破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その33・5、シーラ・チゴ・ガイミヌ

 

 

 

 

 ――嫌な女。

 

  シーラ・チゴ・ガイミヌがその公爵令嬢に対面して、最初に思ったことはそれだった。

 

 カーシャ・チーフウォール。

 

 

 初めて会ったのは、【カーヅ=リッチ杯】の慰労パーティー。 

 

 カーヅ=リッチ。

 数百年前の国王である。

 死霊魔術(ネクロマンシー)の使い手として知られ――

 怪王(ソーサラー・キング)の異名で呼ばれていた。

 かなりの、変わり者だったと伝わっている。

 しかし。

 身分の上下に関わりなく、優秀な魔法使いを選出する競技。

 今の【カーヅ=リッチ杯】を最初に行った人物でもあった。

 

 現在では――

 魔法の技を競い合う伝統行事である。

 中心となるのは、貴族の子女。

 ただ。

 主な参加者……というだけで、別に貴族のみ参加権があるわけではない。

 

 各地から代表となる若者が集まってくる。

 

 シーラ・チゴ・ガイミヌは、

 幼少時から厳しい鍛錬を積んで、貴族の通う幼年学校も優秀な成績で卒業した。

 惜しくも、首席は逃したけれど。

 しかし、将来を期待される秀才であることに間違いなしで。

 

 シーラ自身も、

 

 ――大きな成果を出して、家を盛り立ててみせる!

 

 密かに、そんな目標を掲げていた。

 そして。

 伝統の競技参加を認められた。

 

 晴れの舞台で、シーラは優秀な成績を見せた。

 1~5位とはいかないまでも。

 それでも10位の中には食い込めたのだ。

 

 上位成績者は、確かに身分の差はなかった。

 侯爵家の者もいれば、叩き上げの騎士。

 さらには、騎士ですらない庶民まで。

 

 

 その夜――

 

 

 優秀成績者が招待される慰労パーティー。

 その場で、カーシャに出会った。

 

 チーフウォール。

 貴族の中でも上位3位には入るとされる名家。

 長年受け継いできた土地も財産も膨大(ぼうだい)なもの。

 当然、権威も。

 その権力を振りかざす傲慢な相手。

 これに良い感情を抱けというほうが難しい。

 

 そして、さらに。

 

 カーシャ自身は王太子の正統な婚約者。

 次期王妃である。

 シーラとは、絶対的な身分の差があった。

 

 

「おお、これはチーフウォール家の……」

 

「なんともはや……。一段とお美しく……」

 

貴女(あなた)にご参加いただけるとは、主催も光栄でしょう」

 

 シーラよりも高い爵位、多くの財産を持つ貴族たちが媚びへつらっている。

 実際、カーシャの美貌は最高クラスだった。

 どうあがいても、シーラでは勝ち目がないほどに。

 

 ――別に、顔の良しあしで認められたいなんて、思ってない。

 

 そう思っていたし、これからもそのつもりだった。

 しかし。

 現実に、圧倒的な差を見せつけられると、

 

 ――ムカつく……。

 

 その感情は、どうしようもなかった。

 

 噂に聞けば――

 カーシャという女は魔法の才能もなく、それを補おうという姿勢もない。

 家の力にふんぞり返る傲慢の塊。

 父親である公爵からして、ろくな話を聞かない男だ。

 

 シーラは遠目から、内心軽侮の視線を送っていたが、

 

「おや? あなた……上位成績者の中にいらしたわねえ?」

 

 わざとらしい態度で、カーシャは近づいてきた。

 

「……ああ、あの家の? ご息女がいらしてたのね? ちっとも存じませんでしたわ」

 

 そんな当てこすりを言いながら、ジロジロとシーラを見ていたが、

 

「でも?」

 

 と、首を少し突き出すような仕草で、

 

「――あらあら、あなた……こんな場所でコーディネートがなっていないわねえ? 私がちゃあんと仕立てて差し上げるわ」

 

 いきなりだった。

 手にしたワイングラスを、頭を下げていたシーラの頭に、

 

「……なっ!?」

 

 まさに、いきなり。

 シーラは、頭からワインをぶっかけられた。

 

 一瞬、何が起こったのか理解できず――

 呆然となっているところへ、

 

「あっはははははは!」

 

 青い髪の女は、楽しそうに大笑いした。

 続いて、

 

「ほら、こんなアクセサリーが似合うんじゃなくて?」

 

 

 カーシャは笑いながら、シーラのドレスに調味料の液体などをふりまいた。

 せっかく、こういう日のためにあつらえたドレスに。

 

「ほうら、ぴったり」

 

 カーシャはパンパンと手を打ちながら、ジロリと周囲を睨んだ。

 ビクリ、と。

 取り巻き連中が反応した。

 

「よく似あってるわよぉ? あっははっはははっはは!!!」

 

 そんなカーシャに追従して、

 

 あは、あははは……。

 っほほほ……。

 くす、くすくす……。

 

 あちこちから、笑いが飛んでくる。

 

 ――殺してやる!

 

 シーラは反射的にそう思ったが、

 

「……っ!」

 

 ここで手を出せば、どうなるか。

 それを理解する半端な理性も残っていた。

 

 その後。

 

 逃げるように会場を去り、何度も泣いた。

 今まで。

 低い身分でも、才能と努力で胸を張ってこれた。

 

 だが――

 

 それが、あっさりと否定されたのだ。

 

 ――あんな……あんな、生まれた身分だけでふんぞり返っている女に!!

 

 家族や友人は慰め、労わってくれた。

 だが、そんなものは何の気休めにもならない。

 

 ――いつか、絶対に思い知らせてやる……!

 

 シーラは密かにそう誓った。

 

 

 でも。

 

 

 

 彼女の願い。

 それは、ある意味でかない、ある意味ではかなわなかった。

 

 チーフウォール公爵の失脚。

 王太子に悪事を暴かれ、身分は剥奪。

 公爵は毒薬で自害。

 

 カーシャは、公衆の面前で王太子から婚約破棄を宣言された。

 加えて。

 今までの罪から投獄され、裁きを受け――全てを失った。

 

 胸がすく一方で、シーラは不満が残る。

 できるなら、

 

 ――自分で叩き潰してやりたかった……!

 

 見てくれと家の権威だけしか取り柄のない、下劣な女。

 そいつに、身の程を教えてやりたかった。

 

 

 

 しかし、シーラは極めて多忙になる。

 

「魔導士シーラ・チゴ・ガイミヌ。召喚された勇者の従者に任命する」

 

 王宮からじきじきの命令。

 

 密かに蠢動している魔王の討伐。

 伝説や歴史の中で、いくつも数えられる栄光の任務だった。

 

「お前の絶えぬ研鑽と、その資質を見込んでのこと。見事に達成してみせよ」

 

 こうして。

 シーラの新たなる一歩は始まった。

 

 勇者や仲間と共に様々なクエストをこなし、経験をつみ、さらなる自信をつけて。

 

 

 

 が。

 

 

 

 辺境の街・ネビズの近くでオーガキングとその手下を討伐した帰り。

 街道で、思わぬ再会をした。

 家名を失い、ただの女となったカーシャ。

 

 

 そこで、シーラは今までの誇りも自信も、全て叩き壊された。

 

 

 

 

 

 

 

 

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