破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
「つまり――」
カーシャは、赤いモンスターの残骸を見ながら振り返る。
「この世界には、こいつら『ラクシャサ』が群れを成して攻めてきたと?」
「まあ、そう」
黒髪の少年は、ボトルをかたむけながら応えた。
適当な態度だ。
「他のモンスターはいないんですか? ドラゴンとかグリフィンとか……」
バッキーがちょっと顔をしかめながら質問。
その視線は、少年のボトルに向けられている。
「いるよ。でも、ラクシャサに比べれば数も被害も少ないんじゃない? 知らんけど」
少年は言って、口を片手でぬぐう。
頬に微かな赤みがさしている。
「あと、余計なことかもしれませんけど……」
「余計なことならどうでもいいじゃない」
少年はヘラヘラしながら、バッキーを見返した。
トロンとした目つき。
泥酔とまではいかないが、確実に酔っている。
「まだ明るいうちからお酒飲むの、感心しませんよ――」
構わずバッキーは言った。
ピシャリとした、厳しい声だ。
「そんなこと言われてもね。別に水代わりに飲んでるんじゃないよ?」
少年はやはりヘラヘラして、ボトルに
「ちゃんと味わって、大切に飲んでるもんね。今日はホリデーだから、大目に見て?」
「
「こいつらやっつけて、お金はいったからねえ。ここは暖かくって豊かなんだな、これが」
少年は胸を叩きながら、やはりヘラヘラ笑う。
「……はあぁぁ」
バッキーはため息をつき、カーシャを見た。
カーシャのほうはまるで無関心だ。
怪物を見た後は、地図を広げている。
「ここは都会、中央とは離れているのね――」
「そーだよ? まあ、地方の田舎、辺境の街ってところ? だから、守りも緩くってこういう残党が出るんだけど」
と。
少年は怪物の死体を指さす。
「で、お前さんはこいつらを退治する冒険者か、それとも傭兵? どっちにも見えないけどよ」
マコネが言った。
少年の服装。
見知らぬ異国のものだが――
放浪者か、少なくとも旅をしている人間の服装。
そのように思われる。
「一応ガーディナーなんだけどね、ぼかぁ。だから、ラクシャサも簡単に倒せるわけよ」
「
マコネは一瞬頭上に『?マーク』を浮かべるが、
「察するところ、あのおかしな僧兵みたいなのを召喚して操る
「うん。そう。これね」
少年はすっと自分の上を指す。
そこには、先ほど見た異形の僧兵――巨人が出現した。
ただし。
ハッキリ形になっているのは上半身まで。
下半身から下は陽炎に曖昧だった。
「これが守護霊?」
「そうだよ。こいつらじゃなきゃラクシャサに決定打を与えられない。まあ、大規模な攻撃魔法とかなら話は別だけど、そんなのポンポン使えないでしょ?」
と。
少年はピンク頬のまま肩をすくめた。
「ふーん……?」
バッキーは首をひねる。
――精霊とか、そういう感じではなし……。かといって、術者の魔力を具現化したとも違う……。ん~、外気の魔素に、型をはめて固定化した? それが一番近いのかも。
・ ・ ・
「やっぱり、まだまだ残党はいますね」
報告書を読みながら、副官はちょっと眉をひそめた。
「しょうがないわ。とんでもない大軍勢だったもの……」
受け取った女は、報告書を流し読みしつつ、
「それでも危機は脱したわけだから、今は後始末をしっかりとやりましょ」
「でも、不思議ですね。一部地域ではかなり被害が少ないようです」
副官が言うと、
「噂では、在野のガーディナーがけっこう活躍してるらしいですよ」
「在野?」
女は少し不審な顔となる。
「ガーディナーは選ばれた人間じゃなきゃダメ、とはいっても。全部をうちがカバーできるわけじゃないですからねえ」
発言した者は、ちょっと笑う。
「そうね……」
女は少し考えてから、うなずく。
それでも。
表情はあまり納得したものではなかったが――
「……――そういえば、マウミちゃんたちは?」
気を取り直すように、女は言った。
「街のほうに出てますよ。先日のやつであっちはほとんど落ちつきましたからね」
副官は少し笑顔になって言った。
「そっか。今まで大変だったものね。ちょっとでも休みになるといいんだけど」
・ ・ ・
状況的には――
なし崩し、というのがもっとも的確か。
そもそも。
あの街に連れて来られる途中から、マウミはいた。
どういう経緯で?
そのへんはわからない。
今となっては興味もなかった。
ただ。
後になって考えてみれば。
父の態度は、最初から妙であったかもしれない。
どう考えても不審者に近いマウミ。
それをどうこうもしないで、一緒にいさせていたのだから。
対するマウミの態度も妙だったかもしれない。
まるで、子が親にすがり、助けを求めるような。
口や顔に出さず、態度にも表さなかったが、マウミの父を見る視線はそういうものだった。
と、思われる。
父も、それを強く拒絶はしなかった。
いや拒絶そのものをしなかった。
とまどっている。
まさにそれだ。
ただまあ。
一方でヘヴィクへの態度は冷淡そのものだった――
存在自体が忌まわしい。
言葉に出さなかったが、本人にとってはそうとしか思えない。
実際。
後になって、口に出して似たようなことを言うわけなのだが。
息子であるヘヴィクへの冷酷さ、拒絶。
それには断固としたものがあった。
だが、マウミに対しては消極的な受容。
ずいぶんな違いだった。
しかし、まあ。
世間とはそういうモノだろう。
若い女というのはそれだけで受け入れられやすいものだ。
嘆いたところで、何がどうなるわけではない。
また。
マウミも、別にヘヴィクに悪意があったわけではないらしい。
らしいというのは、所詮他人ごとだから――
心の奥底、本心までわかるはずもない。
マウミとの関係は、当初からギクシャクしていた。
互いに、社交的でもない。
コミュニケーションに長けているわけでもない。
無様な腹の探り合い。
そういうものだった。
ある意味では――
ヘヴィクにとっても、嬉しい存在だったかもしれない。
そうなっていたかもしれない。
妹がいれば、こんな感じだったろうか。
そんなことを考えたこともある。
あったかもしれない。
少なくとも……。
初戦で心身ともにボロボロだったヘヴィクにとっては、敵意や威圧を見せずに接してくる貴重な存在ではあった。
どうすればよかったのか。
あれこれと言うこと、考えることはできる。
しかし、もう意味はない。
だから、今は美味い酒を楽しむだけだ。