破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その34、勇者一行の不穏な動向

 

 

 

 

「ん-……」

 

 ユオンは魔導タブレットを操作しながら、前をチラチラ見ている。

 床に輝く魔法陣。

 台座の上に、青い鎧と兜が置かれていた。

 防具には、いくつものコードがつながっている。

 

 さらに――

 

 小さな工具がいくつも宙を浮いて、移動中。

 防具のあちこちを整備していた。

 部屋にはいくつもの武具や剣、槍、さらに魔導士の杖。

 またいくつもの防具が保管されていた。

 

 ――大よそは、出来上がってますね。となれば、後は……。ま、見てくれさえ良ければ、性能はそこそこでいいし。

 

 どうせ、パーティーの連中にはわからないのだ。

 

 ――そこそこと言っても、ドラゴンと戦える程度の性能はありますし。

 

 ただし。

 戦える=勝てる、ではないが。

 

 そんなユオンの後ろから手が伸びた。

 手は無遠慮にユオンの胸を弄ぶ。

 同時に、もう片方が小ぶりなヒップを()でまわした。

 

「今はお仕事中ですよ、勇者様?」

 

 ユオンは抵抗することもなく、小さく笑うだけ。

 

「熱心だよな、いつもいつも」

 

「それが私の仕事ですので」

 

 後ろの男はニヤリとして、ユオンの頬にキスしていく。

 

「なら、俺の相手も仕事か?」

 

「野暮なことをおっしゃって、意地悪なひと……」

 

 ユオンは抱かれたまま、男の顎をなでた。

 

「そうだな。だったら意地悪な勇者はユオンをどうやっていじめてやろうか?」

 

 男はユオンの白い首筋に吸いついた。

 

 ――おやまあ。こんな時間から盛っちゃって……。ま、扱いやすくていいですけどね。

 

 内心をおくびにも出さずに、ユオンは恥じらう乙女を演じて男に付き合う。

 

 

 ことが終わった後――

 

「もう……。こんなに精力をお使いになっては後で(さわ)りますよ?」

 

 男――勇者の肩に脱いだ衣服を着せながら、ユオンは指で背中をつつく。

 

「心配するなよ。いつだってお前たちを可愛がってやるさ」

 

 勇者は笑って、ユオンの唇に吸いつく。

 

 いわゆるディープキスをさんざん楽しんでから、勇者は腕を振りながら去っていった。

 ユオンの瞳。

 その奥にあるものに、気づかないまま。

 

 ――あれで、いっぱしの成功者のつもりなんですからねえ……。どっちが可愛いんだか。

 

 肩をすくめてから、ユオンは仕事を再開。

 

 ――余計なことで時間を取られたけど、まあいいか。急ぎのお仕事でもないし?

 

 

 

 

 

 

「余計なことかも知れないがね」

 

「なにが?」

 

 川へ釣り糸をたらしていたカーシャは、視線だけをゴトクに送る。

 

「お前さん、いらん恨みを買ってるようだな」

 

「何を今さら」

 

「いやま、そらそうだがね」

 

 スープの煮えている鍋をかき回し、ゴトクは苦笑。

 たき火を使って料理をしている最中。

 

 カーシャは釣り竿を握って、川面を見ている。

 やる気のなさそうな表情だった。

 が、一向にやめる気配はない。

 朝からずっと、釣り糸を垂れている。

 

「前に、勇者とその一行を半殺しにしたことがあったろ?」

 

「ゆうしゃ?」

 

「忘れてんのかよ……。チュービから帰りに、街道でやり合ったってマコネから聞いてたぞ」

 

「……ああ。アレね」

 

 そういえば、そんなこともあったかとカーシャは首をかしげた。

 

「あいつらがさ、お前さんに意趣(いしゅ)返しをするつもりらしいぜ」

 

 意趣返し。

 つまりは復讐のことだが――

 

「……へえ」

 

 応えながら、カーシャが竿をすばやく操る。

 水の上で魚がはねた。

 

「だいぶレベルアップした、ということかしら?」

 

