破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その35、カーシャは勇者と再会す

 

 

 

 

「それで、どうにかなりそうですか? キマイラを召喚っと……」

 

「まあな。ゴトクが手伝ってくれて早めにね。……えーっと、装備カードで鉄の牙」

 

「けど、いいんですかねえ? 王宮が正式に召喚した勇者でしょ、一応。……キマイラに魔法をプラスして特殊ブレス」

 

「その王宮が暗にやってくれと言ってるんだよなあ。……あー。防御壁発動ね」

 

「なるほどねぇ。ま、ヒーダの亜人も正体わかったようだし、魔王も始末できたし。んんー、ここで罠をしかけて……」

 

 ギルドマスターとミゾイ。

 両者はカードゲームをしながら、雑談を交わしていた。

 ボード上にカードのキャラクター映像が浮かび、戦う様子が見える。

 

「あれって結局なんだったのかねえ」

 

「やっぱ魔法で造り出した新種だったようです。王宮のほうで始末したり残骸を回収したようだけど、何の役にも立ちませんねえ……。力まかせに暴れるだけが取り柄。後は、無駄に長時間交尾できるくらい?」

 

「精力絶倫ってやつかい」

 

「すごいように思えますか?」

 

「男としちゃ憧れるものがあるかな」

 

「ははっ。男は皆殺しで、女は犯す。けど、そりゃ完全に勝利した後の話ですよ」

 

「そうだなあ。俺なら、喜んで腰振ってるところを奇襲かな?」

 

「奇襲にヤラれてる女を無視して高火力の魔法。あるいは火攻めってのもあります」

 

「非情だなあ」

 

「少なくとも、国軍ならそういう手段に出ると思いますよ。わざわざ手間かけて危険を(おか)したりするもんですか」

 

 ミゾイは皮肉に笑った後、

 

「そういえば、あの御令嬢――暇してるようですねえ」

 

「依頼するほどのクエストもないしなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「よっしゃ! そのまま引きつけろよオッサン!!」

 

「うおおっ……! き、キショッ!!」

 

 這い寄ってくる巨大イモムシを、ジロは大盾を構えながら防いだ。

 同じモンスターが、あちこちで蠢いている。

 

「何でこんなところに、こんなもんがおンねん!?」

 

 大柄な中年男は半泣きになって叫んだ。

 片手で槌矛(メイス)を必死に振り回しながら。

 

 場所はネビズの街から離れた丘。

 冒険者たちは、必死でイモムシを倒していく。

 

「説明は後だ、タコッ! タンクの仕事しろ!!」

 

 マコネはすばやく駆け回りながら矢を放つ。

 

 ピギギイイイイィィィ!

 

 矢が刺さった途端、イモムシはのけぞった。

 刺さった部位からジュウジュウと煙があがる。

 

 (やじり)に熱魔法が仕込まれた特製の矢。

 

「……******!!」

 

 後方からは、杖を構えたネイテクが魔力の弾丸を連射。

 正確にイモムシたちを撃ちぬいていく。

 

「うぐぐぐ。***!!」

 

 ネイテクの横でバッキーは、短い呪文を唱える。

 現れるのは――

 魔力で編まれた、半透明の蛇。

 それがイモムシに殺到。

 あちこちにからみついて、動きを鈍らせていった。

 

 

 怒鳴り声や悲鳴の飛び交う戦闘の後――

 

「やれやれ……。なかなかしんどいな、やっぱ前衛で攻撃できるヤツがいるか」

 

 マコネは汗をぬぐってから、

 

「けどよ? バッキーの妨害魔法だ。あれでだいぶ楽になったぜ」

 

「あはは……。まあ、練習したんで」

 

 照れくさそうに笑うバッキー。

 

 その横で、

 

「はあ~~~。たまらんなぁ、毎回毎回……」

 

「しょうがないですね、ジロさんの適性はタンクなので」

 

 げっそりとした中年男に、片眼鏡(モノクル)のエルフは水筒を差し出した。

 

 

 どういう経緯で、こうなったかというと。

 

 

「腐肉あさりの駆除なあ?」

 

 掲示板に表示されているクエストを見ながら、マコネは言う。

 

「丘のほうに出てきてんのか。んー……」

 

「腐肉あさりって?」

 

 バッキーの質問にマコネは、

 

「あー、でっかいイモムシだよ。死骸をあさるんでそう呼ばれてる」

 

「それは、ちょっと嫌ですねえ……」

 

「数もけっこういるってか。んんーー……けど、他に手頃なのがないんだよな」

 

「人を襲うんです、よねえ?」

 

「餌がなくなりゃフツーにな。弱ってるヤツ、動きの鈍いヤツなら――ヒトだろうが、獣だろうが関係ねえ」

 

「うわー……」

 

「それ以上に、街道なんかでウロウロされたらすげー邪魔だぜ。物や人の行き交いが遅れるんだよ」

 

「なるほど……」

 

「とはいえ、他は中堅か初心者向けばっかりだしなあ。ん?」

 

 どうしたものか、と困り顔だったマコネは、

 

「おーい、そこのオッサンとエルフ」

 

 ある2人組に話しかけた。

 

「バタムで会ったよな。こっちに来たのか?」

 

「おー、あの時の。またお会いしましたね。今日カーシャさんは?」

 

 片眼鏡(モノクル)エルフのネイテクは愛想良く応えた。

 隣の中年男・ジロは辛気臭い顔をしている。

 

