破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その34・5、国王と教授

 

 

 

 

 ドサリ

 

 と――

 カーシャは黒いトランクケースを机に置いた。

 

 冒険専用食堂。

 あくまで実質優先の、粗野とも言える造り。

 だが。

 その中には、上質な個室も存在した。

 広く、大きなテーブル。

 他から隔離され、個人や少数のみが使う部屋。

 

 当然、使用料も相応だ。

 

「けっこう早かったな、姐さん」

 

「ギルドではどんなお話が?」

 

 マコネとバッキーが言った。

 

「これと、警告……あるいはご注意かしらね」

 

 トランクを触りながら、カーシャは言った。

 

「けーこく?」

 

「危険があるかもしれないから、気をつけろ。まあ、そういう話ね」

 

「姐さんにかよ? どんな化け物に狙われてんだ?」

 

 マコネは好奇心と若干のおびえを混ぜ合わせた表情。

 

「まずは、ドラゴン退治を王宮が評価しての報奨金」

 

「え? いくらもらったんです?」

 

「まあ……きちんと収納された金貨が、たくさん? けっこうな金額だわ」

 

「うひょ」

 

「はあ……」

 

 2人は感心して変な声を同時に出す。

 

「それと、ご注意(・・・)かしら」

 

「なんだよ、それ」

 

「まあ、端的に言えば」

 

 勇者パーティーを(かた)不逞(ふてい)(やから)が、このあたりでウロついている。

 

「――と、いうことよ」

 

「えー、そんなん……。あー……いそうだよなー」

 

「偽勇者ってヤツですか」

 

 2人を顔を見合わせてから、カーシャを見る。

 

「で。そいつらが功績のある冒険者に難癖をつけて、攻撃。そこから悪事を働くかもしれない」

 

 そういう話ね。

 

 カーシャは何の感慨もなく、つぶやくように言った。

 

「いやいやいや。まさか、その相手って……」

 

「リーダー?」

 

 体を乗り出し、2人は疑問まるだしの顔。

 

「可能性はあるから、だからその注意をしろ。と、意訳すればそんな感じ」

 

「いや、その、あの……? ええっ?」

 

「死ぬわ、そいつら」

 

 バッキーはゲンナリ。

 マコネは露骨な嘲笑。

 

「そうね? 殺しても問題なし。むしろ勇者の名誉を汚すから」

 

 言ってから――

 

 カーシャは片手で、後ろから首を軽く叩いてみせた。

 斬首。 

 それを意味するジェスチャー。

 

「それって、厄介モンを始末しろってことじゃん」

 

「でしょうね」

 

 カーシャは少しだけ笑い、

 

「要するに? 報奨金(コレ)は、代金の前払い」

 

「うわあ……」

 

 バッキーはさらにゲンナリ。

 

「ったくよぉ。まるで殺し屋や、首切り役人じゃねえか。ひでー汚れ仕事だ」

 

「そうとも言えるわね。けれども――追放刑の罪人には、ちょうど良い仕事でもある」

 

「でもさあ……」

 

「あなたも知ってるでしょ? 死刑執行人(エクスキューショナー)は嫌われる分、報酬は高い」

 

 カーシャは物騒な話をしながら、バッキーのいれたお茶を飲む。

 

「なんか、嫌ですね。そういうの……」

 

 マコネにもお茶を差し出しつつ、バッキーは渋い顔をした。

 

「おいらだって、ヤだよ。でもさ、考えてみりゃ、世間様から見ればヤクザな仕事だぜ?」

 

「その中には、あなたもいるのよ」

 

 マコネはポンとバッキーの肩を叩き、カーシャは静かに見つめる。

 

「自覚が足りないんですね、私」

 

「そーだな。バッキーはさあ、せっかくの治癒魔法だし? カタギの仕事についたほうがいいかもよ」

 

「うーん……」

 

 バッキーは考え込んでしまう。

 

「別に、その選択をしても責める気はないし、引きとめもしない」

 

 カーシャは無言で空の茶器を突きだす。

 おかわりの要求。

 

「そーなったら、そーなったでよ。客としてバッキーの治療を頼みに行くぜ。できりゃちょいと友達割? してくれっと助かるな」

 

「代金は、平均価格より高く出してもいい。その価値は十分あるから」

 

「あははは。嬉しいような、寂しいような……です」

 

 

 

 が。

 

 しかし。

 

 

 

 後日。

 猫のゴトクにこう言われる。

 

「そりゃむずかしーかもな」

 

