破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その32・5、ある〝腕利き〟の話

 

 

 

 

「他国の冒険者ですか」

 

「ええ」

 

 いきなりギルド本部に来訪したカーシャ。

 単刀直入に切り出した話題は、それだった。

 

「そうですな。確かに、冒険者ってのはあちこちにいます。いますが……」

 

 ギルドマスターはコリコリと指で頭を掻き、

 

「扱いというか、立場? そういうのは国によって違いますからなあ」

 

「システムのことは、どうでもよろしいの」

 

 カーシャは手を振りながら、

 

「どこにだって、腕利きと呼ばれる人材いるでしょう? 例えば、ドラゴンスレイヤーとか……」

 

「ふうむ……。ま、ドラゴンスレイヤーとは言いませんが、英雄豪傑と称されるのはいますな」

 

「こちらでは、そういう情報も集めているのではなくって?」

 

 おだやかな声。

 同時に、拒否を許さない響きがあった。

 

「ご心配なく。別に、腕自慢にケンカを売ろうというわけではありません。ちょっとした、好奇心ですわ」

 

「わかりました。そう言われるとお断りできませんな」

 

 ギルドマスターは苦笑して、うなずいた。

 

 こうした経緯で――

 あちこちの冒険者について集められた資料。

 カーシャはそれを読んでみた。

 

 

 その後で。

 

 

「プラジナ?」

 

 雑貨屋のカウンター。

 そこで一人、チェスボードを見ていたゴトクは顔を上げた。

 

「ええ。ギルドよりも、あなたのほうが詳しいのでは……そう思って」

 

「根拠はあるのかい」

 

「長生きしてるでしょう?」

 

「まあ、そりゃそうだがね」

 

 ゴトクはチェスの駒を動かしながら、

 

「ご賢察のとおり、そいつのことは知ってるよ」

 

「なかなか愉快(・・)なかたのようね」

 

「ある意味ではな」

 

「お話、聞かせていただけるかしら?」

 

「資料で読んだ……それじゃ満足できなかったわけか。物好きだな」

 

 ゴトクは立ち上がり、お茶の準備を始める。

 

「それで、【ヒト斬り】のプラジナか」

 

 はぐれエルフはカーシャにお茶を出した後、

 

「あんたも知っての通り、俺は時々他の国へ行くんだ。仕入れとか色ンな用事でな」

 

「そういえば、時々お休みの札が出ているわね」

 

「ああ。で、××に行った時、そいつの話を聞いた。というか、見た。直接お話をしたわけじゃあないが」

 

「××。けっこう遠方ね?」

 

「ヤオアムトと比べるとだいぶ田舎に思えるだろうな。つっても、ここと同レベルで発展してる国のほうが少ないが。そりゃま、いいや。プラジナはそこでかなり名を知られてる。良くも悪くもな」

 

「悪いほうが多そうね」

 

「いかにも、そうだ」

 

 そして。

 ゴトクが語った話は――

 

 プラジナ。

 本名か偽名かは不明。

 生まれも育ちもまったくの不明。

 

 容姿は、一言で語るなら若い美女。

 

「青い目に、金髪。全体的にツンツンしたショートだが、サイドバングが妙に長かったな。こだわりでもあんのかね」

 

 美しい肉体は鍛えられ、引き締まっている。

 しかし、筋骨隆々というわけでもない。

 鎧をつけているが、肌の露出は多かった。

 

「なんつーか。裸の上に鎧だけ着てるような? まあバカみてーと言えばバカみてーなカッコだ」

 

 だから、好奇の眼で見られる。

 あるい、好色というべきか。

 そして侮られる。

 

 しかし。

 

「腕は確かだ。いや、けた外れと言ってもいいやね」

 

 どんな武器を使っても関係ない。

 名剣だろうと、安い量産品(かずうち)であろうと問題なかった。

 相手の急所を――

 あるいは、それも無関係に切り裂き、絶命させるのだ。

 

 刃が振るわれた瞬間、首が飛ぶか、真っ二つになっている。

 

 ただ鈍器などは好まず、ほとんど使うことがない。

 

 ヒト属、あるいは人型のモンスターを好んで狩った。

 人間だろうとエルフだろうと、ドワーフだろうと、ゴブリンであろうと。

 とにかく斬れれば良い。

 

 本人が言ったわけではないが、

 

「そうとしか、思えなかったなあ」

 

 相手を痛めつける。

 あるいは、制しておさめる。

 捕える。

 そういうことは、一切しない。

 いや、できないのだろう。

 

