破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その119、無謀の男-9 英雄(おとこ)の勲章

 

 

 

「――まあ、こういうのを作って欲しいわけよ」

 

 と。

 カーシャは、一枚のデザイン画をゴトクに渡した。

 

 紙面には、流麗な筆で美しい紋章……。

 いや。

 勲章だろうか?

 そういったものが描かれている。

 

 当然。

 カーシャ自身が描いたものではない。

 

 ボロンに注文を付けて描かせたものだ。

 彼女は、その緻密で精細な絵を30分もかからずに描いている。

 

「――ふむ」

 

 ゴトクはじっくりと絵を観察していたが、

 

「俺はそっち方面の専門家じゃねえぞ」

 

「知ってるわ。でも、顔は広いでしょ?」

 

「ま、腕の良い職人は知ってるがね」

 

「仲介料もはずむわよ」

 

「そりゃありがたいな」

 

 ゴトクは自分の金髪を掻きながら、

 

「その手の職人は仕事も多いからな。手を空いてるのを探すか、それともこっちを優先させるか……。期限は?」

 

「早いに越したことはないわね」

 

「ふむ……」

 

 ゴトクはしばらく考えていたが――

 

「よし、そうだな。とりあえず、煽てて(ヨイショして)、証拠の前金を高く積めば、早めにいけるだろう」

 

 うなずいて、膝を叩いた。

 

「ただし、今から交渉するんで確かなことはまだ言えない。それでもいいかね?」

 

「けっこう。お早めにね」

 

 カーシャは微笑して、持っていたトランクを突き出す。

 

「……これは前払いで全部払うのか?」

 

「一応前金のつもりだけど」

 

「大盤振る舞いだな。ま、あんたなら簡単に払えるか……」

 

 

 それから。

 十日あまり――

 

 

「なるほど。注文通りね、満足な出来だわ」

 

 カーシャは品物を受け取りながら、クスリと笑う。

 

「札束を見せられてギョッとしてたがね。そんだけ腕を買ったんだと言ったら、すぐにうなずいたよ」

 

「さすが、腕の良い職人を知っているわね。今後ともよろしく願いたいわ」

 

「そう伝えておくさ」

 

「では――これは残りの代金。それと、あなたへの仲介料」

 

 カーシャは、ふたつのトランクをカウンターに置く。

 ひとつには、一枚の絵が貼り付けてあった。

 ゴトクの似顔絵である。

 デフォルメされた絵だが、よく特徴が表されていた。

 

 

 

 

 

 ・  ・  ・

 

 

 

 

「カーシャさん! 見事に試練をクリアしました!」

 

「自分で見事というのはアレだけど、まあおめでとう」

 

 屋敷の応接間に響くデカい声。

 カーシャは、イーゴの真っ赤な顔を見ながら淡々と言った。

 

「それでですね」

 

「ええ」

 

「改めてお願います! どうか俺と付き合ってください、恋人になってください!!」

 

 と。

 イーゴは大きく、派手な花束を突き出して言った。

 

「――ふむ。花はありがたくいただきましょう」

 

 カーシャは花束を受け取りながら、

 

「でも、あなたとラブシーンを演じる気はなくってよ」

 

「………………………………え?」

 

 つれない返事。

 イーゴは、一瞬でフリーズした。

 カーシャを凝視したまま――

 

 

「私はね? ()()()()()()と言ったのよ――」

 

 付き合ってあげるとは言ってない。

 

 情熱を燃やす少年に、カーシャはすげなく言ってのけた。

 

「そ、そんな……! いや、確かにそうだったような……」

 

「やっぱり私も女だから? 上昇婚っていうの? ま、結婚は考えてないけど。するのなら、自分よりも格上の相手がいいじゃない?」

 

 言いながら、カーシャはそっと自分の胸元に手を当てる。

 芝居がかった仕草。

 実に、嘘臭い態度である。

 

「うぐぐ……」

 

 反論できないイーゴ。 

 そんな少年とカーシャを見比べながら、

 

「リーダー、ホントにそんなこと考えてたんですかね?」

 

「嘘に決まってるじゃねーか。テキトーなこと言っておちょくってんだよ」

 

 マコネとバッキー。

 ふたりの乙女はヒソヒソと話し合っている。

 

「でも。今はアレですけど、そのうち燃え尽きて諦めちゃうのでは?」

 

「だったらそれでいいんじゃねーの? 執着するとは思えないしよ、姐さんの性格上……」

 

「ですよねー」

 

 ガックリと肩を落とすイーゴに対し、

 

「それはそれとして、ドラゴンスレイヤーになったことは称賛するわ。受け取りなさい」

 

 カーシャは、勲章をイーゴの胸に付けた。

 金と銀、そして小さいが上品なダイヤモンドがあしらわれている。

 

「あ、はい」

 

 素直に受け取ったイーゴ少年へ、

 

「では、今後もご活躍をお祈り申し上げますわ、英雄殿」

 

 と。

 柔らかく言って、イーゴの頬にそっとキスをした。

 

 

 

 

 

 ・  ・  ・

 

 

 

 

 

「それであいつは、まだあのご令嬢にご執心なのかね?」

 

「ああ。花持って会いに行ってるとさ。ほら、ご注文の品だ――」

 

 ゴトクは、用意していた商品をカウンターの上に置く。

 相手は顔馴染の冒険者だ。

 

「あいよ。じゃあ、これ」

 

 冒険者は代金を払いながら、

 

「しかし、アレがねえ……?」

 

 つくづくと――

 不思議そうな顔で言った。

 

「あんたでも、ちゃんとくどいてれば、いけたかもしれんな。いや、今でもうまくやればいけるかもよ」

 

 ゴトクはどうでも良さそうに言う。

 自分の発言を、まるで信じていない目つきだった。

 

「冗談はよしてくれ」

 

 冒険者はわずかに顔を青くして、

 

「俺は、あいつがドラゴンをミンチにするところをじかに見たんだ」

 

「そりゃ良かったな」

 

「良くはねえよ。あの後、しばらく夜うなされたんだからな」

 

 冒険者は本気で嫌そうだった。

 

「災厄の象徴とも言えるドラゴン退治だぜ? むしろめでたい絵面(えづら)だと思うがな」

 

「退治? あれは退治じゃなくって、なぶり殺しだぜ? いや、一撃で叩き潰してるんだから、なぶってもいない。アリを踏み潰したようなもんだ」

 

「まあ、そうだろうな」

 

「だからこそ、わからんというか信じられないぜ、あのご令嬢をくどこうって男がいるのがさ」

 

 冒険者は息を吐いて、片手で顔を覆う。

 

「あんたが気に病むことじゃねえだろ。っと、こいつはサービスだ」

 

 ゴトクはゆるゆるとお茶を()れて、冒険者に渡す。

 

「ありがとよ……。いや、別に気に病んでるわけじゃない。信じられんって言ってるのさ」

 

「気持ちはわかる気もするが」

 

「そりゃ見た目は最高の美女だぜ、見た目はな? だが、中身はバケモンじゃねえか……」

 

「ひでえ言い草だな。本人の前で言うなよ、俺はかばわんぞ?」

 

「誰が言うもんか。自殺するにしたってもっとマシな方法を選ぶよ――」

 

「これまたえらい言い草だな」

 

 ゴトクはククク、と笑いながら、

 

 ――しかし、あのふたり……。どうなるのかな?

 

 先が楽しみな気もするし、怖い気もする。

 

 今はただ……。

 イーゴ少年の未来が明るいことを、願っておくことにした。

 

 

 

 

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