破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

45 / 357
その37・5、王太子妃リーン

 

 

 

 

 

 

 

「こうして見ると――」

 

 カーシャはあちこちの棚を見ながら、首をかしげる。

 

「なんの店だかわからないわね」

 

「品揃えが良いのが、うちの自慢だ」

 

「無節操、雑然とも言えるかしら」

 

「あはは。違いねえ」

 

 ゴトクの雑貨屋。

 カーシャたちは、その地下室にいた。 

 日用品から武器防具。骨董品。色々なものが棚に並ぶ。

 

「けど、きれいっつーかスッキリしてるつーか。こんだけ物が並んでんのに」

 

 マコネが感心した顔で言った。

 

「一応倉庫じゃなくって、ここも店の一部だからな。あんまり人は入れないが」

 

 ゴトクは答えてから、

 

「さて、ドラゴンスレイヤー。何か気になるもんはあるか? 値引きしてもいいぜ」

 

「返事に困ること」

 

 問われたカーシャは順繰りに商品を眺めるうちに、

 

「……」

 

 あるものに目をとめた。

 

 小さな、女の子の人形。

 品質は高く、値も張りそうなものだった。

 

「それがお気に召したかい? なかなか腕利きの職人がこしらえたもんでね。服とか靴も色々ある」

 

「いえ、けっこう」

 

 カーシャは不愛想に手のひらを向けてから、

 

「昔、似たようなのを持っていた。それを思い出しただけ」

 

「はー」

 

 やっぱり女の子だったんだなあ、と密かに思うバッキー。

 

「それで、ママゴトとかしたのか?」

 

「どうかしら」

 

 マコネの質問に小さく首を振り、

 

「八つ当たりで叩き壊したことはおぼえてるけど」

 

「ふーん?」

 

 マコネはちょっと首をかしげたが、それ以上は聞かなかった。

 

「……」

 

 バッキーは無言だ。

 少しだけ、カーシャの横顔を見る。

 いつもと変わらない。

 

 おそらく。

 いや間違いなく、

 

 ――なにも、感じてないんだろうな……。

 

 過去にそんなことがあった。

 ただ。

 それだけ、本当にそれだけなのだろう。

 

 ――でも。

 

 よくは、わからない。

 わからないが――

 バッキー……古井椿は、痛ましさのようなものを感じた。

 

 

 

 

 

 

 

「こういうのは、初めてだなあ」

 

 王宮内。

 日当たりの良い部屋。

 

 品の良い造りをした丸テーブル。

 上質なお茶の入ったポットとカップ。

 座っているのは、王と王妃。

 

 そして、

 

「光栄です」

 

 静かに応えたのは、王太子妃。

 やや短めの青い髪。静かな水色の瞳。

 リーン・ヒコ・チーフウォール。

 

「子供が楽しみですわねえ。あら、少し気が早いかしら?」

 

 王妃が楽しそうに言った。

 

「ありがとうございます」

 

 リーンは控え目な態度で言った。

 

「うん。君には色々と苦労を重ねさせてしまった。本当なら――」

 

 言いかけた国王に、リーンは静かに首を振る。

 

「そうか……」

 

 王は少しだけうなずいた。

 その後。

 少しだけお茶を飲んでから、

 

「君も知っているだろうが、カーシャはドラゴンスレイヤーの称号を与えられたよ」

 

「陛下……」

 

 何か言いたげな顔を王妃がしたが、

 

「はい。存じています」

 

「あの娘に何があったのかは、わからない。でも、その戦闘力(ちから)は本物だよ」

 

 リーンは無言で、だが王をしっかりと見ながらうなずいた。

 

「どうやら、もう……。あの弱い小さな子は、いないようだ」

 

 王の言葉。

 それに、リーンの静かな水色の瞳が少しだけ揺れる。

 

「別に、魔法の才能がどうとか技術はどうとか、そういうことじゃあない」

 

「そうなの、ですか」

 

「うん」

 

 王はリーンの声にうなずいて、

 

「彼女は、おそらく本当の意味で自尊心とか自信はなかったんだろうね。いくら権力を笠に傲慢に振るまっても、ハリボテでしかない」

 

「まあ……」

 

 王妃は少し驚いた様子。

 そんなことは、考えもしなかったのだろう。

 

「そして、これは推測だけど……。何よりも君を憎んでいたし、それ以上に恐れていた」

 

 王の瞳が、リーンを見る。

 

「まあ、今さら偉そうなことを言っても遅いし、私も最近気づいたことではあるんだが……」

 

 ――それは。

 

 リーンは自分を罵るカーシャの顔を思い出した。

 

 ――どこかで、わかっていたのかもしれない。

 

 幼い頃は、ただ自分に意地悪な従姉に過ぎなかった。

 成長後。

 父母と家を失ってから、虐待してくる【敵】。

 

 だが。

 

 リーンには、密かな援助者や味方が多くいた。

 それこそ、貴族や騎士のみならず――

 

 ――使用人にも、商人たちにも。

 

 亡くなった父母の人望。

 これがあったからだろう。

 

 しかし、カーシャにはそれはゼロ。

 父親からして、能力はあってもひとに好かれる人物ではなかった。

 本人も攻撃的で、いつ癇癪を起こすかわからない。

 人を見下し、踏みにじる。

 心から助けたい者など、いるわけもなかった。

 

 それが。

 カーシャの暴力性をより大きくしたのだろう。

 

 思い返しているリーンへ、

 

「彼女は、心の奥底では痛感していたのだろうね」

 

 自分には存在する価値などないことに。

 

 王はどこか寂しそうに言った。

 

「だから――」

 

 続ける王へ、リーンは顔を上げた。

 

「自分にないものを全て持っている君が、何よりも憎かったし、羨ましかったんじゃないかな」

 

「王太子との、婚約――」

 

 ほぼ無意識で、リーンは言っていた。

 

「そんなもの、何の足しにもなるものか」

 

「――」

 

「王族や貴族の結婚は、基本義務と打算だよ。君と息子が例外なんだ」

 

「それは」

 

 リーンは、うまく言葉が出ない。

 

「自分が愛されていないことは、多分わかってたんじゃないかな。あるいは、彼女も息子を愛していなかったかもしれないね。自分を着飾るアクセサリーみたいなものだ」

 

 そうだろうか。

 リーンは少しだけ、疑問だった。

 

 あの時――

 

 婚約破棄を言い渡された時、カーシャは泣きわめき、必死で王太子にすがっていた。

 それを密かに笑っていた者も大勢いたけれど、

 

 ――愛とか、恋じゃなくっても。

 

 カーシャはカーシャなりに、王太子を(おも)っていたかもしれない。

 リーンは、どこか確信めいたものがあった。

 女の勘なのかもしれない。

 

「まあ、寂しい話はこのへんにするとして――」

 

 王は少し咳払いしてから、

 

「息子は、側室を作ることをしないと言っているようだね」

 

「はあ……」

 

 王妃が困った顔でため息。

 

(きさき)ひと筋というわけらしい。ただの男としてなら、悪くはないんだがなあ……」

 

「お気持ちは嬉しいです。でも……」

 

「うん。そういうわけにも、いかないんだなあ」

 

 王族にとって――

 側室を持ち、複数の子を作るのは趣味嗜好ではない。

 義務である。

 

「私から、説得してみます」

 

「うん。お願いするよ」

 

 リーンの言葉に、王は少しホッとした顔でうなずいた。

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。