破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
――ありゃ?
市場で買い物をしていたマコネは、ある冒険者パーティーを見た。
いずれも、それなりの経験を積んでいるのがわかる。
なかなかの強敵とやりあったらしく、疲労の色が濃い。
これからギルドへ報告――
そんな様子だった。
――どっかで見た顔だな……。って、当たり前か。同じ稼業だし。
マコネは買ったばかりの果実をかじりつつ、パーティーを見ていると、
「うおっ!?」
「あン?」
マコネを見て反応した冒険者たち。
若干おびえているようだった。
「……あー、思い出した」
マコネは口内の果実を飲み込んで、
「姐さんにからんで2日酔いになったオッサンじゃん!」
「おい、声がでかい……!」
あわてるリーダー格の男に、
「今さらあわててもしゃーねーじゃん。噂広まってるし……」
「うっ……」
リーダーはじめ冒険者たちは返答につまる。
が。
それで笑い者になった――
ということは、別にない。
「おめーら、よく命があったなあ……」
「ラッキーボーイズだぜぃ!」
「あのさあ……。あいつのヤバさわかんねーようじゃ、長生きできんぞ?」
「別に? エロいことする気なかった? お近づきにはなりたかった? ほーん。見た目の割には紳士だな? ま、そのおかげで助かったんだろうけど」
「お前らが死ぬのは勝手だが、後の処理をする
「早いとこ金ためるかして、足洗えよ。向いてねーぞ、この稼業」
「死ぬなら死ぬでいいけどねえ? ちょうどいい見せしめとして……」
こういった感じだった。
その日――
王宮内ではちょっとした喧噪が起こった。
国王の大叔母にあたる老齢の婦人。
かつ。
先々代国王の王妃であった人物。
その人が、やって来るという話からだった。
「大叔母様、相変わらずもご健勝で何よりのこと」
国王が迎える人物は――
老齢で、杖を突いている。
だがその動作は静かだが、しっかりとしていた。
黙っているだけで、貫禄がにじみ出ている。
「ようこそ、おいでくださいました」
「お久しゅうございます」
「また、お目にかかれて光栄でございます」
王妃や、王太子ジーザ。
そしてジーザの妻であるリーンも礼節に則った言挨拶を行う。
「いやいや、かたい挨拶はどうでもよろしい」
大叔母は軽く手を振り、
「あなたは王冠をかぶり、玉座に座る身。そうへりくだっては示しがつきませんぞ?」
「や。これはまた……」
国王が苦笑している中、
「親族のみでゆっくり話したいゆえ、お前様がたは下がってよろしい。宰相殿は、ふむ、ま、残っていただこうかな」
と、衛兵やメイドを下がらせる。
それから――
「いちいち回りくどいことを言っても詮無いので、単刀直入に言いましょう」
大叔母は王太子ジーザを見やって、
「王太子殿下、聞けばあなたは正室……そこにおられる妃殿下以外、女人は不要とおっしゃられたとか?」
「はい」
ジーザは静かに、そしてまっすぐに即答した。
「しかしながら、子をなすのは王族のつとめ、義務ですぞ。妃殿下を大事に思われる、それは素晴らしきこと。が、王族……否――貴族の男子たるもの、側室を多く持つことは女人の助けともなる。おわかりか?」
「理屈は、わかります」
「貴族の子女のみとは、言いませぬ。平民出の側室――その子が王位についた例とて、いくつもあるのです。いやいや、殿下ほどの
いかがです?