 針を外すと、カーシャは釣り上げた獲物を、無造作に投げる。

 

 ゴトクはそれをあっさりとキャッチ。

 何をどうやったのか。

 一瞬で魚は三枚におろされ、スープの煮える鍋の中へ。

 

「さあ? あんたとやり合った時はクエストを終えての帰りだったから、ベストコンディションじゃなかったってことだ」

 

「やってくるとしたら、フル装備で準備万端。そういうこと?」

 

「多分な」

 

「ずいぶんと大仰な。王宮から征伐の依頼でも出されたの?」

 

「それはないだろ。そうしたい連中もいるだろうが……あんた恨みを買いまくってたようだし」

 

「ええ。身に覚えがありすぎるわね」

 

 カーシャは目を細めて、釣り針に餌をつける。

 

「けど、上の連中は余計なゴタゴタなんぞごめんだろうさ。あんたが非力な小娘のままならほっといたし、ドラゴンスレイヤーになった今じゃわざわざ軍を送りたくない」

 

「……そんなものかしら」

 

 カーシャは再び竿を振るって釣り針を川に飛ばす。

 

「頭のイカれた狂戦士ならともかく、今のあんたは一応理性とわきまえがあるとわかったから、余計にな」

 

「イカれては、いるかもしれないわ」

 

「どっちにしろ、戦闘になれば殺しまくるだろ?」

 

「おやおや、ひどい言われようだこと。まあ事実だからしょうがないけど」

 

「ブチ切れてるんじゃなくて、平静なままでそれをやるから怖いんだよ」

 

「正直、私の知ったことではないんだけど」

 

「言うと思った」

 

「だけど、あなたずいぶんな情報通でいらっしゃるのね」

 

「自慢するでもないけど、俺はラリーのヤツが影も形もない頃からこの国に住んでるんだ。アレコレとコネはできるさ。冒険者ギルド作るのにも、手を貸した」

 

「ラリー……? ああ……。ギルドマスターの名前だったわね。ヒョー辺境伯」

 

 カーシャは首をかしげながら、次の獲物を釣り上げていた。

 

「つーわけで。もしそうなったら街からずーっと離れたところでやり合うようにしておく」

 

「手回しのよろしいことね」

 

 カーシャはわずかに目を細め、次の魚を放り投げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――まあ、こんなところですか。

 

 仕上がった装備品を見ながら、ユオンは小さくうなずいた。

 

 そして、以前の武器や防具を見る。

 どれも破損や摩耗が目立ち、荒っぽい使用者の性格がわかる。

 

 ――雑とも言えますか。さてと、お茶でも飲んできましょ。

 

 ユオンは小さな屋敷を出て、街に出る。

 富裕層が多く住む地域なだけあって、並ぶ店もそれ相応。

 色白のエルフは、品の良い店でお茶を楽しみ始める。

 

 ――しかしまあ……。色々やったことです。

 

 王宮が異世界から〝勇者〟を召喚してから――

 ユオンは終始そのサポートで多忙に次ぐ多忙。

 

 ――まあ、最初にモンスターと戦った時はさすがに腰が引けてましたが。すぐに慣れましたねえ。ていうか? 完全に暴力楽しんでましたよ。そっちのほうが都合いいですけど。

 

 召喚の際付与された異能の力。

 どれだけ強い力でも――

 慣れて使いこなすには、それなりの経験がいる。

 

 モンスター退治。ダンジョンの制覇。

 冒険者ギルドでは面倒なクエスト。

 あるいは、王宮内だけで【処理したいもの】をやらせていった。

 

 ――要するに便利屋というか、使いっ走りの掃除屋というか?

 

 元から〝そこそこ〟の成功体験があって、傲慢な自信家。

 自己愛が強いとも言う。

 

 ――だからま~テキトーに(おだ)てて、女の子あてがって? 惚れてるふりしたら、あっさりその気になってくれましたからねー。いやまあ、他のお2人は本気でそうなってるみたいだけど?

