破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その120、鬼谷に落ちて鬼となる-4 予兆あり?

 

 

 

「あ」

 

「おい、あいつ……」

 

 仕事帰り――

 街へ入ってしばらくすると、声が飛び交い始めた。

 

 道を行く者たちは、さっと横に退いていく。

 

 ――なんか、古い映画でこんなの見たような……。

 

 割れていく人波を見ながら、バッキーは微妙な気分になった。

 

 確か。

 海が二つに割れて、そこに道ができるというダイナミックなシーンだったろうか。

 聖書のエピソードを映画化したものだったはずだ。

 

 割れた道を、カーシャはどうでも良さそうに進んでいた。

 あまり意識もしていないのだろう。

 切断されたマンティコアの首を片手で持ち上げ、滑るように歩いていく。

 

「何かさ、異世界? に来ても、やってることあまり変わらねえな?」

 

 マコネは後ろに続きながら、肩をすくめる。

 

「まあ、異世界っていうほど大げさなもんじゃないのかも」

 

「そうだな。どっか、見たことのない遠い国かもしれねえや」

 

 マコネとバッキーが話していると、

 

「ただまあ、ヤオアムトを知らないのだけは確かだったようね。金貨を見せた時は驚いていたもの。てっきりあそこが田舎だから――そう思ったけど……」

 

 ここでも驚かれたわ。

 精巧な鋳造技術だと、ね。

 

 カーシャはふたりを見ずに話す。

 

「あれ、マンティコアだよな……?」

 

「しかも、あんなでかいの……」

 

「昨日はグレートグリフィンを討伐したらしいぜ……」

 

「あれ、あいつがやったのか?」

 

「っていうか、昨日の今日でかよ……。腕利きどころか、マトモじゃないぜ」

 

「何なんだよ、あの女」

 

「だけど……すげえいい女だよな」

 

「他のはガキと半端デブの女だけどな」

 

「……もしかするとさ」

 

「おい、よせよ!?」

 

「こないだ、あいつに()()()()連中がどうなったか知らないのか……?」

 

「尻を触ったか胸を揉んだかして、グチャグチャにされたんだよ」

 

「グチャグチャ?」

 

「両手両足がもう、グチャグチャでさあ……。骨なしのクラゲみたいになったらしい」

 

「いくら何でもそんな」

 

「マジだってば……! 冒険者同士でもやりすぎだってことで、冒険者の資格を剥奪するとかどうかって騒ぎだってさ」

 

「でも、あれ」

 

「だからさ。その罰金代わりに、マージマンティコアの討伐を命じられて……で、あれ」

 

「マージって、魔法まで使うマンティコアかよ!? そんなもん……」

 

「……フツーに討伐して、首もって帰ってきてるよなあ」

 

 ヒソヒソと――

 

 半ば恐怖で塗り固められた会話が、あちこちでささやかれる。

 

 

 

「――で、どうだった?」

 

 戻ってきたカーシャに、マコネは気楽な態度で言った。

 

「これでプラスマイナスはゼロ。またすぐにクエストを受けられるわ」

 

 カーシャは手をひらひら振り、軽くのびをする。

 

「……しかし、こっちのはクエスト受けるのもやるのも、手間かかるなあ」

 

 マコネはあくびをしながら、ひょいっとギルドの掲示板を見る。

 

 大きな木のボードには、いくつもの依頼書が張り出されていた。

 大小の紙、様々なクエスト。

 

「まあ、クエストを受けるのに制限がないってのは、ありがたいけどよ」

 

「討伐したモンスターを自動記録するようなものも、ないようですね」

 

 バッキーが言った。

 

「ああ……。だから、いちいち爪だの牙だの、首だのを証拠として持ち帰らなきゃならねえときたもんだ。面倒くせえ、面倒くせえ」

 

「だけど、あんなところに放置したモンスターの死体……。もったいなくないんですかねえ?」

 

 と。

 バッキーは指を顎にあてて言った。

 

「全部持ち帰りゃ、けっこう金になりそうなのによ。どーもそのへんもなあ」

 

 そんな会話の最中――だった。

 

 カーシャは、入口のほうをジッと見ている。

 やがて?