そういう場になったら(・・・・・・・・・・)、あっという間に相手を切り殺してる」

 

 目的は殺傷のみ。

 他の要素が入り込む余地などない。

 それ以外、何の役にも立たない。

 

 ただ、ただ。

 

 ある意味純粋に殺すことだけ。

 

 それのみに特化した技は浪漫(ロマン)とか騎士道など――

 まったく無縁のものだった。

 

 仕事(クエスト)であれば、というよりも、

 

「ヒトが斬れるんなら、どんなもんでも引き受けるってやつさ」

 

 冒険者。

 偉そうなことを言っても、所詮まっとうな職ではない。

 職業と言えるかすら、疑わしい。

 

 だから、

 

「お前さんも知ってるだろうが、嫌な仕事、汚い仕事も舞い込んでくる」

 

 人目に(はばか)られるようなことも。

 国などが表立ってできないようなことも。

 

 そういう意味では、プラジナはまさにうってつけだった。

 

「つっても、ここじゃ冒険者はギルド……もっと言えば国の支配下にある。高は知れてらぁ」

 

 例外もいるけどな、とゴトクはカーシャを見てから、

 

「だが××みてえな田舎は違う」

 

 ある種、暗黒街の側面すらある。

 

「で。プラジナは――」

 

 相手は関係ない。

 悪党だろうと子供だろうと。

 とにかく、ただ斬れれば良い。

 そんな女だからだ。

 

 顔は仮面のように変わらない。

 完全な無表情。

 刃を振るい、相手をしている時でさえ。

 

「だがよ? その場を見た感想を言うと、ありゃ喜んでたなあ」

 

 顔はまったく変わらない。

 ただ。

 宝石みたいな青い瞳だけが、

 

「こう、ギラギラと輝いてな。正直、マトモじゃあない。誰が見たってそう思うだろうさ」

 

 鬼畜のようなその性質は、当然敵も作った。

 が。

 そういった相手は、ほぼ例外なく死体となってしまう。

 

 (ゆえ)に。

 

 一般人(カタギ)は、貧乏人だろうが貴族だろうが、まず近づかない。

 関わりを持とうとはしない。

 

 近づくのは単なるバカか、(すね)に傷を持つ連中である。

 

「ヒトを斬らなきゃ三日ももたないって筋金入りの殺人狂(ヘンタイ)だ。ぜひともお近づきになりたくねーやね」

 

「…………」

 

 カーシャはジッと話を聞いていたが、

 

「似ているのかしら?」

 

「何が?」

 

「その殺人狂(ヘンタイ)と、私が――」

 

「……。どうしてそう思う?」

 

 ゴトクは駒を動かし続けながら、聞き返した。

 

「なんとなく、かしらね」

 

「ふーん」

 

 カーシャの問いに、ゴトクは少し考え、

 

「似てはいねーな」

 

「へえ……」

 

「あの女には、ハッキリ目的というか生きがい? そういうもんがあった。感心できたもんじゃないが……」

 

「それが、ヒト殺し?」

 

「他からすりゃ、迷惑極まりねえけどな」

 

 ゴトクはヤレヤレと首を振り、

 

「あいつぁ、地獄に落ちたほうが幸せかもしれんぜ。好きなだけヒトを殺せるからな」

 

「その場合、自分もフツーに殺されるけどね」

 

 赤い地獄を思い出し、カーシャは冷たく(わら)った。

 

「見てきたような言い草だな」

 

「そうかもしれないわね」

 

「あっ……。そういや、一つだけ似てるとこがあったな」

 

「おや」

 

 訂正するゴトクへ、カーシャは好奇心の瞳。

 

「あいつの異名は、ヒト斬りの他にこんなのがあった。〝悪鬼(フィーンド)〟だ」

 

「なるほど」

 

 悪鬼(フィーンド)

 カーシャも、陰でそう(ささや)かれている。

 

 

「まあ俺の知ってるのは、こんなとこだ……。時に、暇ならこれの相手でもしてくれねえか? 相手がいないとイマイチでね」

 

 ゴトクは、チェスボードを指しながら言った。

 

「チェスね。久しぶりだわ」

 

 カーシャは座りながら、

 

 ――お酒をガブ呑みするよりは、マシか……。

 

 そんなことを思いながら、駒を手に取った。

 

 

 

 

 

 

 





語られたキャラは設定の段階でボツにした別作品の主人公がベース
正直ちゃんとした話にならないので
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