破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
「さて――どうしたもんかね、これは」
机上に置かれた報告書。
ギルドマスターは、読んだばかりの背伸びしながら眺める。
小型のドラゴン種を確認。
推定年齢は4から500年ほど。
陸上型で火球のブレスを吐く。
飢えて危険と判断されるために、早急な討伐を依頼する。
「危険ではありますが……」
応えたのは、直立不動の体勢で待機していた一番隊長。
ライワ・ヘイメルフント。
「装備と動員数に制限がなければ、ギルドナイトでも対処可能かと」
「なるほど、なるほど。で、それにかかると予想される費用は?」
「こちらですよゥ」
クエストにかかるであろう、大よその『見積書』。
「やはり……。けっこうな値段がするねえ?」
「人命も考慮していますから」
ライワが冷静な声で言う。
「そうだよなあ」
ギルドマスターはため息をつく。
「ギルドの正式歩兵をひとり育てるのに、大体いくらかかるんだっけ?」
「500万ジュラほど。使い捨ての臨時兵はもっと安く上がりますけれど」
「それ役に立つのかい? いや、あんまり立たないだろうなあ……」
「肉壁と囮程度なら。もっとも、多少報酬を上げてもドラゴン相手では腰が引けるでしょうが」
「俺だってそうなるよ。正式歩兵は育てても維持するのに金かかるんだよねえ」
ギルドマスターは、大きく大きくため息を吐いた。
「困るな。実に困る」
「また例のご令嬢に依頼します? 報酬は宮廷が――」
と。
ミゾイがいれたてのお茶を静かに差し出す。
「いや。それが困るんだよな」
ギルドマスターは両手を頭の後ろにやって、
「今のままズルズルと彼女に依存して頼るような流れは好ましくないよ」
「――確かに」
ライワも同意した。
「かといって、自分たちでやれば金もかかる。死人が出る可能性も高い」
「SRランクの冒険者たちを招集して、やらせますか?」
そうライワが提案すると、
「数は力じゃあるけど、人数が増えればこれまたひとり頭の取り分が減る。SRともなれば、半端な値段はうなずかんだろう」
より困った顔で、ギルドマスターは頭を掻いた。
・ ・ ・
「まあ、こんなものだろうかな」
イーゴの前で――
ガマ仙人は腕組みをしながら言った。
「そうですか?」
イーゴは首をかしげた。
全身ズタボロ。
あちこちに傷を負い、来ている服はボロきれ同然。
それでも。
黒い瞳は闘志と野心で燃え盛っていた。
疲労はむしろ精神を昂らせる燃料だ。
イーゴの後ろ。
そこには、地面にめり込んだモンスターの死体がいくつもあった。
グリフォン。
ヒドラ。
キマイラ。
他にも雑多なモンスターたち。
「さっき証明してみせたように、今のお前は並の大型モンスターならば単独で倒せる実力を身につけた」
「はい! 師匠のおかげです」
「うむうむ。だがな、戦う場所はこの煉獄の荒野ばかり。つまり、他での経験が薄いのだ。これは、不利だぞ」
「はい……」
「ここには沼や崖、岩場があるが――海などの水辺、さらに木々で覆われた森も山もない。お前はそこでの戦闘経験がないのだ」
「では、どうすれば!?」
「実戦で学ぶしかあるまい。一応の及第点は出した。ならば、後はここを去ってひとりで戦い、学ぶがよかろう」
「では、免許皆伝ですか!?」
イーゴはパッと表情を明るくする。
しかし、
「アホ。及第点だと言ったろうが」
ガマ仙人はポコリと杖で頭を叩く。
「とりあえず、下山して
「ははあっ! 色々とありがとうございました! ご恩は絶対に忘れません!!」
地に伏して礼を述べるイーゴに、
「別にそんなことは期待せんがね? さて……下山するとなれば、そのボロではいささか具合が悪いな」
ガマ仙人は腕組をして、何事か考え出した。
「あ、そういえば、だいぶくたびれてきましたね」
イーゴがのんきなことを言っていると、
「よしよし。では、これをやろう」
と。
ガマ仙人は空中から何かを取り出す。
それはふわりと、イーゴの手におさまる。
分厚い布地の白い服だった。
上にはやはり厚手の黒い帯が載っている。
これをバッキーが見たなら、
「あ、柔道着……」
と言うに違いない。
「わしの造った稽古着だ。着心地は知らんが、頑丈なことは保証するぞ」
かくして――
イーゴは装いも新たに下山した。
後は、野を越え山を越え、ひたすらにネビズの街を目指して……。
・ ・ ・
「モンスター大根ってのを知ってるか?」
「何だい、そりゃ……」
ゴトクは首をかしげて相手を見た。
話しているのは、得意先の商人である。
ゴトクが製作したり仕入れてきたものを定期的に買っていく。
同じものでも、ゴトクのそれは一般的なモノより質が良い。
その分値段も上がるが、質を重視する店ではむしろ歓迎される。
商人はヤオアムトでは仕入れたものを他の国へ売りに行く
「地面にさ、モンスターが頭から突き刺さって死んでるんだよ。それが大根というか根菜類だな、それに似てるからそういう呼び名がついた」
「はあ、巨人がモンスターを地面に植えた、みたいな感じか」
「そうそう」
「しかし、何だってそんな愉快なことになってるんだ?」
「いやあ……」
「何だ、歯切れの悪い」
「それがさ? でかいモンスターを投げ飛ばすヤツがいたとか」
「ふーん」
ゴトクはちょっと考えてから、
「しかし、ゴーレムなしでも魔力だの魔法を組み合わせればできないこともないぜ」
ある種のスペシャリスト、達人であれば――
不可能ではないだろう。
「そりゃそうだがね……。しかし、投げ飛ばされたモンスターがねじれて地面に突き刺さるなんてのは、早々ないだろう?」
「む」
言われて、ゴトクも少し考えを修正した。
「現場を見てないから何とも言えんが……。単に叩きつけるとかじゃなさそうだな」
「げんば? それなら多少わかるぞ」
言って、商人は写真を見せてきた。
「こいつは、その時の様子をおさめたもんだ、伝手からもらってきた」
写真には――
大根というより、ネジのように地面に突き刺さったグリフォンの死体が映っていた。
ネジ。
全身が螺旋状にねじれて、内臓も骨も破壊されているのが見て取れる。