、最近は出やすい『時期』かもしれんが……」
ガマ仙人は顎を撫でつつ、
「及第点でも、3~5百年生きたドラゴンだからのう。こいつは厳しいぞ?」
・ ・ ・
「あー……。ちょっとばかりお尋ねしたいことはあるんですけどねぇ?」
オープンカフェのテラスである。
蛇相の女――ミゾイ・シーダは茶器を置いて言った。
「なに?」
前に座るカーシャは、優美な手つきでお茶を飲んでいる。
「こないだ聞いたんだけど、うちの隊長さんに弟子入りしたいとか、わけのわからんこと言ってきたバカな小僧がいましてねぇ」
「隊長? ああ……」
正直なところ――
カーシャはギルドナイトの構成や人物などをあまり知らない。
知っているのは、よくギルドマスターのそばに控えているライワとミゾイ。
そのふたりくらいである。
「あの紫さんがどうしたのかしら?」
「だから、あいつに弟子入りしたいってのが来たんですよぅ」
ミゾイは困ったように眉を寄せる。
「それと私にどういう関係があると?」
「ドラゴン討伐ができるくらいに、強くなりたいとね。あんたに認められるくらいにさ」
「認める? 私が? ……なんで?」
カーシャは訝しく思いながら、茶器を
「その勇者志望の若人、名前はイーゴ・ノヒリカ。確か、そういう名前だったと」
「だれ、それ」
「ご存じない?」
「知り合いにいたかしらね、そんなの……」
カーシャは、首をかしげる。
白い指先でこめかみをつつき、記憶を探った。
「イーゴねえ……」
「あんたと付き合うとか惚れるとか、そんな戯言をぬかしてたとも聞きましたけどねぇ?」
「わたしと?」
カーシャは半ば本気で困惑したが――
「あああ……」
指先を顔から離し、小さく息を吐く。
「そういえば。わざわざ花束を家まで持ってきた子どもがいたかしら」
「ちなみに、いくつくらいの?」
「14、5くらいねえ」
「……そんなに年変わらないじゃありませんかぁ」
「……そうかもね」
カーシャは感慨深く笑った。
ヒトとして成長できたという実感はない。
しかし。
体感した時間は冒険者生活の数か月よりも、
時間の感覚は完全に麻痺していた。
地上では一瞬だったとはいえ、膨大な時間だったのは、確かなのだから。