破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その119、無謀の男-7 緊急クエスト『ドラゴンを足止めせよ』

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 

 ネビズの街が見えた時――

 イーゴは肩で息をしていた。

 全身がとにかく重い。

 疲れ切っていた。

 

 それも仕方がない。

 何しろ鉄蝦蟇山から下りて(のち)、とにかく走り、走り続けてきた。

 時には休憩するのさえもどかしく、走りながら飲み食いをしたほどだ。

 

 だが。

 その甲斐あって、常識はずれな速度で帰還することができた。

 途中。

 修業の成果を存分に発揮して、実戦経験を重ねている。

 

「帰って来たなあ」

 

 ネビズの街並みを見ながら、しみじみと思う。

 当然だった。

 普通の世界で、時間は半月も経っていない。

 

 ――さっそく、あの女性(ひと)と。いや……!

 

 すぐにカーシャに会いに行きたかったが、

 

 ――どうせなら、結果を出してからだな。ちょうどいいクエストがあればいいんだが……。

 

 腕組みをして、街を進む。

 まず目指す場所は、冒険者ギルドだった。

 

 かくして――

 

「ドラゴン退治のクエストはありませんか!?」

 

「はい?」

 

 いきなり。

 とんでもないことを聞いて来る冒険者。

 それも、まだ少年……。

 

 こんな人物を相手に、受付嬢は目を白黒させた。

 

「あのー、それって卵とか幼体とか、ですよね?」

 

「いえ! もうちょっと大きくなったヤツとか、中間体とかです」

 

 相手の少年は大まじめな顔である。

 冗談ではないらしい。

 

 しかし、

 

「そんなもの、ありませんよ……」

 

「いや、そこを何とか!?」

 

「なりません」

 

 ないものはないのだから、そう言うしかない。

 

「大体……そんなクエスト、単独で受けるものじゃないですし、許可も降りませんってば」

 

「むむむ……。ないですか」

 

「ないですね」

 

 さて。

 そんなやり取りの最中に、

 

「緊急クエストです!」

 

 奥のほうから、大声が飛んできた。

 

「推定400から500歳のドラゴン種、これの討伐補助です! 人数は問いません!!」

 

 それは、魔導拡声器で街中に伝わっていく。

 

「ドラゴンだって?」

 

「また例のご令嬢に回るんじゃないのか?」

 

「いや、足止めらしい。ギルドのほうでやるんだとよ」

 

「まあ、何でもかんでも任せっきりじゃ、面子が立たないか……」

 

 そんな会話が飛び交う中、

 

「おおお……! これぞ天啓……!」

 

 少年――

 イーゴ・ノヒリカは拳をつかんで震えていた。

 武者震いである。

 

 

 ・  ・  ・

 

 

「街の守り?」

 

「ああ。万一に備えて、ネビズで待機してもらいたい。これはクエストではなく――」

 

「あくまでも、よければ……ということで?」

 

「そうだ」

 

「なるほど?」

 

 カーシャは――

 目の前の女騎士……ライワ・ヘイメルフントを見た。

 

「今回はギルドでも対処可能と判断された。お前のおかげで予算そのものは潤沢だから」

 

「余っていると」

 

「言葉を選ばなければ、な」

 

「ふうん。まあ、お役に立てたのならば、幸いですわ」

 

「……感謝はしている」

 

「別に。あくまでお仕事ですから」

 

「それでも、感謝の念はあるものだ」

 

「ああ、そうね。なるほど、そういうものよねえ」

 

 カーシャは、少しだけ笑った。

 

「まあ、特にお仕事(クエスト)もないし。待機は問題なし」

 

「では、そのように頼む」

 

 そして――

 女騎士ライワが去った後。

 

「ふうん?」

 

 カーシャは、屋敷の屋根から街を見た。

 

 確かに……。

 中央から、騒がしい音や気配が伝わってくる。

 

 おそらく――

 郊外にあるギルドナイトの駐屯地では、大騒ぎだろう。

 

