破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

374 / 374
その120、鬼谷に落ちて鬼となる-4

 

 

 

「あ」

 

「おい、あいつ……」

 

 仕事帰り――

 街へ入ってしばらくすると、声が飛び交い始めた。

 

 道を行く者たちは、さっと横に退いていく。

 

 ――なんか、古い映画でこんなの見たような……。

 

 割れていく人波を見ながら、バッキーは微妙な気分になった。

 

 確か。

 海が二つに割れて、そこに道ができるというダイナミックなシーンだったろうか。

 聖書のエピソードを映画化したものだったはずだ。

 

 割れた道を、カーシャはどうでも良さそうに進んでいた。

 あまり意識もしていないのだろう。

 切断されたマンティコアの首を片手で持ち上げ、滑るように歩いていく。

 

「何かさ、異世界? に来ても、やってることあまり変わらねえな?」

 

 マコネは後ろに続きながら、肩をすくめる。

 

「まあ、異世界っていうほど大げさなもんじゃないのかも」

 

「そうだな。どっか、見たことのない遠い国かもしれねえや」

 

 マコネとバッキーが話していると、

 

「ただまあ、ヤオアムトを知らないのだけは確かだったようね。金貨を見せた時は驚いていたもの。てっきりあそこが田舎だから――そう思ったけど……」

 

 ここでも驚かれたわ。

 精巧な鋳造技術だと、ね。

 

 カーシャはふたりを見ずに話す。

 

「あれ、マンティコアだよな……?」

 

「しかも、あんなでかいの……」

 

「昨日はグレートグリフィンを討伐したらしいぜ……」

 

「あれ、あいつがやったのか?」

 

「っていうか、昨日の今日でかよ……。腕利きどころか、マトモじゃないぜ」

 

「何なんだよ、あの女」

 

「だけど……すげえいい女だよな」

 

「他のはガキと半端デブの女だけどな」

 

「……もしかするとさ」

 

「おい、よせよ!?」

 

「こないだ、あいつに()()()()連中がどうなったか知らないのか……?」

 

「尻を触ったか胸を揉んだかして、グチャグチャにされたんだよ」

 

「グチャグチャ?」

 

「両手両足がもう、グチャグチャでさあ……。骨なしのクラゲみたいになったらしい」

 

「いくら何でもそんな」

 

「マジだってば……! 冒険者同士でもやりすぎだってことで、冒険者の資格を剥奪するとかどうかって騒ぎだってさ」

 

「でも、あれ」

 

「だからさ。その罰金代わりに、マージマンティコアの討伐を命じられて……で、あれ」

 

「マージって、魔法まで使うマンティコアかよ!? そんなもん……」

 

「……フツーに討伐して、首もって帰ってきてるよなあ」

 

 ヒソヒソと――

 

 半ば恐怖で塗り固められた会話が、あちこちでささやかれる。

 

 

 

「――で、どうだった?」

 

 戻ってきたカーシャに、マコネは気楽な態度で言った。

 

「これでプラスマイナスはゼロ。またすぐにクエストを受けられるわ」

 

 カーシャは手をひらひら振り、軽くのびをする。

 

「……しかし、こっちのはクエスト受けるのもやるのも、手間かかるなあ」

 

 マコネはあくびをしながら、ひょいっとギルドの掲示板を見る。

 

 大きな木のボードには、いくつもの依頼書が張り出されていた。

 大小の紙、様々なクエスト。

 

「まあ、クエストを受けるのに制限がないってのは、ありがたいけどよ」

 

「討伐したモンスターを自動記録するようなものも、ないようですね」

 

 バッキーが言った。

 

「ああ……。だから、いちいち爪だの牙だの、首だのを証拠として持ち帰らなきゃならねえときたもんだ。面倒くせえ、面倒くせえ」

 

「だけど、あんなところに放置したモンスターの死体……。もったいなくないんですかねえ?」

 

 と。

 バッキーは指を顎にあてて言った。

 

「全部持ち帰りゃ、けっこう金になりそうなのによ。どーもそのへんもなあ」

 

 そんな会話の最中――だった。

 

 カーシャは、入口のほうをジッと見ている。

 やがて?

