破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

366 / 366
その119、無謀の男-6 大根のように

 

 

「さて――どうしたもんかね、これは」

 

 机上に置かれた報告書。

 ギルドマスターは、読んだばかりの背伸びしながら眺める。

 

 小型のドラゴン種を確認。

 推定年齢は4から500年ほど。

 陸上型で火球のブレスを吐く。

 飢えて危険と判断されるために、早急な討伐を依頼する。

 

「危険ではありますが……」

 

 応えたのは、直立不動の体勢で待機していた一番隊長。

 ライワ・ヘイメルフント。

 

「装備と動員数に制限がなければ、ギルドナイトでも対処可能かと」

 

「なるほど、なるほど。で、それにかかると予想される費用は?」

 

「こちらですよゥ」

 

 死霊魔術師(ネクロマンサー)であり、幹部でもあるミゾイ・シーダが、書類を手渡す。

 クエストにかかるであろう、大よその『見積書』。

 

「やはり……。けっこうな値段がするねえ?」

 

「人命も考慮していますから」

 

 ライワが冷静な声で言う。

 

「そうだよなあ」

 

 ギルドマスターはため息をつく。

 

「ギルドの正式歩兵をひとり育てるのに、大体いくらかかるんだっけ?」

 

「500万ジュラほど。使い捨ての臨時兵はもっと安く上がりますけれど」

 

「それ役に立つのかい? いや、あんまり立たないだろうなあ……」

 

「肉壁と囮程度なら。もっとも、多少報酬を上げてもドラゴン相手では腰が引けるでしょうが」

 

「俺だってそうなるよ。正式歩兵は育てても維持するのに金かかるんだよねえ」

 

 ギルドマスターは、大きく大きくため息を吐いた。

 

「困るな。実に困る」

 

「また例のご令嬢に依頼します? 報酬は宮廷が――」

 

 と。

 ミゾイがいれたてのお茶を静かに差し出す。

 

「いや。それが困るんだよな」

 

 ギルドマスターは両手を頭の後ろにやって、

 

「今のままズルズルと彼女に依存して頼るような流れは好ましくないよ」

 

「――確かに」

 

 ライワも同意した。

 

「かといって、自分たちでやれば金もかかる。死人が出る可能性も高い」

 

「SRランクの冒険者たちを招集して、やらせますか?」

 

 そうライワが提案すると、

 

「数は力じゃあるけど、人数が増えればこれまたひとり頭の取り分が減る。SRともなれば、半端な値段はうなずかんだろう」

 

 より困った顔で、ギルドマスターは頭を掻いた。

 

 

 ・  ・  ・

 

 

「まあ、こんなものだろうかな」

 

 イーゴの前で――

 ガマ仙人は腕組みをしながら言った。

 

「そうですか?」

 

 イーゴは首をかしげた。

 

 全身ズタボロ。

 あちこちに傷を負い、来ている服はボロきれ同然。

 

 それでも。

 黒い瞳は闘志と野心で燃え盛っていた。

 疲労はむしろ精神を昂らせる燃料だ。

 

 イーゴの後ろ。

 そこには、地面にめり込んだモンスターの死体がいくつもあった。

 

 グリフォン。

 ヒドラ。

 キマイラ。

 他にも雑多なモンスターたち。

 

「さっき証明してみせたように、今のお前は並の大型モンスターならば単独で倒せる実力を身につけた」

 

「はい! 師匠のおかげです」

 

「うむうむ。だがな、戦う場所はこの煉獄の荒野ばかり。つまり、他での経験が薄いのだ。これは、不利だぞ」

 

「はい……」

 

「ここには沼や崖、岩場があるが――海などの水辺、さらに木々で覆われた森も山もない。お前はそこでの戦闘経験がないのだ」

 

「では、どうすれば!?」

 

「実戦で学ぶしかあるまい。一応の及第点は出した。ならば、後はここを去ってひとりで戦い、学ぶがよかろう」

 

「では、免許皆伝ですか!?」

 

 イーゴはパッと表情を明るくする。

 しかし、

 

「アホ。及第点だと言ったろうが」

 

 ガマ仙人はポコリと杖で頭を叩く。

 

「とりあえず、下山して故郷(くに)に帰るなり、武者修行をするなり、好きにするがよい。それから後は、お前次第よ」

 

「ははあっ! 色々とありがとうございました! ご恩は絶対に忘れません!!」

 

 地に伏して礼を述べるイーゴに、

 

「別にそんなことは期待せんがね? さて……下山するとなれば、そのボロではいささか具合が悪いな」

 

 ガマ仙人は腕組をして、何事か考え出した。

 

「あ、そういえば、だいぶくたびれてきましたね」

 

 イーゴがのんきなことを言っていると、

 

「よしよし。では、これをやろう」

 

 と。

 ガマ仙人は空中から何かを取り出す。

 それはふわりと、イーゴの手におさまる。

 

 分厚い布地の白い服だった。

 上にはやはり厚手の黒い帯が載っている。

 これをバッキーが見たなら、

 

「あ、柔道着……」

 

 と言うに違いない。

 

「わしの造った稽古着だ。着心地は知らんが、頑丈なことは保証するぞ」

 

 かくして――

 イーゴは装いも新たに下山した。

 後は、野を越え山を越え、ひたすらにネビズの街を目指して……。

 