 それから、あれこれ話した後。

 臨時パーティーを組むことになった次第。

 

 

「こんな場所に腐肉あさりがいるってことは……。近くでダンジョンが制覇されたって話は聞かんですから……【寿命】でしょうねえ」

 

 手をかざして周囲を見ながら、ネイテクは言う。

 

「なんじゃ、それ」

 

 ジロがたずねると、

 

「前に言ったかもしれませんが、ダンジョンというやつは色んな所にランダムで出現するんですよ。で、ほっとくとそこから色んなモンスターが外へ出てきちゃうと。浅い階層から順番にね」

 

 ネイテクは、聞き取りやすい声で答える。

 

「まるで雑草やんけ。ちゅうか地下迷宮が自然に出てくるってなんやねん……」

 

「さあて。それはよくわかってません。確かなのはモンスターがわき出すことと、色んなアイテムや宝もあるってことです。で、ダンジョンが制覇されると、そこにいたモンスターやアイテムが地上に吐き出されます」

 

 ダンジョンは制覇する後こそが肝要で。

 

「制覇する偉業を達しても? その後、吐き出されたモンスターに襲われて全滅……。そういう危険性もありますので」

 

 説明するネイテクに、

 

「……はあああ!?」

 

 ジロは言葉を失った。

 

「街中にダンジョンがわいたせいで、放棄された街もありますね。あ、ダンジョンにも寿命がありましてね? それが尽きると、やっぱりアイテムやらモンスターが吐き出されると」

 

「いや、それ……。ムチャクチャやんけ……」

 

「まあ自然災害みたいものですよ」

 

「……ひええ」

 

 横で聞いていたバッキーは、

 

「あの、私も前に聞きましたけど、その割にはドラゴンとかレベル高いモンスターってあまり見ませんね」

 

「ダンジョンにも個性といいますか、それぞれ難易度がありまして。ドラゴンがいるようなのはあんまり出現しないんです」

 

 ネイテクは笑いながら手を振った。

 

 

 

 

 

 

「あれ、カーシャ……さん?」

 

 その声に、カーシャは視線だけを向けた。

 

 シーフのトクベー。

 カーシャといくらか縁のある少年が、こっちを見ていた。

 後ろには、仲間の獣人娘たちもいる。

 

 ある喫茶店のオープンテラス。

 

「はー……。ここにも、こんな店があるんだ」

 

 初めて来た時、バッキーはそんな感想を述べていたが。

 

 カーシャはそこで、猫のゴトクと向かい合って座っていた。

 両者の間には、チェスのボード。

 

 バッキーいわく、

 

「なんか、魔導士とかヒーラーとか……知らない駒があるんですね。ルールも色々ちがうし」

 

 ということだった。

 

「忙しそうね」

 

 カーシャは言った。

 

「あ、はい。ちょうどクエストの帰りで」

 

「へえ。そう」

 

 カーシャは目をボードに向けたまま、気のない返事。

 獣人娘たちは少しムッとなるが、狐のタロザが無言で制する。

 

「あのぉ、チェスをされるんですね」

 

「お酒を飲んでるよりいいわ。どうせ酔えないもの」

 

 言った後だった――

 

 カーシャは顔を上げ、ある方向を見た。

 

 トクベーも同じ方向を振り向く。

 

「誰ですかね? 高ランクの冒険者?」

 

 先頭を青い鎧を着込んだ若い男。

 少年と青年との間という感じか。

 その左右には戦士と魔導士。どちらも若い女。

 後ろを、眠そうな眼をしたエルフの美少女がチョコチョコとついていく。

 

 と。

 

 男は目ざとい感じで、トクベーを見たようだ。

 

「――?」

 

 知り合いでこんなヤツはいたか? と、トクベーは不思議に思う。

 

「よぉ、元気そうだな桂」

 

「はい?」

 

 いきなり覚えのない名前で呼ばれ、トクベーは不審で顔をしかめた。

 

 ――かつら? 日本語……だよな……たぶん。それで、えーと……?

 

 シーフの少年は古い、多分前世の記憶をたぐってみる。

 最初はある程度は覚えていた……気がする。

 が。

 その後の生活で、そんなモノに構っている暇はなくなった。

 ただでさえ胡乱(うろん)で正確性が疑わしい記憶。

 それはドンドンぼやけていって。

 今では曖昧(あいまい)な断片しか残っていない。

 

 そもそも。

 5歳からの色んな記憶や経験と混ざり合って、

 

 ――どこまで当てになるか、怪しいんだよなあ……。見た感じ、日本人っぽい? ……のか? じゃ前世の知り合い? あー、すると今の僕は前世とあんま変わらない顔なんだ?

 

「ずいぶんかっこ良くなってるじゃねえか? 女まで連れて」

 

「はあ……?」

 

 この男は、何故にこうなれなれしいのか。

 

 ――あんた誰ですか?

 

 トクベーがそう言いかけた時、

 

「これはこれは。勇者様ではありませんか」

 

 珍しく感情を、それも(あざけ)りを込めた声でカーシャが言った。

 

「え。勇者???」

 

 トクベーはカーシャと男を交互に見比べる。

 

「てめぇ……!」

 

 カーシャに気づいた男は、憎悪に顔を歪めて身構えた。

 

「おやおや。他にも以前お見かけしたお顔が揃っていらっしゃる」

 

 カーシャは挑発するように(わら)った。

 

 造り物めいた笑顔で。

 

 

 

 

 

 

 

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