破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
「はぁ、はぁ、はぁ……」
ネビズの街が見えた時――
イーゴは肩で息をしていた。
全身がとにかく重い。
疲れ切っていた。
それも仕方がない。
何しろ鉄蝦蟇山から下りて
時には休憩するのさえもどかしく、走りながら飲み食いをしたほどだ。
だが。
その甲斐あって、常識はずれな速度で帰還することができた。
途中。
修業の成果を存分に発揮して、実戦経験を重ねている。
「帰って来たなあ」
ネビズの街並みを見ながら、しみじみと思う。
当然だった。
普通の世界で、時間は半月も経っていない。
――さっそく、あの
すぐにカーシャに会いに行きたかったが、
――どうせなら、結果を出してからだな。ちょうどいいクエストがあればいいんだが……。
腕組みをして、街を進む。
まず目指す場所は、冒険者ギルドだった。
かくして――
「ドラゴン退治のクエストはありませんか!?」
「はい?」
いきなり。
とんでもないことを聞いて来る冒険者。
それも、まだ少年……。
こんな人物を相手に、受付嬢は眼を白黒させた。
「あのー、それって卵とか幼体とか、ですよね?」
「いえ! もうちょっと大きくなったヤツとか、中間体とかです」
相手の少年は大まじめな顔である。
冗談ではないらしい。
しかし、
「そんなもの、ありませんよ……」
「いや、そこを何とか!?」
「なりません」
ないものはないのだから、そう言うしかない。
「大体……そんなクエスト、単独で受けるものじゃないですし、許可も降りませんってば」
「むむむ……。ないですか」
「ないですね」
さて。
そんなやり取りの最中に、
「緊急クエストです!」
奥のほうから、大声が飛んできた。
「推定400から500歳のドラゴン種、これの討伐補助です! 人数は問いません!!」
それは、魔導拡声器で街中に伝わっていく。
「ドラゴンだって?」
「また例のご令嬢に回るんじゃないのか?」
「いや、足止めらしい。ギルドのほうでやるんだとよ」
「まあ、何でもかんでも任せっきりじゃ、面子が立たないか……」
そんな会話は飛び交う中、
「おおお……! これぞ天啓……!」
少年――
イーゴ・ノヒリカは拳をつかんで震えていた。
武者震いである。
・ ・ ・
「街の守り?」
「ああ。万一に備えて、ネビズで待機してもらいたい。これはクエストではなく――」
「あくまでも、よければ……ということで?」
「そうだ」
「なるほど?」
カーシャは――
目の前の女騎士……ライワ・ヘイメルフントを見た。
「今回はギルドでも対処可能と判断された。お前のおかげで予算そのものは潤沢だから」
「余っていると」
「言葉を選ばなければ、な」
「ふうん。まあ、お役に立てたのならば、幸いですわ」
「……感謝はしている」
「別に。あくまでお仕事ですから」
「それでも、感謝の念はあるものだ」
「ああ、そうね。なるほど、そういうものよねえ」
カーシャは、少しだけ笑った。
「まあ、特に
「では、そのように頼む」
そして――
女騎士ライワが去った後。
「ふうん?」
カーシャは、屋敷の屋根から街を見た。
確かに……。
中央から、騒がしい音や気配が伝わってくる。
おそらく――
郊外にあるギルドナイトの駐屯地では、大騒ぎだろう。
しばらく観察してみる。
すると。
ゴーレムや魔導馬車が列をなして移動していくのが見えた。
このゴーレムも、その場その場でいちいち生み出す即席型ではない。
キッチリと完成させた素体に、後から様々な強化を付与したものだ。
「遠隔操作の大型ロボット?」
そんなことを、バッキーは言っていたか。
他にも、魔導アーマーも見える。
魔導馬車。
ゴーレム。
魔導アーマー。
いずれにも、ギルドの紋章があるはずだ。
――大仰な。
カーシャは一瞬そう思いかけたが、
――そうでもないか。
と。
思い直して、青い髪を撫でた。
中間型のさらに中間。
そういうものでさえ、ドラゴンは脅威だ。
国ひとつほどではなくっても、街ひとつ滅ぼすことは十分ありうる。
場合によっては、住人全員が餌になりかねない。
「さて……」
自分の出番は、ありやなしや?
カーシャはジッと様子を見守るばかり。
・ ・ ・
巨躯が地響きをたてる。
Voaaaaaaaaaaaaaa!!!
咆哮だけで、空気が震えた。
衝撃で地面は揺れる。
「走れ、走れ!」
「こっちに防御魔法だ!」
「おい、起きろ! 死ぬぞ!」
まさに、修羅場。
ドラゴン一匹に対して、ギルドナイトの他多くの冒険者が奔走していた。
ギルドの歩兵が魔導銃や砲弾で牽制するが……。
「くそ、効果が薄い……!」
「もっと魔力のこもった弾はないのか!?」
「こんなの、
苦戦。
とにかく、苦戦。
――練度が下がっているとは思えんが……!!
ライワは歯噛みをした。
出し惜しみはしていない。
可能な限りの武装と人員であたっている。
他にも、大勢の冒険者を使っている。
――だが……!
ドラゴンの体は頑強で、ブレスは脅威。
どころか、軽く前足を振り回すだけで人間どころか、ゴーレムや魔導アーマーすら吹っ飛ぶ。
「弾は残らず叩き込め! 残弾など考えるな!!」
指示を飛ばしながら、ライワ自身も弓をつがえた。
巨大な弓。
巨大な矢。
弓には様々な機構が組み込まれ、矢が強烈な破壊力を持つ。
さらに、ライワの魔力を吸収して、より破壊力を増幅させていた。
「しっ……!」
呼気と共に、矢を放つ。
魔力が凝縮した矢は、生き物のようにうねり、飛行する。
そして、
Vyaaaaaaaaa……!
ドラゴンの片目に突き刺さり、内部で爆発した。
巨体がよろけて、崩れる。
おおおおおおおお……!!!
歓声が上がった。
だが――
次の瞬間、今までにない威力のブレスが周辺を吹き飛ばした。
地面が焼け焦げて、崩れる。
片目を傷つけられたドラゴンは、身を揺すっていた。
憎悪と怒りをたぎらせて……。
「だから無理だったんだ!」
部下の一人が泣き言を口走る。
「こんなのは、国軍の仕事だ! 俺たちの仕事じゃない!」
「今さらわめくな! 士気にかかわる!!」
そう叫ぶライワだが――
すでに多くの死傷者が出ている。
使用した武器弾薬の消耗も大きい。
こんな怪物を、
カーシャの異常性を、ライワは改めて実感していた――