 

 ・  ・  ・

 

 

「モンスター大根ってのを知ってるか?」

 

「何だい、そりゃ……」

 

 ゴトクは首をかしげて相手を見た。

 話しているのは、得意先の商人である。

 

 ゴトクが製作したり仕入れてきたものを定期的に買っていく。

 同じものでも、ゴトクのそれは一般的なモノより質が良い。

 その分値段も上がるが、質を重視する店ではむしろ歓迎される。

 

 商人はヤオアムトでは仕入れたものを他の国へ売りに行く隊商(キャラバン)の一員なのだが、

 

「地面にさ、モンスターが頭から突き刺さって死んでるんだよ。それが大根というか根菜類だな、それに似てるからそういう呼び名がついた」

 

「はあ、巨人がモンスターを地面に植えた、みたいな感じか」

 

「そうそう」

 

「しかし、何だってそんな愉快なことになってるんだ?」

 

「いやあ……」

 

「何だ、歯切れの悪い」

 

「それがさ? でかいモンスターを投げ飛ばすヤツがいたとか」

 

「ふーん」

 

 ゴトクはちょっと考えてから、

 

「しかし、ゴーレムなしでも魔力だの魔法を組み合わせればできないこともないぜ」

 

 ある種のスペシャリスト、達人であれば――

 不可能ではないだろう。

 

「そりゃそうだがね……。しかし、投げ飛ばされたモンスターがねじれて地面に突き刺さるなんてのは、早々ないだろう?」

 

「む」

 

 言われて、ゴトクも少し考えを修正した。

 

「現場を見てないから何とも言えんが……。単に叩きつけるとかじゃなさそうだな」

 

「げんば? それなら多少わかるぞ」

 

 言って、商人は写真を見せてきた。

 

「こいつは、その時の様子をおさめたもんだ、伝手からもらってきた」

 

 写真には――

 大根というより、ネジのように地面に突き刺さったグリフォンの死体が映っていた。

 ネジ。

 全身が螺旋状にねじれて、内臓も骨も破壊されているのが見て取れる。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

収穫祭の魔女(作者:れいてんし)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

23歳サラリーマンの男だった俺=上戸佑は異世界へ召喚されてしまった際に魔女(ハロウィン限定キャラ:SR)の姿に変えられてしまった。▼元の姿に戻りたいし、生活力皆無の友人も腹を空かせて俺の帰宅を待っている。▼時空の神の力を借りることで日本へ帰ることが出来ると聞いた俺は同じ境遇である高校生のモリ君、エリちゃん、そして仲間達と長い旅に出る。▼俺に与えられた能力は▼…


総合評価:5709/評価:8.87/連載:342話/更新日時:2026年06月09日(火) 17:00 小説情報

ダンジョン中毒から抜け出したい【書籍化&コミカライズ決定】(作者:1パチより4パチ派)(オリジナル現代/コメディ)

ダンジョンのドロップにどハマりして身を崩した主人公が、過去に脳を焼いちゃった仲間や世間からの妨害(ほぼ自業自得)にめげずに社会復帰を目指す話。▼※2026年2月10日 書籍化&コミカライズ決定しました。


総合評価:7354/評価:8.25/連載:89話/更新日時:2026年06月16日(火) 12:40 小説情報

遭遇者達の集い(作者:鮫肌猫)(オリジナル現代/ホラー)

『フェイルセーフ』へようこそ!此処はこの世ならざる怪異に遭遇した、或いは遭遇している人間やそれに類する方々の為の掲示板です。綺羅星の如く輝く皆様の可能性を是非この掲示板へと書き込んで下さい!▼


総合評価:13064/評価:8.91/連載:68話/更新日時:2026年06月05日(金) 17:15 小説情報

強化人間がTSしたら魔法少女が戦う世界でメカ美少女になってました(作者:Yura0628)(オリジナル現代/冒険・バトル)

ミサイルの爆発に巻き込まれた強化人間イーグル1。目覚めた先は、魔法少女が戦う過去の地球だった…!▼自身の体が女性に成っている事に困惑しつつ、元の世界に戻るため、イーグル1は魔法少女として戦う事の対価に、この世界の組織に協力を取り付ける。だが、襲いくる強力な魔獣を相手していく上で、身体的損傷を許さざるを得ない状況に追い込まれ…彼女に救われた魔法少女達は、目から…


総合評価:1925/評価:8.5/連載:37話/更新日時:2026年05月09日(土) 11:11 小説情報

【完結】VRMMOで【食屍姫】になった無職だけど、現代ダンジョンでも化け物扱いされ始めて嬉しいです!   (作者:ちんこ良い肉)(オリジナル現代/冒険・バトル)

「働かずに食う飯は美味いか?」「めちゃくちゃ美味いに決まってるわよね?」▼親の小言に白米を頬張りながら満面の笑みでそう返してしまった玉織紬(たまおりつむぎ)は鉄拳制裁と共に毎食をもやしに変えられた。▼大学を中退し、実家で生もやしを主食に生きる無職の玉織紬は、日雇いバイトすらまともにこなせない社会不適合者だった。▼だが、胡散臭いVRMMO【エリュシオン・オンラ…


総合評価:3996/評価:8.54/完結:84話/更新日時:2026年06月09日(火) 23:32 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>