「腕の問題じゃない。逆に良すぎるんだよ」

 

「お前さんの、トンデモレベルの治癒魔法を一般で乱発してみろ? 他のヒーラーは飯の食い上げだぜ?」

 

「そこまでいかなくっても、確実に仕事は減る」

 

「こうなると……」

 

「余計な恨みを買うし、トラブルを呼び込む」

 

「それとな」

 

「あの御令嬢の陰に隠れてわかんなくなってるだろうが」

 

「お前も十分すぎるほどの厄ネタだからな?」

 

「薬にも頼らず、医者も知識もなく。その上、ほぼ疲れ知らずで反則まがいの治癒魔法を連発できる」

 

「目立たないわけねえし、目をつけられねーわけがねえ」

 

「だがなあ……」

 

「下手にちょっかいかけると、ご令嬢つうか最悪の【悪鬼(フィーンド)】を敵に回しかねん」

 

「ハッキリ言うぞ?」

 

「お前はあの御令嬢と一緒にいるから無事で平和に過ごせてるんだよ」

 

 

 ――……脱退と独立は無理かぁ。少なくとも、当分の間は。

 

 とはいえ、

 

 ――でも、それでもいいかな。

 

 ずっとかどうかは、わからない。

 

 ――けど、まだあのパーティーにいたいと思う……。

 

 バッキーは、そう結論づけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一人の男が立っている。

 年齢は若くない。

 整えられた口ひげと、落ちついた――というより凡庸な雰囲気。

 それが、年齢以上に老けて見えさせる。

 

 ヤオアムト現国王。

 モーリ・ホース・ヤオアムト。

 

 巨大な図書館。

 王宮内に造られた、様々な知識・情報が集められた場所。

 

 使えるのはごく一部の王族と、貴族。

 そして、特別に許可された人物だけ。

 

「トリヤマ翁のおかげで、ここもずいぶんと充実したよ」

 

 国王は歩きながら、後ろの人物に言った。

 

 後ろに続くのは、トリヤマ教授。

 

「そのおかげで、わしゃお世話に受けられますからな」

 

「いわゆる……異世界の来訪者も色々だのう」

 

「噂の勇者様のことですか?」

 

「うん。見合った働きはしてくれとるし、相応の待遇も考えておったんだが……」

 

「トラブルでも起こしたらしい、という(おっしゃ)りようだ」

 

「まさにそうなんだなあ」

 

 国王はやれやれとため息をついた後、

 

「男と女の関係でだよ。そっちのほうは昔から揉め事は付き物だが……」

 

 立ち止まって、トリヤマを振り返る。

 

「しかしなあ、他人(ひと)の婚約者に手を出しちゃあいかんよ」

 

「傲慢で好色と聞いてはいましたが。わしぁ、そっち方面はさっぱりですので」

 

「そういうのはなぁ……」

 

 国王はまたため息。

 

「やられたほうは、屈辱を受けた。なめられた。コケにされた。まあ何といってもいいが。貴族というのはそこが顕著(けんちょ)というか過激なもんでな」

 

 屈辱を晴らすため、死ぬまでかかっていく。

 過去、そういったトラブル、どころか内戦寸前までいった例もあった。

 

「いや、本人が死んでも血族が襲いかかる」

 

 間男。

 裏切った女。

 

 本人たちがどこかに逃げてたとして――

 

「そのツケは、関係者が払わされる。一族郎党皆殺しにされたりな」

 

「物騒ですな」

 

「まさに、血で血を洗う大問題だよ。挑むほうは、命も損得も、今後も捨て去った狂戦士(バーサーカー)だ。下手すれば国が傾くよ」

 

 だから、

 

「勇者殿は、仲間と共にどこかへ旅立っていかれた、と」

 

 そういうことになる。

 

「でしたら、今いるのは何者です」

 

「英雄の名を(かた)る、不埒者だなあ。それで、火遊びをした娘は……突然の火事に巻き込まれて、亡くなってしまうと思うよ」

 

「……」

 

(むご)いことだが、大勢が死ぬよりはマシだと思うしかない。貴族の子女ならそんなことは一般常識だからね」

 

 【偽勇者】の行為は、相手をなめ腐り、コケにしたということ。

 

 なら。

 

「殺されたって文句は言えない。少なくとも、この国では」

 

 国王は困った顔で首を振り、また歩き出した。

 

「良いのか悪いのか、平民でも昔からその傾向はあったがね」

 

 そうつぶやいて――

 

 

 

 

 

 

 

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