破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その119、無謀の男-8 新しい英雄(ヒーロー)の誕生

 

 

 ――非常招集と、総攻撃か。

 

 ライワは嘆息して、覚悟を決めた。

 

 周辺からもギルドナイトとSRクラスの冒険者をかき集め、ドラゴンを一気に叩く。

 予想外に強いドラゴンに対して、それしか手段が浮かばなかった。

 

 しかし。

 そこに、思わぬ変化が起きて――

 

 

「ぬおおおおおおおおおおおお!!!」

 

 

 少年――

 イーゴ・ノヒリカは突進していく。

 

 ――バカな……!

 

 ムチャクチャだ。

 ライワは思ったが、止めようもない。

 無理に止める理由もなかった。

 

 仮に死んだところで、

 

 ――バカが自滅しただけ……。

 

 なのである。

 

 だが――

 

「おりゃああ!」

 

 イーゴはドラゴンの足につかみかかり……。

 実質抱き着いてその動きを封じようとする。

 

 ――通じるわけがない。

 

 常識的に考えれば、そうなのだ。

 

 しかし、

 

 Vrrrrrrrrr……!?

 

 とまどったようなドラゴンのうなり声。

 

 巨体が、コテで持ち上げられた石のようにひっくり返った。

 

「……なに?」

 

 何をどうやった?

 

 ライワは一瞬頭が真っ白になった。

 どうやら、何か『力』の流れが動いたらしい。

 それはわかるのだが、

 

 ――それで、どうやってドラゴンを動かせる?

 

 転がしたというより、半分はドラゴンが勝手に転んだようにさえ見えた。

 

 Vrrrooo……!

 

 ドラゴンは首と体を起こしながら、イーゴを睨んだ。

 自分に何かしたこの生き物を、明確に敵と認識したようである。

 

 カッと、牙の並んだ口が開く。

 

「ブレスが来るぞ!!!」

 

 ライワは周辺に向かって叫ぶ。

 

 この時――

 

「させるかああああ!!」

 

 イーゴは、いきなりジャンプ。

 ドラゴンの長い首につかみかかっていった。

 

 瞬間、

 

 ――渦?

 

 ライワには、ドラゴンの周辺に螺旋状の流れが見えた。

 そんな気がしたのである。

 

 と。

 

 ドラゴンの体が宙に浮きあがって――

 背中から地面に叩きつけられていく。

 

 地響きが、ライワの足元を崩した。

 

「くっ……!?」

 

 ライワは思わず膝をつきながら、頭を振る。

 

 ――どういう原理だ!?

 

 わからない。

 わからないが――

 

 ともかく、ドラゴンが投げ飛ばされたのは事実。

 

「ドラゴンスレイヤー……?」

 

 ライワは、思わずそうつぶやいていた。

 

 

 ・  ・  ・

 

 

 ――いける! 通じるぞ!!

 

 走りながら、イーゴは確信していた。

 

 敵の力を利用して、敵を叩き、砕く。

 その技は、今までのモンスター同様ドラゴンにも通じている。

 

 いや。

 ドラゴン自身の強大な力が、そのままドラゴン自身を攻撃しているのだ。

 

 いわば……。

 ドラゴンはもう一体の自分と戦っているようなものだった。

 

 しかしながら?

 その返し技も万能ではありえない。

 

 Vrooooo……!

 

 たびたび――

 ドラゴンは小癪(こしゃく)な羽虫を吹き飛ばそうとブレスを吐き出す。

 しかし、その直前こそがチャンス。

 

「よっせい!!」

 

 イーゴはすばやく頭の上に飛び乗り、

 

「どりゃ!!」

 

 ドラゴンの上顎をつかんで後ろに引っ張る。

 いや、口を開く力を利用して――

 

 ドォオオオ……と。

 再びの地響き。

 

 吐き出そうとしたブレスの威力。

 これがより大きな力となって、ドラゴンを回転させた。

 

 そして――

 地面に叩きつけられたのだ。

 

 Vuorrrrr……!