 

 大き目の木製ドアから、そうっと入ってきた者があった。

 

 若干薄汚れた服装の、若い旅人。

 黒髪に、黒い瞳の少年。

 

「――また、会ったわね」

 

「ああ、お姉さん」

 

 カーシャの言葉に、相手は驚きもせずにうなずく。

 

「何か、そういう感じはあったけど。変なもんだね」

 

 黒髪の少年――ヘビィクはちょっと身を揺すり、笑ったようだった。

 

「縁があるということかしら。ここへは?」

 

「まあ、適当な仕事がないかと」

 

 少年は曖昧な返事をした時だった。

 

「大変です……!!」

 

 奥から、真っ青になった男が飛び出してきた。

 

「ラクシャサだ――。はぐれラクシャサが近くで見つかった……!!」

 

 ――アレか。

 

 カーシャは、獣の髑髏を顔に持つ、赤い怪物を思い出していた。

 

 さて、その後は……。

 冒険者たちは、みんな大騒ぎだった。

 

「守りを固めろ!」

 

「先制攻撃だ!」

 

「あいつらにフツーの攻撃が効くもんか!!」

 

「とにかく魔法でも何でもいい。ぶっ放せ!」

 

「バカ、逃げるほうが先だ!」

 

「おら、知らねえ、おら知らねえ!!」

 

 喧騒。

 とにかく、そうとしか言えない状況だった。

 

 ――こうなってくると、かえって冷静……。いえ、バカバカしくなるわねえ?

 

 腕を組み、どうしたものかと考える。 

 そして。

 飛び交う声を聴くともなく聴いていた。

 

 やがて、

 

「アルゴノーツに連絡しろ!」

 

「……間に合うもんか!!」

 

 そんな言葉が出てくる。

 

「ねえ?」

 

 不意に――

 カーシャはヘビィクに言った。

 

「え?」

 

「〝()()()()()()〟って、なにかしら?」

 

「――ああ。ガーディナーを集めて、ラクシャサに対抗してるところだね」

 

「では、あなたは?」

 

「もちろん、関係ないよ」

 

 ヘヴィクはあっさり言ってから、

 

「あのー、僕ってガーディナーなんですけどね?」

 

 報酬さえいただけるのなら?

 時間稼ぎはできますよ?

 

 やや図々しい態度で、騒がしい受付カウンターのほうに話しかけた。

 

 

 

 ・  ・  ・

 

 

 

「まだ、ざっと調べた段階だけど……。信じられない戦果ね」

 

 女――

 ブルシーは報告書を手に、もう一度相手を見た。

 黒みがかった紫の髪を持つ、長身の美女。

 

「でも、事実なのよ。倒されたラクシャサの検証もしたし、サンプルも入手してきた。間違いないわ」

 

 魔導士フォクネは長い金髪を掻き上げ、ため息を吐いた。

 こちらもやはり美女。

 

「だけど、たったひとりのガーディナーがこれだけのこと、できる? いくら()()()だからって……」

 

「戦闘指揮官のあなたにわからないことが、私に確証を持って言えると思う?」

 

 険しい顔つきのブルシーに、フォクネは冷静な声。

 ただ。

 その瞳には、やはり動揺があった。

 

「ほんっとに! 一体、どういうヤツなのかしらね、その腕利きって。うちにいてくれたら、戦いも楽になってたのに……」

 

 ブルシーは息を吐き、右の拳を左の手の平に叩き込む。

 

「報告書では、まだ若い少年だったらしいわね。あと、お酒が好きらしくってよく飲んでいたそうよ」

 

「おさけぇ? ガキのくせに?」

 

「実際の正確な年齢は、わからないけれど。もしかすればエルフのような長命の種族かもしれない……」

 

 

 

 ・  ・  ・

 

 

 

 いつの間にか――

 それとも。

 ヘビィクがグズグズしている間に、か。

 

 マウミは周辺に受け入れられていった。

 

 おそらく……。

 大きな原因は父だったのだろう。

 

 あまり表立ったものではなかったが、あの男はマウミに惹かれていたのだろう。

 一緒にいると、まるで本当の父と娘みたいに見える。

 そういうこともあった。

 

 実の息子よりも、何者とも知れない少女に心を開く。

 

 ――そういうこともあるのかも。

 

 今となってはヘビィクもそう思ったりするが、実際問題見栄えの良いものではない。

 

 ただ。

 マウミ自身への好感が強まる中で、その不自然さは流されていったようだ。

 

「どうして、父さんと仲良くなれるの……?」

 

「そんなこと、ないよ」

 

「……そうかな」

 

「そうだよ」

 

「……そうは、見えないけど」

 

 いつか。

 マウミとこんな会話をしたこともある。

 

 思い返せば、冷たい空気、雰囲気であったとヘビィクは思う。

 

 

 

 

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