破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
「あいつはいったい何者だ?」
集めた資料を投げ出し、ライワ・ヘイメルフントは言った。
「新人の冒険者――」
ギルドナイトの本部。
第1隊隊長である女騎士に答えたのは、ネクロマンサーの女。
紫の髪をセミロングにした美人だが、冷徹そうな青い目の女騎士。
髪も瞳も黒。フェイスベールで顔半分を隠した蛇のような女魔術師。
「わかっているだろう。元・チーフウォール家の令嬢」
「王都じゃ芝居のネタにもなってるらしい『悪役令嬢』だぁね。いや……本物だから悪党令嬢かな? ひっひっ」
「身分を剥奪されて、ただの平民としてここに送られてきた。資料ではそうなっている」
「それで?」
「こいつは、身分剥奪と同時に魔法を封じられている。この国では、かなり重い罰だな。特に貴族には――」
「ふむ。この国……ヤオアムトは魔法大国。貴族は高レベルの魔導士が多く出てるからねえ。おかげで、魔法技術やマジックアイテムのおかげで、豊かではあると。ま、半面……」
「魔導士以外の扱いは悪い。騎士や戦士にしても、魔法と武術を同時に扱う者が中心」
「ま、もっとも商売で失敗する大魔導士様もたまにいるけどさ。ひっひっひ」
「魔法の使えない魔導士なんてのは悲惨なもの。なのに、こいつは異常な戦闘力を見せている。盗賊だけならまだしも、レッサードラゴンを殺してる。自分はまったくの無傷でな」
「密かに特訓してたのかもよ?」
「茶化すな。公爵令嬢の地位にあった人間が、そんなことをするか? 仮に武術をたしなんでたとしてだ。間違いなく、魔法とからめたもののはずだ。なのに」
「まー。確かに、あの女はフツーじゃないかったな。ちょっと見ただけでやばい臭いがプンプンだ。近づきたくなくなるほどにね」
ネクロマンサーは、肩をすくめた。
「少し調べた過去の経歴と、どうにも噛み合わない。妙だろう?」
「しかし、過去はどうあれ優秀な新人さんだったら歓迎すべきじゃないのかい?」
「ミゾイ」
ライワはネクロマンサーの名を呼んで、睨む。
「突然人間が別人のようになる。これについてどう思う。ネクロマンサーの意見としてだ」
「はあ……」
ミゾイは困った顔で頭を掻く。
「まいったね。確かに、人間の魂を入れ替えたり、憑依するって話はある。しかしね……その相手が身分も魔法もなくした小娘だ。どういうメリットがある? それとも、今のあいつは誰か別人だというのかい?」
「……」
「他の国ならともかく、生命認証魔法のあるこの国じゃね。ギルドに登録されたのと、向こうで確認されたものはおんなじだ。こいつは、誤魔化しようがない」
「そうだな……」
「……それにさ。偽物だとしても、こっちのしったこっちゃないさ。ここで冒険者として真っ当にやってくれるんなら、過去が何様だろうと関係ない。ここは中央とは違うんだ」
「――ああ。そこだ」
「あン?」
「ヤツがここの流儀に従うのなら、問題はない。だが、そういうタマに見えたか?」
「あー……」
ライワの意見に、ミゾイは納得顔になった。
「そりゃそうだな。さっきも言ったが、いかにもやばそーなヤツだった。ありゃ、軽く数十人は殺してるな。モンスターを狩ったのも1度や2度じゃなさそうだ……」
「正直、あいつの過去なんて私だってどうでもいいさ。だが……厄介な相手であることは、変わりない」
ライワは嘆息し、天井を仰いだ。
「今あいつどうしてるんだい?」
「近くの村にゴブリン討伐だ。最近、増えてるな」
「ゴブリンか……。ってことは、ダンジョンもあちこちにできてるねえ」
ふむ、とミゾイはフェイスベールで隠れた顎に手をやった。
「何なら、この令嬢様が帰ってきたら、次はこいつに行かせるかい? 報酬はずめばいいさ」
「まだ調査中だぞ。ノーマルクラスにやらせる仕事じゃない」
「だったら今度のクエストでレアに昇格させりゃいいだろ。並のことでくたばるようなヤツじゃなさそうだし、くたばっても……十中八九くたばらないだろうが、それでもこっちに損はない」
「昨日の今日でレア昇格だと……?」
「前例がないわけじゃないさ。即戦力をダラダラ研修させとく馬鹿もない」
会話の途中、部屋の魔導通信機がベルを鳴らした。
いわゆる、電話機のようなものである。
「……私だ。なに? ああ、そうか。わかった。至急確認の者を送れ――」
通信機を取ったライワは無表情で言い、通信を切った。
「どしたン?」
「さっきのゴブリンクエストだが、オーガが一匹いるらしい。さっき緊急の通信があったそうだ」
