破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その38、言葉の意味である意味盛り上がる

 

 

 

 

「あー、何言ってんだかわかんねーよ」

 

 ギルド本部――薄暗い地下室。

 【残骸】から、死者の魂を呼び出していた死霊魔術師(ネクロマンサー)ミゾイ・シーダ。

 彼女は術を解き、魂をあるべき場所へ(かえ)す。

 コキコキと自分の肩を揉みながら、

 

「はてさて……。ありゃあ、どこの国から召喚されたのかねえ? 今いち理解できなかったが」

 

 後ろで見ていたギルドマスターは、首をかしげた。

 

「王宮の資料だと、別の世界ってことだがなあ。眉唾もんだけど……」

 

 死霊魔術に使った祭壇などを片づけながら、

 

「わけのわからん単語がやたら出てきて……。悪酔いでもしたみたいですよ」

 

 ミゾイはギルドマスターを振り返る、

 

「俺も同じ感想だけどさ、何となくだが大枠(おおわく)みたいなのはわかった、気がする」

 

「まあ、そりゃあ……」

 

「つまるところ、彼は元の世界でそれなりの成功を収めて、さらに出世を目指してた。だが、その過程で余計な恨み、とこれは俺の推測だが。そいつを買ったせいで死んじゃったわけだ」

 

「正確には、殺された……ですねえ」

 

「うん。まあ。だが、死後の世界で神様? に出会って、別世界でやり直しのチャンスをもらった」

 

「そいつがつまり勇者として召喚されたってことですかねぇ?」

 

二十歳(はたち)そこそこに若返って、勇者の力をプレゼントされて、ね」

 

「そんなとこですか。そういやチーギューとか何とか、恨み言だか見下してだかわからんことをわめいてましたねえ」

 

「どういう意味?」

 

「悪口ってことは何となくわかりましたけど。話の端々から察するに、どうもアレのバカにしてた相手がこっちで良い思いしてるのがムカついたから転生した……?」

 

「人間って種族はさ、見下してた相手が出世したり幸福になった時が一番憎んで、嫉妬するもんなんだよ。それが自分が殺された後となれば、なおさらだろうさ」

 

「いやいやいや。そんなしょーもないことで?」

 

 ミゾイは呆れた顔で眉を寄せた。

 

「不幸なヤツが救われると、物足りないっていうかどっかでそれを否定したい。ひどくすると、自分でも知らないうちに敵意まで持つ場合もある。宿業っていうのかなあ」

 

 どこか自嘲的に、ギルドマスターは苦笑する。

 

「くっだらない……」

 

「おっしゃるとおりだ。まったくもってクダラナイ」

 

 ミゾイの言葉に、ギルドマスターは肩をすくめた。

 

 

 

 

 

 

 

「〝チーギュー〟ってなにか、知ってるかしら?」

 

 冒険者食堂にて。

 隅の長椅子に座っていたカーシャは、いきなりたずねた。

 

「ち、ちぃぎゅう?」

 

 マコネが言いにくそうにつぶやいて、振り向く。

 ちょうど食事を終えたところだった。

 

「なんだよ、それ」

 

「さあ?」

 

「いや、さあって……」

 

「そういう言葉を口にしていたやつがいたから。俗語のひとつかと思って」

 

「聞いたことねーなぁ」

 

 そのまま、話題は終わりそうな気配。

 

 しかし。

 

 その単語に反応して、思わず振り向いた者たちがいた。

 バッキーと、ジロ。

 最後に微妙な反応ながら――トクベー。

 彼らは、同じような立場(・・・・・・・)ゆえひとつのテーブルで情報交換をしていた途中だった。

 

 

 時間を少しだけ戻す。

 

 

「あー……やっぱり、ジロさんも日本から転生を?」

 

 バッキーが言うと、

 

「いやあ、そのへんはどうやろねえ。風ぞ……あ、いやその、夜中に家へ帰る途中でやね? こう、ふわっと? 空中に吸い上げられたかと思ったら、こっちへ放り出されてて……」

 タンク役をつとめる大柄の中年男は、妙なジェスチャーをつけながら説明。

 

「いきなり昼間になってて、気づいたら山か森かわからんとこやろ? 頭おかしィなったかと思ったわ」

 

「死んだわけじゃないんですか?」

 

「ううーーん。少なくとも、そういう覚えはないなぁ」

 

「あ、私は本名、古井椿っていいます」

 

「いや、これはご丁寧(ていねい)に……。わしは塩谷(しおや)長治郎(ちょうじろう)です」

 

 頭を下げるバッキーに、恐縮気味のジロ。

 

「種類としては……私は一応異世界転生なのかな? 20代に戻ってチートもらって……この世界に来ちゃった感じで」

 

「……異世界転生とかチートとか、ネット小説みたいな話やなあ」

 

「ジロさんの場合は、純粋な転移だと思います」

 

「確かにわし、死んで神様に会ってないし、チートも特典ももらってないけど……。オッサンのままやし。ただの一般人こんなとこいきなり放り出されても速攻で死んでまうがな」

 

 ジロは大きな体を縮めて、景気の悪いため息。

 

「まあ、死ぬ前にネイテクにひろわれて助かったけど。せやけど、しばらくは下痢が続くわ風邪引いて寝込むわで……さんざんやったで?」

 

「海外に行ったら体調崩すって話は聞きますけど、外国どころか異世界ですもんね。あれ? でも私の場合は特にそういうのは……。死んでから体が再構成されたみたいな?」

 

「言葉もぜんぜんわからんしねえ……。ネイテクがなんか魔法を使ったら、わかるようになったけど。ちゅうか日本語話してるんか、こっちの言葉話してるんか、段々わからんようになってきましたわ」

