破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
今回新たな黄泉帰りが登場――
「また変なもの買ってきて……」
テーブルの上。
ちょこんと置かれているのは、小さな模型だった。
何か――
どこかの渓谷を小さく再現したような――
何やら、そういうものらしい。
「どうもおかしな魔力を感じますよ、これ」
渓谷の模型を見下ろしながら、バッキーは渋い顔をした。
「また変なものでも出てくるのかね?」
マコネはケケケとやけ気味に笑う。
「さてね」
カーシャは模型を指でつつきながら、
「ボロンがいれば、調べさせるのだけど……」
「あいつなら、芝居の看板描きにいってるよ。ちょっとした手間取りだな」
説明するのはマコネである。
手間取りとは、要するにアルバイトのことだ。
「まあ、何かあったならあったで――」
と。
カーシャがつついていた指を離そうとした時……。
光が、
「うぎゃあああああああああああ!!」
「おいおいおいおい!?」
「……これはこれは」
気づいた時には、3人の乙女は巨大な渓谷の中を落下していた。
下は、真っ暗で何も見えない。
――これは……。
まさか。
もう一度、
カーシャが舌打ちをしていると――
「え!? 空!?」
バッキーが叫んだ言葉どおり。
下には、真っ白な雲と青空が広がっていた。
そこを突き抜けると、地面が見えてくる。
「やれやれ……!」
カーシャは身をよじって空中を移動しながら、マコネやバッキーを捕まえる。
それから。
乙女ふたりを抱えて、着地に備えた。
ふわり。
そういった感じで、カーシャは音もなく着地。
カーシャはふたりをおろし、ゆっくりと顔を上げる。
そこに表情はない。
冷たい視線で、前方を睨んでいた。
離れてはいるが……。
視線の先には、赤い獣の髑髏を思わせる巨大なものが蠢いていた。
5~6メートルはあるだろうか。
しかも、一体ではなく複数いる。
――妙な気配ね?
カーシャは構えようとするが、
「……!?」
背中にゾワリとした感触。
それと同時に、赤い怪物は砕け散った。
「Muu」
聞こえたのは、小さな呪文だった。
ただ一言。
つぶやきのようなもの。
しかし。
仮にも魔導士であったカーシャにはそれが呪文だと理解できる。
少年がいた。
黒い髪に、黒い瞳。
中性的な印象の地味に見えるが、端正な顔立ち。
少年は印を組み、呪文を唱える。
「****。******。**」
言葉そのものは、カーシャに理解はできない。
だが。
意味するところは、何となくわかった。
そこも、魔導士ゆえだろう。
あまねく諸神に帰命す。
めでたき冥星よ、破砕せよ、破砕せよ、金剛のごとく破砕せよ。
成就あれ。
瞬間。
少年の頭上に闇が広がった。
――召喚魔法? いえ、なにか違う……。
現れたのは、笠形の兜と黒い鎧をつけた巨人。
手には
顔は頭巾のようなもので隠れていた。
隙間から、不気味なふたつの光だけが輝いている。
そして。
少年は巨人と共に走り出した。
巨人はハルバードを振るい、赤い怪物たちを薙ぎ払う。
一瞬。
一撃。
複数の怪物はズタズタになり、そのまま動かなくなる。
即死だ。
「――ふうん……」
カーシャは構えを解き、少年の後ろ姿を見た。
水色に、わずかな揺れが起こる。
「モンスターテイマーか? いや、サモナーか?」
マコネは目の当たりにした巨人を、興味深そうに見る。
一応モンスターテイマーの端くれ。
それなりに興味はわくのだろう。
「どうも、あっちを狙ってたようですね、あのモンスター……」
バッキーが少し離れた小さな町を見て言った。
「っていうか、ここ、どこだよ」
マコネは腕を組み、空を見上げてつぶやいた。
その疑問は――
乙女3人全員の疑問である。
・ ・ ・
「……はああ」
少年の頬は少し赤くなっていた。
前のテーブルには、一本の酒瓶。
少年は小さなコップに、ちょっとだけ酒を注ぐ。
そのまま、ゆっくりと飲む。
「うん。美味い……」
口の中でゆっくり
「まだ子どもなのに……」
少年の様子を見ながら、バッキーは呆れている。
「ガキでもおぼえるのが早いヤツはいるからなあ」
マコネは少年を観察しつつ、そんなことを言っている。
その横でカーシャは、
「――知らない?」
話していた酒場の店主に、そう聞き返していた。
手には、ヤオアムトの金貨を持っている。
「はあ……。こんな細かい鋳造がされた金貨は初めてで……」
店主はオロオロした声で返事をしている。
・ ・ ・
いきなり、だった――
ある日。
いきなり、孤児院から連れ出され、見たこともない場所に連れていかれた。
そこで――
守護霊契約の儀式をやらされた。
強制である。
守護霊騎士。
通称・ガーディナー。
天地に存在するという精霊や神々、あるいは魔神と契約して召喚する者たち。
召喚される超常の存在を守護霊という。
誰でも知っていることだ。
「選ばれし者にしかなれない」
そのように言われている。
「信じられるわけないよ!」
多分、そう叫んだと思う。
その時の記憶は曖昧になっている。
とにかく。
ガーディナーとなって世界を侵略する魔獣ラクシャサと戦え。
自分を捨てたはずの父はそのように命令してきた。
周辺もそれに同調して、強制した。
嫌だった。
怖かった。
それでも。
それでも――
ここでがんばり、結果を出せば認められるかもしれない。
自分を粗略にしていた父も、態度を変えるかもしれない。
だから、決意した。
最後にはやるしかないと、そう思って戦いに臨んだ。
結果は、散々だが。
一応初戦に勝利はした。
勝利と呼べるものかは疑問だが。
そんな、虚しいレベル。
後で聞けば、被害は大きなものだったという。
「お前がちゃんとやっていれば」
「お前がもっとうまく戦えていれば」
そんな視線を感じていたような気がした。
錯覚か、被害妄想か。
あるいは、厳然たる事実か。
今となっては、わからない。
そんな中に――
あの少女はいたのだ。
華奢で儚げで、保護欲をそそるタイプ……。
多分、そうなのだろう。
ただ。
どことなく……。
親近感のある、それゆえにうっすらとした嫌悪を感じる。
マウミ。
少女の名前である。
それが後でもっとも悍ましく忌々しい名前になる。
この時には、まるでわからなかったが。
まあ……。
どうでもいいか。
現状の自分にとっては、それが偽らざる感想なのだが。