「オーガ……。ああ、そりゃまずいね。しかし、ちょうどテストにもなるか。あの令嬢がオーガをどう始末したか、ね」
「……悪趣味だな」
「しょうがないね。汚れ仕事も給料のうち、さ」
同じ頃、チュービの村。
マコネは村人たちと一緒に村を囲う防護柵の前にいた。
前には、野原が広がり、遠くには森。
そして点々と散らばるゴブリンの死体。いや、ほぼ残骸。
少し前まで、遠くのほうで悲鳴や血しぶきが何度も上がっていたが、今は静かだ。
「やれやれ。みーんな殺しちまいやがった」
散らばるゴブリンの死体に、マコネはため息。
片手で、顔の血をふいている。
「す、すごいもんだな?」
村人たちは青い顔ながら称賛。
「ああ、敵に回さなきゃ頼りになるよ……ハハハ」
「血だらけだけど……ホントに大丈夫なのか?」
「全部返り血だよ。ああ、くっせ。村のほうはいいのかい?」
「あ、ああ。今調べてるが、ゴブリンはみんな退治されてるよ」
「そりゃ良かった」
「しかし……オーガまで出てくるとはなあ」
「はぁ!? そんなもんまでいたのかよ!? 聞いてねえぞ!?」
村人のつぶやきに、マコネは目をむく。
「いや、そりゃ……何しろさっきいきなり襲ってきやがったんだ。あんたの連れがあっという間にやっつけたけど……」
「半分気絶してたからな……。しかし、オーガねえ。レアが数人いてもやばい厄ダネだぜ?」
そんな会話のさなか、野原からカーシャは戻ってくるのが見えた。
ただ歩いているだけ。
なのに、恐ろしく移動速度が速い。
「あ、姐さん。ゴブリンは?」
「みんな殺した」
「へ、へえ……。何匹くらい?」
「いちいち数えてはいない」
「そ、そっかあ……」
「――村の代表はどこに?」
カーシャはひきつった笑いのマコネから、村人に視線を移す。
「あ、ええと。こっちに……」
案内された先にいた、初老の村長。
白髪頭だが、筋骨はたくましい。元冒険者なのだろう。
「後になったけど、こちらがギルドのクエスト証」
「あ、はい。確かに……いや、その、大した腕前ですな」
「そう。人からそう見えるのなら、そうなのでしょうね」
カーシャはすぐに会話を打ち切り、
「クエストは終わった。帰るわ」
と、マコネに言う。
「あー、それは良いけど。その、血まみれだろ、みんな。それに、あのヒーラーのお姉ちゃんもさ」
「?」
「いや、一緒に連れてきたじゃん。無理やり……」
「……ああ」
「忘れてたのかよ……」
「で。そいつは?」
「気絶したままなんで寝かせてある」
「ああ、そう」
例のヒーラー女子はベッドに寝かされていた。
しばらくウンウンうなっていたが、
「あれ……? 夢?」
青い顔で起き上がり、カーシャたちを見る。
「どなた……?」
「あんたとパーティー組んだもんだよ。ほぼ無理やりだったけど」
マコネが答えた。
「あ。ああー。え? わ、私、どうなった……うわ、なまぐさ……!?」
ヒーラーは自分についた血の臭いにあわてる。
「一応着替えさせたけど、ちゃんとはしてなかったからなー。後で洗えばいいだろ?」
「あの、何があったんです???」
「この姐さんがおいらたちをおぶったまま、オーガをぶっ殺して、その返り血浴びたの。ケガはねーよ」
「ええええーーーー……」
ヒーラーは状況についていけないようだった。
「ま、無理もねーけどな。こっちもわけわかんねーし……。あのさ、姐さん? こんな調子だし、今日は休んで明日帰るっつーのはダメかね?」
「……ここに宿屋でもあるの?」
「そりゃ街道の途中にある村だしな。けっこう旅人も多いはずだぜ」
「ま、いいでしょ」
カーシャは少しため息をついて、部屋を出ようとする。
「ああーー、ちょっとちょっとちょっと!!」
それを、マコネはあわてて引き留めた。
「あのさ。無理やりでも一応パーティー組んだんだし、お互いにもうちょっと、こう。親交つーの、それを深めていいんじゃね? ていうか……おいらこのねーちゃんの名前も知らないんだぜ?」
「……」
面倒くさい、と一瞬顔を歪めたカーシャだったが、
「わかった――」
言って、椅子に座りなおす。
「カーシャ。家名はない。ただのカーシャ。冒険者になったばかりのノーマルクラス……」
「おいらはマコネだ。けっへへ。おなじくただのマコネさ。同じくノーマル。ちょいと小器用なんでレンジャーとかやってる。で、姉ちゃんは?」
「あ……。えーと、古井椿です。こっちにきたばっかで、ノーマルで。ヒーラーです。ふひひひ……」
ヒーラーは若干卑屈そうな笑みを浮かべた。
「フルイ・ツバキュ……? ちょい言いにくい名前だなあ」
「あー、こっち風だとツバキ・フルイですね。てぃひひ……。ツバキは花の椿って意味です。はい」