破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
「――まあ、こういうのを作って欲しいわけよ」
と。
カーシャは、一枚のデザイン画をゴトクに渡した。
紙面には、流麗な筆で美しい紋章……。
いや。
勲章だろうか?
そういったものが描かれている。
当然。
カーシャ自身が描いたものではない。
ボロンに注文を付けて描かせたものだ。
彼女は、その緻密で精細な絵を30分もかからずに描いている。
「――ふむ」
ゴトクはじっくりと絵を観察していたが、
「俺はそっち方面の専門家じゃねえぞ」
「知ってるわ。でも、顔は広いでしょ?」
「ま、腕の良い職人は知ってるがね」
「仲介料もはずむわよ」
「そりゃありがたいな」
ゴトクは自分の金髪を掻きながら、
「その手の職人は仕事も多いからな。手を空いてるのを探すか、それともこっちを優先させるか……。期限は?」
「早いに越したことはないわね」
「ふむ……」
ゴトクはしばらく考えていたが――
「よし、そうだな。とりあえず、
うなずいて、膝を叩いた。
「ただし、今から交渉するんで確かなことはまだ言えない。それでもいいかね?」
「けっこう。お早めにね」
カーシャは微笑して、持っていたトランクを突き出す。
「……これは前払いで全部払うのか?」
「一応前金のつもりだけど」
「大盤振る舞いだな。ま、あんたなら簡単に払えるか……」
それから。
十日あまり――
「なるほど。注文通りね、満足な出来だわ」
カーシャは品物を受け取りながら、クスリと笑う。
「札束を見せられてギョッとしてたがね。そんだけ腕を買ったんだと言ったら、すぐにうなずいたよ」
「さすが、腕の良い職人を知っているわね。今後ともよろしく願いたいわ」
「そう伝えておくさ」
「では――これは残りの代金。それと、あなたへの仲介料」
カーシャは、ふたつのトランクをカウンターに置く。
ひとつには、一枚の絵が貼り付けてあった。
ゴトクの似顔絵である。
デフォルメされた絵だが、よく特徴が表されていた。
・ ・ ・
「カーシャさん! 見事に試練をクリアしました!」
「自分で見事というのはアレだけど、まあおめでとう」
屋敷の応接間に響くデカい声。
カーシャは、イーゴの真っ赤な顔を見ながら淡々と言った。
「それでですね」
「ええ」
「改めてお願います! どうか俺と付き合ってください、恋人になってください!!」
と。
イーゴは大きく、派手な花束を突き出して言った。
「――ふむ。花はありがたくいただきましょう」
カーシャは花束を受け取りながら、
「でも、あなたとラブシーンを演じる気はなくってよ」
「………………………………え?」
つれない返事。
イーゴは、一瞬でフリーズした。
カーシャを凝視したまま――
「私はね?
付き合ってあげるとは言ってない。
情熱を燃やす少年に、カーシャはすげなく言ってのけた。
「そ、そんな……! いや、確かにそうだったような……」
「やっぱり私も女だから? 上昇婚っていうの? ま、結婚は考えてないけど。するのなら、自分よりも格上の相手がいいじゃない?」
言いながら、カーシャはそっと自分の胸元に手を当てる。
芝居がかった仕草。
実に、嘘臭い態度である。
「うぐぐ……」
反論できないイーゴ。
そんな少年とカーシャを見比べながら、
「リーダー、ホントにそんなこと考えてたんですかね?」
「嘘に決まってるじゃねーか。テキトーなこと言っておちょくってんだよ」
マコネとバッキー。
ふたりの乙女はヒソヒソと話し合っている。
「でも。今はアレですけど、そのうち燃え尽きて諦めちゃうのでは?」
「だったらそれでいいんじゃねーの? 執着するとは思えないしよ、姐さんの性格上……」
「ですよねー」
ガックリと肩を落とすイーゴに対し、
「それはそれとして、ドラゴンスレイヤーになったことは称賛するわ。受け取りなさい」
カーシャは、勲章をイーゴの胸に付けた。
金と銀、そして小さいが上品なダイヤモンドがあしらわれている。
「あ、はい」
素直に受け取ったイーゴ少年へ、
「では、今後もご活躍をお祈り申し上げますわ、英雄殿」
と。
柔らかく言って、イーゴの頬にそっとキスをした。
・ ・ ・
「それであいつは、まだあのご令嬢にご執心なのかね?」
「ああ。花持って会いに行ってるとさ。ほら、ご注文の品だ――」
ゴトクは、用意していた商品をカウンターの上に置く。
相手は顔馴染の冒険者だ。
「あいよ。じゃあ、これ」
冒険者は代金を払いながら、
「しかし、アレがねえ……?」
つくづくと――
不思議そうな顔で言った。
「あんたでも、ちゃんとくどいてれば、いけたかもしれんな。いや、今でもうまくやればいけるかもよ」
ゴトクはどうでも良さそうに言う。
自分の発言を、まるで信じていない目つきだった。
「冗談はよしてくれ」
冒険者はわずかに顔を青くして、
「俺は、あいつがドラゴンをミンチにするところをじかに見たんだ」
「そりゃ良かったな」
「良くはねえよ。あの後、しばらく夜うなされたんだからな」
冒険者は本気で嫌そうだった。
「災厄の象徴とも言えるドラゴン退治だぜ? むしろめでたい
「退治? あれは退治じゃなくって、なぶり殺しだぜ? いや、一撃で叩き潰してるんだから、なぶってもいない。アリを踏み潰したようなもんだ」
「まあ、そうだろうな」
「だからこそ、わからんというか信じられないぜ、あのご令嬢をくどこうって男がいるのがさ」
冒険者は息を吐いて、片手で顔を覆う。
「あんたが気に病むことじゃねえだろ。っと、こいつはサービスだ」
ゴトクはゆるゆるとお茶を
「ありがとよ……。いや、別に気に病んでるわけじゃない。信じられんって言ってるのさ」
「気持ちはわかる気もするが」
「そりゃ見た目は最高の美女だぜ、見た目はな? だが、中身はバケモンじゃねえか……」
「ひでえ言い草だな。本人の前で言うなよ、俺はかばわんぞ?」
「誰が言うもんか。自殺するにしたってもっとマシな方法を選ぶよ――」
「これまたえらい言い草だな」
ゴトクはククク、と笑いながら、
――しかし、あのふたり……。どうなるのかな?
先が楽しみな気もするし、怖い気もする。
今はただ……。
イーゴ少年の未来が明るいことを、願っておくことにした。