 

 大き目の木製ドアから、そうっと入ってきた者があった。

 

 若干薄汚れた服装の、若い旅人。

 黒髪に、黒い瞳の少年。

 

「――また、会ったわね」

 

「ああ、お姉さん」

 

 カーシャの言葉に、相手は驚きもせずにうなずく。

 

「何か、そういう感じはあったけど。変なもんだね」

 

 黒髪の少年――ヘビィクはちょっと身を揺すり、笑ったようだった。

 

「縁があるということかしら。ここへは?」

 

「まあ、適当な仕事がないかと」

 

 少年は曖昧な返事をした時だった。

 

「大変です……!!」

 

 奥から、真っ青になった男が飛び出してきた。

 

「ラクシャサだ――。はぐれラクシャサが近くで見つかった……!!」

 

 ――アレか。

 

 カーシャは、獣の髑髏を顔に持つ、赤い怪物を思い出していた。

 

 さて、その後は……。

 冒険者たちは、みんな大騒ぎだった。

 

「守りを固めろ!」

 

「先制攻撃だ!」

 

「あいつらにフツーの攻撃が効くもんか!!」

 

「とにかく魔法でも何でもいい。ぶっ放せ!」

 

「バカ、逃げるほうが先だ!」

 

「おら、知らねえ、おら知らねえ!!」

 

 喧騒。

 とにかく、そうとしか言えない状況だった。

 

 ――こうなってくると、かえって冷静……。いえ、バカバカしくなるわねえ?

 

 腕を組み、どうしたものかと考える。 

 そして。

 飛び交う声を聴くともなく聴いていた。

 

 やがて、

 

「アルゴノーツに連絡しろ!」

 

「……間に合うもんか!!」

 

 そんな言葉が出てくる。

 

「ねえ?」

 

 不意に――

 カーシャはヘビィクに言った。

 

「え?」

 

「〝()()()()()()〟って、なにかしら?」

 

「――ああ。ガーディナーを集めて、ラクシャサに対抗してるところだね」

 

「では、あなたは?」

 

「もちろん、関係ないよ」

 

 ヘヴィクはあっさり言ってから、

 

「あのー、僕ってガーディナーなんですけどね?」

 

 報酬さえいただけるのなら?

 時間稼ぎはできますよ?

 

 やや図々しい態度で、騒がしい受付カウンターのほうに話しかけた。

 

 

 

 ・  ・  ・

 

 

 

「まだ、ざっと調べた段階だけど……。信じられない戦果ね」

 

 女――

 ブルシーは報告書を手に、もう一度相手を見た。

 黒みがかった紫の髪を持つ、長身の美女。

 

「でも、事実なのよ。倒されたラクシャサの検証もしたし、サンプルも入手してきた。間違いないわ」

 

 魔導士フォクネは長い金髪を掻き上げ、ため息を吐いた。

 こちらもやはり美女。

 

「だけど、たったひとりのガーディナーがこれだけのこと、できる? いくら()()()だからって……」

 

「戦闘指揮官のあなたにわからないことが、私に確証を持って言えると思う?」

 

 険しい顔つきのブルシーに、フォクネは冷静な声。

 ただ。

 その瞳には、やはり動揺があった。

 

「ほんっとに! 一体、どういうヤツなのかしらね、その腕利きって。うちにいてくれたら、戦いも楽になってたのに……」

 

 ブルシーは息を吐き、右の拳を左の手の平に叩き込む。

 

「報告書では、まだ若い少年だったらしいわね。あと、お酒が好きらしくってよく飲んでいたそうよ」

 

「おさけぇ? ガキのくせに?」

 

「実際の正確な年齢は、わからないけれど。もしかすればエルフのような長命の種族かもしれない……」

 

 

 

 ・  ・  ・

 

 

 

 いつの間にか――

 それとも。

 ヘビィクがグズグズしている間に、か。

 

 マウミは周辺に受け入れられていった。

 

 おそらく……。

 大きな原因は父だったのだろう。

 

