破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
――嫌な女。
シーラ・チゴ・ガイミヌがその公爵令嬢に対面して、最初に思ったことはそれだった。
カーシャ・チーフウォール。
初めて会ったのは、【カーヅ=リッチ杯】の慰労パーティー。
カーヅ=リッチ。
数百年前の国王である。
かなりの、変わり者だったと伝わっている。
しかし。
身分の上下に関わりなく、優秀な魔法使いを選出する競技。
今の【カーヅ=リッチ杯】を最初に行った人物でもあった。
現在では――
魔法の技を競い合う伝統行事である。
中心となるのは、貴族の子女。
ただ。
主な参加者……というだけで、別に貴族のみ参加権があるわけではない。
各地から代表となる若者が集まってくる。
シーラ・チゴ・ガイミヌは、
幼少時から厳しい鍛錬を積んで、貴族の通う幼年学校も優秀な成績で卒業した。
惜しくも、首席は逃したけれど。
しかし、将来を期待される秀才であることに間違いなしで。
シーラ自身も、
――大きな成果を出して、家を盛り立ててみせる!
密かに、そんな目標を掲げていた。
そして。
伝統の競技参加を認められた。
晴れの舞台で、シーラは優秀な成績を見せた。
1~5位とはいかないまでも。
それでも10位の中には食い込めたのだ。
上位成績者は、確かに身分の差はなかった。
侯爵家の者もいれば、叩き上げの騎士。
さらには、騎士ですらない庶民まで。
その夜――
優秀成績者が招待される慰労パーティー。
その場で、カーシャに出会った。
チーフウォール。
貴族の中でも上位3位には入るとされる名家。
長年受け継いできた土地も財産も
当然、権威も。
その権力を振りかざす傲慢な相手。
これに良い感情を抱けというほうが難しい。
そして、さらに。
カーシャ自身は王太子の正統な婚約者。
次期王妃である。
シーラとは、絶対的な身分の差があった。
「おお、これはチーフウォール家の……」
「なんともはや……。一段とお美しく……」
「
シーラよりも高い爵位、多くの財産を持つ貴族たちが媚びへつらっている。
実際、カーシャの美貌は最高クラスだった。
どうあがいても、シーラでは勝ち目がないほどに。
――別に、顔の良しあしで認められたいなんて、思ってない。
そう思っていたし、これからもそのつもりだった。
しかし。
現実に、圧倒的な差を見せつけられると、
――ムカつく……。
その感情は、どうしようもなかった。
噂に聞けば――
カーシャという女は魔法の才能もなく、それを補おうという姿勢もない。
家の力にふんぞり返る傲慢の塊。
父親である公爵からして、ろくな話を聞かない男だ。
シーラは遠目から、内心軽侮の視線を送っていたが、
「おや? あなた……上位成績者の中にいらしたわねえ?」
わざとらしい態度で、カーシャは近づいてきた。
「……ああ、あの家の? ご息女がいらしてたのね? ちっとも存じませんでしたわ」
そんな当てこすりを言いながら、ジロジロとシーラを見ていたが、
「でも?」
と、首を少し突き出すような仕草で、
「――あらあら、あなた……こんな場所でコーディネートがなっていないわねえ? 私がちゃあんと仕立てて差し上げるわ」
いきなりだった。
手にしたワイングラスを、頭を下げていたシーラの頭に、
「……なっ!?」
まさに、いきなり。
シーラは、頭からワインをぶっかけられた。
一瞬、何が起こったのか理解できず――
呆然となっているところへ、
「あっはははははは!」
青い髪の女は、楽しそうに大笑いした。
続いて、
「ほら、こんなアクセサリーが似合うんじゃなくて?」
カーシャは笑いながら、シーラのドレスに調味料の液体などをふりまいた。
せっかく、こういう日のためにあつらえたドレスに。
「ほうら、ぴったり」
カーシャはパンパンと手を打ちながら、ジロリと周囲を睨んだ。
ビクリ、と。
取り巻き連中が反応した。
「よく似あってるわよぉ? あっははっはははっはは!!!」
そんなカーシャに追従して、
あは、あははは……。
っほほほ……。
くす、くすくす……。
あちこちから、笑いが飛んでくる。
――殺してやる!
シーラは反射的にそう思ったが、
「……っ!」
ここで手を出せば、どうなるか。
それを理解する半端な理性も残っていた。
その後。
逃げるように会場を去り、何度も泣いた。
今まで。
低い身分でも、才能と努力で胸を張ってこれた。
だが――
それが、あっさりと否定されたのだ。
――あんな……あんな、生まれた身分だけでふんぞり返っている女に!!
家族や友人は慰め、労わってくれた。
だが、そんなものは何の気休めにもならない。
――いつか、絶対に思い知らせてやる……!
シーラは密かにそう誓った。
でも。
彼女の願い。
それは、ある意味でかない、ある意味ではかなわなかった。
チーフウォール公爵の失脚。
王太子に悪事を暴かれ、身分は剥奪。
公爵は毒薬で自害。
カーシャは、公衆の面前で王太子から婚約破棄を宣言された。
加えて。
今までの罪から投獄され、裁きを受け――全てを失った。
胸がすく一方で、シーラは不満が残る。
できるなら、
――自分で叩き潰してやりたかった……!
見てくれと家の権威だけしか取り柄のない、下劣な女。
そいつに、身の程を教えてやりたかった。
しかし、シーラは極めて多忙になる。
「魔導士シーラ・チゴ・ガイミヌ。召喚された勇者の従者に任命する」
王宮からじきじきの命令。
密かに蠢動している魔王の討伐。
伝説や歴史の中で、いくつも数えられる栄光の任務だった。
「お前の絶えぬ研鑽と、その資質を見込んでのこと。見事に達成してみせよ」
こうして。
シーラの新たなる一歩は始まった。
勇者や仲間と共に様々なクエストをこなし、経験をつみ、さらなる自信をつけて。
が。
辺境の街・ネビズの近くでオーガキングとその手下を討伐した帰り。
街道で、思わぬ再会をした。
家名を失い、ただの女となったカーシャ。
そこで、シーラは今までの誇りも自信も、全て叩き壊された。