 

「ああ、そういえば? 私もほとんど日本語話す感覚でしゃべってました」

 

 それから。

 

 バッキーとジロは互いに確認しあってみたのだが……。

 同じ境遇ながら、違う点もたくさんあった。

 

 まず、生きていた時代が微妙にずれている。

 社会で起こった有名な事件なども、あったりなかったり。

 歴史に残った人物も、異なっているところがある。

 首相の名前が違うパターンも。

 

 そして、年号の名前も違っていた。

 

「私はえーと、令和28年で」

 

「わしは修文(しゅうぶん)の29年やけど……」

 

「修文?」

 

「いや、昭和の次やね」

 

「平成じゃなくて?」

 

「うん、まあ」

 

 しばし黙り込んだ後

 

「これって、それぞれ違う世界線? マルチバースから来ちゃったって感じですか?」

 

「そんなこと言われても……」

 

 バッキーの言葉に、ジロは何ともいい難い顔。

 

 と、このあたりで、

 

「………」

 

「あ、すまんすまん」

 

 ジロは会話に入れていないトクベーに気づいた。

 

「えーと、僕の場合……すごく小さな時に気づいたら、この世界? にいたんですよね。けど前世の記憶ってのもどんどんアヤフヤになっちゃって。自分がなんでそうなってたのか、わかんないです。そもそも、信用性のないものだし? 覚えてる部分もあるけど、バラバラの欠片(かけら)みたいな……」

 

 頭の右側をさするトクベー。

 

「あ、ちょっと……」

 

 バッキーはトクベーがさすっていた部分を見つめ、

 

「気づかなかったけど……そこに、古傷があるよね?」

 

「? ええ。気づいた時にはありました。触ったら血がべっとりと……。」

 

「たぶん……そのケガで前世の記憶が戻ったのかも。その代わりそれ以上前のことは忘れちゃった……」

 

「ほーん……。一番複雑な感じやなあ」

 

 バッキーの推測に、ジロが腕を組んだ時――

 

「〝チーギュー〟ってなにか、知ってるかしら?」

 

 カーシャが、その言葉を口にした。

 

「ん? あれ、どっかで聞いたような……?」

 

 トクベーが言いかける前に、

 

「どこで?」

 

 バッキーたちの視線に気づいたカーシャがたずねた。

 

「ちーぎゅーって、やっぱりあのチー牛?」

 

「どやろなあ……。似たような発音の単語かもしれんし」

 

「っていうか、こっちってたまに翻訳っていうか意訳とかされない単語ありますよね」

 

 話している2人に、

 

「知ってるなら、教えてほしいのだけど」

 

 いつの間にか――

 すぐそばに立っていたカーシャが言う。

 

「えーと、その確か……【三色チーズ牛丼の特盛。温玉付き】、だったかなあ?」

 

 チラリと、ジロに確認するバッキー。

 

「わし、そこまで念入りに覚えてないけど、多分な……」

 

「おいおい。それって、なんかの呪文か?」

 

 マコネが胡散臭そうに言った。

 

「それが、正式な呼び方?」

 

「うーん……。えっとですねえ、まずはこう、牛丼とかの説明をしないといけないというか……」

 

 バッキーが、何とか料理の説明をすると、

 

「おいおいおい。聞いた感じじゃすげー美味そーな料理じゃねーの。するとアレだな、チー牛ってのはその料理みたいにイケてるとか、景気が良いとか、そういう意味か?」

 

「いや、なんか悪口だったような気も……」

 

 トクベーが若干自信なさげに言う。

 

「え。ひょっとしてその料理すっげーまずいの?」

 

 マコネの疑問に、

 

「いやフツーに美味かったで」

 

 ジロは即座に答える。

 

「……ジロさん、食べたことあるんですか?」

 

「ネットで流行(はや)る前にな」

 

「なんか変じゃね、それ。なんで美味い料理が悪口になんだよ?」

 

「それはやねえ……実はコレコレシカジカ」

 

 ジロが身振り手振りで説明する。

 

「あっひゃひゃひゃ!! なんだそれ、なんだそれ!? クッダラネー!! ひょっとしてギャグで言ってんじゃねーよな? ひひひひひ!」

 

「えーまあ……。ギャグではないです?いや、ギャグ……なのかな?」

 

 バッキーは複雑な顔をしながら言った。

 

「ぶふふ……! つ、つまりアレか? 陰気で女にモテなそうなヤツってことか。その料理がかわいそうだな、ぷぷぷっ」

 

「……」

 

 まだ笑っているマコネと、無反応なカーシャ。

 

 ――あまりにくだらなすぎて、まるで笑えないわ……。

 

 ふう、と息を吐いてから、

 

「けれど。それは店への風評被害、いえ営業妨害になるんじゃなくって?」

 

 素直な感想を述べる。

 

「そういえば……」

 

「あんまり、ええイメージではないわなあ」

 

 と、バッキーとジロは顔を見合わせる。

 

「時に姐さん、そのくだらねー悪口誰が言ってたんだ? おいらぁ初めて聞いたぞ」

 

「こないだ喧嘩を吹っかけてきた〝勇者様〟よ。いや、偽勇者か」

 

「いや……。あれ、完全にカーシャさんが喧嘩売ってましたよね? ものすごい煽ってたじゃないですか」

 

「そうだったかしら?」

 

「……はい」

 

「別にどうでもいいじゃない。もう二度と会わないんだから」

 

「はあ……」

 

 カーシャはあっさりと切り捨てた。

 

 

 

 

 

 

 

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