破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その5、小休止する悪役令嬢と不穏のギルド

 

 

 

 

「ほえー。花の椿ね、しゃれた名前じゃねーの。いいねえ」

 

「ふへへへ……」

 

「けど、ツバ……キ? ってのは言いにくいな?」

 

「はあ、異世界……っちゅうか、遠くから来たもんで……」

 

「ふーん。ほんじゃあ、ツ・バ・キ……バッキーって呼んでいいか?」

 

「あ、いいスよ。ふへっ……」

 

 よくわからないが、友好的な雰囲気とは言える。

 

「ふん」

 

 カーシャはつまらなそうに見ていたが、

 

「あまり知らない訛りがあるけど、どこから来たの」

 

 聞くともなく、そう言った。

 

「えーっと。ニッポンです。知りませんよね……」

 

「知らない」

 

「おいらも知らねーなあ」

 

「ですよねー。いえ、いいんですよ。ふひひ……」

 

「ま、これっきりかもしれねーが、一応縁を大事に……」

 

 マコネがそう言いかけたところへ、

 

「あの、冒険者さんたち? 良かったら、お風呂をどうぞ。村の浴場が沸いたので……」

 

 村の娘が顔を出してきた。

 

「風呂かあ。久々だなあ、あちこち生臭えし……」

 

「わかりました。いただきましょう」

 

 マコネが頬をかき、カーシャは静かに返した。

 

「はあ……」

 

 そんな様子に、ツバキことバッキーは感心したように、

 

「なんか、優雅っつっか、上品っていうか……。おきれいですね?」

 

「……」

 

「あ、すみません……!」

 

「別に、怒ってはいない」

 

 カーシャはふと、懐かしい気分になった。

 

 ここの時間では、数日前まで――

 

 自分の感覚としてはずっと昔だが。

 

 令嬢として、お嬢さまと呼ばれてかしずかれていた日々。

 

「さて、いきましょうか」

 

 カーシャはパーティー2人の首根っこをつかみ、立ち上がる。

 

「いてて! カンベンしてくれよ、言えば行くよ……、猫じゃねえんだから……!」

 

「え? 行くって……あ、お風呂ですか?」

 

 

 そして、3人は公衆浴場へと案内された。

 

 

「村全体で使うので、この大きさです。小さな村だから、大したことはないですけど」

 

 と、村娘。

 

 確かに大きな建物だが、都会にあるものと比べれば小ぶりだ。

 当然、男女で分かれている。そこは同じ。

 

「では――」

 

 カーシャが女湯へ2人を引っ張っていくと、

 

「え? いや、ちょっと。この子は男湯じゃあ? そりゃまだ子供ですけど……!?」

 

 バッキーはあわてて叫ぶ。

 

「勘違いしない。こいつは女。同性」

 

「え?」

 

「……気づいてたのかよ?」

 

 マコネは少しばつが悪そうに言った。

「最初から」

 

「ちぇっ。かなわねーなあ」

 

 

「え? え? オンナノコ? ショタじゃなくって、ロリ?」

 

「うるせーな。ガキと言われるほど、ガキでもねーよ。これでも13だ」

 

 驚いているバッキーを、マコネはうるさそうに睨む。

 

「えっ!? 10歳くらいだと……」

 

「悪かったな。食い物が悪くてチビになったんだよ!」

 

 バッキーは目をパチクリさせ、少年のような少女を見る。

 

「がなるのはやめなさい。うるさい」

 

 

 そして、浴場へと入って湯船に。

 

 

「風呂か……」

 

 湯にひたりながら、妙な気分でカーシャはつぶやいた。

 

 専用の浴場を持ち、メイドに体を洗わせていたのが、懐かしい。

 でも。帰りたいか、と聞かれれば。

 

 ――わからない。

 

 と、答えるだろう。

 

 今の状況はきっと悲惨なのだろうとは、思う。

 

 身分を失い、魔法大国にあって魔法さえも失った。

 だが、そんな思考もほぼ忘れてしまっている。

 

 体を休める反面、ついさっきの殺戮を反芻していた。

 

 ――楽しかった、のか。

 

 それも、わからない。

 

 楽しんだという自覚はないが、客観的にどう見えていたのか。

 

 笑っていたのかもしれない。

 別に、どうでもいいことだが。

 

「ほえーーー……」

 

「なに?」

 

 自分を見ているバッキーに、カーシャは視線だけを送った。

 

「あ、いや……エロい……じゃない、きれいだなーって思いまして。ふへ……」

 

「そう」

 

「所作も上品だし、なんていうか」

 

「育ちは、もう意味はない」

 

「……あ、はい」

 