 しばらく観察してみる。

 すると。

 ゴーレムや魔導馬車が列をなして移動していくのが見えた。

 

 このゴーレムも、その場その場でいちいち生み出す即席型ではない。

 キッチリと完成させた素体に、後から様々な強化を付与したものだ。

 

「遠隔操作の大型ロボット?」

 

 そんなことを、バッキーは言っていたか。

 他にも、魔導アーマーも見える。

 

 魔導馬車。

 ゴーレム。

 魔導アーマー。

 いずれにも、ギルドの紋章があるはずだ。 

 

 ――大仰な。

 

 カーシャは一瞬そう思いかけたが、

 

 ――そうでもないか。

 

 と。

 思い直して、青い髪を撫でた。

 

 中間型のさらに中間。

 そういうものでさえ、ドラゴンは脅威だ。

 国ひとつほどではなくっても、街ひとつ滅ぼすことは十分ありうる。

 場合によっては、住人全員が餌になりかねない。

 

「さて……」

 

 自分の出番は、ありやなしや?

 カーシャはジッと様子を見守るばかり。

 

 

 ・  ・  ・

 

 

 巨躯が地響きをたてる。

 

 Voaaaaaaaaaaaaaa!!!

 

 咆哮だけで、空気が震えた。

 衝撃で地面は揺れる。

 

「走れ、走れ!」

 

「こっちに防御魔法だ!」

 

「おい、起きろ! 死ぬぞ!」

 

 まさに、修羅場。

 ドラゴン一匹に対して、ギルドナイトの他多くの冒険者が奔走していた。

 

 ギルドの歩兵が魔導銃や砲弾で牽制するが……。

 

「くそ、効果が薄い……!」

 

「もっと魔力のこもった弾はないのか!?」

 

「こんなの、魔導戦車(タンク)でもなきゃ無理だろ!?」

 

 苦戦。

 とにかく、苦戦。

 

 ――練度が下がっているとは思えんが……!!

 

 ライワは歯噛みをした。

 

 出し惜しみはしていない。

 可能な限りの武装と人員であたっている。

 他にも、大勢の冒険者を使っている。

 

 ――だが……!

 

 ドラゴンの体は頑強で、ブレスは脅威。

 どころか、軽く前足を振り回すだけで人間どころか、ゴーレムや魔導アーマーすら吹っ飛ぶ。

 

「弾は残らず叩き込め! 残弾など考えるな!!」

 

 指示を飛ばしながら、ライワ自身も弓をつがえた。

 巨大な弓。

 巨大な矢。

 

 弓には様々な機構が組み込まれ、矢が強烈な破壊力を持つ。

 さらに、ライワの魔力を吸収して、より破壊力を増幅させていた。

 

「しっ……!」

 

 呼気と共に、矢を放つ。

 

 魔力が凝縮した矢は、生き物のようにうねり、飛行する。

 そして、

 

 Vyaaaaaaaaa……!

 

 ドラゴンの片目に突き刺さり、内部で爆発した。

 巨体がよろけて、崩れる。

 

 おおおおおおおお……!!!

 

 歓声が上がった。

 

 だが――

 次の瞬間、今までにない威力のブレスが周辺を吹き飛ばした。

 地面が焼け焦げて、崩れる。

 

 片目を傷つけられたドラゴンは、身を揺すっていた。

 憎悪と怒りをたぎらせて……。

 

「だから無理だったんだ!」

 

 部下の一人が泣き言を口走る。

 

「こんなのは、国軍の仕事だ! 俺たちの仕事じゃない!」

 

「今さらわめくな! 士気にかかわる!!」

 

 そう叫ぶライワだが――

 

 すでに多くの死傷者が出ている。

 使用した武器弾薬の消耗も大きい。

 

 こんな怪物を、()()()は一撃で葬るのだ。

 

 カーシャの異常性を、ライワは改めて実感していた――

 

 

 

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