そう問いかける大叔母に、ジーザはゆっくりと首を振る。
「光栄ではある。そう思います。ですが、私は妻への愛情と誠意をもっとも大事にしたいのです」
「何と仰せられます……」
「たとえ、千の美女から愛を受けても、この腕に抱いて共に歩きたいのはリーン1人。それは、今もこれからも変わりません」
「むむ……。そこまでおっしゃられるか……」
大叔母は、ジーザの瞳に気圧されたように見えた。
「殿下――」
一歩さがった位置に立つリーン。
青い髪の美少女は、少しだけ――
いや。
控え目ながら、明確な非難のこもった声で、
「お気持ちは、とても嬉しく、心からそう思います。女として誇らしいとも感じます。けれど」
「いや」
言葉をつむごうとするリーンに、ジーザは片手を見せるように、
「君の気づかいには感謝する。でも、側室へ向ける時間と心、それは全て君に送りたい。いや、君だけに送りたい」
「……」
そう言い切った王太子に、リーンは何も言わない。
どう思っているのか。
そこから感情は読み取りにくい。
ポカーン
そんな言葉がピッタリの表情で、大叔母は絶句している。
様子を見守っていた国王たち。
全員が全員、驚き困惑しきった顔で王太子と大叔母を見つめるばかり。
会話に入る機会を逸した。
そういうところだ。
「ほう」
大叔母は力の抜けた吐息を漏らした。
「いやはや……。まいりましたな、若さというのか、まっすぐすぎる想いというものは」
小さく苦笑して、すこしだけうつむく。
これに王太子は無言の中、静かな瞳でうなずいた。
そして――
「冗談にしては度が過ぎるぞ、小僧おおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
悪鬼のごとき形相で、大叔母は吼えた。
「
「フベラッッ」
平手打ちが王太子の整った顔を打つ。
老人とは思えない、大熊のような一撃。
回転しながら宙を舞って、落下したジーザへ、
「こんな愚物を王にしたとあっては、亡き先々代に申し訳が立たん! この場で殺処分してくれるわ!」
叫び、刃の長いナイフを抜いて大叔母は迫る。
「お、落ちつきくだされ! こんな場で刃傷はいけませぬ!」
「なにとぞお静まりを、ならぬ堪忍をどうかこらえて……」
国王や宰相が、王妃までもが顔色を変えて止めにかかる。
が――
「邪魔じゃーーーーーーーーーー!!」
バキッ!
「のけーーーーーーーーーーーー!!」
ボコッ!
「オラーーーーーーーーーーーー!!」
ベチンッ!
大叔母はハエのごとくそれを張り倒して、なおも進む。
そんな悪鬼の形相と殺気で迫る老貴婦人へ、
「お待ちくださいませ――」
リーンは立ちふさがった。
「貴様の出る幕ではないわああああああーーーーーー!!」
大叔母の一喝に、
「王太子殿下は、必ず私が」
「何をぬかす。貴様の説得なぞ、まるで聞き入れておらんかったのではないか」
視線だけ相手を焼き尽くしかねない大叔母に、
「はい。まこと、汗顔の至り。ですから」
リーンはまっすぐに瞳を見返して、突きつけられた刃をつかんだ。
傷ついた手のひらから、血がながれ落ちて――
豪奢な絨毯を汚していった。
「私の心臓と首をかけて、お聞き入れ願います」
「ほお?」
大叔母は顎を開いた火炎竜のような顔で、
「貴様ごとき小娘が、できるとぬかすか?」
「はい」
肝の据わった豪傑でも失禁しそうな迫力。
が。
リーンは瞳をまるで揺らさず、ハッキリとした声でそう答えた。
「では、今回のところは引き下がってやろう」
大叔母は不愛想に言い捨てて、
「帰る」
背を向けて歩き出した。
その途中、顔を腫らした国王へ、
「現国王に手を上げ、王宮で刃傷を起こさんとしたオイボレじゃ。討ち取っても良いぞ」
「いえ」
国王は首を振る。
大叔母は、リーンに介抱されているジーザ王太子を振り返り、
「――逸材との評判であったが、とんだバカ息子じゃの?」
「私の若い頃は、もっともっとダメなヤツでした」
「知っておる」
大叔母は、去っていきながら、
――救いがたい色ボケになったが、女を見る目だけはあるようじゃな?
見えないように微笑した。