 

 勇者と共に戦う戦士と魔導士。

 栄えある役目に選ばれたという自負心。

 

 ――実際、表向きはそういうことになってますが。

 

 確かに有能ではある。

 〝勇者〟のお供としては適格。

 才気あふれる魔導士。

 闘争心にあふれ、鍛えられた戦士。

 

 ――勇者パーティーとしてこうあってほしい理想形? なわけですが。

 

 確かに優秀。

 心構えもある。

 実力もある。

 

 新進気鋭。

 

 魔導士としては素晴らしい。

 だが、研究者や技術者には向かない。

 魔法技術の探求心や、冷静さに欠ける。

 

 戦士としては強い。

 魔法と戦闘技術を組み合わせ、並のモンスターは相手にならない。

 だが、なまじ強いだけに、軍人としては不向き。

 指揮官としての資質もない。

 

 つまり、2人とも――

 貴族としても騎士としても、さほど重要ではない。

 

 捨て駒にしても、別段惜しい人材ではない――のである。

 

 ――とはいえ……。皆さんのおかげで、無事魔王征伐もできたし。

 

 ユオンは、魔王と対峙した時を思い出す。

 

 限界を超えた過剰な魔力で変質してしまったエルフ。

 魔王の正体はそれだった。

 強力な魔法を繰り出して、剛剣を小枝みたいに振るう。

 

 まともに戦いたい相手ではない。

 

 人間ならば、いや、ほとんどの種族はそうだろう。

 

 ――正直勇者様お1人だと危なかったかも。とはいえ、多少苦戦したほうが冒険譚が盛り上がるってものですか。あ、そういえば……。

 

「……この薄汚い裏切り者め!!」

 

 ヒーラーとして補助をつとめているユオンは、そんなことを言われた。

 

 ――なんか恨みごと言ってましたが……。ありきたりでしたね、アレ。

 

「……故郷を焼き払い、仲間を殺し、女たちを奴隷に堕とした!!」

 

「どれほどの月日がたとうと、屈辱と恨み、憎しみは忘れぬぞ!!」

 

「貴様ら人間どもを全て駆逐するまで、止まることはない!!」

 

 ――いや~。何回聞きましたかね、ああいうセリフ。

 

 だから、ユオンも何回言ったかわからないセリフを、また言った。

 

「私、エルフの社会とか共同体? それにお世話になったこと一度もないんですけど? 裏切るのどうの言われたって、最初からお友達でも仲間でもありませんけど? エルフに優しく受け入れてもらったこと、ゼロですよ、ゼロ」

 

 そう言うと、魔王は絶句してユオンを睨んだ。

 

「大体ねえ? エルフにしたって魔法で洪水起こして人間の村押し流したり、土砂で埋めてその上に森作ったり? 後から住み着いたくせに神聖な森がどうとか言って人間狩りしたり? さんざん見てきましたよ、この目でシッカリと――」

 

 ユオンは自分の瞳を指して言った。

 

()った()られたはお互い様でしょ。自分たちを可哀そうな被害者とか、無辜(むこ)の民だとか、そういう認識やめたらどうです? みっともないから」

 

 そして。

 

 なんやかんやで、魔王を殺した後――

 

「なあ……。あれってホントなのか?」

 

 女戦士が、血で汚れたままユオンにたずねてきた。

 実に複雑そうな顔。

 

「うん? もちろん事実ですよ。言ったじゃないですか、この目でシッカリ見たって」

 

「初めて聞いた……」

 

 魔導士シーラも同じような顔だった。

 

「そりゃ証言するような相手はみんな死んでますからねえ、たいてい。だいたいエルフ社会育ちなんて、基本傲慢で高貴を気取って他の種族見下してるんだから性質(たち)悪いですよ」

 

「お前もエルフだろう……?」

 

「言ったでしょ? エルフ社会で世話になったことないって。連中のためになんかする、義理も人情も爪の(あか)ほどもありゃしません」

 

 そんなユオンの言葉に、

 

「あ、ははは……」

 

「……わ、割り切ってるんだ?」

 

 2人とも、引きつった顔になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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