破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その120、鬼谷に落ちて鬼となる-2

 

 

 

 

「つまり――」

 

 カーシャは、赤いモンスターの残骸を見ながら振り返る。

 

「この世界には、こいつら『ラクシャサ』が群れを成して攻めてきたと?」

 

「まあ、そう」

 

 黒髪の少年は、ボトルをかたむけながら応えた。

 適当な態度だ。

 

「他のモンスターはいないんですか? ドラゴンとかグリフィンとか……」

 

 バッキーがちょっと顔をしかめながら質問。

 その視線は、少年のボトルに向けられている。

 

「いるよ。でも、ラクシャサに比べれば数も被害も少ないんじゃない? 知らんけど」

 

 少年は言って、口を片手でぬぐう。

 頬に微かな赤みがさしている。

 

「あと、余計なことかもしれませんけど……」

 

「余計なことならどうでもいいじゃない」

 

 少年はヘラヘラしながら、バッキーを見返した。

 トロンとした目つき。

 泥酔とまではいかないが、確実に酔っている。

 

「まだ明るいうちからお酒飲むの、感心しませんよ――」

 

 構わずバッキーは言った。

 ピシャリとした、厳しい声だ。

 

「そんなこと言われてもね。別に水代わりに飲んでるんじゃないよ?」

 

 少年はやはりヘラヘラして、ボトルに(ふた)をする。

 

「ちゃんと味わって、大切に飲んでるもんね。今日はホリデーだから、大目に見て?」

 

休日(ホリデー)?」

 

「こいつらやっつけて、お金はいったからねえ。ここは暖かくって豊かなんだな、これが」

 

 少年は胸を叩きながら、やはりヘラヘラ笑う。

 

「……はあぁぁ」

 

 バッキーはため息をつき、カーシャを見た。

 カーシャのほうはまるで無関心だ。

 怪物を見た後は、地図を広げている。

 

「ここは都会、中央とは離れているのね――」

 

「そーだよ? まあ、地方の田舎、辺境の街ってところ? だから、守りも緩くってこういう残党が出るんだけど」

 

 と。

 少年は怪物の死体を指さす。

 

「で、お前さんはこいつらを退治する冒険者か、それとも傭兵? どっちにも見えないけどよ」

 

 マコネが言った。

 

 少年の服装。

 見知らぬ異国のものだが――

 

 放浪者か、少なくとも旅をしている人間の服装。

 そのように思われる。

 

「一応ガーディナーなんだけどね、ぼかぁ。だから、ラクシャサも簡単に倒せるわけよ」

 

()()()()()()()

 

 マコネは一瞬頭上に『?マーク』を浮かべるが、

 

「察するところ、あのおかしな僧兵みたいなのを召喚して操る召喚士(サモナー)かい?」

 

「うん。そう。これね」

 

 少年はすっと自分の上を指す。

 そこには、先ほど見た異形の僧兵――巨人が出現した。

 

 ただし。

 ハッキリ形になっているのは上半身まで。

 下半身から下は陽炎に曖昧だった。

 

「これが守護霊?」

 

「そうだよ。こいつらじゃなきゃラクシャサに決定打を与えられない。まあ、大規模な攻撃魔法とかなら話は別だけど、そんなのポンポン使えないでしょ?」

 

 と。

 少年はピンク頬のまま肩をすくめた。

 

「ふーん……?」

 

 バッキーは首をひねる。

 

 ――精霊とか、そういう感じではなし……。かといって、術者の魔力を具現化したとも違う……。ん~、外気の魔素に、型をはめて固定化した? それが一番近いのかも。

 

 

 

 ・  ・  ・

 

 

 

「やっぱり、まだまだ残党はいますね」

 

 報告書を読みながら、副官はちょっと眉をひそめた。

 

「しょうがないわ。とんでもない大軍勢だったもの……」

 

 受け取った女は、報告書を流し読みしつつ、

 

「それでも危機は脱したわけだから、今は後始末をしっかりとやりましょ」

 

「でも、不思議ですね。一部地域ではかなり被害が少ないようです」

 

 副官が言うと、

 

「噂では、在野のガーディナーがけっこう活躍してるらしいですよ」

 

「在野?」

 

 女は少し不審な顔となる。

 

「ガーディナーは選ばれた人間じゃなきゃダメ、とはいっても。全部をうちがカバーできるわけじゃないですからねえ」

 

 発言した者は、ちょっと笑う。

 

「そうね……」

 

 女は少し考えてから、うなずく。

 それでも。

 表情はあまり納得したものではなかったが――

 

「……――そういえば、マウミちゃんたちは?」

 

 気を取り直すように、女は言った。

 

「街のほうに出てますよ。先日のやつであっちはほとんど落ちつきましたからね」

 

 副官は少し笑顔になって言った。

 

「そっか。今まで大変だったものね。ちょっとでも休みになるといいんだけど」

 

 

 

 ・  ・  ・

 

 

 

 状況的には――

 なし崩し、というのがもっとも的確か。

 

 そもそも。

 あの街に連れて来られる途中から、マウミはいた。

 

 どういう経緯で?

 

 そのへんはわからない。

 今となっては興味もなかった。

 

 ただ。

 後になって考えてみれば。

 

 父の態度は、最初から妙であったかもしれない。

 

 どう考えても不審者に近いマウミ。

 それをどうこうもしないで、一緒にいさせていたのだから。

 

 対するマウミの態度も妙だったかもしれない。

 

 まるで、子が親にすがり、助けを求めるような。

 口や顔に出さず、態度にも表さなかったが、マウミの父を見る視線はそういうものだった。

 と、思われる。

 

 父も、それを強く拒絶はしなかった。

 いや拒絶そのものをしなかった。

 

 とまどっている。

 まさにそれだ。

 

 ただまあ。

 一方でヘヴィクへの態度は冷淡そのものだった――

 

 存在自体が忌まわしい。

 言葉に出さなかったが、本人にとってはそうとしか思えない。

 

 実際。

 後になって、口に出して似たようなことを言うわけなのだが。

 

 息子であるヘヴィクへの冷酷さ、拒絶。

 それには断固としたものがあった。

 

 だが、マウミに対しては消極的な受容。

 

 ずいぶんな違いだった。

 

 しかし、まあ。

 世間とはそういうモノだろう。

 

 若い女というのはそれだけで受け入れられやすいものだ。

 嘆いたところで、何がどうなるわけではない。

 

 また。

 マウミも、別にヘヴィクに悪意があったわけではないらしい。

 らしいというのは、所詮他人ごとだから――

 

 心の奥底、本心までわかるはずもない。

 

 マウミとの関係は、当初からギクシャクしていた。

 

 互いに、社交的でもない。

 コミュニケーションに長けているわけでもない。

 

 無様な腹の探り合い。

 そういうものだった。

 

 ある意味では――

 ヘヴィクにとっても、嬉しい存在だったかもしれない。

 そうなっていたかもしれない。

 

 妹がいれば、こんな感じだったろうか。

 

 そんなことを考えたこともある。

 あったかもしれない。

 

 少なくとも……。

 初戦で心身ともにボロボロだったヘヴィクにとっては、敵意や威圧を見せずに接してくる貴重な存在ではあった。

 

 

 どうすればよかったのか。

 あれこれと言うこと、考えることはできる。

 

 しかし、もう意味はない。

 

 

 だから、今は美味い酒を楽しむだけだ。

 

 

 

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