 あまり表立ったものではなかったが、あの男はマウミに惹かれていたのだろう。

 一緒にいると、まるで本当の父と娘みたいに見える。

 そういうこともあった。

 

 実の息子よりも、何者とも知れない少女に心を開く。

 

 ――そういうこともあるのかも。

 

 今となってはヘビィクもそう思ったりするが、実際問題見栄えの良いものではない。

 

 ただ。

 マウミ自身への好感が強まる中で、その不自然さは流されていったようだ。

 

「どうして、父さんと仲良くなれるの……?」

 

「そんなこと、ないよ」

 

「……そうかな」

 

「そうだよ」

 

「……そうは、見えないけど」

 

 いつか。

 マウミとこんな会話をしたこともある。

 

 思い返せば、冷たい空気、雰囲気であったとヘビィクは思う。

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

【書籍化決定】クラス転移したけど俺だけステータス表記が違った(作者:星野林(旧ゆっくり霊沙))(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

学校で進路を悩んでいた斎藤隆史(サイトウ タカシ)はクラスに馴染めずに居た。▼そんな最中、突如異世界にクラスごと召喚もとい拉致され、魔王と戦えと言われる。▼そして各自に役職と能力が付与されているからとステータスを開くように言われてステータス画面を見ると……皆が普通のRPG表記なのに、俺だけポケ◯ンみたいにレベル形式だし、技ってのが見える。▼そして始まる異世界…


総合評価:2898/評価:8.09/完結:95話/更新日時:2026年08月06日(木) 10:50 小説情報

本好きの念能力者 @ 魔法科高校(作者:avagnale)(原作:魔法科高校の劣等生)

PIXIVに掲載している「本好きの念能力者」の転生者です。▼本好きの下剋上のオリ主?です。▼HUNTER×HUNTER、ハリー・ポッター、FFなどなど、本好きの下剋上の国境門による異世界を堪能しています。▼PIXIVで「本好きの念能力者」を検索してもらえれば読めます。▼基本的に腐ってるギャグチートです。


総合評価:564/評価:5.76/完結:101話/更新日時:2026年06月02日(火) 12:00 小説情報

押し入れの向こうは異世界でした(作者:Brooks)(オリジナル現代/コメディ)

▼練馬区江古田の古いアパートで一人暮らしをする女子大生・篠原澪は、友達の少ないボッチ気質の二十歳。趣味は彫金とギター。貯金は十万円ほどしかなく、大学、家賃、生活費に追われながら、六畳一間で静かに暮らしていた。▼ある日、小さな地震のあと、部屋の押入れの向こうが異世界の市場につながる。▼幸い、言葉は通じた。澪は恐る恐る異世界へ足を踏み入れ、手元にあった爪切りを売…


総合評価:152/評価:-.--/連載:262話/更新日時:2026年08月11日(火) 15:53 小説情報

ダンジョン中毒から抜け出したい【書籍化&コミカライズ決定】(作者:1パチより4パチ派)(オリジナル現代/コメディ)

ダンジョンのドロップにどハマりして身を崩した主人公が、過去に脳を焼いちゃった仲間や世間からの妨害(ほぼ自業自得)にめげずに社会復帰を目指す話。▼※2026年2月10日 書籍化&コミカライズ決定しました。


総合評価:7722/評価:8.18/連載:100話/更新日時:2026年08月09日(日) 19:42 小説情報

ロマン職は異世界から帰りたい(作者:庶民ザウルス三世)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

これが絶対浪漫の力だ!▼人は夢を見る。▼そして、効率よりも自分の“好き”を信じて、浪漫を追いかける者たちがいる。▼ソロ専、人見知り。▼だけど、クリティカルが決まった時の一撃だけは誰よりも重い。▼そんな趣味全開のロマン職キャラを愛した男は、課金帰りの事故をきっかけに、ゲームで使っていた女性キャラ――ラシア・ラ・シーラとして異世界で目を覚ます。▼しかも、レベルも…


総合評価:6577/評価:8.51/連載:168話/更新日時:2026年08月11日(火) 07:10 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>