破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
「で――さ。実際どうするよ、姐さん」
マコネは振り返りながらカーシャにたずねた。
「ふむ」
カーシャは手持ちの金を確認しながら、首をかしげる。
「こういう時、いつも金貨を持ち歩いていたのは良かったわね。余計な手間が省けたもの」
銀貨や銀貨をしまい、カーシャは小さく笑う。
これらの金。
先ほど――冒険者の集まる酒場でヤオアムト金貨と交換したものである。
「けっこう多かったけど、こっちじゃ金貨が貴重なのかね?」
「どうかしらね」
言って、カーシャはマコネに拳を差し出した。
マコネはそれに、手のひらを差し出す。
そこへ、数枚の銀貨と銅貨が握らされた。
「あんがとさん。金がないのは、嫌なもんだからな」
「じゃ、バッキー」
「あ、はい」
次に、バッキーへ同じように金を渡す。
いや――分け与えた。
「さて。さっきの質問だけど……いつまでも、ここに居座る気もないわ」
「だよなあ」
「とはいえ、どうしたものかしらね? 見たことも聞いたことのない土地。ほとんど何もわからないわ」
「さっき街をちょっと見てきましたけど、あまり魔導技術の発展した場所ではなさそうですね」
「そうねえ。やっぱり、大きな街……少なくとも、魔導の優れた場所を探すべきかしら」
「ああ。それなら――」
バッキーはちょっと顔を上げて、
「マヤコアって街が一番いいみたいです。魔導士やそっち方面のアイテムや情報が集まるところらしくって」
「それって、あの変な酔っ払いか?」
マコネはちょっと胡散臭げに、
「ええ。現状、一番魔導に詳しいのはあの子っぽかったですから。まあ、専門の魔導士じゃなくって、どっちかというと
「あんな頭ハッピーハッピーくせえヤツ、信用できるのか?」
「それはまあ……。でも、少し話した感じですが、基本的な魔導の話は納得できるものでしたよ」
バッキーは苦笑しながら、肩をすくめた。
・ ・ ・
「魔法が使えるのは便利なモノね――」
カーシャは、浮かび上がる僧兵型の守護霊を見ながら淡々と言った。
「まあ、正確には魔法使いじゃないけど。わからない人には似たようなものかなぁ?」
少年は、頬を掻きながらどうでも良さそうに言った。
酔いはある程度抜けているようだ。
「それはわかる」
「お姉さんは、魔法使いなの?」
「ちがう。少なくとも今はね」
「ああ、何か事情があるんだ」
「そういうことよ」
「まあ、色々あるよね」
少年が軽く手を振ると、守護霊は姿を消した。
「んん。やっぱり、精霊を召喚してる感じでもなし……。術者とつながった大気の魔素が、こう……やっぱり、一定の形になって、つながった術者と通じて動いているというか――」
カーシャの横――
バッキーは腕を組みながら、ウンウンとうなっている。
やがて、
「そうか。魔素の魔素にも色んな流れや動き、性質があるんですね。それを術者が特定の……例えば、魔法陣みたいなもので固定化させて、イメージ、動かしやすいものに変えて実体化させて操る、みたいな?」
「無理に答えを出す必要もないけどね。実際に使えて、ちゃんとした効果がある。術者にも過度な負担やダメージはない。それで十分だわ」
カーシャが肩をすくめると、
「ですかね。……ですよね」
「時に――」
カーシャは、スッと少年に視線を送る。
「名前を聞いてなかったわね」
「ああ、そうだね」
少年はちょっと笑った。
「先に名乗るのが礼儀かしら。私はカーシャ。あなたは?」
「ヘヴィクだよ」
「そう」
「お姉さんは……まあ、いいや。いや、何でもない。勘違い」
と。
ヘヴィク少年は、頭を掻いて少し服装を正す。
「そちらのことはよくわからないけど、僕はそろそろ他へ行くよ。もうラクシャサはいないからね」
「商売にならないと?」
「うん。今のところ、ラクシャサ狩りが一番もうかるんだ。手っ取り早いし」
そう言って、ヘヴィクは背中を向ける。
「あなたは、〝同類〟のようね」
歩き去るヘビィクに、カーシャはそう言った。
ヘビィクは一瞬不思議そうな顔で振り返ったが――
そのまま。
ひとり静かに歩いていった。
――同類……?
街が遠くなった頃。
ヘビィクは短めの黒髪を掻き、振り返った。
あの――
ゾッとするほど美しい女。
まだ10代なのに、少女という言葉が似つかわしくない雰囲気。
少なくとも……。
ヘビィクが今まで会ったこともない女だった。
・ ・ ・
気づけば――
マウミは、みんなに受け入れられていた。
それは多分ヘビィクの偏見もあったのだろう。
だが。
同じように陰気で、控えめなタイプでも男女でその扱いは異なる。
まして。
マウミは、可憐な少女であることが強い。
実際のところ。
単純な顔の造形も雰囲気も、ヘビィクとマウミは大差なかった。
ほぼ同じである。
とはいえ。
やはり、少女であるマウミが周辺の保護欲をそそるのは仕方のないことだ。
現に……。
ヘビィク自身もそういうものを感じていた。
それは事実だ。
共感と親しみ。
思春期の照れや気恥ずかしさを無視した場合。
同じ年齢の、それも可愛らしい少女と仲良くなりたくない男子はあまりいない。
「仲良くなれるかもしれない」
そういう期待があれば、なおさらに。
――でも。
ヘビィクにはそのへんのことがよくわからなかった。
とりあえずの挨拶と、当たり障りのない会話。
その程度しかできない。
まして。
恋人とか、彼女とか――
そういう関係に踏み込むことなどできない。
いや……。
多分。
最初から、
――好みじゃなかったのか。
そこはわからない。
――そもそもなあ?
女性の好みか、好き嫌いとか。
そんなものはヘビィクにはわからかった。
今でもわからない。
恋をするとはどういうことか。
愛するというのはどういうことか。
何もわからない。
わかっているのは――
あの時点では、まだ双方に外面も内面も平和だったということだ。
――どこか、変なヤツであるな思った。
それでも、
――どうでもいい……。
今ではハッキリと言えるが。
みんながいつしか結束して、良い方向に向かっている時。
自分はいつも外から見ていた。
無能だったからか。
嫌われ者だったからか。
少なくとも、遅々には最初から嫌われていた。
そこだけは確かだったか。