「お前こそ、そこまで肉がついているのは裕福な育ちでしょう?」

 

「え? ああ、まあ、こっちの常識からすると、そうなんですかね? まあ、食べ物に困ったことはないですね……」

 

「お前の故郷は、豊かな土地らしい。いや、家が裕福なのかしら」

 

「どうでしょうねえ。恵まれたほうではあるんでしょう。私自身は非リアっすけど……」

 

「ひり……なに?」

 

「まあ、あんまりキラキラしてないっちゅうか、地味っちゅうか」

 

「ああ。壁の花タイプ」

 

 わりと癖のあるバッキーに対して、カーシャはまた妙な気持ちになった。

 

 過去の自分なら、一笑に付して相手もしなかったタイプだ。

 どう見ても貧民のマコネにしても同様。

 

 だが、今はある程度会話も普通にできる。

 それ自体も意外だったが、反面万事どうでもいい気持ちかもしれない。

 

 ――そんなことにこだわる立場でも、もうないし……。

 

 寂しさはない。

 

 しかし、どこかで手ごたえのなさみたいな空虚さもある。

 またオーガでもやってこないだろうか、とさえ少し考えてしまう。

 

「うー……天国だぁね……」

 

 一方、マコネは湯を堪能しながら、のほほんとしていた。

 

 

 

 

「そうか。わかった――」

 

 ギルド本部の一室で、通信を終えたライワは嘆息。

 

「どした、また何かあったかい?」

 

「オーガもすぐ討伐されたそうだ。ゴブリンもな」

 

「ほー、そりゃすごい! あのご令嬢やるねえ」

 

 ミゾイは大げさに言って、肩をすくめる。

 

「オーガはほぼ半壊状態だそうだ。頑丈さが売りの怪物をな」

 

「そりゃまた……」

 

「手足は残っているが、他はグチャグチャだと」

 

「ふーむ…………」

 

「これが凶事の前兆でなければいいが」

 

「しかし、やはり少しおかしいね」

 

「む……」

 

「オーガさ。死神山脈か、大森林を根城にしてるのが、なんでこのへんまできた?」

 

「メス探しか……?」

 

「人間の女を襲って犯すのか? あいつらにそんな習性はない。仮にやってもガキなんか作れないさ。種族が違うんだからね」

 

「……」

 

「ゴブリンも似たような俗説があるけどさ。死体を解剖してみたが、ゴブリンには生殖機能はない。どうやって増えるのかも謎なモンスターだね」

 

 でだ、とミゾイはフェイスベールの下で笑う。

 

「女をさらって犯すモンスターの話は多い。だが、そんな事実あんた知ってるか?」

 

「確認は、されてないな……」

 

「ああ、やるとすれば人間か、それに近い亜人だ。ま、それはいいさ。問題はオーガだね、たまたまはぐれたヤツがやってきたのか。それとも……」

 

「何かの理由で、死神山脈から出てきたか」

 

「あるいは、追い出されたとかさ」

 

「何にだ」

 

「さあね。オーガにしたって、上位モンスターの餌にされることは珍しくないからな。つっても、山脈じゃ群れを成している。そうそう縄張りから逃げ出すほどかっていうと、どうかねえ」

 

「警戒がいるということか。厄介な話だ」

 

「ま、それも仕事の内さ」

 

「……」

 

 二人の女は、同時に笑って、同時に嘆息した――

 

 

 

 

 それから。

 

 浴場から着替えて出てきたカーシャら冒険者たち。

 ゴブリンの後片付けに忙しい村人の横を通って――

 

「あそこが、避難場所になってたみてーだな」

 

 マコネが指したのは、古びた教会だった。

 

「見たところ、地の女神を祭ってあるようね……」

 

 造りや表に掲げられた紋章などを見ながら、カーシャはつぶやく。

 

「ほえー……。異世界って感じ……」

 

 バッキーは、何かつぶやいている。

 

 入ってみると、祭壇には大きな女神の紋章。

 そして、左右を見ると、

 

「……なんだ、これ?」

 

 マコネが顔をしかめた。

 

 赤黒い空に覆われ、炎の燃え上がる場所。

 そこに、多くの人間が裸で走り回り、あるいは互いに武器で傷つけあっている。

 

 宗教画のようだが、子供にはトラウマものだろう。

 

「悪趣味な絵だぜ……」

 

「…………下手な絵だけど」

 

 カーシャは郷愁みたいなものを、その絵に感じた。

 

 赤黒い、あの世界の。

 

「それは、冥界を描いた絵ですね」

 

 忙しそうにしていたシスターが、横に立った。

 

 ――冥界。

 

 少しだけ、カーシャは目を細めた。

 

 

 

 

 

 

 

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