 

 吐こうとしたブレスが、自分を傷つけた。

 ドラゴンは顎や口内にダメージを負って、身を震わせる。

 

 ダメージは大きい。

 だが、やはりまだ致命傷ではない。

 

「よっしゃあ! かかってこぉい!!」

 

 イーゴは両手を広げて、ドラゴンを挑発。

 

 Vraaaaaaaaaaaaaa!!!

 

 ドラゴンは怒り狂い、大地を蹴ってイーゴへと突進した。

 そのまま通り過ぎるだけで、人間はミンチになるだろう。

 

 しかし、

 

「ぬあ!」

 

 イーゴはひらりとそれをかわし、跳躍。

 今度はドラゴンの下顎をつかんでいた。

 

「うおおおぉぉぉりゃああああああああああああ!!!!」

 

 何をどうやったのか。

 どこをどうしたのか。

 

 それは――

 外部からは、ほとんどわからなかった。

 

 

 竜巻。

 

 

 そうとしか言えないような現象。

 ドラゴンは暴風の渦に巻かれながら、空中に持ち上げられていった。

 

 やがて。

 地面へと落下していくが……。

 

 ベキリ、メキメキ……

 ボキリ……

 そんな音が響き渡る。

 

 回転しながら地面に落下したドラゴン。

 その巨体は、全身の骨が砕け、筋肉が裂けていった。

 

 Vrororo……

 

 うめき声をあげ、それでも怪物は生きていたが――

 

 Vraa……!!!

 

 断末魔のようにブレスを吐こうとした瞬間。

 内部から、破裂するように血を噴き出した。

 

 そして、今度こそ本当に動かなくなる。

 永遠に……。

 

 

 ・  ・  ・

 

 

「ドラゴンを倒したぁ!?」

 

 マコネは思わず大声を出していた。

 

「ああ、事実だな。俺も死体を現実で見てきた」

 

「ホントかよ?」

 

「人死にも出たし、ギルドは金も相当使ったろうがな」

 

 ゴトクは店の帳簿を見ながら肩をすくめ、

 

「それでもドラゴン一匹を倒すためだとすれば、お釣りがくる。元々、ご令嬢の活躍で予算は余り気味だったろうし」

 

「死んだ連中は気の毒だがな」

 

 マコネはちょっと微妙な顔をするが――

 

「ま、ンなことを言う余裕も出てきたったことかね?」

 

「そうだな。所詮冒険者なんざ使い捨てだ。まして手前からドラゴン討伐に出向くってことは、死にに行くようなもんだぜ。ギルドとしちゃ歩兵の損失が痛かっただろうよ」

 

 訓練された兵隊ってのは、貴重だからな。

 

 と。

 ゴトクは首をひねって帳簿を閉じる。

 

「けど、そのドラゴン討伐したヤツ、えらいことになってるだろうなあ……」

 

「あちこちから声がかかってるそうだ。ドラゴンスレイヤーの称号も与えられるだろうし、ギルドとしちゃ有用な戦力だ。囲い込みたいところだろうなあ」

 

「ドラゴン退治なんて英雄の仕事だからなー。姐さんがいると実感わかなくなるけど」

 

「象がカエルを踏み潰したって偉くも何ともないがな……」

 

 ゴトクはしみじみとした声で――

 

「一匹のアリがカエルを倒せば、そいつは英雄さ」

 

「姐さんにとって、ドラゴンはカエルかよ」

 

「実際そういう感じで退治してるだろ?」

 

「まあね……。あ」

 

 マコネはふと顔を上げて、つぶやく。

 

「どうしたい?」

 

「そういや、その英雄(ヒーロー)になったヤツ、姐さんに花持ってきたんだよな、前に」

 

「……ああ、そうか。あいつだったか」

 

 ゴトクも思い出し、少し笑う。

 

「また来るのかねえ? 花持って」

 

「さあな。あいつは見たところ、ある種の狂人だからな、まともな感覚は通用しねえさ」

 

 

 

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